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第六章・第四話 悪夢





 ムラマサが盾になり迫り来るアラストールを迎撃している間に、ロイが非常用ハッチを開けた。

その瞬間だった。

 パパパパパパパパパパパァアアァンっ。

 ハッチの向こう。

つまりシラヌイ艦内から銃弾の雨が2人に向かって放たれていた。

「シュバルツ。気密室及びその先の通路をスキャン」

 〔スキャン終了。気密室及びその先の通路に武装した敵兵を確認。数10。他に生命反応ありません〕

「よし。ハッチに向けコンテナ射出」

 〔了解〕

 ムラマサの巨大なバックパックからハッチ目掛けてコンテナが打ち出された。

コンテナはハッチの奥、気密室へと続く分厚い扉の前に陣取っていた敵兵たちを扉ごとぶち抜き、通路の壁にぶつかって止まった。

気密室を失ったことで、ハッチから凄まじい勢いで空気が吹き出し、数人の敵兵が一緒に吸い出されて、どこかへ飛んで行くのが見えた。

 隔壁が降りたらしく、しばらくすると空気の流出が止まり、先にロイが、続いてミカヅキがパワードスーツ姿のまま展開したムラマサの背部から抜け出してハッチに飛び込んだ。

「入ったぞ。扉を閉じろ」

「了解」

ロイが開閉スイッチを操作し扉が閉じて行く。

 その向こうでは、あるじが抜けた人型兵器が迫り来るアラストールを迎撃している姿が見えた。

「シュバルツ。すまない」

 そして扉は閉じられた。

 ドッゴオォォンっ。

その瞬間。

ロイとミカヅキがいる通路を閉じる2枚の隔壁が大爆発した。

 それと同時に砕けた分厚い扉だった超合金の塊が2方向から同時に2人に襲い掛かった。

 それにさらに追い討ちをかけるように銃弾が雨のように浴びせられる。

 ドガガガガガガガガガガガガガガガっ。

 バシュっ、バシュっ、バシュっ、バシュっバシュっ、バシュっ、バシュっ。

 つんざくような銃弾の音に紛れて小さな発射音が聞こえたかと思うと、敵兵は全て倒れていた。

 見ると、積み重なる瓦礫の中からパワードスーツの腕が突き出ていた。

 そこから発射された小型誘導弾が敵兵を射ぬいたのだ。

 硝煙が渦巻く中、超合金製の瓦礫が軽々と持ち上げ、立ち上がったのはミカヅキだった。

「ロイ、もういいぞ」

 頭を抱えうずくまり、ぶるぶる震えていたロイは、その声を聞いてようやく頭を上げた。

「大丈夫か?」

 ミカヅキにそう言われて、ロイは周りを警戒しながらようやく立ち上がり、自分の身体を見回した。

「はい、大丈夫です」

「よし。私はシラヌイを取り戻す。君はどうする?」

「機関部へ行きます。親方を助けないと」

「死ぬなよ」

「隊長も気をつけて」

 2人はきびすを返し、真反対の方向へ駆けて行った。


                     ◆


「もう少しだ。頑張ってくれ、ハルバート」

 ロイは直径1メートルほどの貨物搬送用リニアチューブの中をハルバートを装着したまま匍匐ほふく前進で移動していた。

 シラヌイは各ブロックごとに独立し変形するため、各ブロックをつなぐフレームの内部に貨物搬送用のリニアチューブが通っている。

 ロイは戦闘を避けるため、チューブの内部を移動することにした。

 敵もそのことは調査済みだったらしく、人々が貨物運搬用の連結カプセルを使って武器を調達したり、カプセルそのものに乗り込んで逃げるのを防ぐため、シラヌイに突入した際、カプセルに爆弾を搭載して発車させ、チューブの途中で爆発させていた。

