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第四章・第二話 奇術の艦隊





「非常事態だ。ディ、オレに構うな。やれっ」

『それは無理だと言ったはずだ』

「じゃあ、あいつらを見殺しにするのか?」

『発射まであと50秒』

「答えろ、ディ」

「泣かせるセリフ言ってくれるね」

「え?」

 カエデが驚くのも無理はない。

 つながらなかったはずの無線から聞こえて来たその声は紛れもなくミカヅキだった。

 それと同時に攪拌かくはんされた熔岩の中からムラマサを先頭に8機の巨人が次々に姿を現した。

「第2作戦、開始」

 ミカヅキがそう号令すると、8機の巨人の胸部装甲が次々に開き、それに合わせて頭部や肩、腰のそれも大きくスライドして、中から人が姿を現した。

 いや、それは人の姿をした金属の塊だった。

「パワードスーツ?」

『これが独立した装甲の正体か』

 そう。巨人は操縦者の動きをトレースするシステムで操られており、コックピットそのものがパワードスーツだったのだ。

 操縦者達が降りた巨人が次々に変形を始めた。

 それは最終的にミサイルへとその姿を変えていた。

 そして爆音と噴煙を巻き上げて打ち上げられた8機のミサイルは、イナズマが渦巻く青白い筒の中を一直線に上昇して行った。

『レールキャノン発射5秒前、4、3、2、1、0、発射』

「これって、まさか」

「そう。そのまさかだ」

 カエデの悪い予感をミカヅキはあっけなく認めた。

 次の瞬間。

 月まで伸びる砲身の遥か上空で閃光が見えた。

 それは、月面から発射された巨大な岩に、ミカヅキ達が打ち上げたミサイルが命中し爆発した光だった。

 物体は加速されただけで凄まじい破壊力を持つ。

 それが天文学的な質量を有していたらなおさらだ。

 レールキャノンの砲弾と化した巨大な岩と、プラズマ融合炉を動力源に持つ8機のミサイルの激突。

 それが、ちょうど成層圏の辺りで起きた。

 それは大爆発だった。

 レヴィアタンはその瞬間に爆発した部分の螺旋を解いたが間に合わず、その衝撃波は塔を螺旋状につなぐジョイントを内部から次々に崩壊させながら地上と月面に到達していた。

 その衝撃波の凄まじい力にレヴィアタンが突き刺さっていた岩盤が崩壊し、塔は爆発部分からくの字に折れながら落下を始めた。

 カエデ達は、その様子を宇宙空間で見ていた。

 岩盤が崩壊した直後、酸素を燃やし尽くし真空状態なった砲身内に周りの空気が一気に流れ込み、それが中にあった全てのものを遥か上空まで押し上げたのだ。

 結果、カエデ達は崩壊する砲身内を成層圏まで上昇し、爆発で開いた穴から宇宙に放り出されていた。

 そこでカエデ達の視界に飛び込んで来たのは、ゆっくりと傾いていく塔をぐるりと囲むように次々にワープアウトしてくる巨大な球形の物体だった。

 球体の後ろが開いて中から巨大な機械の塊が姿を現した。

 折りたたまれた自転車のように各パーツを展開させ、あっという間に形を変えて行く機械の塊。

 全ての変形が完了して姿を現したのは宇宙戦艦だった。

 戦艦の船体はフレームのみで構成されていて、いわば骨格しかない状態だ。

 ブリッジや砲塔、エンジンに至るまで全てのパーツが球形で、フレームにはめ込まれる格好で船体各所に収まっていた。

 戦艦が変形し終わると、前で盾になっていた球体が後部から粒子を放出しながら瞬時に加速し、次々に塔に体当たりを始めた。

 更に、船体各所に備え付けられた砲が塔目掛けて一斉に火を吹いた。

 プラズマカノン砲から撃ち出された口径500mmの超装甲貫通弾が爆発の合間を縫って次々に塔に命中し、炸裂する閃光の連鎖がその表面を覆っていく。

 その様子を鋭い眼光で見つめる1人の女性がいた。

 突如出現し、レヴィアタンを攻撃する艦隊の総司令にして艦隊旗艦ファルシオン艦長、ガブリエル・ハーディである。

「経過報告」

「“R”バリア消滅率29%」

 彼女の問いかけにブリッジのクルーが素早く応対する。

「よし、攻撃を続行」

 ガブリエルは、巨大なモニターに分割されて写る戦闘空域の映像に目を配りながら、その脇に表示された時計をちらりと見た。

「もうそろそろだな」

 “ウィィィン。ウィィィン。”

