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第七章・第二話 「聞くな、カエデ」





「本当にそんなことを?じゃあなんでダリウスの輪を使わない?なんでわざわざこんなまどろっこしいやり方をする必要がある?」

「ダリウスの輪は超巨大な建造物だ。あんなモノを太陽の周りに作ったら、我々に太陽を狙ってますよ。と教えるようなもんだ」

「それにダリウスの輪を破壊するのならそこに全戦力を投入することが出来るが、8基の塔を同時に破壊しようとすると戦力を8等分するしかない。待ち構える側が圧倒的に有利だ」

「どちらにしても全ての塔を75分以内に破壊するなんて今の我々には不可能だ」

(あの時、レムリアの医療室にベリアルが現れたのは、このことをオレ達に気付かせないためでもあったんだ。・・・くそっ)

 カエデは唇を噛んだ。

これを破壊しましょう」

 意を決した声でそう呟いたのはガブリエルだった。

「ずっと引っ掛かってた。ヤツらならレムリアを見つけるぐらい簡単なはず。なのに、なぜ攻撃してこないのか?毎晩レムリアが強襲を受ける悪夢を見てうなされていたのに、いつの間にか見なくなっていたわ。

 いつまで続くか分からない戦いの日々に疲れはてて感覚が麻痺してたのよ。

 私達が作ったワープシステムは完璧だ。レムリアを護るステルスシステムは完璧だと。

 そう思い込んでた。

 ヤツらが私達を生かしているのは、何か考えがあってのことなんじゃないかと考え、対抗策をることも出来たはずなのに。

 現実からただ逃避していただけだって、大切なものを失って初めて気付くなんて、・・・でも、まだ全てを失ったわけじゃない。塔を全て破壊しましょう。まずはあれからよ」

 その場にいた全員が、それに応えるように小さくうなずいた。

 その時だった。

『カエデ。敵だ』

「さすがに早いな。何が来る?」

『アラストールが空と海中から接近中。数は確認できるだけで50万。なおも増加中』

「この塔の守護神か。ガブリエルさん。オレに考えがあります。安全な場所へワープする準備をしてください。それまではオレがこの船を護ります」

 カエデは非常用のハッチを開けて船上に出た。

 そこで見たのは、空を黒く埋め尽くす無数のアラストールが、地中を進む同種族のお株を奪うかのように空中でドリルに姿を変え、エスペランサ目掛けて急降下して来るところだった。

 それだけではない。

 水中を進む捕食者たちも次々にその姿をドリルへと変え、まるで魚雷のように四方八方から脱出船に襲い掛かっていた。

 ドガガガガガガガガガガガガガガっ。

 全方位からの、獲物を串刺しにせんと攻めよる同時攻撃に小型の脱出船はあっけなく呑み込まれていた。エスペランサが浮いていた場所には、何百、千匹というアラストールの塊しか見えなくなった。

 次の瞬間。

 海面に浮かぶ、なおも大きくなり続ける黒い塊の、その中心から眩い光が洩れるのが見えたかと思うと、その輝きは一瞬にして黒い塊を光りの粒子に変え消滅させながら広がり、巨大な光りの球になっていた。

 海面が光球の形に合わせて半円状に凹んでいるのが見える。

 それと同時に光球の周りに空気の渦が巻き、海水を吸い上げ、巨大な水球が出来上がっていく。

 その間にも、ドリル形態に姿を変えたアラストールが水球に次々と突入し、激流に逆らいながら魚雷のように突き進んで光球に突っ込み消滅し続けていた。

「こんな露骨な足止めをしてくるってことは、また艦隊が来るのか?」

『カエデ。何かがワープアウトしてくるぞ』

 ディがそう警告したのと、水球から1kmほど離れた海面が突如として輝きを放ち、巨大な水柱が上がったのがほぼ同時だった。

「なんだあれは?」

 その時だった。

 カエデが纏うコートが突然展開したかと思うと、むち状になりながら、カエデの周りに竜巻のように渦を巻いて、その細身の体を覆った。

「どうした?」

『侵入者だ』

「なに?」

 その瞬間。エスペランサを包み込む光りの壁の至るところで火花が散り、そこから飛び出して来た光りの矢が四方八方からカエデに襲い掛かった。

 だが、矢は全て超高速で回転する鞭に弾かれ光球の内壁面に当たり、爆発的な光りを放ちながら消滅していった。

「・・・ディ」

 カエデがちらりと見たその先では、海上に現れた輝きの中から飛び出して来た巨大な壁のような物体が、凄まじい勢いで伸び続けていた。

 それはカエデの視界をさえぎるかのように海面上を緩やかなカーブを描くように進み、その先頭部が、光りの中から丁度ちょうど姿を現した最後部と合体して、エスペランサを中心とした半径1kmも巨大なリングとなり、そのまま水球の周りを速度を増しながら回り始めた。

