魂喰らい対石喰らい
「うおぉぉぉぉっっ!!」
透明化を解除し、姿を現した俺に、トウは冷静に、エルドは驚愕を向ける。
ステータス差は歴然。
スキルの技術面でも俺はトウに大きく劣る。
だけど、魂喰らいだけは、気にくわない。
同じ名称のスキルで、EとSだからか。
解らない、しかし何故か。魂喰らいだけは、倒さなければならない。
俺は本能でそう理解し、気付けばトウに刃を突き出していた。
それをトウは冷淡に刃で受け、俺の武器を眺めながら。
「……名刀だな」
「嫌味か!!」
確かにセレスの倉庫で一番強い武器だが、それでもトウのより50ぐらい攻撃値が違う。
強度は問題ないようで、折れることなく刃が交わり、弾かれることでお互い距離を取る。
「なんだなんだ? 知り合いか?」
いきなり会話を始めたからか、訳が分かっていないエルドに、トウが冷静に応えた。
「初対面だ」
「随分と喋るな、寡黙剣士!!」
俺はトウに向かって、刀を振るう。
「切撃ち!」
「閃」
互いの刃から放たれたスキルによる閃光がぶつかり合い、俺の切撃ちを貫いた細い閃光が、迫る。
ステータス差もあるが、僅かに止めることができただけで、トウの切撃ちは威力を落とさずに俺に迫る。
ただ刃を振うだけで発生させた俺の切撃ちと、僅かな刃の動作とスキル発動の巧さだろう、圧倒的な技術差だ。
「くっ!?」
攻撃によって僅かに止まったこともあり、ギリギリの所でトウの切撃ちを回避と同時、俺は刀を背後へとやった。
「把握はかなり高いようだ」
トウの刀を完璧に受け止めるが、ステータス差からか、かなりの衝撃による激痛が、俺の身体を襲う。
しかし、肉体は斬られていない、HPを消費してすぐに激痛が消えた。
反射的に叫びながらも、俺はかなり焦っている。
しかし、瞬間移動で逃げる気は起きない、まだ戦えるからか。
「貴方に褒められると、嬉しいもんだな!」
このトウの速度、接近は二重加速によるものだろう、これで二重加速のカードを切らせた。
受け止めた衝撃によって距離を取ったかと同時、俺はトウに迫る。
瞬時、六つの刃が、俺の全身を襲うかのような感覚が走り。
反射的に、二重加速で斜めに避けた。
連続斬撃がトウの正面から放たれるが、それは海面を裂いただけだ。
(――これで!!)
二度目の加速によって背後へ接近、トウは二重加速はまだ使えない。
勝利を確信し、絶刀を放つ瞬間。
「なるほど、その把握力からの絶刀は強力だ……二重加速で隙を減らしている……しかし……」
俺が刀を振り下ろすよりも先に、振り返ったトウの刃が、俺に迫る。
俺の絶刀は間に合わない、先に俺が両断される。
そう確信したと同時、トウが忠告した。
「絶刀の欠点だ。隙はどうしてもできる」
振り下ろすよりも先に、カウンターで俺を真っ二つにする気だったようだ。
完全に俺とトウは、初対面だというのに、お互いを殺す気で戦っていて、それを気にも留めていない。
刃の威力を理解したのは、トウの発言と同時、俺がその刃を骨で受け止めたからだ。
受け止めた状態で、俺の振り下ろしが海面を割る。
絶刀は解除されているが、トウは俺から刃を引き抜き、距離を取る。
ギリギリの所で回避され、俺は舌打ちをし、トウが評価を下した。
「やるもんだ……」
呟き、刃を受け止めた驚きながら、生き延びたことに憐れみを込めた眼差しで見つめるトウ。
本来真っ二つになる俺を救ったスキルは、戦特化の剣技スキルだ。
トウの存在を確認した時から、念の為に魂に刻んだスキルを数秒前に刻み終え、刃を受ける瞬間に発動した。
それによるステータスの上昇が、トウの刃を防ぐことに成功する。
動揺の隙を突こうと迫ろうとしたが、トウは冷静に背後へと大きく下がり、更に距離を取ろうとする。
しかし、俺の肉から取り出した刃を、動揺からか身体をブレさせ、まだ鞘に納めることができていない。
