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ミーアと釣りをする

 ローファと買い物に行った翌日。


 エルフの里へと挨拶に向かうため、セレスに鍛えて貰っているローファがいつも以上に気合が入っていて、セレスもそれを受けてやる気に満ちていた。

 そして、ミーアはオフになり、俺と出かけることになっている。

「それじゃ、行ってくるわね」

「はい!!」

「こちらは任せておくのじゃ」

「ああ、行こう」

 昨日はミーアが集中的に教えられ、今日はローファの番であり、ミーアが暇となる。

 そして、大体暇になっている俺と一緒に出掛けることにしていた。

 基本的に今まで家事は4人全員ですぐに終わらせていたのだが、今回はミーアがローファに早く教えてあげて欲しいと頼んだので、俺とミーアの二人で行なっていた。

 俺達がのんびりしていたこともあり、色々と俺が手伝いながら家事を終え、昼食をとってからキリテアの街へと向かう。


 歩いている途中、ミーアが歩きながら聞いてくる。

「それにしてもさ、ソウマは本当に何もしてないの?」

 手を握ろうかと思っていたら、左腕にミーアが身体を押し付けてきてドキドキとしてしまった。

 何もしていないのかと聞かれたら、何もしていないわけでもない。

「いや……一応上剣士スキルを一つ入れ替えた。スキルの空きが一つ増えたし、一つフリーにしても余るから何か覚えたいんだけど、考え中だな」

 上剣士スキルは、大体剣を扱う戦士と同じようなスキルだった。

 一昨日は遠出してモンスター相手に切撃ちと絶刀と刀盾を試してみたが、スキルにも補正が入るとセレスが言っていた通り、本来のステータス以上の力が発揮できていた気もする。

 線加速は、発動後の再稼働時間が同じであり、二度加速できるどう考えても上位互換な二連加速に切り替えている。

 その分HPとMPの消費量が多いみたいだが、今の俺のHPMP的には全く大したことがない。

「候補としては……攻撃に対して追加の斬撃が発生するらしい「連続斬撃」。剣を鞘に納めることで周囲に振動を走らせる「納咆哮」。身体を一定時間強化する「戦特化」かな」

 正直、どれもそこまで欲しいスキルではない。

 攻撃技は威力が一番高い絶刀で十分だし、納咆哮も瞬間移動、透明化があるので別に隙を作らなくてもいい、戦特化は強化されている時間はこちらで発動するスキルが全て使えなくなるという致命的な欠点が存在している。

 一応一度魂に刻むと再度会得する時間が短縮できるのでこの三つは覚えようとしているのだが、特に使うとは思えなかった。


 そういえば、まだセレスと特訓している時に覚えたミーアのスキルを俺は知らないな。

「ミーアは何を覚えたんだ?」

 今までのミーアのスキルは回復・範囲回復・解毒・聖魔法・フリーの五種類だったはずだ。

 大体名称通りの効果があり、聖魔法は体内の魔力を自由に扱えるようになるのだが、主に身体強化や、意識した他生物の干渉を弾く、前方に光の玉を放つ程度だ。

 聖光弾の特徴は意識した対象が当たれば少しの間僅かに身体能力が上がることであり、もし味方に当たっても効果がある技となっている。

 それを聞いて、ミーアが待ってましたとばかりに、笑みを浮かべた。

「ふふーん。回復・範囲回復・解毒・聖魔法はそのままだよ。スキル補正でかなり強化されてるけどね。二つは開けてるの、聖魔法を大聖魔法にするためにさ」

「大聖魔法?」

 名称からして、かなり強力そうだ。

「簡単に言うと聖魔法の進化版で色々できるようになるのよ。トランスポイントの設置とかね。でも魂ストック三つ使うから、これで限界ってわけ」

 刻むスキルによって魂のストックが変わる。

 聖魔法を大聖魔法に入れ替えて、ミーアのスキルは完成するということか。

 最上位のスキルになると、二つ削られると聞いていたが、三つもなのか?

「セレスの結界魔法は二つって言ってたけどな」

 気になったので口にすれば、ミーアは応えてくれる。

「あれ、実際は四つ削ってるみたいよ。結界魔法、結界強化・範囲拡大。それで後は大魔道っていう補正はあまりかからないけど全属性魔法が使えるスキルを覚えるみたい」 

 結界魔法は色々と便利過ぎると思っていたのが、補強スキルを魂に刻んでいたということか。

 魔法の呪文も魂に刻むことで威力、精度を増すという。しかし、別に刻まなくても魔道スキルを覚えて使えば十分な威力を発揮するし、そんな者は大体他の属性強化スキルとかを刻んで一点突破している。