『集中しろ。次が来る』

 カエデを、そしてエスペランサを包み込む光りの壁の至るところで、今度はオレンジ色の火花がはじけ始めた。

 そして、その輝きの中から何かが姿を現した。

 それは甲冑。いや、甲冑を身に着けた人間だった。

 だが、甲冑は溶鉱炉にでも放り込まれたかのように熱せられてオレンジ色に輝き、それを着る人間に至っては火だるまだった。

 甲冑はオレンジ色の粒子となって消滅し、それを着ていた者たちが力無く崩れ落ちる音が船上に響き渡り、カエデ以外誰もいなくなっていた。

 ただ1人、カエデの背後に立つ男を除いては。

 それはカエデにとって背筋が凍るほどの恐怖だった。

 甲冑は先程見た〈白衣の騎士団〉と同じ物だからサークルを突き抜けたのもうなずける。

 だが、それを着ていたのは生身の人間のはずだ。

 神器をも消滅させる光りの壁を人間が通り抜けることなど出来るはずがない。

 ならば、そこにいるのは何者なのか?

 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン。

 風切り音とともにディの鞭が男目掛けて四方八方から波状攻撃を仕掛ける。

 だが、男は攻撃を予測していたかのように鞭が伸びる前に、人間のそれを遥かに凌駕する動きとスピードで、それをかわしていた。

 それでも音速を越える速度で唸る鞭が起こした衝撃波は、熔け落ちかけていた甲冑と兜を吹き飛ばし、男の全身をあらわにしていた。

 火だるまだった全身が凄まじい勢いで治癒していく。

 その姿を見てカエデは言葉を失った。

 銀髪に金色の瞳。

 その容姿は人間のようではあったが、蛇やトカゲと同じように全身をウロコに覆われたその姿は、まさに2本足で立つ等身大のトカゲだった。

「何を驚いている」

 その声には聞き覚えがあった。

「・・・お前、ギルか?」

 男は無言のまま左腕を伸ばした。

 その上腕には手首から先が無かった。

「貴様も見ていたはずだ。私の左手がミカヅキに斬り落とされるのを。・・・見ろ」

 そう言うや否や、そこから一瞬にして新しい手首が生えていた。

 先端に大きく鋭いかぎ爪が伸びる指を、カエデに見せびらかすかのように閉じたり開いたりしながらギルは話し始めた。

「これが、神に選ばれたあかしだ」

「なに?」

「我々は神の手によって創られし恐竜人間。貴様らが猿から進化したように我らは恐竜から進化した種族なのだ」

『なるほど、そういうことか』

「どういうことだ、ディ?」

『おそらく脳をいじって全身の代謝能力を限界まで、いや、それ以上に上げているんだろう。

 サークルに全身を灼かれてなお、治癒能力がそれを上回った。たがらこちら側に侵入してこれた。というところか。

 だが、こんなことは、いくら身体をいじったとしても人間には無理だ。

 これは全て彼が恐竜人間だったからこそ出来た芸当だ。トカゲの尻尾と同じだ』

「ほう?博学だな」

『だが、そんな無茶をしてタダですむワケがない。

 これは自殺行為だ。そしてその代償は君自身の命だ。

 君は本来なら百年ほどかけて消費する生命エネルギーを一瞬で使いきってしまった。君に残された時間はせいぜいあと数分だ』

「これが神が我に与えし使命ならそれも本望。我らは生まれながらの戦士だ」

『恐竜はベルゼブブたちが神に戦いを挑むために創りだし進化させたとは聞いていたが、その究極の目的は君たちだった。というワケか?』

「そうだ。それに気付いた神は地球に隕石を衝突させ、我々をほうむろうとした。

 だが我が祖先たちは、すでに地底深くに都市を築きに移住していたのだ」

「おとなしく全滅してくれてればよかったのに」

「ああ。実際今までに何回も絶命の危機はあったらしい。

 だがその度に我らの祖先は・・・」

「それ以上言うなぁ〜っ」

 ピンと張りつめた空気を切り裂くような絶叫。

 それは、カエデを飛び越えギルに斬り掛からんとするミカヅキの叫びだった。

 ミカツ゛キはパワードスーツを脱ぎ、各所にアーマーが付いたアンダースーツ姿になっていた。

 パワードスーツの兵装では、ギルを狙って外した弾丸がシラヌイの船体を損傷させてしまう危険があったからだ。