人類最強と呼ばれし男のミス。
好機だと、俺は切撃ちを発動させようとしていた。
しかし、切撃ちによる斬撃は、出ない。
完全に刃を空に切っただけであり、最大の隙が生じた。
「君は、全てが未熟だ」
生命力を奪われる感覚を受けながら、トウは言葉を続ける。
「二重加速は最近覚えたのか? これは上剣士が必ず覚えるスキルだ。なのにその使い方が下手過ぎる……戦特化もそうだ。スキルは使えないと脳に強く命じながら戦うという基本ができちゃいない……」
戦特化の最中はステータスが上昇する分、魂に刻んだスキル、所持スキルで使うタイプのものは使えなくなる。
水魔法は魂に刻んでいない魔力を操作しただけだから問題なく水上移動ができたが、そのせいか、普通に切撃ちが使えると思い、この致命的なミスを犯す。
憐れみの眼差しで見てきたのは、力の差を見た上で、挑もうとした俺のことなのか。
「君は色々と優れていた……俺を追い抜く素質はあった……だからこそ、せめてこれで葬ろうか」
褒められて気分が僅かに高揚しながらも生命力を奪われ、そして理解する。
何かが、くる。
解っている。これは最大奥義と称されている極識斬撃だ。
瞬間移動で回避は……できない。
戦特化のせいだろう、余計なスキルを知るんじゃなかった。
死を覚悟し、せめて剣技の最大技を眺めようと、正面に意識を強めた瞬間。
膨大な振動が、俺達の空間全体を襲う。
ビリビリと周囲が震えあがり、大気は割れる。
「落ち着け!! 同じ人間同士、殺し合ってどうする!?」
それは、完全に蚊帳の外だった、エルドのものだった。
エルドが俺達の間に割って入り、声にもならない壮大な雄叫びをあげる。
それによる衝撃を受け、俺達は水面に叩きつけられた。
龍帝の咆哮を受け、意識がグラつきながらも、すぐに戻る。
眼前のトウを補足しようとしたが、間にエルドが立っていた。
「まさか、お前に止められるとはな……悪かった。助かったよ」
ハッと冷静になったトウが、エルドに迫る。
エルドは呆然としている俺を眺め、フッと笑う。
「……スキルによる共鳴とは、珍しいものを見た」
……共鳴?
解せない顔でいたせいか、迫ってきた龍帝は俺の頭を掴み、ぐりぐりと回してくる。
物凄く痛いが、命の恩人だ。文句は言えない。
「はっは! 未熟な者よ! お前のスキルも魂喰らい、もしくはそれに準ずるスキルなのだろう……Sランクスキルには同格スキルによる共鳴というのがあるらしくてな……それに干渉すると、どちらが上か証明したくなるのだ……相手を殺してでもな」
「……なるほど、な」
俺は魂喰らいに干渉したから、石喰らいのスキル持ちとして戦わなければならないと感じたわけか。
天界魔界では石喰らいはSランクスキルらしいし、共鳴というのが合ったとしてもおかしくはないだろう。
Sランクスキルというのも、俺が今まで知っていたのはロニキュスの天使だけだったし、俺が知らないのも当然だろう。
知っているのならセレスは俺に忠告しているだろうし、セレスも知らないと考えた方が良さそうだが、帰ってから聞いてみるとしよう。
「あれ? 俺は魂喰らいの影響を受けたからともかく、なんでトウは俺を殺そうとしてきたんだ?」
そんな俺の発言に、エルドと、その隣に立っていたトウは呆れ果てたかのような顔を浮かべ、トウが告げる。
「いや……お前全力で殺そうとしてきたんだぞ、そりゃ殺そうとするだろ?」
「すいませんでした……というか、寡黙剣士じゃなかったのか?」
「このスキルのせいだ……普段はもっと喋りたいんだよ……で、お前は誰なんだ?」
指差して聞いてきたトウに対し、俺は色々と隠すつもりでいた。
最初は敬語で話そうかと思ったのだが、もう殺し合った仲だ。普通に喋ろう。
