変化する
寝る時間が遅かったので、起きたころにはもう昼ぐらいになっていた。
俺はローファを起こして、大部屋に行くと、ミーアとセレスが食事をしながら何やら会話をしている。
「あ、あのさ……本当に敬語じゃなくて、いいの?」
おずおずと、ミーアがセレスに訊ねていた。
俺達が眠っている間に、色々と話すことがあったのだろう。
昨日までの様子が嘘のように、ミーアはセレスにしおらしくなっている。
セレスはあまりない胸を張って応えた。
「構わぬ。むしろわらわが敬うべきなのじゃ。第三婦人予定なのじゃからな!」
「ならそうするけど……ソウマが貴方を嫁にするかは解らないわよ。ロマネも断ってたし」
「まあ、それでも恩人じゃ! 色々と教えなければの……おっ、起きたか! わが主よ!」
「主ぃ?」
唐突に変わった呼び名に、俺は怪訝そうな顔を浮かべるしかない。
その反応を見たからか、少しだけ不安げにセレスが聞く。
「夫となるのだから主と呼びたいのじゃが……ダメか?」
前にローファのご主人様呼び断ったからなあ。
「前にご主人様と呼ぼうとしたら、断られましたよ」
どう説明するかと悩んでいると、隣に引っ付いていたローファが説明してくれた。
「なるほど、ならば普通にソウマと呼ぼうか? それで、昨日のプロポーズの返事を聞かせてもらいたいのじゃが……」
目を少しだけ煌めかせて、セレスが俺に眼差しを送ってくる。
とてつもなく可愛いが、相手は背丈130の美幼女だ。
ローファはまだいいと思うのだが、これは流石に色々とマズいだろ、明らかに無理だろ。
しかし、ロリだからダメと言えば、隣のローファが傷つくぞ……。
ローファとセレスを交互に見ていた俺の思考を理解したのか、セレスが深く頷いた。
「ふむふむ……そうじゃの、先に説明しておこうか。ある程度高い防具は、持ち主にサイズが合わさる効果があることは知っておるの?」
「そりゃな」
魔法繊維みたいな、そんな感じのものが使われているみたいだが、原理は全く分からない。
装備店からしたら高い服だが、成長しても新しいのを買わなくていいのだ。商売あがったりなのか解らないな。
「つまり、何が言いたいのかと言うと……」
それは、唐突に起きた。
正に時間を飛ばしたと言わんばかりに、セレスの身体が一気に成長を遂げていく。
まさに、セレスの位置だけ、時間が高速で進んでいるかの如き成長っぷりだ。
そして、それに合わせて、ドレスもその生地を伸ばしていく。先ほどまでは可愛らしくも奇麗な赤いドレスが、今じゃ物凄い爆乳の谷間を作り出すとんでもない衣装へと変貌を遂げていた。
同じ服だってのに、破壊力が段違いだぞ。
美幼女だった時に比べると明らかに短くなっているのだが、それがスタイルを見せつける絶妙なサイズとなっている。
「ロリ枠が余っていないのなら、年上のお姉さん枠というのはどうじゃ?」
そんな余裕ありまくりなドヤ顔を晒して物凄いプロポーションを見せつけるオッドアイ美女セレスに、俺達は驚愕するしかない。
腰まで伸びているロングヘアーの銀髪が美しくなびく、ナイスバディというのは本当だったんだな。
背丈はミーアと同じぐらいだが、女性だと十分に高く、そしてミーアよりスタイルがいいので、ミーアの心が折れかかっている。
俺の隣でもう光の無き眼をして膝を打ったローファに関しては、なんて声をかければいいのかが解らなかった。
自分の身体を触って色々と確認しているセレスだが、その際に揺れ動く胸に凝視するしかなく、それをジト目で見てくるミーアに関してはスルーすることにした。
「いや、流石にこれはちょっと色々とデカすぎるな。19ぐらいの頃にしようか」
そう言って、背丈はミーアより少し低くなり、大人からちょっと大人びた感じにまで戻っているが、胸は一切変わっていなく、ミーアよりデカい。
「じゅうきゅう……じゅうきゅうで、これ……」
膝を打った状態でガクガクと震えている、ローファの心は崩壊寸前だった。
