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九天命

 セレスに案内されて、地下の倉庫に到着し、部屋の中に入る。


 そこは、宝の山だった。


 ありとあらゆる魔道具、武器、防具が飾られている。

 装備の類は見栄えよく飾られていて、どれもこれも性能は売られている物とは桁違いだろう。

「これも全て、お主のものじゃ」

「マジか……」

 セレスは小さめなショルダーバッグ型のマジッグバッグを持っているし、もう道具や装備にも困らないな。

 今日も特に何もなく、普通に楽しかったし、ようやく激動の日々が終わってのんびりとできるという実感が沸いてきた。


 そんなことを考えている間、セレスが収納箱の中から、一枚の紙を取り出し、眺めていた。

「ほうほう、確かに、トウの奴が一つ上がっておるの」

 ……トウ?

 恐らくは最強の冒険者、寡黙剣士トウのことなのだと理解しているが、いきなりその名前が出たことが解せない。

 すると、とことこと先ほどセレスが手に持ってきた一枚の紙を、俺に見せてくる。

「これが、スコアじゃよ」

 

 その一枚の上質な紙には、九つの名前が記されている。


ベルグ・ルムグ・ルードヴァン

トクシーラ

ファウス

アルダ

テニフィス

モニカ・ロンマイ

トウ・ランドレイ

エルド・ドラゴン

セイラーン


 この名前が書かれた紙について、セレスが説明する。

「天……すなわち世界、その中でも最強とする九の命を記す紙、それがスコアじゃ。強者から上に並び、これを九天命とする」

「つまり……この紙に記された者が、世界最強の存在ってことか……」

 要するに魔界天界を含めた最大九人の強さランキングみたいなものか。

「名称は九天命じゃがの」

 なんか世界最強の六番目と、俺が関わったことある気がするんだけど。

 モニカ・ロンマイって、多分俺に色々と警告してくれたあのモニカだろう。

 魔王の秘書って立場的に、仕えているのは上の存在となるのか?

 俺が驚いているのをスコアのことだと勘違いしたのか、ドヤ顔でセレスは続ける。

「これはただの紙に見えるが魔道具での、世界中に何枚か同じようなのが散らばっておる。この特徴は、強さが上下すると、その紙全て、つまりはスコア全てがちゃんと変動するということじゃ」

「……すげぇな、ルードヴァンって、伝説の大魔王だろ?」


 大魔王ルードヴァン。

 本当に実在しているのかすら不明な、世界の始まりの頃から存在しているとされる、最強の魔王。

「このスコアの存在はSランクとAランクの一部しか知らぬ……この情報の真偽は、トウ達の存在によって証明できる」

「セレスはスコアの存在を誰か知ってるのか?」

 俺の質問に「ルードヴァンを除けば三人じゃがな」とセレスが頷いた。

「下の三人は全員Sランク冒険者で、エルド・ドラゴンは察せるとは思えるが、龍帝じゃの。10年前はトウより上じゃったが、その上下以外で何も変わっておらぬ」

 世界で八番目って、魔界天界含めて世界八番目の強さってことかよ。

 魔界天界除いたら世界二位の奴と、もしかしたら戦わなければならないのか。

 まあ、関わる事もないじゃろとセレスは告げて、俺は他の魔道具や装備の説明を聞いていた。



side・モニカ


 金髪の腰まで伸びたポニーテイル、胸と腰を銀の防具で纏っているが、他には何もないので白い肌を晒している美女モニカは、天界のとある場所にいた。

 女性はこの空間内にたった一人しか居ない、モニカだけだった。 

(……帰りたい)

