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師弟の再会

 ミーアとローファを館に残して、俺とセレスはロマネの居るであろうキリテアのギルドへと向かっていた。

 しかし、いきなり特訓を始めて置いてきただけに、俺は二人が心配になってくるぞ。


 とりあえず、セレスに聞いてみる。

「……あの特訓、大丈夫なんだろうな?」

「危険はあるが、ローファには精霊の加護があるし、回復薬の材料もミーアに調合の練習を1度させたやつを置いてある。そこまでハイリスクというわけではない……実はな、緊急用に眼を配置しておるのじゃよ」

「眼を配置?」

 これは秘密だと言わんばかりに、美幼女に戻ったセレスは人差し指を口に持ってくる。

 その仕草が可愛く、先程までは19歳の美女になる寸前の美少女で、最初に変化した25歳の姿は端麗な美女だったんだよな。

 本当に何もせず、俺とのんびりしたいというのなら、こちらから頼んで嫁にしたいものだぜ。

 それに気付いたのか、ニコニコとしながらセレスは続ける。

「これはソウマ以外には誰も教えるつもりはないのじゃが、スキル「天眼」……右目の神眼は移植じゃが、左目はわらわのものじゃ……MPを消費して子機の天眼を最大3個まで配置し、わらわの眼で子機の光景を三等分して確認できる」

「うぉっ!?」

 そう言って、右の掌から目玉を一つ発生させた美幼女に、俺は引き気味に下がってしまう。

 その目玉が浮遊して羽のある虫のように動くそれは、中々に恐怖だった。

「館の上に監視用として一つ、ミーア達の確認に一つ、そしてフリーのこれ……戦闘時は後方確認やらなんやらで便利なのじゃが、かなりキツくての、基本的に戦闘時は天眼をオフにして戦う」

「色々と凄いんだな」

「大賢者セレスは伊達ではないということじゃの……Sランクでこれを上回る世界規模であらゆる物を視認する界眼というのがあるようじゃが、お目にかかりたいものじゃ」

 界眼ね……。

 そういえば、石喰らいが発覚した日、モニカが俺の存在に気付いたことが謎だったのだが、その界眼の力だったりするのだろうか?

 気になってしまったが、セレスに言っても解らないだろう。


 歩いていると、セレスが話を続ける。

「それに、杖も渡したからの」

 そうだ、セレスはミーアに杖を渡していた。あれが何なのかも気になっていた。

「あの杖はなんなんだ?」

 ただの何の変哲もない杖にしか見えないが、セレスの物だ。

「トランスポイント。上級魔法最大の利点とも呼ぶべき力じゃ。結界・大魔道・聖魔法の極みであり、道具を介しての瞬間移動が可能となる。大抵の者は一つしか持てないのじゃが、わらわは二つ所持できる。その一つがそれじゃ」

「へぇー」

 自前の瞬間移動がある俺には関係ないなと、どうでもよさそうな表情をしていると、セレスがジト目で見てきたぞ。

 嘆息混じりに、俺に向かって教えてくれる。

「まったく……これによる最大の利点はの、瞬間移動者が行ったことのない場所でも瞬間移動が可能ということじゃ」

「すげーなそれは!」

 一発で利便性が理解できた。

 ニマニマとしながら、美幼女セレスは続ける。

「作るのに膨大な魔力で数日かかるのと、何度か使用すれば壊れるし、壊れなければ再作成できないという欠点はあるが、それでも瞬間移動の便利さは、ソウマが一番よく知っているはずじゃ」

 確かに、それぐらいする価値はあるだろう。

 となると、セレスぐらいの強さなら、Sランククラスの魔法タイプは、限定的な瞬間移動ができると考えた方がいいのか?