「ローファも成長したらこうなるさ」
俺はそう信じている。そう信じることにしよう。
そう言ってパッと明るくなって立ち上がり、俺に抱きついたローファを見て、セレスが微笑んだ。
こうなってるのはお前のせいだからな。
「こういう風に、ソウマの好きな身体で楽しませることができるぞ?」
「最高ですね」
反射的に、俺は首肯するしかない。
美幼女でも可愛くて、大人だとエロく、それを自在に操作できるとか、完璧じゃないか。
「まったく……こういう時素直だから好きなんだけど、どうかとも思うわね……」
思わず本心が出た俺に、ミーアは呆れ果てていた。
「それじゃ、わらわは第三婦人にしてくれるのか?」
昨日と同じように前にセレス、左右にローファとミーアを座らせ、俺とローファが昼食をとっていると、セレスからプロポーズの返事を催促された。
身体を前に押し出しての告白だ。テーブルに押しつけられた物凄い質量のおっぱいからくる谷間を眺めるしかなく、ドキドキしているが、俺は先に言わなければならない。
「俺はもうのんびりしたいんだ。周囲で何かあれば助けるつもりだけど、もう俺から関わることはしたくない」
結局天使と関わったけどな。
本当に大丈夫なのだろうか。
Sランクのリーダーなのだから、元のパーティに戻りたいのではないかと思っていたのだが、セレスは紅茶を口にして告げる。
「わらわも、ソウマと同じ気持ちよ。十年も眠っていたのだ。この世界に関わる気はない」
「いや、ロマネとか、仲間とかには挨拶しとけよ」
その質問に、セレスはポカンとした顔を浮かべる。
「ふむ、わらわの仲間ということはSランクパーティじゃ。わらわが復活したとなれば、戻って来いと言ってくるかもしれぬ……いや、断る気でいるがの……面倒ごとになる可能性があるのだから、関わりたくはない。それよりも、わらわはソウマ達とのんびり暮らしたいのじゃ」
そう言われると嬉しいな。
「それとも、この喋り方が問題なのか? それなら、できる限り、元に戻そうと」
「あーそれあたしもやったから、素でいいって」
元の位置に戻ったセレスに、ミーアが右手をぶんぶんと振りながら応え、俺は頷く。
「わかった。それなら、セレスに任せるけど、とりあえず、ロマネには挨拶すべきだと俺は思う」
他の仲間を俺は知らないから何も言う気はないが、ロマネは関わったこともある。
ロマネには復活したと挨拶させて喜ばせたいと、俺は思っていた。
「ああ、それもそうじゃな……」
フッと息を吐き、楽しげにセレスは笑みを浮かべた。
「ロマネの元には今日向かうとして、先に、お主達のステータスについて、話しておきたい」
食事を終えてからテーブルを片付け、セレスは四枚の達筆な手書きのステータスカードを、テーブルに置くことで俺達に見せてきた。
「これは、わらわの神眼で、皆のステータスを見たものじゃ」
俺の神眼で見た通りのステータスだ。
セレスもかなり凄まじいと思うのだが、明らかに俺だけぶっ飛んでいるな。
「ソウマ、なんかステータス、とんでもないことになってるわね……」
「流石はソウマ様です!」
引き気味のミーアに対して、ローファは感極まった声を出す。
ミーアとローファは前に見た時から装備以外で変化なし、Bランクメンバークラスだな。
「事情はミーアから全て聞いた」
「もう教えてもいいなかって思ってさ」
全てということは、追い出された時から今までのこと全てか。
確かに、ここまで協力的になってくれるのなら、話していいだろう。
「ああ、俺もそうした方がいいと思っていた」
セレスはローファのステータスカードを指差して。
「ソウマはまあ置いておくとして、一番驚いたのは職補正がないのにこのステータスのローファじゃ」
「はっ、はい!」
今までステータス鑑定をされていなかったので、ローファは自分の数値を驚きながら見つめ、名前を呼ばれたのでかなり緊張した返事をしていた。