 それのスキル版と思えば、セレスの強さもよく解るというものだ。


 俺の左腕を全身で抱きしめながらミーアはどこかに連れて行こうとしている。

 左腕をちょっとゆらゆらさせて腕に挟まった胸の感触を楽しんでいると。頬を少し赤らめているミーアが話を続けた。

「もう……ローファはロマネみたいな感じになりそうかな。セレスは最初ソウマのサポートをする感じでスキルを選ばせようとしたんだけど、一緒に並んで戦えるようにして欲しいって頼んでてね。セレスがちょっと驚いていたけど、楽しそうだったわ」

「そうなのか……」

 昨日のことを思い出す。

 ローファは俺と共に戦いたいと言っていたし、その気持ちは本物なのだろう。

 別に戦いの日々を送るわけでもないが、俺とローファのステータス差が、そうさせてしまうのか。

 エルフの里は魔界に近いと言われているし、何かしらトラブルに巻き込まれる可能性は高い。

 セレスもミーアも居るし、俺が何かしそうになっても止めてくれるが、それでも俺が止まらないのはロニキュスの時で明らかだ。

 これは、力を手に入れてしまったから、そう考えてしまっているのだろう。

 昔の俺なら、リヴァイアサンを相手にするのは無理だと言っていた時の俺なら、ローファの故郷に向かい、挨拶をするだなんて行為、避けていたかもしれない。


「強い力を持つと、何をしでかすか解らない」

 石喰らいを手に入れてすぐに現れたモニカの言葉が、よく解る。

 現に龍神を一体倒し、中級天使からセレスを奪還した。その後の中級天使が何もしてこないが、何かしてくるかもしれない。

「……ソウマ?」

 じっと、胸をおしつけながらミーアが聞いてくる。

 背丈が同じなので目と目があい、お互い顔を赤くしてしまった。

「な、なんでもない……」

 今の俺は、この日常を守りたいだけだ。

 守れる為の力で守るだけなら何も問題はないと、俺は強く意識した。


 数十分が経過して、俺は思わず呟いてしまう。

「……それで、どうしてこんな所にいるんだ?」

 セレスから借りたというロマネが持っていたような魔道具のボートを使い、俺達はキリテアの街から離れた大海原にいた。

 ロマネのボートよりも少し大きく、ロマネのは普通なら2、3人、詰めても4人が限度だったが、セレスのは5人ぐらいなら普通に乗船できそうだ。


 ……このシチュエーション、ロマネのことを思い出してしまうぞ。

 赤髪長髪、妖艶なプロポーションを持った美女が、唐突に下着姿になって大海原で野外で行為をすれば物凄く開放的だと言っていたな。

 思わず、ミーアを眺めた。

 しゃがみながらショルダーバッグに手を入れている。黒髪が風でなびき、こうして見ればおっとりとした雰囲気を持つ美少女だ。

 白くて色々と身体のラインが浮き出ているエロい法衣からよく解る大きい胸がしゃがむことで上下した。

 もしかしたら、そうなるんじゃないかと、俺はドキドキしてしまう。

 ローファの時は理性が止めたし、今回も俺はローファの両親と挨拶してからだと言わなければならない。

 しかし、それを言えるかどうかは別だろう。

 正直、ロマネに関しては会って半日程度だったから断れたが、ミーアとはかなり長い付き合いだ。


 止められる気が一切してこないとも考えていると、ミーアは俺に向かって一本の細長い棒を渡してきた。

「はい、ソウマの分」

「……これは?」

「前にロマネから色々と聞いててさ、一度こういう場所でやってみたかったのよねー。釣り」

 どうやら釣り竿のようで、俺はホッとしたと同時、少し残念でもあった。


 船の上で座って密着しながら、俺とミーアは人気のない海原にエサを差した釣り針を投げる。

 こういうのって女性が「こわ~い」って言いながら男性とイチャイチャする場面だと思うのだが、ミーアは平然としていた。

 というか、俺が巧く刺せなかったので助けてくれた。

 色々と恥ずかしくなってきたぜ。

「というか、水魔法で潜って取ればいいんじゃないか?」

 俺には全耐性スキルもあるし、普通に潜って捕えればいいと思う。

 しかし、それを聞いた瞬間ミーアは「はぁ?」という信じられないものを見るかのような表情を浮かべてきた。

 先ほどまでのお淑やかな雰囲気とは正反対だが、これはこれで好きだ。

「アンタ何言ってるの? こうやって魚を捕えるのがいいんでしょうが! わかってないわねー」

 全く解らないが、ミーアがそう言っているのだ。のんびりと待つことにしよう。


 昔話をしていたりもしたら数分後、釣り竿に引っ張ったかのような感触がくる。

「きたわね。ここはあまり人が来られないから釣れやすいってロマネが言ってた通りだわ」

 軽く力を入れていくと、普通に釣り上げることに成功する。

 モンスターが来たらどうしようかと考えていたが、ただの魚が釣れた。

 HPMPを除くステータス100以下の存在は神眼でも確認できないので、本当にただの魚だ。

 ミーアが即座に絞めてマジッグバッグに入れる。

 こうすると鮮度が一切落ちないらしい。

「やっぱりマジッグバッグがあるのはいいわね、セレスに感謝するしかないわ!」

「色々と手際が良いんだな」

「そりゃそうよ。昔はこうして、食事を摂ってたんだから……」

 そう寂しげにミーアが言って、俺は水面を眺めながら昔のことを思い返してしまう。

 俺達は親が居ない、基本的に子供の頃はそういう子供たちの集められた施設に預けられ、ある程度年が行くと出ていくことになっている。

 その間、施設でも色々と手伝いをしなければならない。

 俺は力仕事が主だったが、ミーアはこういうことをしていたのか。

 

