館の美幼女幽霊
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館を手に入れたかと思えば、その中に置かれていた宝箱から美幼女が出てきた。
見るからに体が半透明で透けている。赤いドレスを着たオッドアイな白髪長髪の美幼女に対する反応は様々だ。
「す、すいませんでした……」
俺はとりあえず、宝箱の中に人が入っていたというのに、確認前に宝箱の強度を試すため、何度も剣で叩いていたことを謝罪する。
というか、色々とおかしいだろ。どういうことだよ。
そういやロマネはなんかこうなることを知ってそうな反応だったな。
「中に人が居たんですね」
「うわああああああっっ!? ゆ、幽霊だー!?」
「お主は見るからに聖者ではないのか!?」
冷淡に思っていたことを呟くローファに対し、ミーアはビビりまくり、そんなミーアに美幼女は驚愕している。
……まさか、こんなことになるとはな。
「神眼! 神眼でこれがなんなのか確認してよ!?」
「神眼ッ!? そんなスキル持ちなのかお主はァッ!?」
テンパりまくりでミーアが俺のスキルをバラしていたが、まあ最悪宝箱に戻して見なかったことにすればいいか。
セレスと名乗った美幼女のステータスを確認してみようとするが、確認できない。
……霊体だからか?
「ミーア! ステータス見ようとしたけど、見れねーわッと!?」
「本物の幽霊だー!!」
ソファーから立ち上がっていた俺に対し、ミーアはソファーに正座して、俺の腰に手を回してきた。
がくがくと全身を震わせている。昨日も大概だが、今日のこの反応も今までになくて驚くしかない。
背中から物凄いやわらかさを持った質感を受けて、思わず笑みを浮かべてしまい、それを見てローファが悲しげな表情を浮かべる。
それを見たセレスが、ジト目で俺を眺めてきた。
「この状況下で胸を堪能しているのか、その緩み切った顔……お主、中々に大物じゃな?」
緊張感より性欲が勝ったのを察してか、オッドアイジト目で見ていた美幼女が、俺に感嘆の声を漏らしてくる。
「ゆ、緩み切ってないから……てか、お前誰だよ?」
「そのような扱いは久しいな……大賢者セレス・キャレス。の、魂だけというべきか……」
「魂だけ?」
俺の疑問に対し、セレスは応えてくれる。
「上級魔法と魔道具のコンボとでもいうべきかの……わらわの結界魔法、わらわの仲間だった魔女の空間干渉魔法、そして魔道具のコンボじゃ」
空間干渉魔法は、世界規模で干渉する魔法だとミーアから聞いたことがある。
魔法を一つ覚えれば魂の容量が限界に到達すると言われる、最上級魔法の単語に、俺とミーアは驚いた。
疑問はまだまだあるぞ。
俺はセレスに質問する。
「俺の神眼でステータス見れないのは?」
「わらわにも解らぬが、推測することはできる……お主の魔力は?」
今は装備補正もあるから……。
「装備補正込みで3100」
「職は?」
「戦士」
「なんで戦士が神眼を持ってるのかは解らぬが、随分と高いの……。わらわはこうなる前、わらわは魔力だけは12000に到達寸前だったからの、だが、仮にお主の魔力が6000以上でも、わらわは霊体じゃから見えないのじゃろう」
随分と高いのはそっちだろ。
霊体じゃないから見えないと断言しているのがよく解らないな。
「というか、ミーアはなんで幽霊怖いんだ? ダンジョンのゴーストなら何度も狩っただろ?」
ダンジョンのモンスターとして、魔法攻撃しか効かないゴーストの存在を思い出す。
なんか白い霊体の化物であり、こんな美幼女幽霊よりもよっぽど怖いはずだ。
それを何度も平然と狩っていたミーアを見ているので、意味が解らない。
もしかしたら、俺と密着したいから、嘘をついているということなのだろうか?
