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ロマネの怒り

side・ロマネ

 

 ロマネ・ビルドガルドは理解が追いついていなかった。


 彼女はギルドに自らの部屋があるので、ギルドに住んでいるのだが、別に常日頃からギルドにいるわけではない。

 他の者が行わないクエストを受けたり、普通にAランククラスのクエストを引き受けたり、他ギルドの応援に行ったりと、様々なことをしている。

 そして、ようやく暇になってきたので、今日こそは師匠であるセレスの所に行けると、休暇にするつもりだった。

 ロマネ達に用意されている執務室で、今日唯一の作業である報告されたクエストの確認という軽作業を、仲間であるヒメナラと共にしていると、突然扉からノックが聞こた。

「……誰だ?」

 とりあえず、ロマネは声をかけてみる。

 大体受付の誰かであり、呼び出しなら応接室に案内させるように頼むのだが、ロマネの声が扉に響いたと同時、その扉が豪快に開き。

 二人の男が、ドカドカと執務室に入ってきた。


 一人は知った顔だが想定外で驚き、もう一人は誰かが解らないが、ロマネは嫌な予感を感じるしかない。

「ほう、どちらかが海龍神を倒した者か、それで、どちらだ?」

 挨拶もせず、扉を開けた先頭で楽しげにロマネとヒメナラを交互に指差す謎の大男。焦げ茶色の肌と鎧からでも解る非常に筋肉質で屈強な肉体、大口を開けた時には鋭い牙が見え、瞳は鋭い。

 物凄い威圧感を身に纏い、ロマネはAランクリーダーだというのに怯みそうになっていた。

 その背後に一人、この人物は知っているし、執務室の場所も何回か来たことがある。

 人類最強と呼ばれる男、寡黙剣士トウだ。

「トウ……と、だ、誰だ、貴方は?」

 唐突に表れた強者二人に、ロマネは動揺を隠しきれていない。

 ロマネを指差したトウを見て、大男は大声で。

「初めまして、ロマネとやら、我はエルド・ドラゴン。名前の通り龍帝だ」

 瞬間、空気が振動する。

 獰猛な笑みを浮かべたと同時に、威圧感が部屋全体を襲ったのだ。

「ひっ……」

 ロマネはドラゴンと戦う一族だ。

 この程度の威圧感では怯まない、しかし、相手が龍帝なら別だ。


 エルド・ドラゴン。

 龍を統べる。全ての龍の頂点に君臨する存在。


 その人物が居る理由を、ロマネは理解することができている。

(ついに……来てしまったか……)

「戦いに来た」

 エルドが言ったのかと思えば、この発言はトウだった。

 ズンと、ロマネの肉体を、僅かだが不快感が襲う。

 別にトウのことが嫌いというわけではない、これはトウが寡黙剣士と呼ばれている所以のスキルによるものだ。

 詳しくは知らないが、干渉をすることで生命力を取り込むらしく、だからこそ、他者に被害が出ないように一人で戦っているし、無言でいるらしい。


 エルドがロマネと戦うのならわかる。

 しかし、どうして、トウが告げたのだ?

 全く理解できず、ロマネは聞くしかない。

「た、戦いに来たというのは、誰と誰、なの、ですか?」

「うむ、トウと喋ると辛いのだな! ならば我が話そう! Aランクギルドなら知らぬかもしれぬが、七大龍を倒した者と、我はその者と戦ってもいいとギルドから許可を貰っているのだよ!」

 動揺しているのは龍帝のせいなのだが、トウが喋ったせいだと思ったのだろう。

 エルドの発言もかなり威圧感を受け、屈服しそうになってしまう程だ。


 久々に感じた恐怖という感情をなんとか顔に出さず、ロマネはおずおずと口を開く。

「わ、私が戦っても、一発でやられますよ、もしかしたら死ぬかもしれません……」

 ちなみに、ヒメナラは部屋の隅で無表情のままガクガクと震えている。

 それをトウが凝視していたが、すぐにロマネの方へ振り向くと。

「俺が戦う」

 キッパリと、無表情で宣言していた。

「……えっ?」

 全く意味が解らない。

 なにがどうなったらそうなるのか聞こうとすると、エルドが補足を始めた。

「代理ということだ。上は中々許可を下ろさなかったがな、七年前に俺達がやりあって天変地異を起したことをまだ気にしているのだろう。あれは別に負傷者もいなかったし、些細な事だとおもうのだがな」

(なにを言ってるんだ!? あれが些細! あれが!?)

 今でも覚えているが、全然些細な事ではない。

 その周辺の動物、モンスターの生態系はかなり変わっていた。

 しかし、龍帝であるエルドからすれば、些細なことなのだろう。

 負傷者が居ないのも実際は戦闘前に避難させていたからだと聞いている。

 避難していなければ、歴史に残るレベルの大災害だったかもしれない。

 その出来事を一部とはいえ知っているロマネは、何故ギルドから許可が下りたのかが全く解らないでいた。


 ロマネは焦っていた。ギルド長の責任とかは一切関係なく、災害が起こるということを、この街の人間が犠牲になるのではないかということに、恐怖を感じるしかない。

(……こんなことになるのなら、自分で戦って軽く殴られて半殺しになった方がマシだ)

 力加減が間違って殺されたとしても、死ぬのはロマネ一人だし、そっちの方がマシだと感じていた。

 そうは解っていても、二人にそう告げることは、震えからできないでいる。

 海神龍と戦ったことを後悔しそうになったが、自らの師匠と対面した感動を思い返し、それは違うと冷静になる。

 そんなロマネを見かねてか、エルドは豪快な笑みを浮かべ。

「我等だってちゃんと考えている。今回は海神龍が居た場所でやり合おうと思ってな、あそこなら問題ないだろ?」

 大問題だ。

 リヴァイアサンが災害を起した理由は周囲を暴れまわって発生させた超大規模な癇癪のようなものとされている。

 それだけでキリテアの街に災害が起きたというのに、それ以上のステータスを持つ二人がぶつかり合う。

 衝撃による水害で、街が滅茶苦茶になる可能性が極めて高い。


 ギルドが許可を出したのは、キリテアなら水害慣れしているし、被害が出ないと考えたのか。

 単に二人が言った「殺さない程度にやる」を、加減してやると考えたからか。

 こいつらが加減しながら戦うことはできるだろうさ、しかし、最後までその調子な訳がない。

(せめてここの担当者である私に一報しろよ!!)