 それに、例えパワードスーツを装着していなくても、ミカツ゛キには刺し違えてでもギルを仕留める覚悟があった。

 ガチっ。

 「!」

 だが、ギルはミカヅキの降り下ろした渾身の太刀を片手で、しかも2本の指先だけで受け止めていた。


                    ◆


 その頃、遥か沖では水しぶきを激しく巻き上げながら回転し続けるリングの内側に眩い閃光が瞬き、そこから新たな壁が飛び出して来ていた。

 それは、外側を回るリング同様につながり、一回り小さなリングとなって外側のリングとは逆方向に向かって猛スピードで回り始めた。

 それだけではない。

 それに続くように海上で光りがはじけ、そこからリングが次々に姿を現していく。

 それらは、交互に逆方向に回りながらその速度を早めていき、リングが風を切る音と、舞い上がった水しぶきが滝のように降り注ぐ。

 それは、会話も出来ないほどの轟音だった。


                    ◆


『カエデ。この男は囮だ。話しに耳を貸すな。今すぐあのリングを・・・』

「・・・絶命の危機に瀕するたびにお前たち人間と交配をかさね種族を残してきた」

「え?」

「黙れぇっ」

 太刀を捨て、背中のさやから打刀うちがたなを抜いてキリーに斬り掛かるミカヅキ。

 だが、その瞬間、ギルの姿は消えていた。

「!」

 ミカヅキが驚くのも無理なかった。

 なんとギルはミカヅキが振り下ろした刃の上に立っていたのだ。

「信じられないか?だが、嘘ではない。

 私も人間との混血」

「私も?」

「聞くなカエデっ」

 ミカヅキは打刀を捨てると、身体中に隠し持っていた手裏剣や七首あいくちひょうを抜いてギル目掛けて次々に投げつけた。

 だが、ギルは目にも止まらぬ速さでそれさえも難なくかわし続ける。

「貴様の前にいるミカヅキもまた混血。

 私と血を分けた双子の兄弟だ」

「言うなギルぅ〜〜〜っ」

 全てを投げ尽くしたミカヅキは両手に銃を構え、動き回るギル目掛けて撃ち続けた。

 しかし、明らかに動揺しているミカヅキの弾は標的にかすることさえ出来ず、虚しく空を裂くばかりだった。

「全く。こいつは我が一族の恥さらしだ。

 双子であるにもかかわらず、お前は人間の姿で生まれて来たのだからな。

 それでも奴隷として生かしておいてやったのに、恩を忘れて逃げ出したあげくあるじに牙を剥くとは、所詮は人間」

「生かしておいてやっただと?」

「害獣として駆除した人間の生肉をエサとして与えてもらえただけでも感謝しろ」

「え?」

「違うカエデ。私は知らなかったんだ。それが人間のとは・・・」

「そうそう。あれはお前が新しい奉仕を仰せつかった日のことだったな。今まで食べてきた生肉が人間のだと初めて聞かさせた時のお前の顔。あれは傑作だった。あの後、3日3晩嘔吐し続けてたな。

 だが、よかったじゃないか?新しい奉仕に付いたおかげで我らの残飯を喰えるようになったろ?」

「それ以上言うなっ。八つ裂きにするぞっ」

 血の涙を流し絶叫するミカヅキ。

「全く、人間なんて俺は触るのも嫌だが、世の中には人間がいい。人間なら男でも女でも構わないとか言う変わったヤツもいるからな。

 よかったよな?

 我ら神の子孫の性欲処理という大役を仰せ付かって。

 家畜の世話の時と違って普段は服も着させてもらえたし、首輪も似合っていたと皆言っていたぞ・・・」

  ドゴォっ。

 突然、鈍い音が響き渡った。

 見ると、そこには目にも止まらぬ速さで動き回っていたはずのギルの姿があった。

 その顔は大きく歪み、折れたらしい鼻からは鮮血が噴き出していた。

 何が起きたのか?

 ギルの眼前にはカエデがいた。

 カエデが頭突きでギルを止めたのだ。

 だが、重傷を負ったギルとは対照的にカエデは無傷だった。

 激突する寸前、カエデの全身はディによって鎧のように覆われ、その衝撃は全てそれが吸収していた。



                           〈つつ゛く〉





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