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第六章・第五話 対峙せし者




               

 ドガガガガガガギガガガガガガガガっ。

 大轟音と共にシラヌイの複合装甲の分厚い壁を突き破って何かが格納庫の中に飛び込んで来た。

 それは巨大なアンカーだった。

 その先端部が開き、中から兵士が次々に姿を現した。

 だが、その出で立ちは異様なものだった。

 なんと彼らは甲冑に身を包んでいたのだ。

 人類の夢だったワープドライブが現実のモノとなった現代において、古代ローマを彷彿ほうふつさせるその姿は、時代遅れという言葉を通り越して滑稽こっけいとしか言いようがなかった。

 兵士たちはあっという間に格納庫を占拠すると、その中央に固定されている脱出用シャトルをぐるりと囲む陣形を構えた。

 その中に、一際豪華な金の装飾をあしらった甲冑を纏う男がいた。

「ヴァルマ。あの中か?」

「はい。未だ発見の報も抹殺の報も無く、脱出した形跡もありません。まだシャトル内にいると考えるのが妥当かと」

 腹心の部下の報告を受け、男は無言のまま右手をスッと上げた。

 彼の名は白焔。

 自らが率いる白の艦隊をカエデに壊滅させられた男は、参謀のヴァルマと、生き残ったわずかな兵と共にエスペランサの前に立っていた。

 エスペランサは、すでに新しいワープエンジンが換装されていた。

 それだけではない。

 補給物資だろうか?

 船底には、船体と同等ほどの巨大なコンテナが取り付けられていた。

 だが、そんな物には目もくれず、氷のような冷たい視線でエスペランサを見つめたまま、白焔は命令を発した。

「撃て」

 ババババババババババババババババっ。

 兵士たちは構えた、その格好からは不釣り合いとしか言いようがない最新鋭の重火器が一斉に火を吹いた。

 その破壊力は、シャトルを一瞬にして蜂の巣にし、更には格納庫にまで致命傷を与えるほどのものだった。

 が、爆発は起きなかった。

 まるでシャトルの周りに見えない壁でもあるかのように、撃ち込まれ続ける全ての弾丸が、空中で次々に静止していた。

 そして白焔は見た。

 シャトルの着陸脚の前に立つ人物がいたのだ。

 その小柄な人物が胸の前で向かい合わせに広げた両手の指に、紐のようなものが絡まっていた。

 それは、組紐を構えるカエデだった。

 その紐は、両手の間であやとりの星を描き、神々しい光を放っていた。

 すると突然、紐が直視できないほどの爆発的な光りを放った。

 すると空中に静止していた弾丸が一斉に外側に向けてはじけ飛び、シャトルを囲んでいた兵士たちに襲い掛かった。

 バババババババババババババババンっ。

 数万発にも及ぶ弾丸の雨は、兵士たちを飲み込み、後方の壁を直撃してようやく止まった。

 ・・・しかし。

「え?」

 カエデが思わず声をあげたのも無理なかった。

 弾丸に全身を穴まるけにされたはずの兵士たちが立っていた。

 それどころか、彼らの後ろの壁には着弾の跡が残っているにもかかわらず、全員が身体にも甲冑にも傷ひとつなく生きていたのだ。

「前にも言ったはずだ。神器を持つのは自分だけだとでも思ったか?」

 そう言い放ったのは白焔だった。

「この甲冑はかつてモンスに現れた〈白衣の騎士団〉が身に着けていたものと同じ物だ。そんな攻撃は通用しない。

 それと、分かっていると思うが今の攻撃は警告だ。次は容赦しない」

 司令官がそう言い終えた時には、兵士たちはすでに攻撃態勢を整えていた。

 だが、その手に握られていたのは、弓矢、ブーメラン、チャクラムといった時代遅れの産物としか言いようのない武器の数々だった。

 しかしカエデには分かっていた。

 その全てが、ほんの数時間前に自分の身体を切り刻んだ武器に匹敵する力を持つ神器であると。

(ディ、いけるか?)

『ああ、いつでもOKだ。私は天才だからな』

(自分で言うな)

 次の瞬間。

 カエデの両手の間で星を形作る組紐から放たれる光が黄金から青白い色へと変わり、それから更に白銀色へと変わり始めた。

 その時だった。

 神器を構える兵士たちのバックパックから頭上に向けて光が放射状に広がり、次々に立体映像が浮かびあがり始めた。

「!?」

 その映像を見てカエデは言葉を失った。

 そこに映し出されていたのは、腹這いにされ、後ろ手に手錠をかけられて拘束され、銃を突き付けられるシラヌイのクルーたちだった。

 次々に映像が投影されていく。

 その中に見覚えのある3人の姿があった。

(ルイス。ジャン、ミリー)

 そう。そこに映っていたのはカエデが命がけで助けた兄妹と、その2人を救ってくれたドクターだった。

 抵抗でもしたのだろうか?

 ドクターの顔には何かで殴られた痕が痛々しく残っていた。

 ジャンとミリーにいたっては、治療カプセルから無理矢理出されたらしく、2人ともずぶ濡れで、毛布のような物を羽織っただけで床に寝かされていた。

 細身の身体がぶるぶると震え、顔からは血の気が失せ、唇が紫色になっている、危険な状態なのは明白だった。

「きさま」

 鬼神のごとき形相で白焔を睨み付けるカエデ。

「私もこんな真似はしたくない」

 だが、対する白焔の眼は氷のように冷たく、そこからは何の感情も読み取ることが出来ない。

「皆をあんな目にあわせて、よくそんなこと・・・」

「このような卑劣な手段を用いなければならないほど、お前の持つ〈力〉は脅威だということだ。

 先の貴様の攻撃でどれほど多くの優秀な部下を失ったと思う?