ギルドで職魔法を受けることで職につけるが、何もしていないのならば、職の所は種族名である。
俺が戦士でなくなれば名前の下に人間と出るように、ローファは名前の下はハーフエルフだった。
「加護と変換スキルも強みじゃ、変換スキルは他の数値を魔力に変える。鍛えれば覚醒スキルとなって意志により一時的な魔力増加も可能じゃ。わらわがソウマのステータスを把握できたのもそれになる」
なるほど。ロマネのスキルの魔力限定版のようなもので、魔力を上昇したから、俺の把握値でもステータス鑑定ができたということか。
「ありがとうございます!!」
セレスの称賛の言葉に、あまり褒められ慣れていないからか、ローファは感激し、ニコニコとしていた。
「ミーアも中々にいい。あと少し鍛えれば大聖者になれる。そして調合スキルもいいな!」
「えっ……Cスキルだけど?」
「調合してすぐなら補正が入る。調合魔法なんてないから、これはかなりレアなスキルじゃよ。ただ補正がすぐにしか入らないから、調合なしでも調合はできるのでCランクということじゃが、補正はかなり強い」
「……そうなんだ」
劣等感となりそうだったCランクのスキルを褒められて、ミーアは満更でもなさそうだ。
ロマネの師匠をやっていたということだけあって、セレスは色々と詳しいな。
…………。
「……あの、俺は?」
「これで戦士とか正気ではないわ!」
他の二人は褒めていたのに、俺だけ正気ではないだと!?
セレスの説明は続く。
「戦士なのに魔力がここまで上がったのは半天使の補正もあるのだろうが……普通、石喰らいの時点で、戦士から職業無しに変わってもいいぐらいじゃぞ? 神眼を活かそうとか考えなかったのか?」
戦士は魔力にマイナス補正がかかる。
俺は常日頃から戦士だったから、戦士を辞めるだなんて考えたことすらなかったな。
そりゃ神眼を適当に使ってるって言われてもおかしくないな。
でも戦士は魔力と把握以外に補正が入るし、前衛としてはおかしくないだろう。
これは大賢者なので恐らく後衛のセレスと、前衛の俺との価値観の違いだな。
「まあ個人の自由じゃとは思うのだが……ミーアには聞いたが、ローファよ、お主は強くなりたいか?」
唐突な質問に、ローファは決意したように強い眼差しをセレスに送り、頷く。
「はい! ソウマ様と一緒に戦えるぐらい、強くなりたいです!!」
「そうか。なら、今からわらわがミーアとローファを鍛える。ステータスが基準値を超えたら上級職に転職じゃ、職は本人が決めるべきだが、ミーアは賢者か大聖者。ローファは魔法剣士か聖戦士がいいじゃろう!」
上級職に転職じゃって、軽々しくすげぇことを言ってくるな。
Aランク以上のステータスで、ようやく上級職になれるっていうのに。
上級職の転職はBランク以上の特典の一つであり、俺達にはもう関係ないものだと思っていた。
そう考えて、俺は気になることがあり、聞いてみる。
「……転職魔法って、ギルドに行かないと無理じゃないのか?」
「ああ、それなら問題ない、わらわが使えるからの」
色々とすげーな、大賢者セレスってのは。
それなら、正気ではない戦士の俺も、転職できるってことか。
「それなら、俺は何の職がいいんだ?」
「戦士以外なんでもいいな! 戦士が最悪というだけじゃ!」
当然の様に精神攻撃をしてくるぞ。
そして、少し悩んだかのような素振りで、セレスが告げる。
「まあ……今まで戦士なのじゃから、ステータス的に何でもなれるとして、剣を扱う大賢者、無難に魔法剣士、お勧めとしてはトウというお手本がいる上剣士。辺りか……」
かなり言い淀んでいる辺り、俺のステータスで職を決めると悩むものなのだろう。
「大賢者は他の補正は低いが魔力に大幅な補正が入る。魔法剣士は魔力と攻撃にまーまーな補正が入るが、防御と速度は戦士の時より少し下がる。上剣士は魔力以外が補正が入り、魔力は補正がない。マイナスが消えるだけで十分じゃ」
「悩ましいな……」
少し悩んでいると、セレスが補足した。