 まるでその言葉を待っていたかのように、ブリッジに警報が鳴り響いた。

「艦長。重力震の発生を確認。

 我が艦隊を囲むように広がって行きます。

 何かがワープアウトして来ます」

「さてと、狐と狸の化かし合いの始まりだ」

 そう呟くと、ガブリエルはニヤリと笑った。


                    ◆


 ワープ空間を埋め尽くす光の流れを男は見つめていた。

 年齢は50前後だろうか。

 髪には白いものが混じっていたが、その瞳は獲物を射抜かんとする野獣のごとき眼光を放ち、狭いコックピットに収まる宇宙服に包まれたその身体も極限まで鍛え上げられていた。

 だが今、その瞳には僅かに焦りの色が浮かんでいた。

 目の前のスクリーンの一部分が別の映像に切り替わり、少し長めのボブに赤いベレー帽をかぶった20代とおぼしき女性が写し出された。

「フィルゴ、本当なのか?」

 まだ信じられない。

 彼の言葉からは、そんな思いがにじみ出ていた。

「事実です艦長。白の艦隊との交信は途絶。レヴィアタンも未だ帰還していません」

 そう。この赤い宇宙服に身を包む男こそ、赤の艦隊旗艦シャムエル艦長、デリンジャー・バレルその人であった。

「白の艦隊が・・・信じられん。何より白焔は功を焦るような男ではない。

 一体何が起きたと言うのだ」

 “ビィー、ビィー、ビィー、ビィー。”