 そんなモニカは眼前の光景に対し、何度目かも解らない現実逃避をしている。

 天界にある塔の一室。

 光り輝くその一室に、円卓が存在している。

 その前方に四つの存在が、大してモニカ側にも、四つの存在が中心を開けて円となって現存している。


 魔界と天界の最大戦力が、ここに集結している。


 天界側と魔界側に分けられ、その存在は両者共に、半円の中心部を開けている。

 お互い真正面の豪華な装飾の対面している二つの玉座に、誰も座ってはいなく、魔界側のテーブルにモニカは金の短刀を置く。


 モニカの左の席には初老の背を少し丸めて黒いフードを被り、この煌びやかな空間には場違いな小汚そうな老人、ダークアイが立っている。

 モニカの右、空いている玉座を飛ばし、木で作られた笠という深く顔を覆う帽子を被り、それで目元を覆うかのようにしている。

 切れ長の鋭い漆黒の眼光を前方に飛ばし、腰に剣を差してテーブルに足をかけて座る男はファウス。

 他のメンバーは全員立って王の到着を待つ中、当然のように無礼極まりない座り方で待機しだす円卓で現在最強の存在に、モニカは苛立ちをなんとか堪えていた。

 元々はファースという呼び名であり、他にもネームを持っていたらしいが、恐れ多いはずなのに平然と大魔王に直談判し、名称をファウスだけにしたというよく解らない神話を持つ。

 その隣に、同じような笠を被って立ちすくんでいる。ファウスとは対照的に大人し気な剣士の少年、角が生えて笠が浮いている。

 視線はそのままで、ファウスは告げた。

「ラバード、座れ」

「いえいえ、私はこの中で一番強いファウス様と違い、座るほどの格が御座いませんよ」

「そうか、なら好きにしろ」

 名前すら今初めて知った、ラバート呼ばれたファウスが選んだ存在に、モニカは警戒心を強める。

 この中で一番強いというのを強調して、天使共に喧嘩を売るという余計なことをしやがった。

 魔界側では大魔王の大幹部が一人選んで数年に一度あるこの会議に同行する様に言われているので、モニカは毎回補佐役を務めているダークアイなのだが、ファウスは毎回変わっているからだ。


 その魔界の四人と対面するは、銀色の装飾を身に纏った天使共。

 アルダ、テニフィス、リアッケ、クレン。

(上級天使が四体……)

 相変わらず同じ存在なのは魔界と違い統率が取れていて、モニカは羨むしかない。

「一人だけそこまで肌を晒して……魔界の存在は破廉恥と言わざるを得ない」

「その通り。テニフィス様は全てが正しい」

 白銀の装飾に身を固め、眼鏡をかけ腰に刀を差した美青年のテニフィスが、やらやれと言わんばかりに首を左右に振るってモニカを指差し、いつも通り小柄なタンバリンという楽器を両腰に備えている少年クレンが太鼓持ちをする。

 内心舌打ちを抑えて、モニカは無視を決め込んだ。

 毎度この上級天使は、会うたびに嫌味ったらしい。

 次に、椅子に足をかけていた男に目を向け、嘆息する。

「そこのファースとやらも、如何せん無礼だ。魔界の住人とやら」

「テニフィス、彼に関わるな」

 クレンがテニフィスの発言をどんな内容だろうが賛同しようと構えている中、背丈はモニカより高いも、風貌は美少年に見えるアルダが警告する。

 しかし、それよりも先に、ファウスが右腰に、刀の鞘へ手をやる。  

「俺はファウスだ。二度と間違えるな、消すぞ」

 テニフィスは今まで一度もファウスの名前を間違えていなかったのだが、本来の名を最近知ったのだろう、嫌味に使おうとして、結果逆鱗に触れている。


 ファウスの殺気が会議室を覆い、ビリビリと空気の振動が流れ、全員が警戒する。ダークアイがこれが好機だとモニカの尻に向かって手を伸ばした。 

 その手を弾きながら、モニカはアルダの隣に立つ、こんな状況で我関せずという風に立ってるだけの白く何も描かれていない仮面を装備したリアッケを睨んだ。

 モニカはこの空間に存在する全てに、苛立ちを感じるしかない。


(私達は世界のバランスを保つ為に会議しようとしてるというのに……。こいつ等は……)

