天命を確認する
ロマネは無茶苦茶慌てふためいている。
それを見かねたセレスが、即座にどうするかを説明した。
少し冷静を欠いているようにも見えるが、ロマネがかなり必死なのだから仕方がないだろう。
「そ、それじゃ、わらわとソウマが遠くで二人の戦いを見学、被害が出そうなら結界で防御するか、ソウマが間に入る。これでどうじゃ?」
セレスの結界で防げればそれでいいのだが、相手が相手だ。俺が間に入るのも仕方がないか。
俺が入った所でどうなるのかは解らないが、セレスがそう言うのだからどうにかなるのかもしれない。
慌てふためいて動揺しているという暗黒に、ようやく光が差したのか、ホッと全身を崩れさせ、そのままロマネが頭を俺達に向けて下ろす。
土下座のような、物凄く誠意の感じる感謝の仕方だった。
「本当に申し訳ありません。それでどうか、被害を出さずにお願いいたします……ソウマも、頼む」
「俺が原因でもあるからな。つっても、俺のスキルは剣盾ぐらいしか防御に使えるのがねーけど」
「危惧しなければならぬのは衝撃により発生した津波じゃ。その規模になると大技なので隙が生じるじゃろう、そうなったら攻撃の間に割り込みの遠距離攻撃を入れて冷静にさせればよい」
「それで頼む! 私も一緒に行くべきだが……師匠的には」
「お主のステータスじゃキツいの……トランスポイントの杖を貸しておこう。緊急時はそれを使ってわらわ達はお主の元に行き、街に対して結界を張る……流石に大技が飛んでくるわけでもないし、これで被害は確実にゼロじゃ。ロマネ、これを持っている間、わらわのことを意識するなよ、地獄にワープじゃぞ?」
警告に身震いしながらも、ようやく安堵したロマネはギルドに戻っていった。
「ソウマ様……無理はなさらないでください」
「あたし達じゃ無理そうだからね……お願いね、セレス」
「うむ」
「それじゃ、行ってくる」
俺とセレスは瞬間移動を使い、リヴァイアサン跡地から街の方角へかなり距離を置いて待機する。
ここなら、被害が出る前に防げるだろう。
水魔法を意識することで水上に立つ、結構慣れてきた。セレスも平然と立っている。
セレスは美少女モードから、美幼女モードになっていた。
水上の上に浮かぶ白髪の赤いドレスを纏う美幼女は非常に絵になるぜ。
「どうしてその姿になったんだ?」
「ロリ枠のローファがこの場に居ないから……というのは冗談じゃ、この姿は結界魔法を発動する速度がかなり速くての、戦闘においてはこの姿が一番強いのじゃよ」
意外だったが、封印されていたのもこの幼女姿の時だ。
外を出歩くときは25歳の状態か美幼女の姿の時が主だし、基本的にはこの二つで、19歳の美少女モードは俺の趣向に合わせてくれているということなのか。
正直、どの姿もそれぞれ違った可愛さ、美しさがあって好きなのだが、今はそれを言うときではないだろう。
数分経ち、ロマネと共に爆走していた時の速度なら、距離的に後数分で来ると推測し、俺は透明化を発動する。
セレスに触れて俺の一部だと認識しながら透明化を使えば、同じように透明になれていた。
そして更に数分後、二人の男が、魔道具の船に乗って爆走しているのが、遠目で見えた。
その内の一人、景色を眺めている長身細身、黒がベースで銀が混ざった短髪、端麗な表情であり、少年のようにも見える青年。
人類最強、魔界天界含む世界の強さランキングであるスコア序列7位、寡黙剣士トウ・ランドレイ。
そして、小型な魔法船の船首で仁王立ちしている大男、尻尾や翼こそはないも、服で隠しているのか、無いのか不明だが、まるで龍を人にしたらこうなると言わんばかりの存在。
「あれが、エルド・ドラゴンか……」
龍帝、龍を統べる存在。スコア序列8位、エルド・ドラゴン。
透明化を使っているので、俺達の存在には気付いていないだろう。ギリギリ視認できる距離で、後は見えていない。
ステータスを、何とか確認することができた。
トウ・ランドレイ
上剣士
HP187500
MP123000
攻撃24360+670
防御19700+450