俺が出てきたのも、こいつらが被害を出そうとしたからだしな。
「ロマネと共に海神龍を倒した奴だ……俺はのんびり暮らしたいんで詮索はしないで欲しい……ロマネに頼まれたんだ。街に被害が出ないようにしてくれってな」
その発言を聞いて、バツが悪くなった表情を浮かべるトウと、豪快に笑うエルド
笑いごとじゃねぇよ。
「がっはっは! 確かに、クライマックスを行っておったら、キリテアの街は危うかったかもな」
「ヤバい……ヒメナラちゃんに嫌われてしまうかもしれない……」
ちゃんって、というか、マジか。
色々と気になることがあったが、これが一番気になることになったぞ。
「えっ、なに、トウはヒメナラに気があるの?」
「馴れ馴れしいのー」
「敬語の方がいいのか?」
「不要だ!」
普通ならランクが上なら敬語で話しているのだが、よくよく考えて見たらもう無所属なんだ。
そうなればDランク以上には敬語になると思っていたので、明らかな目上以外は敬語は止めようと思っていた。
「無所属だし、もうランク関係ないというのもある。で、トウはヒメナラに気があるのか?」
「その前に、名前ぐらい教えてくれてもいいだろ、関わりはせんから」
聞かれたのでちょっと顔を赤らめるトウと、なんか関わる気満々そうな雰囲気を出して俺の名前を訊ねるエルド。
まあ、名前ぐらい教えてもいいだろう。
「ソウマだ。で、トウはヒメナラ好きなの?」
普通に結構気になるんだが。
恥ずかしげに、トウが応えてくれる。
「ま、まあな……俺が喋っても嫌がらないし……結構見つめてくれるし……」
ただ無表情なだけのような気もする。
「可愛いし」
むしろそこが重要なんじゃないかとも思う。
「だから魂喰らい対策のアイテムがないかを探してるんだ……ソウマ、お前はなにか知らないか?」
セレスに聞いてみるか?
いや、今は知らないし、知らないと言っておくか。
「いや、知らないな」
ちょっと残念そうに、トウが項垂れる。
「そうか。でもいつか見つけ出す。そして俺は初の彼女を手に入れる!」
トウもトウで、苦労しているんだな。
あんまり関わる気はないのだが。
「ソウマよ! お前は海神龍を倒したんだな! ならば我と戦ってもいいということだ! どうだ?」
どうだじゃねぇよ。
「嫌に決まってるだろ。というか、今さっきの戦いで満足してたんじゃないのか?」
そう聞くと、エルドは納得したかのように頷き。
「なるほど……先の視線はお前だったか……ああ、大満足だ! クライマックスを決められなかったぐらいだが、そこからは良い戦いをを見れた!」
「それは良かったよ……」
「ソウマも大分共鳴に慣れてきたようだな。最初だけ、カッとなってしまうが、敵意が無ければ問題ないだろ?」
確かに、最初接近して納咆哮を喰らった瞬間、魂喰らいを受けた瞬間、俺は見境なくトウを殺す気だった。
それを受けてトウは殺す気だったが、それは俺を止めるためであり当然だ。
「……トウ、悪かった。エルド、止めてくれてありがとう」
謝罪と感謝をすると、トウは軽く手を振り、エルドは嗤う。
「気にするな。俺だって今もお前の、ソウマの魂を喰らっている。だけど何も言わないことに感謝もしている……いい友ができた」
いや、友になった気はないんだが。
しかし、今回は全体的に俺が悪い。
友で許してくれるのなら、もう友だ。
「ああ! 感謝というのなら、我と戦うのが一番だが」
「いや、無理だって!」
ほとんどトウに圧倒されている、時間にして数分もかかっていない戦闘だったのだが、エルドはどこに俺を気に入る要素があったのか。
海龍神を倒したからなのか、とにかく、戦うと言えば戦闘になるのは間違いないので、俺はエルドとの戦いを必死に拒んでいた。
こうして、俺達は特に災害も起さずに、魔道具の船でキリテアへと戻ろうとしていた。