「必要なのはトランスポイントの核となる物じゃの。わらわは、わらわが作ったトランスポイントの道具がある場所なら瞬間移動できるし、わらわのトランスポイントを持つ者がわらわの居る場所に行きたいと強く意識すれば、わらわの元に瞬間移動ができる……壊れるまでの」

「物って?」

「魔力耐性がある物ならなんでもよい。わらわはミーアに渡した杖と、別荘に一個置いておる」

 無茶苦茶広い屋敷があるってのに、別荘なんてものがあるのか。

 

 そんな話をしている内に、キリテアのギルドに到着していた。

 セレスが言われた通りに、俺の名前を出してロマネに会いたいことを伝えると、昨日とは違って数分でスピーカーによる案内が流れだす。

 まるで来ることを予測していたかのようだな。

「さあ、行こうぞ!」

 めちゃくちゃ楽し気なセレスと共に、俺は昨日もやってきていた応接室の前に立ち、ノックをして開けた。


 そこには、ロマネとヒメナラが居た。

 小柄な黒髪短髪の美少女ヒメナラは相変わらずの無表情だが、赤髪美女のロマネは俺に微笑み、そして驚愕しながら座っていた椅子を蹴り飛ばす。

「昨日の今日だな、ソウマァァッッッ!? 師匠ォォッ!? なんで師匠が!?」

 そりゃそうだよなと俺は納得し、ケラケラとセレスが笑いだす。

 いきなり十年も行方不明になってた師匠が現れたら、誰だってそうなるだろう。

「随分と成長したのー。わらわの弟子よ」

「えっ、弟子?」

 一番理解できてなさそうなヒメナラが、驚愕して椅子を蹴り飛ばしたロマネと、ドヤ顔を向ける美幼女を交互に見ている。

「どういうことだ!? ソウマァァッッ!!」

 物凄い叫び声を上げて、ロマネが俺に迫ろうとした。

 俺は冷静に説明する。

「どういうことって、昨日館に行ったら魂だけの姿でセレスが居て、俺がそれを助けたんだよ」

「何から何まで早過ぎないか!? 流れ的に私も同行して助ける所ではないのか!?」

 足を止めて、ロマネは赤髪をぶんぶん振るいながらわめき散らしている。

 結構感情的になる人だなと思っていたのだが、ここまで取り乱すとはな。

 ……当然か。

「お前の低ステータスでよく言えたもんじゃのー。なんじゃそれは? わらわがおらんかった十年間、お主は龍とのほほんと戯れておったのか?」

 神眼で確認したのか今のロマネのステータスに、セレスは少し怒り気味だ。

 しかし楽し気で、ロマネも頭を押さえながらクックと笑いながら怒っている。


「ハッ! 師匠が寝てる間に、私は昨日海神龍を倒しましたよ! どうです! 凄いでしょ!!」

 デカい胸を張るロマネだったが、セレスは一笑する。

「それこそハッ! じゃ! つまらん見栄を張るようになったのー。もう聞いておるのじゃぞ? ソウマと共に行ったっての、なのに海神龍倒したと、手柄じゃと自慢しておるのか?」

