パーティを追い出されたので、石を喰ったら強くなっていた
「ソウマ、テメェみてぇなEランクスキル持ちなんて俺たちのパーティにはいらねぇんだよ。わかるか?」
数時間前までは仲良くやってきたパーティリーダーからのクビ宣言を受けて、俺は動揺するしかなかった。
朝、三日かけてダンジョンを攻略し、仮眠を取って昼に冒険者ギルドで報酬を受け取った時のことだ。
俺達は功績が称えられて、Bランクパーティとなった。
そこまでは良かった。だが、そこから、Bランクになった特典として、ステータス鑑定が行われるというのだ。
ステータス鑑定はレアスキルであり、一日に使用できる回数にも限りがある。
だからこそ、冒険者たちは様々な職業を試し、自分のスキルを推測してから職業を決めるしかない。
スキルは基本的に二つ、多くて三つ、四つ以上は存在していないらしい。
そしてステータス鑑定は、自分にどんなスキルがあるのかを把握するいい機会だった。
リーダーであり、人気のない路地裏の細い通路で俺を脅しているジェノンは剣聖と身体強化。
魔法使いの女性であり、杖を突きつけるレイアは空間把握と魔力強化。
もう一度眠ると言って恐らくこのことを知らないであろうヒーラーのミーアは空間把握と調合。
そして、俺のスキルは、直感と……石喰らい、だった。
流石に俺はジェノンに反論する。
ジェノンは長身なので見上げる形になっていた。
「なぜ俺のスキルが解ったから追い出そうとする? 今まで問題なかっただろ?」
そう言うと、ジェノンは顎を上にくぃっとあげた。
「今まで、はだ。俺達はBランクに昇格した。そしてステータス鑑定を受けられるようになった。これがどういう意味か、お前に解るか?」
「こいつ学んでないから、バカだから解らないって……つまりね、ステータスで論外な奴は追い出しなさいって意味よ。変な評判ついたら困るし、この街からも出て行ってくれない?」
蔑むような眼を突きつけながら、レイアは薄ら笑いを浮かべていた。
剣聖のスキルを知ってから上機嫌なジェノンは、俺の胸倉を掴む。
「Eランクってことは、何の意味もねぇスキルってことだ。ミーアはCランクでもまだ使えそうだが、テメェは一番下のEランクだ。ダンジョン内じゃ腹も減らねぇってのに、石なんか喰ってどうするんだよ?」
「そもそも石を食べるって何? モンスターでもそんな奴極一部よ。実はモンスターだったんじゃないのぉ?」
ステータスが判明した時、ミーアは落ち込んでいた俺を励ましてくれたが、レイアはコソコソとジェノンに何かを言っていた。
一体何を言っていたのかと思えば、俺を追い出す為の会話をしていたということか。
「それに、代わりもいるしな……なぁ、レイン」
「うぃーっす、俺、レインっす」
その発言と共に、レイアの背中から小柄な少年がヒョコっと現れ、ジェノンの隣に立つ。
「なんだお前は!?」
「アンタの代わりよ。私の弟で名前はレイン、ステータス鑑定は五人までだったから、ついでに調べてもらったけど、アンタの装備をつければアンタより強いわ」
その場合、俺は装備なしってことか?