そう考えていると、ミーアの俺を抱きしめる力が、ちょっと強まった。
「ち、違うからね! モンスターの霊体は魔力の塊みたいなもんだけど、人の、ダンジョン外の幽霊は呪いとか何とかで色々と恐ろしい伝承があるのよ!」
よく解っていない俺とローファは、首を傾げるしかない。
「ほう、ミーアとやらは若いのに結構詳しいの。関心関心」
こいつ、今ミーアを見て若いって言ったか。
…………。
「あの、何歳ですか?」
「に、25じゃ」
「ありえねぇッッ!?」
なんなんだこの女は。
俺が驚愕していると、ローファは25でこの見た目ということに少しだけ哀れみを込めた眼差しを送っていて、ミーアは解せないというような表情を向ける。
「今、言い淀んだわよ。もしかしたら25より年が」
「いってないから!! 後、この見た目はわらわのスキルによるものでな。年齢操作ができるのじゃよ。若返り限定じゃが、本物のわらわはそれはもうナイスバディじゃ」
ミーアの声を怒涛の勢いで遮り、セレスは平たい胸を張る。
ほんとかよ。
魔力から年齢からナイスバディまで、全部嘘くさいというのに、全く嘘をついているように感じない。
ナイスバディが物凄く羨ましいと言わんばかりの眼差しを送るローファに、セレスはご機嫌だ。
見た目はローファよりも小さい、130ぐらいで、真っ赤なドレスを着ている。
可愛いと凛々しさを兼ねそろえた美幼女が、宝箱をどかし、俺と向かい合って座っている。
「その喋り方はなんなんだ?」
「この見た目だと威厳がないと言われての、それっぽい喋り方をしていたら、こうなったのじゃ」
なんか全てが嘘っぽいんだけど、威厳は確かにあるんだよな。
そして、セレスは俺を盾にして、びくびくとしているミーアに視線を向ける。
「ミーア、わらわは別に悪霊とかではない。それは今しがたの会話で察することができるはずだ」
「あっ、はい、そうですね」
そう言って、ミーアが横にズレたので、ずっと立ち上がっていた俺はソファーに座る。
右側にローファ、左側にミーア。正に両手に花だ。
そして真正面には美幼女セレスがいるのだから、最高の光景だな。
「ようやく落ち着いたか。とりあえず、色々と説明をせねばなるまい……時間的に夕食じゃろ、食べながら話すとしようぞ」
「食べられるんですか?」
ローファの疑問に対し、セレスは少し悲しげに、
「……いや、無理じゃ、だが眺めているだけでも楽しい」
今までは嘘っぽいけど本当のように見えていたが、この発言が嘘だということは、俺達は何となく察することができている。
食事をしながら、ロマネに説明したぐらいの事情を、ミーアがセレスに話している。
神眼のことはロマネには内緒でとも言っていたし、俺にも「ごめん」と謝っていたが、別に気にするほどでもない。
「追放されたと同時に覚醒か……えらく都合がいいな……実際は別の理由があるのではないのか?」
まあ、その別の理由も石喰らいスキルで追い出されて、魔石がある場所を本能が覚えていたから、その魔石を喰ったからというものだが。
流石に「石喰らい」と、モニカの天界魔界の警告については話さなくてもいいだろう。
言えば面倒ごとになる可能性も高い。
セレスの魔力値が本当に12000以上なら、天界魔界と関係があってもおかしくないからな。
待てよ……。
それなら、色々と魔界天界のことを聞けるのではないか?
