館を探索する
キリテアの街から二十分ほど離れたそこに、大きな一軒の館があった。
「……すげぇな」
漠然としながら、俺はそう呟くしかない。
ロマネは館だけでいいと言ったら「物欲がないな」とか言っていたが、海神龍の討伐報酬はこれでも少ないというのか。
見るかぎり三階建てで、見るからに広大なのだが、気になるのはここまで目立つ屋敷だというのに、近づかないと一切建物の存在が視認できなかったということだ。
Dランク程度のモンスターがいる草原を通るので、地図がなければ辿り着けないだろう。
結構なモンスターを見たが、この館の周辺になると、何一つとしてモンスターが存在していない。
夕暮れ時、館内で料理ができればそれでよしと食材を買い、できない時ようにすぐに食べれるものも買っている。
「大きいですね!」
「ちゃんと鍵合うんでしょうね……でも、合わなかったらソウマのスキルで入れるのね……」
「多分な。結界魔法って、そんなに硬いのか?」
「最上位職業の大魔道士になって覚えられる魔法スキルよ。空間に制限をかけることで硬度を増してるし、死んでも消えないのが特徴ね。この館は広いけど、館限定って制限なら、多分ソウマの攻撃値でも傷つかないと思うわよ?」
まあ俺の物になったわけだし、試す気はないが。
俺が鍵を持ち、入口と頭に記された鍵を使ってデカい扉を開ける。
結界魔法に干渉したので何か起こるのかと思っていたが、特になにもなく、アッサリと館の中に入ることができた。
館に入った瞬間、灯りが全て灯る。
どうやら入口のパネルに触れることで、オンオフが設定できるようだが、これは魔力で灯るタイプであり、その魔力がどこから使われているのかが気になる。
俺達は辺りを徘徊していく、三階まで昇ると、屋上に上がる階段まであった。
「奇麗ですね!」
「奇麗すぎる気もするけどね、ここ、ロマネが知らないだけで、誰か掃除に来てるんじゃないの?」
確かに、どこも未使用と言わんばかりにピカピカとしていた。
1階に降り、探索を続ける。
キッチン、大部屋、書庫、部屋が数個、灯りを点すのに使う魔力核の置かれた部屋もある。
書庫もとてつもなく広く、本棚が数十個は置かれ、そこには四個ほど空の本棚があるが、全て本で埋まっている。小型の図書館のようだ。
ロマネは装備があると言っていたが、それらしき物はないなと辺りを見渡していれば。
「……はぁ!? ここら辺の本棚、どれもこれも見るのに許可が居る文献よ!? なんなの、大丈夫なの?」
ミーアが驚愕し、声を震わせて冷や汗を浮かべている。
よく解っていないローファだったが、俺は背表紙だけで判断できるミーアに驚いていた。
ミーアが不安になっていると、俺も不安になってくるぜ。
書庫の本に感極まっているミーアは置いておいて、俺とローファはキッチンの隣にある大部屋のソファーに座った。
「寝転がれるなー」
「ソウマ様、私の膝をどうぞ」
リュックを床に置くと、同じようにリュックを俺が置いていた隣に置き、ローファが俺の隣に座って膝をポンと叩く。
「ああ、そうしよう」
近くにいたいからか、ローファが満面の笑みを浮かべ、俺は膝に頭をやった。
全身がソファーの柔らかさを感じ、頭は美少女の柔らかい膝の体温でポカポカとしている。
目を閉じようかと思っていたが、和らげなローファの可愛い顔が眩しく、目を閉じようとは思えなくなっている。
激動の三日間が、こうして癒されていくのを感じる……。
そして、俺はそれに気付いた。
「……ん、なんだこれ?」
視線を横にやってみると、ふいに見えたそれが気になり、俺は起き上がる。
