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魔王の秘書の説明を聞き、奴隷の少女と出会う

「なっ……どういうことですか?」

 石を喰っただけで、ステータスがぶっ飛んでいた。

 その事実に驚愕しながら、俺はモニカに聞いてみる。

「やはり自覚なしか……ちなみに、昨日確認したステータスはどれぐらいだった?」

 そう言われたので、俺はステータスカードを出すと、モニカは隣までやってきた。

 セミロングの金髪が、俺の鼻にすこしかかる。

 すごく良い匂いがするが、今はそれどころではない。


 俺のステータスカードを眺めて、モニカは聞いてきた。

「まあまあだな……それで、ここで石を食ったら、5倍ぐらいになっていたということか」

「はい……って、なんで知ってるんですか?」

「まあここで説明しておいた方がいいだろう、私は魔界の人間だ。こう見えても魔王の秘書をやってる」

「……はぁ?」

 正気か疑っていると、フッとモニカが余裕ありげな表情を見せる。

「そうだな、まずは強さを示そうか……少し待ってろ」

 そう言ってモニカはどこかに行ったかと思えば、すぐさま帰ってきていた。

 瀕死のロックリザードを背負っている。

 マジかよ、30秒もかかってないぞ。

 この30秒で遠く離れた場所で岩となって擬態しているロックリザードを発見し、瀕死にして持ってきたのか。

「さっきの、ステータスを確認した方法で、こいつを見てみろ」

 そう言われて俺は、ロックリザードを確認した。


ロックリザード

HP39020

MP0

攻撃930

防御1160

速度333

魔力0

把握227


「スキル神眼(ゴッドアイ)は視認した存在の能力値を把握できる……それで、私を見てみろ」

 そう言われてモニカを見るが、何も浮かび上がっては来ない。

 疑問を顔に出していたからか、彼女はどや顔を決め込んだ。

「ふふっ。君の持つ魔力を二倍にした数値が、私のHPMPの以外の最大値より高ければステータスを確認できるが、できないということは、私のステータスがどれ程高いのか解るだろ?」

「いや、神眼を知りませんから、そんなルールとか言われても」

「っっ!? まっ、まあ、そういうことなんだ」

 なんだろう、なんだかポンコツな感じがしてくるな。

 しかし、彼女の言う通りならば、攻撃から下で最大値6000以下のステータスなら誰でもステータスを見れるということか。

「……俺の把握能力は魔力の4倍ぐらいなんですけど?」

「自分のステータスなのだからそりゃ見れるだろ」

 それもそうだ。

 しかし、スキルは意識することで発動するということか。


 彼女の理屈通りならと、俺は透明になることを意識し、腕を確認する。

 俺の姿が一切見えなくなっているが、ただ見えなくなっているだけだ。

 そこから右腕以外は透明化を解除すれば、右腕だけが消えている。部分的な透明化もできた。

 ついでに、瞬間移動でメニーの街の入口まで一瞬だけ行こうと思ったが行けず、モニカは満面の笑みを浮かべた。

「うむうむ、色々と説明が省けた」

「近くの街に行こうとしたんですけど、行けませんでした」

「一度行く必要があるからね、その能力を覚えてから必要だから、まだ行けないんだろ……よし! 一度試すとするか!」

「試すって……はァッ!?」

 俺が驚愕したのは、モニカの発言と同時。

「ここに戻ってくるよう意識を強めろ!」

 右腕を軽く握ったかと思えば、浮遊感を受ける。まるで石ころでも投げるかのように、俺は投げ飛ばされていた。

 物凄い速度で、空を飛んでいく。このままいけば街の建物に突っ込んで大惨事だ。

 すぐさま先程モニカと居た場所を強く意識することで、俺は戻ってきていた。

 物凄い速度だったのでそれによる衝撃でもくるのかと思えば、何もないことに安堵する。

「殺す気ですか!」

「いやいや、君のステータスなら死なないよ。私がそこまで安直な考えて行動すると思って?」

「投げとばされた先が街だったんで、街の人が死ぬかもしれないってことなんですけど」

「……君を信じていた。必ず瞬間移動を成功させるってね」

 この女……。

 真剣な表情をすれば誤魔化せると本気で思っている顔だ。

 魔界の人間ってのはこんなに大雑把なのか?