その考えを予測したのか、隣でミーアがふるふると首を左右に振ってくる。
確かに、一切理由が解らない相手に、この説明をするべきではないだろう。
「実際そうなったのだからそれ以外に説明できないでしょ。こっちの事情は話したわ」
敬語は不要と言われたので、ミーアは砕けた感じになっていて、セレスは深く頷く。
「それでは、わらわのことを話すとしよう……」
そう言いながら、セレスは遠くを眺めだす。
「十年程前……わらわはSランクパーティのリーダーをやっていた。あの時はロマネを弟子にしていて、訓練として二人でここから近いダンジョンに向かった」
Sランクパーティのリーダーで、ロマネの師匠ということに俺達は驚きながらも、話は続く。
「そこは攻略済みのダンジョンでな。当時ステータスがDランク程度のロマネはわらわのサポートを受けながら進んでいた」
攻略されたダンジョンには財宝は出ないが、モンスターはまだ多少湧いてくる。
ダンジョンの核が破壊されているので弱体化されているし、人里には出ないのでほぼほぼ無害だが、訓練にはいいだろう。
「そこの最下層、核が破壊されている大部屋に到着した。ゴールじゃの、ロマネは気付いていないかもしれないが、わらわだけは、隠し通路に気付いた。強大な魔力を察知したからじゃ……ロマネにはそれを隠し、家に戻して、わらわは一人で向かった。仲間にも教えなかった。確認だけだったからの……わらわと同等かそれ以上の存在だと、魔力だけで察知していた」
ごくりと、俺達は息をのむ。
セレスの発言が本当なら、その存在の魔力も約12000以上ということになる。
「そして、その隠し部屋には、一人の白銀の衣装を纏った、煌びやかな怪しい青年が居た。チェスの駒を自由自在に浮かせながら動かし、一人だというのにあたかも二人で試合をしているかの如く楽しんでいた」
想像してみると、かなり悲しそうな光景が見える。
「無害かと、しかし理由が解らぬから、とりあえずわらわは挨拶をした。それが間違いだった……奴は挨拶を返しこの世界に飽きて隠居していた大魔導士だと言い、青年にしか見えない見た目はわらわと同じスキルなのだろうと勝手に納得した。発見できた理由を聞かれ普通に答え、無害なら何も関与しないと、帰ろうとした瞬間」
「……なにが」
「いつの間にか接近を許し、反応するよりも早く、わらわはその男によって結晶体にされてしまったのじゃ。予め自らに張っていた結界魔法で万全の防御を張り巡らせていたにも関わらず……不意打ちで何もできなくなってしまった……そして男は言ったよ「これで、隠しきれていなかった魔力を隠すことができる」と……そこからすぐに意識を無くしたが、何らかの動力源に、結晶と、何かの核としてわらわを使ったのだろう」
「酷いですね……」
「ああ」
「そして、わらわは行方不明となった。誰にも知らせていないのじゃからな。わらわの仲間が空間干渉魔法を使い、わらわの魂と会話しようと試みた」
「世界規模で発動する空間魔法、生きている他者の魂だけをそこに交信させることで情報を聞くという伝説の探査魔法……」
俺もミーアに聞いただけなので詳しくは知らなかったが、ミーアが呟き、セレスが頷く。
「それじゃ。賢いの、それによって、結晶体で意識のなかったわらわの魂だけを取り出せた……本来場所も解るようになっているのじゃが、場所は不明となっておった。今から七年程前のことじゃ、後は、さっき言ったの」
結界魔法と、魔道具のコンボか……。
曖昧だが、詳しく聞いてもミーアしか理解できないだろう。
「奴は得体がしれなかったから、魂で会話ができるようになっても、仲間には説明は一切しなかった……魂はここにあるのだから、肉体だけを転送する方法がないか調べさせた。五年経っても見つからなければ、もう諦める。この館は弟子であるロマネの好きにしてくれと仲間に言ったのじゃ」
好きにしろと言われたから、ロマネは海龍討伐の報酬にしたということか。
「色々と分かったけど……気になることもあるわ」
「なんじゃ?」
「魔道具は魂を一時的に維持させるのであって、その維持を継続的なものにしてるのは結界魔法のお陰なの?」
「そうじゃ、もう魔道具は使用後に壊れて消えておる」
「それなら、宝箱の中に魂が入っていたのって、結界外に出ると魂が戻るから?」
確かに、今俺達は開けてから館の入口の鍵を閉めているので、この館内は結界魔法とやらで守られているのだろう。
ミーアの言う通りなら、結界外に出ると魂が戻るということなのか。