 そう考えていると、テーブルの上に置かれた金が発光し、全員がそちらに注目、モニカは安堵した。

 トランスポイントを経由して現れるは、一人の大男。

 木でできた一応顔が描かれている簡素な仮面を装着した、黒いフードで全身を隠し、邪気の塊かのように巨大な風貌をした世界最強の存在。


 ベルグ・ルムグ・ルードヴァン


 生物界(したのせかい)では大魔王ルードヴァンと恐れられている伝説の世界最強が、魔界側の玉座に座り、モニカは安堵した。

「ようやく来たのか、いいタイミングで現れたもんだね」

 それと同時、ルードヴァンと向かい合っている玉座から、声がした。

 トランスポイントを不要とした天界全域で使える瞬間移動。

 それを使うことで現れたのだろう、表情が木の簡素な顔を描いた仮面で見えないベルグとは対照的に、楽し気な笑みを浮かべ、優美にして小柄な美少年が、その椅子に座る。


 天界最強、世界準最強の存在、大天使長トクシーラ。

「久しいな、大天使長(クソガキ)

「まだくたばってなかったようで、大魔王(クソジジイ)

 天界魔界の頂点とは思えない稚拙な言い合いだが、いつものことであり、全員がその発言をスルーする。

 この二人に暴言を吐けるのは、この二人しか存在しない。 


「トクシーラ様!」

 テニフィスが歓喜の声を出す。

 ファウスの件を報告して、天界と魔界の戦争を望んでいるのだろう。

 しかし、それを制したのは、アルダだった。

「些細なことです。テニフィス、誠意をもってファウス殿に謝罪しろ。それが受け入れられなかった場合に限り、話が先に進む」

 アルダの思惑を理解したのか、テニフィスは楽し気に眼鏡をくいっと上げた。

 勝手に話を進めるなよと、モニカは思案する。

 こいつらの話が進むというのは、天界と魔界の戦争に発展するということだ。

 テニフィスがなんか謝罪っぽい発言をしてファウスにそれを拒ませようとしているつもりなのだろう。


 唯一の救いは、天界魔界(うえのせかい)のトップが、それを避けようとしているということか。


「僕達が来る前のことは全て不問にせよ。ファウスとやら、それでいいか?」

「ファウス……返答次第では、我は貴様を消さねばならぬ」

 スコアのワン・ツーが現れようとも不遜な態度を崩さないナンバースリーのファウスに、高く明るい声で問いかける天使長と、深く重い声を響かせ、警告を放つ大魔王。

 それでも一切表情を崩さずテニフィスに向かって鋭い眼光を突きつけていたファウスは「ふん」と一蹴しながらも、腰にやった手を戻してぶらぶらとさせていた。

 ほっとしたが、正直トラブルメイカー極まりないファウスが、不問にするのを断り、二人の手によって消えてもらっても良かったとモニカは考えてしまうが、そうなれば魔界側の戦力が大きくダウンするだろう。


「それでは会議を始めようか……といっても、今回緊急で集まってもらった理由は海神龍討伐のことと……僕の部下のことだけどね」

 ここからが本番だと、モニカは冷や汗をなんとか隠す。

 海神龍が討伐され、その翌日、中級天使ロニキュスが人間界で何かを行っていたことが発覚した。

 ぶっちゃけ海神龍はお互いどうでもいいのだが、せっかくだし理由に入れたのだろう。


 海神龍が討伐された翌日に中級天使の事件だ。

 場所的にこれだけ色々と起こした人物を、モニカは一人しか想像できない。

(だから関わるなって警告したのに……いや実際どうなのかは知らないけどさぁっ!?)

 モニカは内心歯噛みしつつ、どうにかして石喰らいの少年ソウマを、天使達が処刑する流れになるのを阻止しなければならない。

 人間界に天使が関わるということを止めるしかなく、モニカの全身は強張っていた。

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