少し残念そうな顔をしたローファだったが、俺に夢中で気付かなかったのだろう、それを見て疑問の声をあげる。
「あっ……なんなんでしょうね、これ」
ソファーの前に置いてあった大きなテーブルの真ん中に、巨大な宝箱があった。
というか、真っ先に気付くべきサイズだ。
テーブルの半分ぐらいをこれが占めている。
「邪魔だなー」
そう言って、俺は腰のロマネから貰った鋼の剣の峰でガンゴンと叩いてみた。
宝箱は探索していたがこれしか見ていない。つまりこれが、鍵が必要な、結界魔法とやらで守られている宝箱なのだろう。
ミーアが結界魔法なら俺の攻撃値でも傷をつけられないと言っていたことに興味を持ち、強度を試すことにした。
少しはへこむかと思えば、結界魔法の効果なのだろう、全く壊れる気がしない。
「やるねー」
結界魔法は最上級魔法なので全く知らないのだが、鍵を使って中を空けた瞬間に効果が切れるかもしれないし、試すなら空ける前だろう。
とりあえず峰で軽く叩く、蹴る。
本当に傷が一切つかないので、結構本気でぶっ叩いてみるが、ビクともしなかった。
絶刀を放ってもいいが、衝撃が計り知れないからな……。
俺が宝箱相手に騒音を鳴らしていたので、何冊か本を持ってミーアがやってくる。
「音響いてたわよ、なにやってるのよ……って、なにその宝箱?」
宝箱の横に本を置き、床にリュックを置いて、剣の峰を宝箱に叩き込んでいた俺を呆れ気味にミーアが見てくる。
「置いてあった。気味悪いだろ? 開ける前に強度を試してる」
「どっかからここまで運んできたとかじゃなくて、ここに置いてあったの? そりゃ怪しすぎるけど……まずその鍵で空くか一応試して、空かなかったら絶刀使ってみたら? 流石に中身が勿体ないわよ」
「結界魔法って、鍵使ったらそれで終わりとかじゃないのか?」
「設定するのは使用者だけど、こういう類のなら、開閉してもそのままのはずよ」
「そうなのか」
それなら、開けて見てからの方がいいかと、俺は宝箱・重要! と頭に記されている鍵を目にやった。
重要というのが気になったが、もう中身の方が気になっているので、それを使って鍵穴を回す。
ガチャリと音がなったと同時、眩い光が辺りを包み。
「誰じゃー!! ガンゴンガンゴンガンゴンガンゴン!! 声が聞こえたから起きて、ようやく誰かが開けてくれるのかと期待しておったら、騒音を鳴らすだけ鳴らしおって! それはいい! 一億歩譲っていいがの! 問題はお主のステータスが明らかに高すぎるということじゃ! ヒヤヒヤしたわ!! ロマネ経由で来たのならから破魔の武器を持ってる可能性もあるからの! 死ぬかと思ったぞ!!」
なんだか色素の薄い銀髪ロングヘアーの美幼女が、物凄い勢いで飛び出してきてくる。
背丈はローファよりも低い、130ぐらいだろうか。
全身が透けていて金目と赤眼のオッドアイ、青く静かな印象を与えるローファのドレスとは対照的な、赤い派手派手しいヒラヒラとしたドレスを纏っている美幼女だ。
「このセレスが! 宝箱の強度を試すとかいうくっだらない理由で死ぬかもしれなかったんだぞ!?」
そんな美幼女が、怒りの形相でテーブルに乗って宝箱の口に素足をバンバンと何度も叩きつけ、俺を指さして怒涛の叫びをあげたのだ。
どんだけ怒り狂っていたとしても、可愛いとしか思えないのはその矮躯のせいだろう。
俺達は呆気に取られるしかない。
このセレスと名乗られても一切知らないので、誰だとは俺が言いたいのだが、とりあえず一言。
「す、すいませんでした……」
宝箱の中に人は居るとは知らず、ノリノリで宝箱を叩きまくっていたことに、俺はとにかく謝罪するしかなかった。




