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第十章・第一話 復活



 


 南極上空では、まだ死闘が繰り広げられていた。

 一刻も早く目の前の塔を破壊したいガブリエルは、味方に対して敵陣を突破したら躊躇することなく戦線を離脱し、塔の破壊に向かうように命じていた。

 だが、それを阻止したいシェオール側の特攻をも辞さない捨て身の攻撃によって、レムリア側が徐々に追い詰められ始めていた。

「くそっ、ヤツらは我々をここに足止め、いや、時間稼ぎすることしか考えていない。

 他の塔はどうなっている?」

 ガブリエルは各惑星の塔を破壊するため、それぞれに対して数隻のWDCとわずかな護衛を付けて送り出していた。

 本当はもっと大規模な艦隊を送りたいのだが、コアでの敵によるレムリア強襲と、ワープ空間内での戦闘によって大多数の艦船を失ってしまった彼女たちにとっては、これが今出来る精一杯の作戦だった。

 しかも敵に位置を悟られないよう通信をオフにしているので、作戦の成否を確認するには各惑星から太陽に向けて伸びる光りの柱が途切れたかどうかを目視で確認するしか方法がなかった。

「火星、変化ありません」

「金星、同じく変化ありません」

 オペレーターの少女たちが太陽に伸びる光りを捉えたモニターに目を配らせながら報告を続ける。

 その時、突如としてそれは起こった。

 天高くそびえるレヴィアタン。

 その先端から撃ち出され、はるか先、灼熱の火球の中心に静止していた白銀の筒。

 それが、内側から溢れ出た光りに飲み込まれ、その消滅と共に筒の大部分が失われたのと同時にそれは起きた。

 突如として筒の残骸から黒い光りが発生したのだ。

 その光りが黒い輝きになったかと思うと、その輝きは超高速で撃ち出された弾丸のようにレヴィアタンの先端に飛び込み、黄金の塔を内側から破壊しながら凄まじい速度で筒内を降下し、次の瞬間には地上に激突していた。

 ドゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオォォォォォンっ。

 そして、辺り一面が全てを侵食する黒い光りに覆われていた。

 だが、それだけの衝突が起これば当然発生するであろう、地殻がめくれあがるほどの激震も、皆を飲み込むであろう超高熱の衝撃波も起こらなかった。

 大地震のエネルギーも、超高熱の衝撃波のエネルギーも地上に衝突した黒球に吸収されていた。

 それだけではない。

 内部から破壊され崩壊したレヴィアタンも地上に激突してはいなかった。

 空中分解しながら落下したそれは、吸い寄せられるように黒球に近付くと、見えない力に押し潰されるようにバラバラになりながら、最後は光りの粒子となって黒球に吸い込まれていった。

 そして、全てを吸収し終えた黒球が収束を始めた時、その場に居合わせた全ての人々は、本当の恐怖を目の当たりにすることとなった。

 収束する黒い光りの中から姿を現したのは1人のは人間だった。

 そして、その姿を見た者は、それがモニター越しであったとしても、敵味方関係なくその瞬間に嘔吐し、胃の内容物がなくなっても血を吐き続け、もはや戦闘を継続できる状態ではなくなっていた。