 

 まあ、いいかと、俺は話を戻す。

「解除というのは?」

「全て解除するのだろう、使い方は神眼と同じだ」

 これはあまりにもアバウト過ぎてよく解らないな。

「さて、これでようやく、本題に入れるな」

 モニカは柔らかそうな腰に手を当てて、ふぃーっと息を吐く。

 そこには達成感を感じるしかない。

「魔界の人間なら、用件はスカウトですか?」

 この能力値とスキルだ。

 推測だが、間違いなくそうだと俺は思い込んでいた。

「ははっ、魔界を舐めすぎだよ、坊や。私は警告に来たのさ……急に力を持つと何をしでかすか解らないからね。この世界のバランスが崩れる可能性があるのなら、それを止めに来たのさ」

「……バランス?」

 意味が解らないでいると、指を揺らしながらモニカが続ける。

「この荒野はね、遥か大昔に、魔界と天界の王がやりあった場所なのさ。その魂が時を経て魔石となり、それを君が取り込んだ」

「つまり……ここの石だからこそ、こんな効力が出たと?」

「そうだよ。ただの石なんて食べてもステータス変化があるわけない。だから人間界(ここ)では、その力はEランクなんだ」

「なるほど……魔界とか天界とか、とんでもない話ですが、理屈は合いますね」

 魔界と天界の存在は一応文献で伝説の存在として知ってはいたが、そんなのはAランク、伝説のSランク冒険者の話であり、俺には関係がないと思っていた。


 唖然としている中で、モニカは話を続ける。

「……今、この世界は平和な流れを作り出している。魔界の瘴気の影響でダンジョンができる。天界はそれをある程度抑える。そして人間が魂を燃やしながらダンジョンを攻略し、生活を豊かにしていく。下界(この世界)が魂を燃やすことで上界(わたしたち)が安定する。こうしてできたバランスを、君は崩せるかもしれない存在なのさ」

「……つまり、俺は何もするなと?」

「いや、普通の人間、冒険者として生きるのなら、それは一切止めないよ。ダンジョンを攻略するのは解る。だけど……君はその先に来てほしくはない。よくある話だ……強い力を持つと、何をしでかすか解らないというのはね」

 つまり、釘を刺しに来たのだろう。


魔界(わたしたち)は何もする気はない。だからこそ、君も何もしないでいて欲しい」

 そう告げて、モニカが頭を下げてきた。

「……わかり、ました」

「もう一度言うけど、ただの人間として生きるのなら、別に生物界(このせかい)での行動を制限するつもりは一切ない。追い出されたパーティとやらに復讐しようが、五大迷宮を攻略しようが自由だ」