「いや、それは俺が目立ちたく」

 ないからと言おうとしたら、俺の口に指を突きつけて、意地悪そうな笑みを浮かべる。

「知っておるよ。でも言いたくなるじゃろ?」

 その時、今まで色々と卓越していた美幼女セレスだったが、今この場所では見た目通りの年齢に感じてしまった。

 ニマニマとしている姿が、とても可愛い。


 セレスに一笑されて、ロマネはかなり悔しそうだ。

「くッ……他にも色々と活躍したけど、師匠に言ってもバカにされる程度のしかないぞ……何かないか……」

 思い悩んでいるロマネに、セレスがたたみかけるかの如くドヤ顔で告げる。

「そうそう、わらわな、ソウマの妻になることにしたから」

 その発言に、ロマネが噴き出して一歩後ずさる。

「ごほっ!! は、は……」

 俺は聞いていたので平然としているが、驚愕したのは前方の二人だ。

 ヒメナラに至っては「うわぁ、そういう趣味が……」とドン引きした眼差しになり、すぐさま自分も狙われるのではないかと全身を抱いて震えだした。

 違うから、誤解だからね。

 そして、身体年齢操作のことを知っているであろう思いっきり噴出したロマネはというと。

「はあァァァッー!? ちょっと師匠、年考えてくださいよ! アンタ35だろ!?」

「封印されとった十年をカウントするなぁっっー!!」

 35という発言を聞いたと同時、激昂したセレスが怒涛の勢いでロマネに全身を使って突撃する。

 ああ、25で言い淀んでいたのは、こういうことか。

 ロマネは押し飛ばされ、すぐさま取っ組み合いの喧嘩になったセレスとロマネを眺めていると、俺の隣にヒメナラがやってきた。

 

「よう」

 喧嘩を眺めながら、とりあえず挨拶すると、ヒメナラはプイと顔をそらす。

「ロリコン……」

 なんか物凄く警戒されているぞ。

 ローファを連れていた翌日、美少女モードのセレスを連れてきたこともあり、ヒメナラの好感度は下落しまくりのようだ。

「でも、ありがとう……」

 ロリコンなことにありがとう!?

「い、いや、ロリコンじゃないから」

 どういうことか解らず、俺はとりあえず否定から初め、理由を説明しようとした。

 すると、軽蔑の眼差しをヒメナラが向けながら、首を左右に振る。

「そういう意味じゃない。身体年齢操作する人をあんな姿にしておいて違うもなにもないと思う……お礼を言ったのは、ロマネのこと」

「ロマネの?」

「ロマネ、私が会ってきた中でも一番楽しそう」

 よく見ると、セレスよって一方的にもみくちゃにされながら、満面の笑みを浮かべて涙を流すロマネの姿があった。

 ちょっと怒り気味だが、セレスも同じぐらい楽しそうだ。

「色々とよくわかんないけど、ありがとう」

 頭を下げてくる黒髪の小柄な美少女ヒメナラ。

 無表情だが、黒髪によるおかっぱが小柄な体に似合っていて、とても可愛い。

「でも、私は嫁にはならないから」

 そうだよな。

 今までがおかしいだけで、これが普通の反応だと思うぞ。


「ソウマ、師匠を助けてくれて、本当にありがとう!」

「お、おう……」

 そう言って、ロマネは土下座を俺に見せてきた。

 ……いや、実際はセレスがロマネを組み伏せて、椅子みたいにしている状態で頭を下げてきたのだが。

 これにはヒメナラもドン引きしている。

 まるで椅子なのが自然だと言うかのようだからな。

「別にいいですよ」

「ここに来たのはソウマがロマネに挨拶しておけと言ったからじゃ、先に言っておくが、他の仲間とは関わる気はない。わらわはソウマ達とのんびり生きることにきめた」

 そんなセレスの発言に、ロマネは何か納得した風で。

「まあそうですね。師匠のパーティは解散してます。ヴァネッサもローグと結婚しましたし、カミィも結婚してますからね」

「……ほ、本当か?」

 元仲間の結婚報告を聞いたからか、流石のセレスも動揺を隠しきれていない。

 その反応を乗られながら理解したのか、上に向かって指を差し、セレスを笑うロマネ。

「行き遅れ」

 こいつ等、本当に師弟関係があったのだろうか?

