天命撃突
トウが腰の刀を振るい、それをエルドが己が肉体で受け止め、弾いたと同時に別の攻撃へと移る。
抜刀の速度が尋常ではなく、大抵の者は視認すらできないだろう、それを平然と受け止め、攻撃、防御、攻撃、回避、攻撃に出る。
「すげぇ……」
朝食を終えて、軽いウォーミングアップのつもりなのだろう。
それだけでも二人の動きは完成されている。俺は完全に魅了されていた。
恐らくロニキュスとやり合う前のステータスならば、茫然としているしかなかっただろう。
恐らくこれは、Sランククラスの冒険者でなんとか把握できるレベルの戦闘だ。
隣に目を下ろすと、美幼女姿のセレスが、ふぅとホッとしたかのように前方を眺めている。
「セレス、どうしたんだ?」
聞いてみると、戦闘を眺めながら、セレスは言う。
「いや……ここからキリテアの街まではかなりの距離がある。お互い最大級の技を殺す気で放たない限り、災害になることはないじゃろと思っての」
確かに、この二人も冒険者としてギルドに登録されている身だ。
そこまで破壊力のある技を使うとは思えないな。
「まったく、ロマネの早とちりじゃの、海神龍よりステータスが高い存在がやり合うから、海神龍以上の災害がくることを想定したのじゃろう」
「しかし、ロマネの怒涛の勢いで、ビックリしたから即座に対処しようとしたということか」
「そ、そこまでビックリはしとらんから……ちょっとじゃから!」
顔をやや赤くして、美幼女のセレスが叫ぶ、とても可愛い。
ついつい撫でてしまい、満更でもなさそうなセレスが、安堵していた。
「ふぅ……まあ、このレベルの戦いは、滅多に見れるものではないからの……」
「そうだな……というか、セレスは視認できてるのか?」
「ああ……今のお主は言わなくても問題なく見えるのか……眼に関するスキル持ちはの、スキルをオフにするとその分眼が良くなるようになっておる。これは意識してやるものじゃ」
俺は時々ステータスを見たりしているのだが、試しにオフにしてみると、確かに動きが更に良く見えるようになっている。
前に神眼を使いこなせていないと言われていたが、こういう意味もあったのか。
「なるほどな……警戒はしとておこう。万一ってこともあるかもしれない。だろ?」
「うむ……何も起きないのが、一番いいのじゃが……」
戦いは徐々に激しさを増していき、セレスが僅かに不安げになりながらも、刀と肉体が交錯している激動を眺めていると、動きが起きた。
「天魔爪!!」
エルドが叫ぶと同時。
まるで見えない翼が生えたかのように、エルドが水上から一気に上空に飛翔。
技名の咆哮と同時、天に掲げた左腕に真空の刃が纏い、それをトウ目掛けて振り下ろす。
大男の太い腕、その屈強なゴツゴツとした掌から、真空の刃が伸びている。
後ろに下がっても魔力による風が肉を抉る。巨大化したかのような手の平に、逃げ場はない。
しかし、トウはまるで瞬間移動かのような加速をすることで、大きく回り込もうとしていた。
「二重加速」
「ギリギリ見えるが、速過ぎる」
俺は呟き、セレスが感想を漏らす。上剣士スキルだ。
思考した方向に体勢関係なしに一直線に加速し、好きなタイミングで好きな方向にもう一度、更なる加速ができる。
それを使い、瞬時に解除して走ることで、見事に距離を取りながら、トウがエルドの背後へ迫る。
エルドの掌が水面に突きつけられ、ゴッパァ!! と水面が五方向に割れた。
瞬間、その叩きつけた左掌を支点にしたかのように、大きく全身を回すことで一周し、右の豪腕を振う。
「閃」
発言はトウのものだ。唇からギリギリ判断ができた。
刀を鞘のままエルドに突き出したかと思えば、僅かに抜いて戻す。
いや、これは超高速の抜刀か。
僅かに見えた銀の光、そこから、切撃ち特有の斬撃が、非常に細い一閃となり、まるで槍投げかのようにエルドに迫る。
龍帝の動きは、それを弾くためのものなのだろう、まるで右掌から発生した真空が、その斬撃を打ち消した。
衝撃でお互い距離を取り、エルドは水上で四つん這いの体勢となるが、すぐさま立て直す。
