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第十章・第二話 激闘





「ハンナ~~~~~っ」

 カエデの絶叫を掻き消すかのように、爆発の影響で空間に開いた穴に、周りの空間が、鉄をも切り裂くほどの凄まじい勢いの風となって吸い込まれていく。

 その、ほんの一瞬。

 一瞬気を逸らしたサタンが再びカエデを見た時、1隻のWDCがカエデの前を横切るかのようにワープして消えて行くのが見えた。

 そして、カエデがいたはずの場所には、1機のブリガンダインの姿があった。

 それは、ミカヅキが地獄へ降下するのに使用したハルムベルテと同じ、多段外骨格複合装甲式の試作品であったが、全長がさらに二回りほど大きい巨大な人型兵器だった。

 その姿を見た瞬間、サタンは全てを理解していた。

【そうか。ガブリエル。あの女の入れ知恵か】

 そう。この巨大なパワードスーツのコックピットに収まる装着者=コア・マスターはカエデだった。

 サタンに対抗しうる兵器はないか?

 ディに頼んでガブリエルの脳に直接問いかけてもらった、その答えがこれだった。

 元々は対シェオール戦の切り札の1つとして作られたものだったが、ミカヅキ以外乗りこなせる者がおらず、試作機として2機が作られたのみで計画が中止になった究極の巨大人型兵器。

 ガブリエルはその残りの1機、〈ダインスレフ〉をカエデに託したのだ。

「ディ。サポートは任せた」

『ああ。カエデでも操れるよう補助する。

 任せておけ。私は天才だからな』

「自分で言うな」

【無駄なあがきを】

 そう言うや否や、サタンの両肩と脇の下から次々に腕が生え、その数は計12本に増えていた。

 12に増えたそれぞれの人差し指には、超高速で回転する薄いリング状の物体が4枚ずつ掛かっており、サタンは48枚のそれをダインスレフ目掛けて一気に投擲(とうてき)した。

 『来るぞ。オリハルコン製のチャクラムが48枚。不規則な軌道を描きながら全方位より接近中』

 「サンシャインノヴァ」

 『了解』

 ダインスレフの全身の装甲が展開し、その奥から姿を現したドーム型のレンズから、一斉にレーザーが発射された。

 レーザーは動くレンズに沿って角度を変えながらあらゆる方向へと伸び、接近してくる超高速の刃を次々に撃破していく。

 『第2波が来るぞ・・・』

 それは、あまりにも唐突だった。

 チャクラムを撃破していたダインスレフが、突然大量の水に呑み込まれ押し流されたのだ。

 「新たな神器か?」

 “ビ〜っ、ビ〜っ、ビ〜っ、ビ〜っ”