 ピキィとキレそうになっていたセレスだったが、何とか堪えることができている。

 いや、一発蹴りを入れた。「ぐはっ」とロマネが呻いている。

「ま、まあ、わ、わらわにも素敵な夫がおるしの……」

「私は断られましたけどね……ソウマは本当にいいのか?」

「会ってまだ一日も経ってないので……とりあえず予定ってことにしていますよ」

「聞いたか! お主は断られたがの! わらわは予定入りしておるのじゃ!!」

 上機嫌なセレスに、椅子になっているロマネは満更でもなさそうだった。


 ロマネに座るのを止めて、俺の隣で密着してくるセレス。

 そんな俺をジト目で見るヒメナラ、涙目で喜んでいるロマネ。

「しっかし、あいつ等が結婚しておったとはの……弟子であったお前を見た時もそうじゃったが、ようやく月日の流れが実感できたわ」

「あ、あの……私はもう、弟子ではないのでしょうか?」

 おずおずと、ロマネがセレスに聞いてくる。

「まず聞くが、あれからお主はどうしたのじゃ?」

「はい。師匠の言いつけ通り、魔法剣士を目指してドラ……モンスターを倒しながら、師匠の捜索を行っていました」

 大体ドラゴン狩りがメインなんだろうな。

「Aランクパーティのリーダーになって、ギルド長になり、二年前にヴァネッサから鍵を貰いましたが、正直ギルド長になって忙しく、ヴァネッサの発言的に絶対面倒ごとがあるなと思い、海龍王を倒した人に任せたほうがいいかと判断しました」

「あやつは、何かしら気付いておったのかもな……お前の判断は正しかった」

「そ、それで、私は師匠の弟子のままで……」

 返答を先に聞きたいと催促するロマネに、セレスは意地悪そうな笑みを浮かべ。

「そうじゃの……今はミーアとローファを鍛えておる。今現在、ミーアはお前の半分ぐらいのステータス、ローファはお前より僅かに劣る程度のステータスじゃが、多分一週間もすれば二人ともお前を追い抜くじゃろうな」

「えっ……」

 その発言に、ロマネはかなりショックを受けていた。

 先程の笑みが消え、真剣な表情で、セレスは続ける。

「あの頃お主が十歳じゃったし、お主の家系的に万一のことは避けてきたということもある。あの特訓から本格的なものにすれば、お主も一か月ほどでSランクメンバークラスにまでなるじゃろう」

「ほ、本当ですか!?」

「私も、教えてもらいたい……」

 感激したのか、椅子から飛び上がってテンションが上がっているロマネと、おずおずと手を挙げたヒメナラに対し、セレスは俺の方を向いて、なにやら嫌らしい笑みを浮かべた。

 

 そんなセレスの邪悪な笑みが妖美に感じもしたが、俺はなんか嫌な予感がする。

「ふむ……教えたいのは山々なんじゃが……教える館やら道具やらはもう夫のソウマのモノでの、わらわもソウマのモノじゃから、ソウマの許可がないとダメかのー」

「解った! 私はソウマの嫁に! いや愛人ぐらいになればいいんだな!!」

「ええぇっ……」

 セレスの言葉にノリノリで答えるロマネと、俺に向かって嫌そうな顔を向けてくるヒメナラ。

 いやいやいやいや。

「ならなくていいから! 俺達の事情を知って存在を隠してくれた恩もあるし、普通に来てくださいよ」

「敬語は本当に止めてくれないか? 流石に師匠の夫に敬語で話されるのはちょっとな……」

 それもそうか。

「わかった。ロマネとヒメナラなら来てもいいし、セレスは教えてもいいんだろ?」

「うむ。しかし、毎日はくるなよ? わらわ達だって色々とソウマとイチャイチャするのだからな!」

 イチャイチャされるのかと、昼間見た美人スタイルと美少女スタイルを思い出す。

 こんなんドキドキするしかなく、それを見てロマネが微笑んだ。

「そうですね。その辺は解っていますよ」

 納得しているロマネに対し、ヒメナラは未だに警戒を解いていない。

「……本当に、愛人にならなくていいの?」

「いいから!」

 こいつ、俺の事を本当にロリコンだと思い込んでいるな。


「さて……他に師匠が聞きたいのは、ここ十年間であったこの世界の事ですね」

「まあ、一応は知っておこうと思っての」

 そう言って、ロマネが俺達に向き合い、話を始めようとしていた。

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