瞬時、トウは一閃の光と化した。
「刻閃斬……上剣士でも最上位の技じゃ……」
スキル名を、セレスが呟く。
刀に意識を集中させ、魔力を加えることで自らを一陣の閃光と化しての突撃。
その肉体が敵と認識した物に干渉したと同時、スキル補正がかなりかかった切払いを一瞬で行う。攻防一体のスキル。
絶刀より威力は劣るが、速度があり、隙もない、欠点は発動時はスキルの使用ができないということか。
その突撃を、エルドは口の中から炎の閃光を放つことで止めた。
唖然としながらも、セレスは技名を漏らす。
「ドラゴンブレス……もはや息吹という領域ではない」
閃光と閃光の激突。
一直線にエルドに迫ろうとするトウ、それを両腕を広げながら力を籠め、全力で口から放った閃光でねじ伏せようとするエルド。
周囲の水面は弾け、蒸発し、空気はビリビリと鳴り響く。
この状況で、変化を引き起こしたのは、トウだった。
刀を上に突き出すことで、自らの肉体を上空へと吹き飛ばす。エルドの息吹から逃れるように、斜めに上昇し、逃げ切ることに成功する。
それに気付いたのか、エルドは口を閉じ、息吹を止める。そして、それからの対処が間に合わないと悟り、右腕を盾のように上空へと向けた。
落下してくるトウの鞘から、銀の刃が覗く。
一度の振り下ろしで六つの斬撃を発動させ、「グッ」と直撃したエルドが後ろにのけ反り、反動でトウが龍帝と距離を取る。
当然の様に常識外の技術を見せつけられ、俺は唖然とするしかない。
「連続斬撃って、最大3連続って文献に書いてた気がするんだけど……」
「Sランクは常識を軽く飛び越える……倍の6連になったとしても、おかしくは……いや、おかしいの、うん……」
セレスはよくもまあ、スキルを駆使すれば俺でも戦いになれるとか言ったもんだぜ。
今のところトウの戦闘スキルは二重加速・切撃ち・刻閃斬・連続斬撃の四種。
俺と被っているのは二重加速・斬撃ちだが、どっちも技術で完全に俺よりも上だ。
しかし参考にはなったな、まあ誰とも戦う気はないのだが、やっぱりワクワクとしてくるものだ。
戦いは序列差の通りか、トウの方がかなり優勢だった。
ステータスでは1割減とされていても、エルドの方が勝っている。
しかし、魂喰らいというスキルの影響なのか、明らかに疲労しているのはエルドで、トウはまだ余裕そうだ。
――魂喰らい、Sランクスキル。
俺と似たような名称だからか、どうしても気になってしまう。
そして数分間、技による斬撃、龍帝による様々な魔法攻撃、肉体攻撃を眺めていて、俺は異変にようやく気付いた。
「なぁ……これは流石に、ヤバいんじゃないのか……」
俺は隣に眼をやれば、ギョッとしてしまう。
「今さら気付いたのか……わらわはとっくに、ガクガクしておるわ……」
完全に戦闘に夢中だったので、セレスを見ていなかったのだが、今になって気付いた。
セレスの顔は蒼白になっていて、冷や汗がかなり浮き出ている。
今までは悠然としていたセレスが、ここまで焦っているのは初めてだ。
「だ、大丈夫か?」
「なんとか……なんとかの……じゃが、これはマズい……ロマネがわめくのも無理はない……」
さっきまでの余裕はなんだったのだろうかと一瞬思うが、これは無理もないだろう。
遠目で見える二人の戦いは、激しさを増している。
明らかに血走った眼を浮かべ、お互いが楽し気に笑い、吠え、技名を叫び合う。
そこには狂気しかなく、水面の振動が、空気の震えが、この世界の悲鳴であるかのようだ。
怯えたように、セレスが告げる。
「タメのモーションに入ったら、こんなの、どうしようもないぞ……トウは恐らく、極識斬撃を使う……」
「まあ、覚えててもおかしくはないと……思ってはいたがな」
上剣士最強スキル、極識斬撃。
一度発動すればそこから再発動までに24時間のチャージを必要とし、数秒間ステータスが減少する。
しかし、それによる破壊力は絶刀を遥かに上回るという。
ハイリスクハイリターンな剣技最大奥義だ。
刀を振った前方が、何も残らないとされている。