 ミカヅキたちが見た敵の特攻直後にあちこちで起きていた爆発はこれだったのだ。

 しかも、この爆弾には致死性のガスが含まれていて、人々がチューブ内に逃げ込むことさえ出来なくされていた。

 だが、だからこそ敵の監視も手薄だろうとロイは考え、あえてそこを通ることにした。

 もちろんこれは、ハルバートというパワードスーツを装着しているからこそ出来る荒業あらわざだった。

 もう少しでエンジンブロックに到着する。

 その時だった。

 ガガガァアン。

 チューブ全体が突然揺れのだ。

 だが、その揺れは敵の攻撃によるものとは明らかに違っていた。

「ハルバート。状況報告。機関部の現状を教えてくれ」

 〔エンジンブロックはたった今、手動操作によりパージされました。現在、第1船速で本艦より離脱中〕

「ハルバート。親方は脱出したか?」

 〔いえ。脱出していません〕

「なに?自動操縦が故障したのか?こちらから作動出来ないか?」

 〔自動操縦装置、作動を確認出来ません〕

「ハルバート。親方と回線をつなげ」

 〔通信は敵に傍受され位置を知られる危険があります。お薦め出来ません〕

「いいからやれ。緊急事態だ」

 〔分かりました。5秒おきに周波数を変えます。それでも30秒が限界です。30秒を過ぎたら通信を強制的に遮断します。回線がつながりました〕

「親方・・・」

「バカ野郎。なんで回線をつないだ。殺されたいのか?」

「脱出してください。これから助けに行きますから早くっ」

「それは無理だ。ハルバートを使ってエンジンブロックを見てみろ」

「え?」

 ロイがハルバートを使ってシラヌイの船外カメラのいくつかの映像を見た。

 そこに映し出されたのは、シラヌイから離れて行くエンジンブロックに膨大な数のアラストールが群がり、あっという間に埋め尽くされていく様子だった。

「こんな状態で自動操船装置がまともに働くワケがない。安全圏までオレが運ぶ」

「でも、その前にアラストールが侵入して来たら」

「その心配はない。緊急消化装置を使った。機関室の中はオレがいる制御室以外、全てジェルに埋まっている。だから脱出も救助も無理だ」

「なんでそんな事を・・・」

「プラズマエンジンが制御出来ない。このままだと臨界を越え暴走するのは時間の問題だ」

「それって、まさか」

「そうだ。周りの空間を巻き込んでワープする恐れがある。だからこいつに1番詳しいオレが安全圏まで運ぶ。当然のことだ。後を頼んだぞロイ。ヘレンのこと好きなんだろ。気持ちは伝えたほうがいいぞ」

「おやか・・・」

 “ピー――――っ”

 〔通信回線を遮断しました〕

「くぅ・・・うぅぅ」

 泣き崩れそうになるロイは、全方位から襲い掛かる捕食者たちにに取り付かれ、本来の大きさの数倍にも膨れ上がった、アラストールの塊と化したエンジンブロックが、加速しがら離れて行くのをただ見送ることしかできなかった。


                     ◆


 WDCに開いた穴の前で2機の人型兵器が圧倒的過ぎる物量の敵を前に、鬼神の如き戦いを繰り広げていた。

 機体に内蔵されたあらゆる武器を駆使し、群がり迫る敵を薙ぎ払うサンダーボルト・セカンド。

 しかし、敵の数があまりにも多すぎた。

 倒しても倒してもその数は減らず、迫り来るアラストールとの距離はジリジリと確実に狭まっていった。

「くそっ」

 そして、ビームに灼かれ、レーザーソードに切り刻まれる仲間の屍を乗り越えて、捕食者たちは、ついにその巨人に襲い掛かった。

 それはまるで、アマゾン河にうっかり入ってしまった小動物にピラニアが群がるかのようだった。

「デビットっ」

 ハンナから見えるのは、そこに群がるアラストールの大群のみで、どこにサンダーボルト・セカンドがいるのかを伺い知る術さえなかった。

 四方八方から突き立てられる捕食者の牙が、肩に腕に、大腿部に足首に、そして頭部にも喰らいつく。

 鋭利な牙は、装着者に脱出する暇さえ与えず、1次装甲はおろか2次装甲をも突き破り、その奥に収まる3次装甲、パワードスーツをも貫いていた。

 ベキベキベキベキっ。

「っあぁぁぁ〜〜〜っ」

 デビットの表情を捉えていたの通話モニターの映像が消え、その代わりに聞こえて来たのは、インカム越しに響き渡る人間の身体が噛み砕かれる音と、大量の血液と共に吐き出される声にならない絶叫だった。

「デビットっ」

「サンダーボルト・・を自爆させる。・・その間に逃げろ。・・・れ、レイジーに伝えて、・・・愛してる」

 絞り出すようにそう言いながらデビットは絶命した。

「デビット・・いやぁ〜〜〜っ」

「レイジーは死んだよ」

「え?」

 突然の声にモニターを見ると、映像が回復し、そこには、モニター越しに自分を見つめる、たった今死んだはずのデビットの姿があった。

「デビット?」

「デビットも死んでる」

 そう言いながら、生気のない血まみれの顔が薄ら笑う。

「じゃあ、あなたは誰?」

 “プシュウ”