 復讐か……。

「正直、復讐なんて、言われなきゃ思いついてもいませんでしたね」

 その発言に、モニカはキョトンとしている。

「そう? 魔界なんて復讐とか内部抗争でぐっちゃぐちゃなのよ。多分後500年もしたら自然に滅ぶわ」

「はは……」

 急に砕けた感じになり、思わず俺は吹き出してしまう。

 それを見て顔を赤らめながら、モニカは言う。

「コホン……私はやること終わったし帰るわ。ダークアイはよくセクハラかますから毎回ぶちのめしてるんだけど、そいつと仕事を代わってくれるのなら紹介するよ?」

 魔界に来るなと言っておいて、スカウトはするのか。

「いや、魔界に行く気にはなりませんよ」

「そう、じゃあね」

 そう言って、先ほどの空間を裂くかのように、彼女の全身が消えていく。


「魔人か……」

 すごく貴重な出会いだったなと思いつつも、朝食がてら俺は軽く石を喰らう。

「というか……この手鏡、くれるってことでいいんだろうか?」

 色々と宝石の装飾がされているのだが、渡す時は放り投げていたし、彼女からすれば、どうでもいい物なのかもしれない。

 それでも、明らかに高価だし、大切に持っておくべきだろう。

 ステータスを確認する。

 これが最大値なのか、満腹になるまで喰らっても、ステータスは変わらなかった。

「まあ、これでも十分過ぎるぐらい強いか」

 そう呟きながら、俺は荒野地帯を後にする。


 手鏡はポケットに入らないので、結局俺はメニーの街に戻ってきていた。

 ロックリザードの肉体である鉱物を売り払い、リュックサックを購入する。

 試しに街に転がっていた石を一度喰らってみるが、何も味がしなかったので、普通に食事も2日分購入した。

 隣街のキリテアにギリギリ行けるかどうかの食糧だが、その分あの荒野の石を詰め込んでいる。

 Cランク以上の冒険者は特典としてマジックバッグという30種類までなら何個でも入る鞄を貰えるのだが、今さらギルドを作る気にもなれない。

 今ならジェノン達を余裕で対処できるが、会わずに街を離れていた。

 ミーアには会いたかったが、もしマジでレインとかいうのと付き合っていたら、俺の心が折れる。

 絶対あり得ないと思うのだが、確認するのが怖かったのだ。

 それに、俺のステータスで戻るように言われても、恐らく五等分になるだろう。

 それも嫌だった。


「……とりあえず、家が欲しい」

 俺は馬車を使わず、人気のない危険地帯から隣街のキリテアを目指す。

 危険地帯を通っているのは、石を喰ってる所を見られたら魔物と間違えられる可能性があるからというのと、瞬間移動の場所を覚えておく為だ。

 瞬間移動できる魔法はダンジョン限定で存在するが、ダンジョン以外では存在しない。

 これを誰かに見られたらスキルで誤魔化せるが、色々目立つのを恐れていた。 

 ステータス鑑定には回数制限がある。

 だからこそ、ステータス鑑定はBランク以上限定の特典となっている。

 その理屈なら、俺のスキルにも一日の回数制限があってもおかしくない。

 重要な時に発動できませんでしたじゃシャレにならないので、使用は控えようとしていた。

 誰かに見られるわけにもいかないし、キリテアの街に着いて、自分の家を持ってからだろうな。

  

 昼過ぎ、あれから数時間程歩きながら、俺は色々と考える。

 このステータスなら他とパーティを組んでも手を抜いて合わせるかドン引きされるかのどちらかだ。

 手を抜くのは面倒だし、ドン引きされても、ソロでやっても目立つだろう。

 もう冒険者をするという気にもならないでいた。

 ある程度金を稼いで、家を買ってのんびりと暮らす。

 ステータス的に目立って魔界天界の存在と関わるのは避けたくなっているというのもある。

 向かう先は隣街のキリテアであり、景色をかなり気に入っていた。

 暮らすならメニーよりもキリテアの方が良いという判断だった。


「ん……?」

 石を喰らいながら歩いていると、巨大なトカゲ3体と戦っている少女の姿が見える。

 この草原地帯は危険地帯とされている。

 少女は見るからにボロボロだが、辺りに人は居ない。

(囮として捨てられたか……いや、考えてる場合じゃないな!)

 神眼でトカゲを確認した。


 グリーンドラゴン、ステータスはロックリザードの半分程度の雑魚だ。

 いや、雑魚じゃない。

 普通にCランク級のモンスターで、ロックリザードはBだ。

 ついでに少女も確認した。

 青髪短髪な小柄の少女だ。ツギハギだらけのボロボロの布の衣服を来ていて、13、14歳ぐらいだろうか、1体を必死になって倒していたが、体力的に危機を感じたのか、大きな眼が潤み、必死に逃げだしている。


ローファ・エタニア

ハーフエルフ

HP3274

MP2390

攻撃650

防御723

速度1056

魔力988

把握1200

スキル・封印・封印・奴隷()

 

 装備補正がないということは、何も装備がないということか。

 速度重視魔法使いといった所だが、気になる所もある。

「ハーフエルフで、奴隷……?」

 奴隷も知っている、ハーフエルフも知っている。

 しかし、気になるのは神眼で把握できたということだ。

(スキルの封印は奴隷のせいだからとして、神眼は種族も解るのか……と、考えてる場合でもないか!)

 試してみたいことがあり、右の掌をグリーンドラゴンに向けた。

「フレイムアロー!」

 昔試したことがある。その時の俺には魔法適性がなく、フレイムアローと唱えても軽い炎が出てすぐ消えるだけだった。

 これは魔力がどれだけ高くても関係ないらしいが、今は全強化がある。

 推測通り、レイラが出していたのよりも少し遅い炎の矢が2本発生し、2体のグリーンドラゴンに直撃して爆風が巻き上がる。


 俺の職業は戦士、それによるマイナス補正があるので恐らく魔法使いの3割程度の威力だが、それでも魔力428ぐらいの威力だ。

 Cランククラスの魔法攻撃が炸裂し、怯んだ隙に、俺は少女の前に立つことができた。

「出たのは嬉しいが、流石に倒れないか」

 俺が自分の放った魔法の感想を述べていると。

 少女は必死に俺の腰に両手を当てて、縋るかのように頼んでくる。

「あの……助けてください!」

 その発言を聞き、俺は頷いた。


 この時、彼女はただ、目の前の状況を助けてと言ったのかもしれない。

 俺はその時点で、彼女の発言が、全てを助けて欲しいという意味だと思い込んでいた。

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