俺のステータスで使ってミスったらシャレにならないと、セレスの文献で見ても覚える気が一切起きなかった剣技スキル。
「そして、エルドはそれを受け止めるために、最大技を使うじゃろう……そうなった衝撃は、想像ができぬ……」
極識斬撃はその発動速度と規模から、回避、防御は不可能。
対処するためには、最大の力でぶつかり合うしかないだろう。
今の状況がかなり危険だとようやく悟れた俺は、セレスに告げた。
「……セレス、トランスポイントで先に帰っていてくれ……頼む」
俺の発言に、セレスはハッとして、その提案を拒もうとする。
「なっ……わらわも行くぞ! わらわの結界なら……」
「セレスが言った方法で止めるつもりだが……万一、俺が瞬間移動を使おうとしてセレスと接触していなかったら、万一、セレスがトランスポイントを使おうと意識することなく、巻き込まれてしまったら……その不安をなくしておきたいんだ」
直勘スキルが、なんだか嫌な予感を感じているとは、言わないでいる。
これは、俺の本心でもあった。
邪魔にはならないかもしれないが、この攻撃規模だ。万一のこともある。
「ッッ!? ……いや、そうじゃの、解ったが……絶対にすぐに瞬間移動で逃げるのじゃ!」
衝撃を受けた表情を浮かべながらも、すぐに冷静になりながら、俺を心配してくれるセレス。
万一にも、彼女を失いたくはない。
「ああ、解ってるって、俺があんな二人と、戦うわけないだろ?」
そう言って頷くと、不安げな表情を浮かべながら、セレスの姿が消えた。
トランスポイントを使い、ロマネの元に瞬間移動できたのだろう。
安堵しながら、俺は二人の元に接近すると、トウに動きが見える。
トウが僅かに距離を取り、エルドがピクリと反応、獰猛な笑みを浮かべたと同時。
直勘スキルでそれを察知していた俺は、先に動いた。
「これで終わりだ」
「ああ! くるがよい!!」
(――切撃ち)
クライマックスでも言わんばかりの盛り上がりの最中、俺は二人の丁度間の水面目掛け、切撃ちを放つ。
水を差すかのような形になるが、刃から放たれた斬撃が水面に直撃、その衝撃によって二人にもかかるほどの巨大な水しぶきが発生し、それを被ったエルドはハッと我に返ることができていた。
「おっと、危ない危ない……お互い全力でクライマックスを迎えるところだったな!! 我等の力で理解できるとは、なんたる僥倖か!」
エルドが勝手に何だか納得できる理由が思いついたようで、俺は安堵していた。
戦いに満足したのか、攻撃態勢を崩し、エルドは朗らかにトウの元へと歩もうとしている。
(……ん?)
切撃ちを放ってから、俺はしばらく状況を確認する為に、透明化で結構近場で待機していた。
攻撃を放った方向とは別の所にいるが、切撃ちを放った方向を、そして左右をキョロキョロとトワが眺め。
「おいおい、まだやる気か? ちょっと冷静になれ、これ以上は……」
エルドが窘めようとしている中、トウはゆっくりと鞘から銀の刃を取り出す。
すると。
――シュッと、一気にそれを鞘へと納めた。
瞬間。
空間が爆発したかのような感覚が、俺とエルドに襲いかかる。
(……ぐッ!? これはッッ!?)
納咆哮。
刀を収める動作を行ったと同時、その者の位置を支点として、周囲に威圧を行う剣技。
問題は、その威圧を喰らい、僅かに膠着した瞬間、俺は僅かに体力を奪われたことだ。
(スキルとのコンボか……これがッ!? 魂喰らいッッ!?)
僅かとはいえ、生命を取り込まれたかのような不快感が、俺を襲い。
「――誰だ、君は?」
追加の魂喰らい、そして敵意が、俺に向かってくる。
透明化は発動しているが、魂喰らいで取り込んだ位置から、俺の存在を理解したのか。
寡黙剣士が、人類最強と呼ばれしトウが、俺の元へと迫ってくる。
いや、まだ間に合う、瞬間移動をすれば、間に合う。
「――うおぉぉぉぉっっ!!」
「なッ!? スキルにあてられたか!」
エルドが何か言っているが、今の俺にはどうでもいい。
「――来るか」
冷静な思考とは裏腹に、俺の本能は、透明化をいつの間に解除していた俺は、トウに向かって刃を伸ばしていた。




