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第十章・第五話 終焉





 そこは巨大なコントロールルームだった。

 かつて何十人もの人たちが理路整然と並べられたモニターの前に座り、パソコンを操作していたであろうその場所はいま、完膚なきまでに破壊され、照明も落ちて、非常灯の薄暗い明かりが照らし出すのみの廃墟と化していた。しかもその廃墟は、何かに埋め尽くされていた。

 コントロールルームの床を血の海にして天井近くまで積み上がる何か。

 それは、異形の者たちの死骸だった。

 そして、その中に立つ2つの影があった。

 2つの影は何かを探すように、死骸をどけながらコントロールルームを進んで行く。

 よく見ると、数え切れないほどの異形の者たちの死骸に混じって、所々に人間の亡骸が埋もれているのが分かる。

 2人はその顔を1人1人確認しながらコントロールルームの一番奥へと進み、姿勢制御を統括するコントロールパネルの前で止まった。

 そこは、無惨に切り刻まれた異形の者たちの死骸が山積みになっていて、もはやモニターやコントロールパネルが何処にあるのかさえ分からない状態だった。

 だが、次の瞬間。

 死骸の山は一瞬にして消失していた。

 その前に立つ2人のうちの1人が()ぎ払ったのだ。

 そして、その跡から姿を現したのは、押し潰されたコントロールパネルの上に突っ伏す1人の人間だった。

 途方もない質量に押し潰された血まみれの身体は、ありえない形にネジ曲がり、とても生きているとは思えない。

 だが2人は、その人をそっと起こし、優しく抱き寄せた。

 すると、絶命したかと思われていたその人物が、ゆっくりと(まぶた)を開いた。

「・・・お、お前が、・・ここにいるってことは、・・・うまく・・いったんだな」

 そう呟きながら激しく咳き込み、信じられないほどの量の血を吐くその女性を、その人物は優しく受け止めるかのように抱きしめた。

「・・・み、ミカヅキ」

「艦長」

 そう。ガブリエルを抱き寄せたのはミカヅキだった。



                    ◆



 それは、カエデがサタンを消滅させた直後のことだった。


 

 

『気を抜くなカエデ。まだ大仕事が残っているぞ』

「分かってる。それより、お前の方こそ大丈夫なんだろうな?」

 『任せてくれ。私は天才だ』

「自分で言うな。・・よし。始めるぞ」

 カエデが組紐お架けた両手を胸元で構えると、それは再び神々しい輝きを放ち始めた。

 すると、カエデが纏う漆黒のコートが、黄金色の輝きに包まれながら(ほど)け始めた。

 コートは、ミカツ゛キをくるむ生地を残してバラバラの糸状になり、髪の毛のように広がったかと思うと、その1本1本が意志を持っているかのように宙を舞い、絡み合い始めた。

 無数の黄金の糸が集まって何かを形作っていく。

 最初は平面だったそれは、幾つもの糸が重なり繋がることで徐々に立体的になっていった。

 そして、全ての糸が重なり合わさった時、それはある物の形になっていた。

「これでいいのか?」

 『ああ。完成だ』

 ディがコートを紐解いて作りあげたもの。

 それはロベルトが設計し、ギル率いるケンタウロスたちが完成された〈リバースマシン〉だった。

 そして、カエデたちはその内部にいた。

 『よし。ミカヅキを下ろせ。いいか、ゆっくりだぞ』

「わかってる」

 背中に背負う為に残した2本の触手が、そのままミカツ゛キをそっと持ち上げ、円筒の上半分が開いた状態のベッドにゆっくりと、優しく下ろした。

そして、2本の触手が布状になりながら蠢き、ミカヅキの全身を包み込んでいた。

 『本当にやるのか?これは神に(そむ)く行為だ。このことが神に知れたら我々は・・・』

「その時は神もぶっ潰す」

 『・・・わかった。だがチャンスは一度だけだ。

 仮にこれが失敗しての二度目はない。

 これは私が命を共有するカエデを救うのとはワケが違う。

 この行為は例え成功したとしても時空間に与える影響は計り知れない。

 一度目が失敗したからといって二度目を行えば、それだけで宇宙が歪むほどの影響を時間軸にも空間軸にも与えてしまう。

 そして何より、神がそれを許すはずがない』

「わかった」

 『それならいい。

 ここからが正念場だ。

 2つの力を同時に制御できなければ、最悪宇宙が消滅するぞ』

 そう。カエデとディは、自らがサタンに破壊されたリバースマシンの心臓部の代わりとなって機械を制御し、なおかつ、それを動かす為のエネルギーをも自ら作り出そうとしていたのだ。

 「任せてくれ。オレは天才だ」

 『自分で言うな』


                   ◆



「艦長。ありがとうございました。あの時、艦長が機転を()かしてくれなかったら・・・私たちは今ここにいませんでした」

  そう。それはガブリエルの機転だった。

 カエデの要請により最前線を離れ、WDCでダインスレフを届けた後、目の前の塔の機能を停めるために、そのままレムリア内に直接ワープしたのだ。

 そして、ガブリエルがワープアウトの場所に選んだのは、レムリアの中央指令室に一番近いドックだった。

 それは司令官や長老たち要人が緊急時に脱出するためのWDCのドックなのだが、そこに強襲をかける形でワープアウトしたガブリエルたちは、パワードスーツを装着し、収容していた負傷者や民間人をWDCで再ワープさせて退路を断ち、中央指令室を奪還すべく白兵戦を仕掛けた。

 そして、甚大(じんだい)な犠牲を払い、敵味方ともに全滅に至るほどの死闘の末に、ガブリエル(ただ)1人が姿勢制御モニターの前にたどり着き、自らの命と引き換えにレムリアを傾斜させていた。

 サタンの無数の腕がメフィストの首を捻切(ねじき)ったあの時、サタンを下方から袈裟斬りにした一条の光りの正体は、レムリアから太陽に向けて放たれていた超々高出力のレーザーだったのだ。

『地球を含む8基の塔も、私とカエデが全て破壊した。もう大丈夫だ』

「・・・ざ、ざまぁ・・み・やが・れ・サタ公。・・・に、にんげん・・さま・を、な・めん・な」

 それがガブリエルの最後の言葉だった。

 全ての塔が破壊されたことを聞いた彼女はそう言い残し、血まみれの顔に安堵(あんど)の笑みを浮かべながらミカヅキの腕の中で息を引き取っていた。



                 〈第十章終わり エピローグへ続く〉





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