速度20900+300
魔力13620
把握22900
スキル・魂喰らい・剣聖
エルド・ドラゴン
龍帝
HP980000
MP359000
攻撃28700+400
防御30400+400
速度18200
魔力25400
把握13000
スキル・帝龍・全耐性・全強化・人体変化
これが……世界最強クラスのステータスってやつか。
天使とやり合った後の俺のステータスも大概だったが、これは全てが規格外だと感じるしかない。
俺のステータスは、今現在どうだったか、昨日確認したときは。
ソウマ
上剣士
HP164700
MP132000
攻撃20100+620
防御13530+440
速度16100+200
魔力15330+100
把握25590
スキル・直感・石喰らい・全強化・全耐性・神眼・透明化・半天使
セレスから貰った最強装備を含めて、こうだったはずだ。
モンスターを倒したりもして僅かに上がっているが、それでもこの二人には敵わない、セレスの言うとおりなら瞬殺されるということはないはずだが。
エルドに至っては装備補正がなければ神眼でギリギリ確認できなかったな、それ程までのステータスだ。
戦士から上剣士にしておいたのは大正解だった。
このまま戦ってステータスが見れないとか、気になって仕方がなかっただろう。
もし見れなかった場合、セレスの館に戻って魔力を上げる装備を全部つければ+600までいくので、それを試していたかもしれないな。
「トウの奴、わらわの神眼で確認できぬ程の力じゃの……どうじゃ?」
どうじゃというのは、ステータスのことか。
セレスの魔力では二人とも確認できないからな。
俺は正直に感想を告げる。
「トウも大概だが、エルドのステータスが無茶苦茶高い……人体変化って、なんだ?」
「魔界天界の存在はスキル無しで備えているらしいのじゃが、生物界の人間以外の存在は基本的に人間になれぬ。つまり、人間になるだけじゃの、見えているステータスは恐らく龍の状態のもので、実際は1割程落ちておるはずじゃ」
1割減と考えれば、攻撃と速度はトウと同じぐらいか。
セレスが、俺に楽し気に聞いてくる。
「帝龍スキルは魔法補正のようなものじゃと考えればよい……トウはどうじゃ?」
トウに関しては、俺の上位版と言わんばかりのステータスだ。
職が同じだから仕方ないのかもしれない、勝っているのは半天使、直観スキルの補正のお陰だろう、MP、魔力、把握だけか。
「これが世界トップクラス……正直、唖然とするしかないな……」
「お主もスキルを駆使すればやり合えると思うがの……」
トワに関しては、ステータスよりもスキルの方が気になっている。
2つしか持っていないのは普通の人間のように感じられるが、Sランクスキルである「魂喰らい」に意識がいってしまう。
しかし、それをセレスには、言わなかった。
魂喰らいと口にするのが嫌だったからなのか、何故か、やたらトウの持つスキルが、「魂喰らい」が気になってしまう。
じっとトウを眺めていた俺が気になったのか、セレスが声をかけてくる。
「……ソウマ?」
「い、いや、なんでもない……エルドの方がやや強いが、1割減ならほとんど五分ってところかな」
「ふむ……それにしても、トウの奴は寡黙剣士ではなかったのか?」
「それは俺も思った」
二人は船から下り、なんか結構楽し気に、トウがエルドと談笑している。
寡黙剣士のイメージがぶっ壊されているのだが、スキルのせいで寡黙になったと言われていたし、龍帝ぐらいになるとスキルを気にしないのか。
それならば、ああいう風に楽しそうでもおかしくはないだろう。
そして、当然のように水上に立っている二人が距離を取り、戦闘態勢に入る。
エルドは獰猛な笑みを浮かべ、鋭い牙が見える。トウこそは無表情だが、口元が僅かに笑みを零していた。
水面がビリビリと振動し、かなり距離を取っている俺達にも、その衝撃がやってくる。
ロマネには悪いが、俺はこの戦いを眺められることが、楽しみになっていた。
そして、世界トップクラスの戦闘が、始まった。