 戦闘狂だからこそ、ロマネは解る。

 加減してやるのは最初だけだ。

 火がついたら最後、周囲も気にせず見境なく全力で戦うだろう。

 その際の災害は、全て自然災害になるに決まっている。

 それだけの実績が、ロマネの目の前にいる二人にはあるのだ。


(こいつら、どこかぶっ飛んでいる。だからSランクは嫌なんだ……)

 そうロマネが考えながらも口には出せず、必死に時間稼ぎを行おうとした。

 閃き、二人向かって無理矢理に笑みを作り、それを眺めた龍帝と寡黙剣士が僅かにキョトンとする。

「た、戦う前に、腹ごなしとしてキリテアの料理はいかがですか? ヒメナラに案内させますよ」

「……えっ?」

 ビックリしているのは我関せずといった風に、隅っこでコソコソと作業を続けていたヒメナラだ。

 結構手や足を震えさせているので、それを誤魔化すために作業をしていたのか。

 ぽかんとした表情を浮かべているヒメナラに、ロマネは心の中で謝罪した。

 後で理由を話すし、償いなら何でもする気でいる。


 エルドは顎に手を当てて、少しだけ悩む素振りをみせるが。

「ほう……嬉しい提案だが、食事は戦後で……」

 構わないといいかけたエルドの肩に、トウが手を伸ばし、掴む。

「俺は食べる」

 なんでかしらないけれど、トウはヒメナラに結構気があることをロマネは知っている。

 好きなのかどうかは解らないが、トウに関して何も言わない、いや言えないし、少し話しても無表情を貫くヒメナラに好意を持っているのだろう。

 大抵のAランク以上の冒険者は、トウと関わっても離れるか嫌そうな反応をするが、ヒメナラは堪えることができている。

 まあ単に無表情なだけだが、それがトウにとっては心地よいのかもしれない。

「ヒメナラ、案内して差し上げろ、この時間帯なら、まだ昼になっていないが、ここら辺のレストランが空いてるんじゃないか?」

 空いている時間で、一番距離があるレストランを指差す。

 嫌そうな顔をヒメナラは浮かべていたが、すぐに「わかった」と言ってくれる辺り、ロマネは自分自身が相当切羽詰まっている表情を浮かべているという自覚があった。

 三人の背を確認し、ロマネはすぐさま、助けを求めにセレスの館へと全力疾走をする。

 もはやソウマ達にすがる以外、なんとかできそうな気がしなかったからである。



side・ソウマ

 

 俺はロマネからそんな話を聞き、とんでもねぇ連中だなとSランク二人を脳内で評価していた。

 ミーアとローファはいきなりやってきたSランクの存在に驚いている。

 当然だろう。

 セレスも俺達と同意見のようで、呆れながらふんふんと頷き。

「……なるほどの……じゃが、流石にやつらも七年経っておるし、冷静になっているかも」

「かもで災害が起きたらどうする!?」

「ま、全くもってその通りじゃな……ごめんなさい……」

 いつも余裕を持っていたセレスだが、怒涛の勢いでまくしたてるロマネに圧倒されている。

 今までの敬語をかなぐり捨てて、結構鬱憤が溜まっていたのか、それも含めて爆発してしまったのだろう。

 というか、この発言を見るとセレスって、結構推測が甘いのかもしれないぞ。

 色々と大丈夫なのか、心配になってくるぜ。


 セレスは僅かに悩んでいると、ロマネはコップに水魔法を使って水を入れて、それをぐいっと飲み干していた。

 よっぽど焦っていたのだろう、肩で息をするロマネに、セレスが自信なさげに提案する。

「とは言ってもの……攻撃が飛んできた衝撃を結界で防ぐ程度しかできんぞ……問題は、それに気付いたらわらわを敵だと認識する可能性があるということか……」

「俺も行こう」

 瞬間移動もあるしと言いかけたが、ロマネにはそれを伝えていないので止めた。

 それを理解しているのか、セレスはうーむと腕を組んで悩みだす。

 今の状態は19歳の美少女モードなので、腕が動くとそこに乗った胸がゆっさゆっさ揺れて眼福だ。

「でものう……天命クラス二人と関わらせたくないのじゃが……わらわ一人でも、トランスポイントがあるし……」

 セレスはそう言ってくるが、俺としてはこの状況でセレスを一人向かわせると、心配になってすぐに追いかけることになるだろう。


 ちょっと本音を混ぜながら、着いていきたい理由を提示してみる。

「関わる気はないって、上剣士トウの戦いってのを見ておきたいしな……スコア8位と7位の対決だ。ワクワクして」

「来ない!! ……あのなソウマよ。自分の関わっている街が、災害に合うかどうかなんだぞ!?」

「す、すいません……」

 これはあまりにも軽口が過ぎた。

 街のことを想って激昂するロマネに対し、俺は謝ることしかできない。

 セレスがうーむと、再び大きく悩み出す。


 大丈夫なのだろうかと、俺も不安になってきていた。

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