 彼のそんな思いを断ち切るかのように警報が鳴り、スクリーンの脇に写し出されているカウントダウンの数字が180を切った。

「艦長、ワープアウト180秒前です」

「副長、アカトリエルにつないでくれ。フレイルと話がしたい」

 その言葉に、赤の艦隊副艦長、フィルゴ・クレソンは動揺を隠せなかった。

「艦長、作戦開始まで150秒を切っています。現時点での超空間通信は」

「分かっている。だが事は急を要する」

「分かりました」

 スクリーンの別の部分に新たな映像が写し出された。

 そこに写っていたのは凛とした顔立ちの女性だった。

 黒紺色の髪に焦げ茶色の瞳。

 紺色の制服に身を包む彼女の名は、フレイル・メイス。紺の艦隊艦長だ。

「フレイル、これは罠だ。今すぐ作戦を中止すべきだ」

「分かっている」

 フレイルは瞬きもせず答えた。

「それでもやるのか?」

「これは私に、否、私達にとって神に与えられし最後のチャンス。

 行く先に罠が待つなら罠ごと粉砕するのみ」

「赤の艦隊が先に出る。紺は後ろに回ってほしい」

「ありがとうデリンジャー。でも私にはどうしても進なければならない理由がある。それは貴方も分かっているはず」

「お前が死んだら残された兄弟はどうなる?」

「私は死にません。では後ほど」

 そう言い残しフレイルは通信を切った。

「すまないフィルゴ。艦隊を頼む」

「ご武運を」

 フィルゴはそう言うと通信を切って正面を見据みすえた。

 彼女は今、赤の艦隊旗艦シャムエルのキャプテンシートに座っていた。

「これより赤の艦隊は紺、黄の両艦隊と共に白の艦隊およびレヴィアタンの救出作戦を行う。

 敵はおそらくガブリエル率いる奇術の艦隊と思われる。

 困難な任務だが、この局面を打開出来なければ我々に未来はない。

 諸君らの奮闘を期待する」

 彼女の鼓舞こぶに応えるように、クルーから次々に状況報告が伝えられる。

「黄、展開を完了しました。いつでも行けます」

「紺、作戦開始ポイントまであと10秒。9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼロ」

「作戦開始」

 フィルゴの号令と共に作戦が始まった。

 ワープ空間内で紺の艦隊の突撃艦100隻が奇術の艦隊を方位するように展開し、ワープ魚雷を一斉に発射した。

 数百発の魚雷が一斉に通常空間に飛び出し、全方位から奇術の艦隊めがけて襲い掛かった。


                     ◆


「副長。突撃艦隊、攻撃を開始しました」

「よし。我が艦隊は突撃艦隊の後方に、更に戦闘空域を包囲する形でワープアウトする。ワープアウト、スタンバイ」

 攻撃開始の報を受け、ブリッジのピンと張り詰めた空気を突き破るようにフィルゴの声が響き渡る。

「ワープアウト60秒前。カウントダウン開始します」

 “ビィー、ビィー、ビィー、ビィー。”

「何事だ?」

 だが、その問いかけに答える者はいなかった。

 ドッゴォォォォォォォオオオンっ

 フィルゴの叫びは、眼前で起きた大爆発と閃光に掻き消されていた。

 シャムエルはその爆発の中を突き抜ける形となり、船体がガタガタと揺れ、警報が鳴り続けていた。

「落ち着け。状況を報告しろ」

 だが、フィルゴがそう叫ぶ間にもブリッジから見える味方の艦船が次々に爆発し、ワープ空間の藻屑となっていくのが見える。

 次の瞬間。何かがブリッジのすぐ横をかすめて行った。

 それは、ブリッジから見える全ての景色を覆い隠せるほど巨大だった。

「なんだ今のは?」

「映像出ます」

 フィルゴの問いかけにクルーが即座に応えた。

 副長の前に立体映像で写し出されたのは、戦艦をも遥かにしのぐ大きさを持つ巨大な球型の物体だった。

「これは、WDCワープ・ドライブ・カプセルか」

 それは、ガブリエル率いる奇術の艦隊をここまで運んできた黒い球体だった。

「副長。これは通常空間からの攻撃です」

「ちぃ」

 フィルゴは思わず唇を噛んだ。

 敵はまさにワープ最大の弱点を突いてきたのだ。

 ワープ最大の弱点。

 それは、ワープアウトする際に通常空間を無理矢理こじ開けて出現するため、その直前に空間が歪むことで出現位置を察知されてしまう恐れがあるという点だ。

 ガブリエルは、その歪みで出来た穴に向けてWDCをワープさせてきたのだ。

「副長。相手がWDCでは、ワープ魚雷では歯が立ちません」

「ワープミサイルの使用を許可する。すれ違うものは無視して進路上を直進して来るものだけを狙え」

「了解」

 ワープ空間を埋め尽くす赤色の艦船から無数のミサイルが発射され、眼前に迫る巨大な黒球に次々に命中し撃破していく。

 ・・・だが、

「副長。ミサイル残弾数、あと1です」

「ワープアウトは?」

「ワープアウトまであと10秒。カウントダウン開始します」

「これが狙いか」

 ワープ空間から通常空間に転移する際の最大の問題点。

 それは、通常空間に出た瞬間に障害物に衝突する危険性だ。

 もしワープアウトした地点に小惑星があり激突したら、状況から考えて死は免れない。

 そこで考え出されたのがワープミサイルだった。

 ワープ空間内からワープアウト地点に向けてこれを撃ち込み、障害物をあらかじめ破壊することでこの問題は一気に解決されていった。

 ただ、小型化されたとはいえワープエンジンはまだまだ大きく、それを積むミサイルも巨大で、大型戦艦でも6発搭載するのがやっとというのが現実だった。

 それは、シャムエルも例外ではなかった。

(ミサイルを撃ち尽くさなければWDCに粉砕され、ミサイルを撃ち尽くして生き延びてもワープアウトした瞬間に敵に狙い撃ちされる。

 ・・・ガブリエルめ)

 ワープとはトンネルの中を走っているようなもので、ワープ空間から通常空間の様子を伺い知ることは出来ないし、当然空間を越えて交信することも出来ない。

 つまり、奇襲を仕掛けた突撃艦隊が無事かどうかも確認しようがないのが実情だ。

「副長。正面からWDC。衝突コースです」

「副長。ワープアウト5秒前、4、3、2、1」

「衝突します」

「ミサイル発射っ」



                           〈つつ゛く〉



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