そりゃある程度強かったらそうだろうよ。
……なるほど、そういう訳か。
パーティは基本的に四人だ。補欠として五人まで一緒に登録ができるが、そこに入れていたのだろう。
それも初めて知ったが、先に俺の扱いについてだ。
「なら、俺は一旦補欠に入れてもいいんじゃないか?」
「あぁん? 補欠でも報酬を分けなきゃなんねぇじゃねぇか。レインはレイアの弟だから入れて鍛えてたんだが、お前は俺らとはなんの繋がりもねぇだろ」
そもそも、そのレインとかいうのが俺には初耳なんだが。
知らない間に報酬を五等分されていたというだけで、俺は不愉快になっていた。
「なぁ、そいつのことはミーアは知ってるのか?」
「ああ、知らねぇのか? ミーアとレインはできてんだよ」
マジかよ。
絶対嘘だろ。
俺が十五歳ぐらいの時、三人と一年ぐらいパーティとして活動してきたが、ミーアは嘘がつけない性格だということは解っている。
そんなことを知っていたらまずレインの存在を俺に話していると思うのだが、隠されていたというのだろうか。
「ちなみに、俺とレイアもできてる」
それはギルドの全員が知ってる。
こいつ、絶対レイアに騙されているが、完全に彼女の言うことを信じるのだから、何を言っても聞かない、今までパーティをやってきたから、それは解る。
こうなったら、もう無理だろう。
俺がEランクスキルだったのは事実だ。
「解ったよ……俺はこのパーティから出ていく」
「待てよ。俺のパーティから外れるんだ。なら、装備を全部置いていけ」
「なんでだよ。断るに決まってるだろ?」
その瞬間。
俺の目の前で閃光が輝き、俺は一瞬怯む。
路地裏に連れてこられた時から向けられていたレイアの杖の先端から、光が出たからだ。
主に洞窟で使う魔法。
「発光魔法!?」
その発言が終わるよりも早く、俺は二発の攻撃を喰らう。
「剣聖スキルによる剣技「峰連撃」だ……Eランクが受けられるってこと、光栄に思えよ」
ただの峰打ちじゃねぇかとは、言えなかった。
俺は意識を失い、路地裏で転がされたようにして目が覚めた時には、俺の装備がなくなっていた。
ギルドカードを確認すれば、無所属になっている。
リーダーであるジェノンが、あの後ギルドで俺を除名したのだろう。
名前とランクだけが書かれているギルドカードだが、無所属、Eランクというのが、俺自身を表しているかのようだった。
「どうすりゃいいんだ……」
俺はメニーの街を出て、彷徨っていた。
ミーアには挨拶をしておくべきだったが、今戻って鉢合わせればボコられるのは間違いないだろう。
金は全部ギルドのカードで管理していた。
俺の手元にあるのは無所属のギルドカードとステータス鑑定の際に貰ったカードだけだ。
ソウマ
HP12040
MP3456
攻撃1230+300
防御824+423
速度1280-40
魔力450
把握2890
スキル・直感・石喰らい
確かジェノンはこうだったはずだ。
ジェノン
HP22970
MP5670
攻撃1795+400
防御1220+423
速度1381-30
魔力780
把握1430
スキル・剣聖・身体強化
+-になっているのは装備効果であり、元々のステータスにスキル補正はかかるらしい。
なので、装備がない俺は今、この+-補正はない。
この数値を見たからこそ、ジェノンは俺を除名しようというレイアの提案に乗ったのだろう。
勝っていたのは直感によるスキル補正が入っている把握能力だけで、後は惨敗だからな。
攻撃は俺のほうがよくヒットしていたはずだし、ちゃんとパーティのナンバー2として動けていたはずだ。
だが、俺のEランクスキルが気に食わなかったのだろう。
恐らく、ミーアと俺を合わせないために、この街から出て行けと言ったのだ。
どうなるのかわからない以上、俺はこの街から出ていくしかなかった。
「……腹が減った」
気が付けば、俺はやけに石や岩が転がっている荒野地帯にやってきていた。
昔、ロックリザードとかいう魔物を退治する依頼に来た時、記憶に残っていた場所だ。
ここに来た際は気分が高揚し、いつも以上の力を発揮できたが、ジェノン達には一切なかったらしい。
恐らく、それは俺の石喰らいスキルが関わっているのだろう。
「食うしか、ねぇのか……」
もう夕焼けが沈もうとしている。
昼食は軽くすませただけであり、腹が鳴っている。
こんなことになるのなら、もっと食べておくべきだった。
とりあえずと、俺は石を手に持った。
ゴツゴツとしていて、硬い。投げたら痛そうだ。
「えぇ……これを口に入れるの?」
絶対ダメでしょ。
腹壊すとかそんなんじゃないでしょ。
だが、食わなければ死ぬ。
別に死んでもいいとすら考えていたが、気づけば口にしていた。
何も味がしないので噛んで変なら即座に辞めようと考えていたのだが、それは杞憂に終わる。
少し噛んだ瞬間、味がしたかと思えば、みるみる内に消失したからだ。
喰ったというよりも、取り込んだという方が正しいだろう。
そんなことよりも、俺は気にすべきことがある。
「うめぇ……」
果物のような、それでいて肉厚があり、口に消えたと同時に深みを増す。
今まで喰ったことがないような、美味だった。
そして腹に入れたという感じがしないが、食べたという気がしたのが不思議でもあった。
後の事は一切考えずに、俺は転がっている石と岩を取り込んでいく。
酒でも入っているのか、気分が高揚し、気付けば歌いながら踊っていた。
精神的におかしくなっていたのかもしれない。
ロックリザードを素手で撃退し、その肉も喰らう。
確かロックリザードの体は食用不可で、武器とかに高値で取引されているらしいが、喰う。
どっちがモンスターなのかも解らない、解らないだろう、だがそれがいい。
俺は意識を失うまで、石を喰らい、周囲の岩に擬態しているモンスターを粉砕し、それを喰らっていた。
「……おい、起きよ」
「……んぁ?」
全部夢だったのかと思えば、夢ではなかったらしい。
辺りは荒野であり、目の前には、金髪美女の女騎士が居た。
「なんだ、夢」
「夢ではなーい!!」
「うぉっ!?」
寝転がっていた俺を、大声で女騎士が起こす。
胸元と腰を銀の防具で囲っているが、それだけであり、他は何も衣服を纏っていないという非常に露出が激しい見た目をしていた。
目が覚める程の美女だ。
「だったらさっさと覚ましてくれ!」
心を読まれた!?