「それもある。魂は肉体と分離してはならぬ存在じゃが、元の結晶に戻れば意識がなくなる。館の結界内では広くて維持できる日数が限られおっての、宝箱の狭い結界内に封印してもらっていたということじゃ……館の結界なら、宝箱で消耗しているし、後二日もすると肉体に戻ってしまうからの。結界の外なら数分も持たないじゃろう」
つまり、今の状態で館の鍵を開けると、数分で消えてしまうということなのか。
「世界干渉による交信は一度しか使えぬ。つまり、わらわはもう、長くはない。宝箱の中に居たのは、ロマネならわらわが遺言みたいなことを言って、わらわが死んだと納得させ、他の者ならわらわの館だが、気にせず使ってくれと言うためじゃ」
確かに、俺はこの館の前の主について、次にロマネに会った時に聞くつもりでいた。
こんな豪華で大量の書物がある館だ。
誰がどうなってこの館が報酬になったのか、気になっていたからな。
ミーアが、不安げに質問を続ける。
「それで……貴方は、あたし達に助けてって、頼むの?」
その質問に対し、セレスは首を左右に振う。
「いや、危険過ぎる。十年の間、奴は言葉通り何もしておらぬからの……本当に隠居生活をしていたいだけなのかもしれぬ……それなら、それでいい。もうわらわは奴の道具となろう。ただ、ここを使う者には説明しておくべきじゃと、思っただけなのだから……」
道具という単語に、ローファは暗い表情を浮かべている。
それに気付いた時、俺はセレスに質問していた。
「……俺が助けるって、言えば」
「ちょっとソウマ! この人の言葉通りなら魔力12000以上を一発で無力化したのよ!? いくら強くても無理よ!!」
俺の言葉を、ミーアが叫ぶことで遮った。
確かに、セレスを一発で結晶にしたというのが正しいのなら、どうしようもない存在だろう。
「ミーアの言う通り、奴は平穏を望んでおった。基本的に関与しなければ無害じゃ。関わるべきではない」
「……ああ、そうだな。解ったよ」
ミーアとセレスはホッとしていたが、ローファだけは暗い表情を浮かべている。
その日の夜、ローファは俺と同じ部屋で、その隣の部屋でミーアが寝静まった後、俺は屋上に上っていた。
館内を探したのだが見当たらず、もしかしたらと思っていたら、当たりだった。
「いい景色だな、結界はいいのか?」
そう言って、先客であるセレスに告げる。
「館の出入り口を閉めているのなら、その周囲は結界で守れておる、最期に見ておこうと思ったのじゃが……行く気、なのか?」
「まあな」
余裕ありげな俺に対して、セレスは呆れたように、それから微笑みを浮かべた。
「気持ちは嬉しいが……止めておけ、ミーアの反応的に、お主のステータスはわらわより劣るのじゃろ?」
不安げに聞いて来るセレスに対して、俺はポケットから手を入れる。
「よく解ったな……だけど、ただ行くわけじゃない。俺には色々なスキルがあってな……直感、全耐性、全強化、神眼、透明化、瞬間移動……そして」
ポケットに入っていたステータスカードを、セレスに見せつけた。
「石喰らい。だ」
「なッッ!?」
セレスは俺のスキルに、信じられないといった風に驚愕の表情を浮かべている。
「Sランク冒険者だから知ってるかもと思っていたけど、当たりだったみたいだな」
俺のやせ我慢しながらの笑みに、セレスは色々と納得をしたようだ。
「ああ……なるほどの、もし、わらわがこのスキルを持つ者を知っていたら……真っ先にあの場所に連れていく……」
あの場所というのは、あの荒野のことだろう。
セレスは色々と納得した様子で、俺に告げる。
「成程、色々と腑に落ちた……だがの、これだけのスキルがあっても、奴に勝てるとは……」
「違う。戦う気はない。俺のこのスキルがあれば、結晶を喰らえるんじゃないかって思ったんだよ」
なんとなく考えていた俺の提案だったが、セレスは更に驚愕する。
「なッ!? ……た、確かに……透明化、瞬間移動があれば……よくぞ思いついたの……」
これは持っているか持っていないかによる思考の違いだろう。
ポカンとしているセレスに、俺は続ける。
「問題はセレスの肉体も石と認定されていたら、俺が取り込んでしまうかもしれないってことだが、俺はロックリザードの踊り食いをしようとした時、ロックリザードがただのトカゲみたいになったから、生物には干渉しないと思っている」
「それはなんか面白そうな光景じゃの……」
そんな場面を想像したのか、セレスがクスクスと笑い、そして真剣な表情になる。
「もし取り込まれたとしても構わない! 正直に言おう……わらわは悔しい! 人の道具として使われていることが……殺してほしいぐらいに……だから……頼む、助けてくれ……」
セレスによる懇願を聞いて、俺は頷いた。