「・・・ミカヅキ、なのか?」

 モニター越しにその姿を見たガブリエルは、血を吐きながらそう呟いていた。

 そう。太陽まで伸びる黄金の塔を引き裂いて地上に激突した漆黒の光球。

 そこから姿を現したのは紛れもなくミカヅキだった。

 だが、その姿は大きく変貌していた。

 ひたいからは2本の角が生え、背中からは羽竜を彷彿ほうふつさせる左右三対になった計6枚の羽が生えているのが見えていた。

 全身が鋼のような鱗で覆われ、手足の爪も、人間の臓器など一振りでえぐり出せるほど鋭利で、肘からも牙のようなものが突き出ていた。

 更には、お尻からも竜を彷彿させる尻尾が生えており、その姿を見た誰もが、その姿を見るのが生まれて初めてなのにもかかわらず、皆それが何者なのかを直感で理解していた。

 そう。

 大魔王サタンだと。

 ドガガガガガガっ。

 突然、サタンの数十メートル先の大地に天空から何かが撃ち込まれた。

 それは、黒球が地面に激突した際に、全てを吸収する力に逆らって、その内部から飛び出した唯一無二の存在だった。

 螺旋が解け中から1人の人間が姿を現し、螺旋がその人物が纏うコートへと姿を変えていく。

「ミカヅキ」

 それはカエデだった。

【貴様がアヴディエルと契約を交わせし者か】

 耳をふさいでいても直接脳に届く、精神力の弱い者なら聞いただけでも発狂してしまうほどの声。

 それが聞こえた者たちが、敵味方関係なく、目や鼻や耳から血を垂れ流しながら次々に死んで行く。

 それだけではない。

 その者たちの魂が、亡骸から引き抜かれるように吸い上げられ、サタンの身体に吸収されていくのがカエデには見えていた。

 そして、ディに護られているカエデでさえ、口の中に腕を突っ込まれ、心臓を鷲掴みにされたかのような悪寒と吐き気に襲われ血を吐き続けていた。

 だが、それでも四肢を踏ん張り、意識が飛びそうになるのを必死に堪え、視線の先に立つ、カワリハテたミカヅキを睨み付けていた。

「サタナエル、ミカヅキに何をした?」

【私はただ、この者の願いを叶えてやっただけだ】

「願い?」

【太陽の中で私を殺そうとする貴様を見たベリアルがサークルを通り抜けた時だ。その様子を見たこの者は、このままでは貴様が殺されるかもしれない。貴様を助けたいと思った。

 だが、何の加護も受けていないこの者ではサークルを通り抜けることなど出来るはずもない。

 だから、この者は咄嗟とっさに願ったのだ。

「サークルを通り抜けてカエデを助けたい。そのためなら何でもする」と】

「!」

【だから私は尋ねた。

 私と契約を結ぶなら貴様の願いを叶えよう。ただし、代償として魂をもらう。

 その覚悟はあるか?と。

 それに対して、この者はこう言った。

「カエデを助けられるのなら死んでもかまわない。命はいらない。だから今すぐサークルを抜けさせてくれ」と】

「うそだ」

【嘘ではない。今の私の姿が何よりの証拠】

『ミカツ゛キは瀕死の状態で異空間を彷徨さまよっていたはずだ。そんな状態でこちらの空間の、カエデの様子など見れるはずがない。サタナエルが見せたのだ。こうなるように。ミカヅキもそうだった。不覚』

「どういうことだ?ディ」

『生死が混在する極限の状況に何度追い込まれても決して諦めない、強靭な意志と不屈の精神を兼ね備えた者。そんな人物を1人挙げろと言われたら、誰を指名する?』

「ミカヅキ」

 カエデは、その名前以外誰も思い浮かばなかった。

【だが、こうなることは最初から計算されて仕組まれていたわけではない。

 2人が死ななかったことは、私にとっても嬉しい誤算だった】

「嬉しい、だと?」

 戸惑いに揺らいでいたカエデの瞳に、怒りの炎が灯った。

 「絶対に貴様を倒す。そしてミカツ゛キを取り戻す」

 【ほざけ】

 そう言うが早いか、眩い光がサタンを包み込んだ。

 その輝きは、全身を覆う金色こんじきの鎧兜へと姿を変えていた。

 『アテナの鎧兜!』

 ディが驚愕の声をあげるより早く、サタンはその手に持つ黄金の錫杖しゃくじょうをカエデ目掛けて振り下ろしていた。

 「!」

 それは本能が成せる技だろうか?

 カエデもまた、ディが声をあげるより早く後ろにジャンプしていた。

 そして、さっきまでカエデがいた場所が、いや、後方にジャンプし着地しようとした場所までもが、錫杖から放たれた光りによって次元ごと斬り裂かれていた。

 【私と〝この者"はもはや一心同体。この者を救う手立てなど無い】

 自身の胸に手を当て、サタンはそう言い放った。

 その声は、全宇宙に響き渡っていた。

 『カエデ。彼の声に耳を貸すな。お前を動揺させるのが目的だ』

 「分かってる。しかし参ったな。もしかして残りの神器も?」

 『ああ。ミカツ゛キを心配するあまり神器のことを忘れた私のミスだ。

 12の神器全てが彼の手に落ちたと考えて間違いないだろう』

 ミカツ゛キを宿主に選んだのも、カエデから神器のことを考える余裕を奪い、ディに神器の略奪を悟らせないためだったのだ。

 再びアテナの錫杖から、全てを斬り裂く光りがカエデ目掛けて放たれた。

 「隊長っ、やめてくださいっ」

 その瞬間だった。

 そう叫びながら、1機のブリガンダインが立ちはだかるように、空間はおろか時間さえも一閃のもとに消し去る光りの前に飛び出し、木っ端微塵にされ爆散していた。

 だが、その機体が周りに張り巡らせていた光りの壁が、次元をも斬り裂くエネルギーを、その命と引き換えにでもしたかのように相殺し、消滅させていた。

 本来なら、たった1機の人型兵器に神器が放つ力の直撃を防ぐことなど出来るはずもない。

 そう。

 唯一の例外。

 対戦艦用のレールキャノンの直撃さえはじくバリアを展開させることが可能なハンナのマインゴーシュ・トロワを除いては。



                           〈つつ゛く〉

 




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