 それから数時間が過ぎ、結構釣り上げることに成功して、夕日が見えてきた頃、ミーアが俺に聞いてくる。

「ねぇ……どうして、私がこうして釣りにきたのか、解る?」

「俺と一緒に釣りがしたかったからじゃないのか?」

 即答すると、ミーアがほほ笑み、そしてすぐさま、表情が僅かに曇った。

「それもあるよ……でも、本当はさ、こうして二人で会話をしておきたかったのよ」

「……二人で?」

 俺に身体を傾けながら、ミーアが聞いてくる。

「一週間ぐらい前まではさ、あたしと共にパーティを組んでた頃、あたしは必要とされてたけど、今はどうなのかな?」

 パーティだった頃の時、俺はミーアに感謝していたことも、釣りをしながら話している。

 しかし、それでもミーアは、不安げに呟いた。

「……ローファは私より凄いし、セレスはもっと凄い。一緒に居たくないとかじゃなくて、不安になってくるのよね……」

 4人のステータスを見て、一緒に特訓している間のローファを見て、不安になってしまったのか。


 俺は、気付けばミーアを抱きしめていた。

「……ソウマ」

 抱きしめ返してきたミーアに、俺は語る。

「必要に決まってる。ミーアが居なかったら、俺は本当にどうなっていたのか本当に解らないんだ……今までも、これからも、俺にはミーアが必要だよ」

 今では必要ないかどうかと聞かれたら、必要だと断言することができる。

 ローファは奴隷だったから何も知らないし、パーティを組んだ俺だって戦うことが全てで大体のことをミーアに任せてきた。

 あの時、ローファに出会ってすぐ後、ミーアに出会っていなければ、俺だけでロマネが会っていたかも解らない。

 館も入手できていないし、セレスも助けられていないだろう。

 あの時、精神が不安定だった。

 ローファに会って少し和らいだが、だからこそ、キリテアの街に向かうのを途中で止めて、先にエルフの里に挨拶に行こうとしたかもしれない。

 ミーアが居てくれたから、方針を決めてくれたから、今の俺達がある。


「そっか……よかった」

 震えながらミーアの抱きしめる力が強まり、俺はそれを受け入れる。


 ……数秒この硬直状態が続き、俺は悩む。

 ミーアは震えながら笑顔で涙を流している。それは感極まって出ているものだろう。

(ここは、キス、してもいい所、なのか……?)

 ローファの時はローファが先にしてくれたから、もう後は勢いでできた。

 しかし、ミーアはミーアだ。

 聖者という立場だし、キスは結婚してからなのかもしれない。

 だけど、状況的にやってもいい流れなんじゃないだろうか?

 昨日ローファとキスしておいてどうかとも思うのだが、ローファだって何人も妻を持つものだと言ってたしな。


 どうするべきかドキドキしていると、瞳を潤ませながら、俺を少し見上げてミーアが。

「ふふっ……キス、したいんでしょ?」

 エメラルドブルーの瞳が潤みながら、頬を赤らめ、僅かに俺を見上げるミーア。

 こんなん見たらするしかないだろ。

「……ああ」

 そう言って顔を近づけていると、俺の指先に温かいものが触れた。


 二本の指だ。


 ……えっ?


 俺の唇は、顔を赤らめたミーアの人差し指と中指によって、遮られた。

「あ、あたしは聖者だからね。そういうのは、まだ早いかな……そういうのは、ローファとちゃんと結婚して、あたしの結婚式をした時にしましょう」

「そうだな……それもそうだな」

 ちょっと落ち込み気味の俺だったが、ミーアがポツリと呟く。

「……最後までね」

 

 最後までというのがどこからどこまでなのか気になりすぎるが、明らかに俺に向かって言っていないので聞けないでいる。

 夕焼けを眺めながら、俺達は帰ろうとしていた。

「それじゃ、夕食と明日の朝食はこれを使うから、瞬間移動で帰りましょ!」

 先程の良いムードが一変し、マジックバッグをポンと叩き、楽し気に笑うミーア。

「ああ! 釣った成果を、二人に見せよう!」

 そんなミーアに対し、俺は笑みを浮かべながら、館へと帰っていった。

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