 だが全ては私のミスだ。

 一瞬にして水を凍らせることが出来るのならば、氷を一瞬にして水に戻すことも出来るはずと何故考えなかったのか。

 もはや私に迷いはない。例え悪魔のそしりを受けようと神器はもらう。

 これが最後の警告だ。投降しろ。

 従わない場合は10秒ごとに人質を1人殺す。

 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼ」

 ドゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴツッっ。

 その刹那。

 白焔の言葉を遮るように格納庫内が轟音と閃光に満たされていた。

 まるで、この場に太陽が出現したかのようなまばゆい光り。

 それは、壁を突き破りエスペランサを、いや、エスペランサを覆う見えない壁を直撃した粒子砲の輝きだった。

「なに?」

 白焔が驚くのも無理なかった。

 彼はそのような命令は出してはいない。

 だが、粒子砲の攻撃は続いた。

 格納庫の内壁のあらゆる場所から間髪を入れずに飛び込んで来る粒子砲のビームの光りが、その中心部に係留されているエスペランサ目掛けて次々に降り注ぐ。

 それは、カエデがサークルで覆っていなければ、船体が一瞬で蒸散するほどの凄まじい火力の波状攻撃だった。

「報告しろ。何が起きている?」

 自らが乗って来た突撃艦に向けインカム越しそにそう叫んだ白焔に返って来たのは以外な答えだった。

「白焔様。ブリッジです。シラヌイのブリッジが我が突撃艦と収納形態の自艦を囲むリング状のレールの間を移動しながら両艦を攻撃しています」

「なに?シラヌイのブリッジを破壊しろ。今すぐにだ」

「それが、ムラマサがブリッジを護衛していて・・・」

 その時だった。

 艦がガクンと揺れたのだ。

「どうした?」

「白焔様。大変です。WDCがワープエンジンを始動しました。加速しています」

「ばかな」

 白焔が驚くのも無理なかった。

 ワープ空間内でワープエンジンを始動した。

 これは額面通りに考えれば、ワープ空間内からさらにワープするということだ。

 ワープ空間内からワープしたら、一体どこにワープアウトするのか?

 仮にワープアウトに成功したとして、その場所から無事に帰還出来るのか?

 それはまさに前代未聞の行為だった。

 他の指揮官なら、これは我々を退艦させるための脅しで、実際にはそんなつもりはないと分かる。

 だが、この艦の指揮官はあのガブリエルだ。

「白焔様。今すぐ脱出してください。そのWDCの損傷ではワープの加速にすら耐えられません。このままでは・・・」

 その時、何者かが強引に通信に割り込んで来た。

「司令。フレイル艦長から緊急連絡です」

「つなげろ」

「白焔。そのWDCは我が旗艦クルードとの衝突コースを直進している。今すぐ脱出しろ。3秒後に総攻撃を開始する」

 そう言って通信は途絶えた。

 ドゴンっ、ドゴンドゴンドゴンドゴンっ。

 そして、間髪入れずに着弾の振動が格納庫を激しく揺らした。

 前方の艦隊から放たれた無数のレールキャノンの閃光が、一斉にWDCに襲い掛かった。

 その艦隊の旗艦隊クルードのブリッジでは、紺の艦隊艦長フレイル・メイスの怒号が飛んでいた。

「狙いを定めろ。なんとしてもヤツを沈めるぞ」

「フレイル様。これは重大な命令違反です。確かにあれを撃沈した後でも神器は回収できますが、円卓会議の決定は所有者も生きて捕らえろと・・・」

 だが、そんな作戦参謀の忠告も、今の彼女には火に油を注ぐだけだった。

「そのような悠長ゆうちょうなことを言っているから我が紺の艦隊は壊滅的な損害を被ったのだ」

 そう。今彼女が指揮をとっているのは、ガブリエルの奇策によって壊滅させられた紺の艦隊と、旗艦を失った黄の艦隊の残存艦船を集めて作られた艦隊だった。

 そして、こちらに向かって突進して来るWDCは仲間のかたき以外の何者でもなかった。

 間断なく撃ち込まれる防弾の雨に、爆炎と共にバラバラになりながらも、なおも加速し続けるWDC。

 それが火球に包まれるのと、ワープスピードに達したのがほぼ同時だった。

 ドガガガガガガガガガっ。

 それは、誰もが予想した最悪の結末だった。

 WDCは、爆発の炎に包まれ、空間を無理矢理こじ開ける閃光をほとばしらせてワープに突入しながら、クルードのブリッジに激突したのだ。

 WDCという超重質量を有する物体に、時間も空間も超越する超光速で激突されたクルードのブリッジは一瞬で爆散しながらWDCと共に未知の異空間へと消えて行った。

「なんということだ」

 その光景を愛機ナベリウスのコックピットで目の当たりにしたデリンジャーは言葉を失った。

 汚名をそそぎたいという白焔の願いを受け入れ、自らの艦隊がほぼ無傷であるにもかかわらず、彼は拙攻せっこうを事実上壊滅した白の残存部隊に譲り、赤の艦隊は敵の退路を断つべく後方に陣取っていたのだ。

「フィルゴ。クルードがいた空域に救助部隊を送れ。私も急行する。それと、白焔を追跡出来るか?」

「艦長。こちらシャムエル。救助部隊を発進させました。

 白焔司令ですが、あらゆる探知システムを使って捜していますが追跡出来ません」

「くそっ」

 デリンジャーは唇を噛みながら、愛機をWDCが消えた方角へと発進させた。



                    〈第六章終わり。第七章へつつ゛く〉



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