背丈は俺よりも少し高いぐらい、女性からしたらかなり高い方だろう。
そして胸もでかい。
「何度目だ!? 私は一体何度、「なんだ夢か……」と言われなければならない!?」
どうやら、覚えていないけど何度も似たようなやり取りをやったらしい。
「はぁ、なんかすいません……で、貴方は?」
「私か! ようやく私のことを聞いてくれるのか! 私の名前はモニカだ。ようやく話が進められる……まず、お前はなんだ!?」
テンションの高い人だな。
なぜか喜びの表情を浮かべるモニカに対し、俺は応える。
「俺はソウマ……昨日まではBクラスパーティでしたけど、追い出されました」
美人だから敬語になってしまうぞ。
「ほう……なぜだ?」
「Bクラスになるとステータス鑑定があるのは知ってますよね?」
この荒野地帯はかなり危険なモンスターが出てくる。
Cランク以上のパーティでなければ立ち入らないとようにと警告が出ていたはずだ。
俺はEランクだが、別に命の保証がないってだけで、Eランクでも入って問題ないはずだ。
なので当然のことを聞いたのだが、モニカはかなり動揺していた。
「そうなのか? い、いや知っている! そうだったな!」
なんなんだこの人は。
他に仲間も居なさそうだが、ここをソロで来るというのはかなりの無謀だ。
ここのロックリザードは俺達でも苦戦したモンスターだからな。
そこにソロで来るのだから、彼女は相当な実力者なのだろう。
「それで、どうして追い出されたの?」
「スキルがEクラス、石喰らいだったからですよ。それで石とか色々あるこの場所に……」
「……Eクラス? Sクラスでは……いや、なるほど、人間からすれば、Eクラスなのか……ダークアイは魔人だから……」
モニカは顎に手を当てて、何かを考え始めていたが、俺には気になることがあった。
「……今、Sクラスって言いました?」
確か伝説上の代物だった気がする。
そんな単語がいきなり出てきたら、驚くしかないだろう。
「あっ……いや、もういいか、面倒だ、全部話しても、この程度なら問題ないだろ、うんうん。無問題」
嘆息しつつ、モニカは右腕を伸ばす。
その瞬間、モニカの二の腕までが、いきなり消えた。
「なッ!?」
「亜空間に色々置いてるんだよ……お前らの世界でいうマジックバッグみたいなもの」
「……俺達の世界? 一体なにを言ってるんですか?」
「これで自分を眺めながら、ステータスを意識してみるといい」
そう言って、なんか色々と宝石が装飾品として備わっている小型の手鏡を投げ渡され、俺はそれを眺めた。
色々と酷い顔だ。
恐らく昨日、歌いながら泣いて笑っていたのだろう。
そりゃもうぐっちゃぐちゃだった。
そこそこの黒髪短髪少年が、ぐちゃぐちゃの黒髪短髪少年だ。
「ステータスを意識したのか?」
首を傾げていたモニカが可愛いと感じながらも、俺は鏡に意識を集中させる。
ソウマ
戦士
HP62890
MP34900
攻撃6630
防御4078
速度5430
魔力3000
把握12903
スキル・直感・石喰らい・全耐性・全強化・神眼・瞬間移動・透明化・解除
「……えっ?」
自分の顔から文字として浮かび上がってきたかのような自らのステータスに、驚愕するしかなかった。