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報酬

 部屋にやってきたロマネが上機嫌だということは、特に問題はなかったということなのだろう。

 これでようやく館を入手して、俺達は三人でのんびり暮らすことができそうだ。


「遅れてすまない! リヴァイアサン討伐のクエストだが、私が知人と共に討伐したと説明した。知人は秘密ということにしておいた。恐らくトウかティオン辺りだと勝手に推測してくれるだろう!」

 軽々しくとんでもねー人物の名前が出てきたな。

 ティオンは誰か知らないが、トウって、あの伝説のSランクパーティ最強とされる、寡黙剣士トウか?

 Sランク以上のパーティは情報規制されていて、Aランク上位にでもならないと知らされていないらしいが、トウだけは偉業やら武勇伝から伝説が有名になっている存在だ。

 寡黙で淡々と神話の怪物を狩るそれは、最強という称号を持つに相応しいとされている。

 間違いなく人類最強とされるとんでもねー名前が出たので俺とミーアが驚き、ローファがよく解らないのか首を傾げていると、それを見てロマネはクスクスと笑いだす。

「まあこれは私の実力というより家系的な知り合いなんだがな……。そして、これが館の鍵と地図だ。中の物も全部君達の物となる」

 地図はこの街の全体図が小さく、そしてその周辺の大陸が描かれていて、赤い丸が記されているところが館なのだろう、結構距離があるな。

「あの……これって、前は誰が住んでいたんですか?」

 俺が聞こうかと思っていたのだが、先にミーアが訊ねた。

 当然の疑問だ。すると、ロマネは窓を眺めて、悲しげな表情を見せている。

「私の師匠、みたいな人だった……十年ほど前に行方不明になった。二年前、その人のパーティだった人が鍵と権利書を持ってきたんだ。彼女の遺言で、私の好きにしてくれとな……私は住む気はない。だから、海龍を私と共に倒した者に贈呈することにした」

 つまりは、死んでしまったということなのか……。

 鍵は三つ束ねてあったが、それぞれ別の鍵となっている。

「それは三つとも結界魔法を解除する力がかかっている、結界魔法の錠は、どんな力を使ってもこの鍵がないと開けられない。館の入り口、出口、そして宝箱だったかな……中の物は全部君達の物になるが、師匠が行方不明になってからは、私も一度も入っていないんだ」

「なら、掃除が必要ですね!」

 ローファがウキウキとしている。俺も内心ワクワクしていた。

 結界魔法というのは俺のスキル解除で解除できるか試したくなるが、鍵があるのだから別に試す必要性もないだろう。

 ロマネの師匠という人がどういう事情で亡くなったのかは気になってしまうが、亡くなってしまったし、その形見を貰ったロマネが報酬にして、俺が受け取った。

 それなら、もう俺の物で問題はないだろう。

 宝箱という物にも、俺は楽しみにするしかない。


「それにしても、本当に館だけでいいのか? 私の剣を拒んだのもそうだが、ちょっと君たちは物欲というのがなさすぎやしないだろうか?」

 剣は1時間の待機中に手入れをして返していたのだが、変わりに別の剣を貰っているし、それも十分過ぎる性能だ。

「俺達はのんびり平和に暮らしたいだけだからな。俺達の周辺で何かがあれば助ける気でいるけど、それ以上する気はないぞ」

 そう言うと、ロマネは少しだけ顔を赤らめている。

「助ける気でいるか……優しいんだな。なら、私を嫁にするというのはどうだろうか?」

「嫁か……」

 さっきは大海原による野外プレイを迫ってきたので、普通に耐性ができていて、俺は一切動じていない。

 ロマネは性格こそ男勝りだが、カッコいい系の美人だ。

 ミーアが不安げに俺を、ローファがロマネを見定めるかのようにじっと見つめている。

 色々巻き込まれるのは目に見えていたので断わる気でいたが、どういう風に返答すべきかを悩んでいると、ヒメナラがロマネに小さい足で蹴りを入れる。

「こいつ、君達をパーティに入れたいか、君達のパーティに入りたいだけ……告白も演技」

「まあ、そうだろうな」

「ちょっ! いや、君に好意があるのは本当だとも! だけど、パーティに入れるとか入るとかは、そ、そんなつもりも……ちょっとぐらいしか、ないんだ」

 顔を赤らめて首を左右に振るロマネに、俺は笑う。

「ははっ……悪いけど、俺はこの二人がいるんで」

 そう言ってローファとミーアの肩に腕をやると、二人とも横顔が赤くなっていた。


 そんな光景を見て、ロマネはニッと笑みを浮かべ。

「なるほど。それもそうだな。今回の件で君と知り合えたことを、光栄に思っている。何か困ったことがあればすぐに来るといい、援助するし、力になって欲しいのなら私が共に戦おう! むしろ強敵、特に強いドラゴンと戦うのなら呼んでくれ! すぐ行くから!!」

 そっちが目当てだろうとは言いたくなったが、言わず、俺達はギルドを後にした。



 ソウマ達が居なくなった応接室で、ロマネがヒメナラに聞いている。

「さて……これから彼等は、のんびりできると思うか?」

「とりあえずはね……でも、半許容外……ハーフオーバーのステータスだと、色々と知れる立場にある」

「ああ……そして彼はこう言った、知っている限りで何かがあれば助けると」

 その性格にロマネは好感触を抱いていたが、同時に心配でもあり、不安げな顔をヒメナラに向ける。

「その真っ直ぐな性格が変わってしまうのか、平穏な日々を捨てるのか……どちらになっても、私は嫌だと思ってしまうだろう……」

「……えっ、冗談じゃなくて、ホントに気があるの?」

 ポカンとしたヒメナラの頭に、ロマネは手を当てて撫でる。

「多少はね。でも、私は戦闘狂だ。妻になれば、彼を戦闘の日々に巻き込んでしまうだろう」

「でも、海龍狩ったし、これからは別のドラゴン狩りに拠点を変える予定だったよね?」

「いや……それは後にしよう、しばらくの間、様子を見ておきたいからね……それに」

「それに?」

 ヒメナラが小さな首を傾げ、ロマネは窓を見つめる。

「私の推測が正しければ、近い内に、下手をしたら明日、いや今夜、私達の下にソウマ達がやってくるかもしれない」

 全く意味が解らず、ヒメナラは引き気味に告げた。

 もしかして、ロマネはあの館に何か自分の手に負えない何かがあると知っていて、一切近づかず、海龍を倒した者に押しつけようとしていたのではないか?

「えっ……あの館、なにがあるの?」

「いや何も知らない。だけど、あの人を、師匠を知っていると、なにがあってもおかしくないんだよ。私の師匠、大賢者セレスの館にはね」

 

 できれば何もないようにと、ロマネは願っていた。


 しかし、そこから一日も経たずに、ロマネは驚愕することとなる。

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