「上剣士以外はバトルスタイルが変わってくるが」
「じゃあ上剣士で」
即答だ。
俺は今の戦い方がベストだと思っている以上、他の職で変えたくはない。
「解った。それなら、今から職魔法を行う」
そう言って、セレスは魔法陣が記された一枚のやたら広大な布を出してきた。
「……それ、どっから持ってきたんだ?」
「地下室の倉庫じゃよ、後で案内しよう……そこの中心に座り、目を閉じよ」
降りる階段なんてなかったけど、地下室なんてこの館にはあるのか。
そして、転生の魔方陣か……。
昔ギルドで戦士を得たことを思い出すな。
そう考えていて、眩い光が俺を包み、暖かな光に包まれたような感覚を受けていた。
「よし、上級職に転職成功じゃ」
そう言って、すぐさまスラスラと書き記した俺のステータスカードを、俺達は眺める。
ソウマ
上剣士
HP158900
MP127000
攻撃19900+250
防御13380+220
速度15830+80
魔力15090+80
把握25500
スキル・直感・石喰らい・全強化《A》・全耐性・神眼・透明化・半天使
魔力の上りが半端ないな。これが戦士のマイナス補正を捨てた半天使の力ってやつか。
他のステータスの上がりも凄まじい、元々の数値が高いからか。
「上級職スキルの特典として、スキルの魂ストックが一つ増える」
「マジかよ」
俺が今覚えている剣技スキルは切撃ち・絶刀・線加速・刀盾の四種類で、一つはフリーとして開けている。
刀盾は天使ロニキュスの攻撃を防御した時に使っている。刀を盾にすることでHPMPを消耗して防御力を高めるスキルだ。
リヴァイアサン戦では使用する前に直撃を受けたし、防御の構えを取ってから意識しなければならないのは欠点だが、防御スキルは重要だと思っている。
スキルを魂に刻むのは文献やら実際の使用者から見せてもらうかしなければならず、動きの特訓も必要となる。
スキルが増えると習得日数もかかるが、一度覚えれば刻みから解除しても数分で覚えることができる。
刻んでいるスキルを解除するには数時間かかるので、実践でスキルの入れ替えはできないが、一度覚えて忘れるのは実用的だ。
「まあ、今はローファやミーアの訓練もあるし、じっくり覚えていけばいいじゃろ」
「ちょっと、気になったことがあるんだけどさ」
「なんじゃ?」
話を終わらせようとしたセレスに、ミーアが手を挙げる。
「半天使って、多分昨日の天使との戦いでなったのよね? なんなのこれ?」
「ああ、そうだ。俺もそれを聞くつもりだったんだ」
恐らく、あの天使の結晶を喰らったからなのだろう。
他のスキルは何となく解っているが、半天使は全く意味が解っていない。
少し困った表情を浮かべながらも、セレスは応えてくれた。
「わらわも詳しくは知らぬが、別に半分天使になったというわけではない。半分程度、天使の力が扱える。ぐらいの感覚じゃの……そうじゃの、それも含めて、今から共にロマネに会いに行くとしようか」
「それじゃ、わらわとソウマは行って来るが、二人には特訓を行なう」
そう言って、セレスは二人を誰も居なく何もない空の部屋に案内し、先ほどとは別の魔法陣が記された人一人は余裕で座れるほど広い布を、距離を開けて二つ敷いた。
「この上に乗って黙想を行えば、精神的な苦痛を受けるも魔力の強化が行える……そして、これも渡しておこう。ステータス強化薬じゃ、これもかなり苦痛じゃが、できるか?」
「まあ、ある程度は強くなっておかないとね、後悔するかもしれなくなったら嫌だし」
「ソウマ様の隣に立ちたいので、頑張ります!!」
そう言われて満足そうにセレスが頷き、一本の細長く小さい杖をミーアに渡した。
「うむ。緊急時はその杖を使え。それでは、わらわとソウマはロマネの元に行くとしようかの!」
やる気に満ちた二人を後に、俺とセレスは館を出る。
なんだか楽し気なセレスを見て、俺は嫌な予感を感じるしかなかった。




