第七章・第四話 天を貫くモノ
ドォゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンっ。
その瞬間それは起きた。
その大爆発は月からはでもハッキリと見えるほどの規模だった。
そしてその衝撃は、地球の公転軌道を微妙にずらすほどのものだった。
「何が起きた?」
先程まで星が瞬く漆黒の宇宙しか見えなかった水球越しの景色は一変していた。
まるでホワイトアウトでもしたかのように辺り一面が真っ白になっていた。
『手遅れだ。我々は巨大な槍の穂先にされて地球に打ち込まれた』
「なんだって?」
そう。カエデたちは天文学的な距離を一瞬で飛び、地表に激突していたのだ。
「地球のどこだ?」
『南極だ』
「映像を見せてくれ」
カエデの脳に映し出されたのは変わり果てた南極の姿だった。
槍の激突による、地殻さえも貫く衝撃と、大爆発による天文学的な高熱にさらされ、永久凍土の分厚い氷の層が水蒸気大爆発を起こして一瞬にして蒸発し、その奥深くに眠っていた未踏の大地が剥き出しとなっていた。
高熱で熔け、マグマの海の様相を呈する灼熱の大地。
だが、それで出来たクレーターは意外なほど底の浅いものだった。
よく見ると、灼熱の大地から顔を覗かせるクレーターの底部そのものが、円状の巨大な人工物で、さらにその中心には、魔方陣が描かれた丸い石板のようなものがはめ込まれていた。
カエデたちは、その石板を貫くように円状の人工物に刺さっていた。
激突の衝撃で吹き飛んだのか、柄の部分は見当たらず、突き立っているのは穂先のみだった。
だが、その穂先も天文学的な圧力に押し潰されて原型を留めておらず、先端が大地に開けた小さな穴に突き立ち、かろうじてバランスを保っている状態だった。
「今のは地殻を貫く、いや地球を貫通してもおかしくないぐらいの衝突エネルギーだったはず。
それでこんな小さな穴しか開けられない?なんだこれは?何がどうなっているのか、ちゃんと説明しろ、ディ」
「つ、ついに、ついにやったぞ・・ふ、・ふう・・いんを・・解い・た・・。
・・・我々の・・勝ち・・だ」
「封印?何のことだ?」
「・・・お、お友・・だち・にで・も・・聞く・・んだな」
バババババババババババババっ。
その時だった。
天文学的な大爆発による燃焼で辺り一面の酸素が全て失われ真空状態になったところに、周りから大気が一気に流れ込み、想像を絶する超巨大な竜巻にでも呑み込まれたかのように荒れ狂う空で、突如として閃光が瞬き、そこから空間を突き抜けて巨大な赤い影が出現した。
それは、ガブリエルとミカヅキにとって、今、もっとも遭遇しなくない敵が現れたことを意味していた。
「あれはシャムエル。デリンジャーか?」
そう。それは、紺と黄の残存艦船を吸収し、今やシェオール唯一にして最大の艦隊となった赤の艦隊旗艦シャムエルだった。
カエデたちの上空に静止したシャムエルから何かが落ちて来るのが見える。
次の瞬間。
それが巨大なアンカーだとわかったが、カエデたちにはどうすることも出来なかった。
ドッゴォオオォォォォォンっ。
アンカーは、そこに突き立つ穂先の底に激突した。
穂先は押し潰されながら、その先端を魔方陣のさらに奥深くへと切り込ませながらあっけなく崩壊し、水球がその中から転げ落ちた。
あまりの高熱にさらされ、水球は水蒸気爆発を起こし一瞬にして消滅した。
だが、エスペランサは無事だった。
カエデの両手に架かる組紐が放つのと同じまばゆい光が、その船体を包み込んでいた。
「ディ。あのアンカーは?」
穂先を粉砕したアンカーが人工の大地に深々と突き刺さっていた。
『サイズかかなり大きいがシラヌイを強襲したのと同じ物だ。
間違いない。彼らはあそこから、この大地の内部へ侵入し、地獄の底の釜の蓋を開けるつもりだ』
「地獄の釜の釜?」
「説明している時間はない。タイムリミットまであと60分。それまでに彼らを止め、塔を破壊しないと・・・』
ドドドドオォォォオオオオオオンっ。
耳をつんざく爆音。
それは上空に静止するシャムエルからの攻撃だった。
砲撃とミサイル。
それに爆撃機による空爆も加わり、間断なく続く攻撃に辺り一面が紅蓮の炎に包まれた。
『足止めのつもりか?』
「それより、どうなるって?」
『地球はおろか宇宙が終わる。
エスペランサをワープさせたら私達も彼らを追うぞ』
「わかった。ガブリエルさん。ワープ出来る?」
「あと1分。いえ30秒待って」
『カエデ。3時と9時の方角から何か来る・・・』
ディが言い終わるより早く、地平線の彼方から姿を現した2つの巨大な物体が左右から光球を挟み撃ちにする形で激突していた。
ゴオオオオオオオオオオオオオンっ。
エスペランサは暗闇に閉ざされた、遥か彼方まで伸びる直径が100メートルはあろうかという内部が空洞の円筒状の空間に閉じ込められていた。
激突した部分にあった2つの巨大なリングが回転しながら噛み合ってロックされていく。
「なんだこれは?またレヴィアタンか?」
1つにつながったそこは、どちらを見ても先が見えない、とてつもなく長いトンネルの中にいるかのようだった。
『違う。このトンネル状の物体は我々を閉じ込める格好で地球を一周している。
ヨルムンガントか』
「ヨルムンガント?」
『どうやら我々は用済みらしい。地球の裏、北極点から3時方向に向けて水素、9時方向に向けて反水素が発射された』
「なに?」
『2つは我々がいるこの場所で衝突し対消滅を起こす。
あと5秒』
「ガブリエルっ」
「ワープまであと5、4、3、2、1、ゼ・・・」
その瞬間だった。
超巨大なループトンネルは、その接合部が閃光とともに弾け飛び、大爆発を起こして辺り一面を炎が呑み込んだ。
その衝撃波は、上空に静止するシャムエルを「へ」の字形にへし折るほどだった。
そのまま真っ二つになった赤の艦隊旗艦は、火だるまになりながら墜落し、眼下の炎の海に激突した。
ドオォォォォオオオオオオン。
ワープエンジンを搭載した大型戦艦の爆発、その高熱の炎と爆風の衝撃は、対消滅爆発と相まって一帯を蹂躙し、その破壊力は、封印が破られた人工の大地をも大きく崩落させていた。
〈第七章終わり、第八章へつつ゛く〉