 コックピット内に警報が鳴り響き、警告を知らせる赤いランプが激しく点滅する。

 『ポセイドンのトライデントだ』

 そう。

 チャクラムを放ったサタンの12の手が、それぞれに神器を持ちカエデ目掛けて攻撃を開始したのだ。

「状況は?」

『トライデントが空中に創り出した水球の渦の中に閉じ込められた。このままだと水圧で押し潰される。脱出する方向を策定中』

 くしくもそれは、キエル上空でカエデとディが白の艦隊に対して行ったのと全く同じ戦法だった。

「ディ、全ての装甲を展開。ダインスレフの外に出る」

『なに?』

「オレに考えがある・・・」

『残念だがそうも言ってられないぞ』

「なに?」

『あれを見ろ』

 ディの言葉と共にカエデの脳に直接映し出された映像。

 それは、自分たちに向けてゼウスの雷霆らいていを構えるサタンの姿だった。

「!」

 次の瞬間。

 神さえも焼き尽くす神々しい輝きが、稲妻となって水球を直撃していた。

 ババババババババババババババババっ。

 大気を震わせる轟音と共に、水球は一瞬にして蒸発し大爆発していた。

 その輝きと、そこから放出される天文学的な値の熱量を伴う爆風は、空中にもう1つ太陽が出現したのではないかと錯覚するほど凄まじいものだった。

 灼熱のそれが、南極上空に存在するふ全てを敵味方関係なく蹂躙(じゅうりん)していく。

 サタンは咄嗟に神器を使い、自らを飲み込もうとする爆発のエネルギーを相殺した。

 いや、相殺しようとした、その瞬間だった。

 雷霆とトライデント。2つの神器が手の中で次々に破裂したのだ。

【!】

 そして、それと同時に、サタンは8方向からの同時攻撃を受けていた。

 雨のように飛来するミサイルとレーザーの束。

 さらにはレールキャノンと弓矢の連射攻撃が同時に、そして正確無比にサタンを捉える。

 しかし、それらを避けることはサタンには造作もないことだった。

 だが、彼が避けるために移動しようとすると、その場所で先回りするかのように空間が爆発し、その行動を牽制(けんせい)していた。

 それが功を奏したのか、サタンは全ての攻撃を防ぐことが出来ず、徐々に被弾し始めていた。

【ちっ】

 サタンの手の中で光りの粒子が収束し、右手に剣、左手に(もり)。2つの神器が形作られていた。

 サタンがその剣を空中に向けて降り下ろすと、はるか彼方の空間が切り裂かれていた。

 それだけではない。

 空間が切り裂かれて出来た裂け目の奥にはワープ空間が広がっていて、剣は、そこにいた一隻のWDCをも切り裂いていた。

「緊急事態。緊急事態。WDCが正体不明の攻撃を受け、第3装甲まで貫通。損害不明、死傷者多数でている模様・・・」

「艦長。WDCが崩壊します」

 そう。サタンが空間ごと切り裂いたのは、ガブリエルが乗艦する、今やレムリア側の最後の旗艦となった戦艦アダーガを運ぶWDCだった。

 雷霆とトライデントを攻撃したのも、8方向からの攻撃においてサタンの退路を断ったのも、元々は塔を攻撃するつもりでワープ空間に待機させていたWDCを、ガブリエルの指示で特攻させたものだった。

 そのことに気付いたサタンが、ギリシャ12神の1人ヘパイストスの神器を使って作り出した剣〈カラドボルグ〉で攻撃したのだ。

 アダーガを収納していたWDCは、崩壊しながらワープ空間の狭間に消えていった。

 そしてサタンは左手に構えた、先端が鋭く研がれた5つの穂先を持つ銛を投げていた。

 銛は5つの光りとなって飛び、8方向から攻撃してくる敵のうち5つを同時に撃破していた。

 だが、致命傷と言っても過言でないほどの損傷を受けながらも、5つの影はなおも攻撃を続けていた。

 その影の正体はダインスレフだった。

 そう。カエデは生きていた。

 水球に閉じ込められ雷霆の一撃を喰らう直前、カエデは第1次装甲をパージすると同時にコンパクトノヴァで自爆させ、雷の直撃による爆発をコンマ数秒ではあるが相殺し、そこから脱出することに成功していた。

 ただ、成功したといっても第2装甲の損傷も激しく、パージは免れない状況だった。

 パージするなら囮に使えないか?

 その、とっさの思い付きが生んだのが、この作戦だった。

 カエデは爆発に紛れて第2装甲をパージする際に、その身に装着するパワードスーツのみを残し、一気に第9装甲までパージしたのだ。

 本来パージした装甲はバラバラになり使えない。

 だが、ディがミクロよりも細い触手を伸ばし、バラバラになった装甲を全て繋ぎ会わせることで、同時に8機の巨人を出現させ、8方向からの同時攻撃を可能にしていた。

 しかし、アダーガの援護を失った今、形成は逆転されつつあった。

 サタンが右手に持つ剣の切っ先が凄まじい勢いで伸び、操り人形と化した第2装甲を串刺しにして動きを止め、そこを5方向から光りの槍が襲いトドメを刺す。

『カラドボルグにブリューナク。ヘパイストスの力か』

「感心してる場合じゃないぞ」

 攻撃を続けるサタンの両肩から腕が生え、その右の手のひらの中に光りが集まったかと思うと、その手には円盤のようなものが握られていた。

 そしてサタンは、それを円盤投げの要領で飛ばしていた。

 超高速で回転しながら大きく弧を描き、ダインスレフの第4装甲に迫る円盤状の物体。

 カエデとディは第4装甲を操り、円盤を攻撃させた。

 だが、全ての武器を投じても撃墜することは出来なかった。

 レールキャノンもミサイルも矢も、全てが弾かれ、いや、正確には円盤に到達する前に推力を失うかのように失速し、墜ちていったように見えた。

 そして円盤は、そのまま勢いが衰えることなく第4装甲に襲いかかった。

 それに対しディは見事な操演を見せ、第4装甲はギリギリのところで円盤の直撃を避けた。

 しかし、第4装甲は推進力を失い、まるで固まったかのように動かないまま墜ちていった。

 ディも第4装甲から触手を離していた。

 その間にも円盤は飛び続け、第5、第7装甲に立て続けに襲いかかった。

 そしてその2機も、第4装甲と同様に、こちらからの攻撃は全く通じず、なんの損害も受けないまま全機能が停止し、墜落していった。

 円盤が、大きく弧を描きながらサタンの元に戻っていく。

「なんだあれは?」

『アイギスの盾だ』

「アイギスって!もしかしてメデュウサ?」

『そうだ。彼女の瞳に見つめられたものは全て石になる』

「どうすればいい?」

『近くまで接近しなければ問題ない。だが、これで彼の(ふところ)に飛び込めなくなった』

「くそっ」

『来るぞ』




                           〈つづく〉





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