 小さな機械音と共にサンダーボルト・セカンドの胸部装甲が展開し、その中から穴まるけのパワードスーツが姿を現した。

 しかも、次の瞬間にはそのパワードスーツもパージされ、各部にアーマーが装着されたアンダースーツ姿のデビットがガードキーパーの前にその姿を晒していた。

 人間が生身のままワープ空間に出たら、その瞬間に身体が空間の歪みに引かれ全身がネジ切れて絶命する。

 しかし彼はネジ切れなかった。

 全身を噛み砕かれた満身創痍まんしんそういの生身のまま、優雅に宙に浮いていた。

「そんなにデビットに会いたいのか?私は優しいから生き返らせてあげようかな」

 不敵な笑みを浮かべたあと、突然デビットは気を失い、そしてすぐに意識を取り戻した。

「ぎぃやぁぁああああ〜〜〜〜〜〜っ」

 突如として絶叫が響き渡った。

 その声の主はデビットだった。

 それは想像を絶する光景だった。

 ハンナの眼前で、デビットの頭が細胞分裂するかのように2つにわかれたのだ。

 左の頭はデビットのままだが、右の頭は別人の顔に変わっていた。

 そして別人の方が口を開いた。

「初めまして。ハンナ・マクレガーさん。自己紹介が必要かな?」

 そんなモノは必要なかった。

 ハンナは彼を見るのは初めてだったが、彼女の本能が一瞬で理解していた。

 彼が地獄の炎の王、ベリアルだと。

「教えてあげようか?なぜレイジーが死んだか?なぜレムリアが見つかったのか?」

 文字通り頭を引き裂かれる激痛に息も絶え絶えのデビットの耳元でベリアルがささやく。

「・・・お前のせいだよデビット。神の宝石の攻防戦の時、サンダーボルトのボディをキメリウスに噛まれたろ?あの牙の先にナノミクロンの粒子が着いていたんだよ。それがお前のスーツに付着していたんだ。

 お前たちの探知システムでは探知できない何のへんてつもない粒子だが、私たちはその粒子を追跡して・・」

「うそだぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ」

「デビットっ。その人の言葉を聞いちゃだめ。自分を責めないで。自分を見失わないで」

 だが、デビットは血の涙を流しながら、足首に隠し持っていたナイフで自分の首を掻き切っていた。

「デビットっ、いやぁ〜〜〜〜〜〜っ」

 半狂乱になって泣きわめくハンナの視線の先で、絶命したデビットの頭がベリアルの頭に吸収されていく。

 そして、再び身体を得たベリアルは穴まるけのサンダーボルト・セカンドに乗り込み、その機体を巨大な砲へと変形させた。

 眼前のヌーベル・マインゴーシュに狙いを定め、なんの躊躇もなく最大出力の一撃が放たれた。

 ババババババババババババババっ。

 レールキャノンに貫かれ、大音響と共にヌーベル・マインゴーシュは爆散した。

「ふっ。往生際が悪い」

 爆炎が埋め尽くす視界を見つめるベリアルの氷のような視線は、それを見逃さなかった。

 炎の中から押し出されるように飛び散る破片の中に彼が見つけたのは、撃ち抜かれる前にヌーベル・マインゴーシュから脱出したハンナだった。

 パワードスーツ姿のまま身体を丸め、爆発に押し出された勢いでくるくると回りながら宙を舞うハンナに、ベリアルは再び狙いを定め引き金を引いた。

 ドガガガガガガギガガガガガガっ。

 まさにその時だった。

 彼女の眼前から一瞬にして全てが消え去っていた。

 突如として現れた巨大な物体が、爆散しながら宙を回る、ヌーベル・マインゴーシュの残骸に激突したのだ。

 その次の瞬間には、ヌーベル・マインゴーシュも、それに激突した巨大な物体も彼女の眼前から忽然と消えていた。

 それは一瞬の出来事だった。

 暴走するプラズマエンジンをなんとか制御していたジョン・ギブスンがエンジンブロックをWDCの外に出すべく、その機首を格納扉が破壊されて出来た穴に向けた瞬間、エンジンが臨界を突破したのだ。

 そして、その進路上にいた全てを巻き込みながら、はるか先に偶然いたサンダーボルト・セカンドにも激突し、更にはヌーベル・マインゴーシュが破壊されバリアが消滅したことで格納扉の穴からWDC内に突入して来たドリルミサイルにも激突し、一緒にワープしてしまったのだ。

「え?なに?なにが起こったの?」

 だが、神は彼女にそんなことを考える余裕さえ与えてくれはしなかった。

「ギィニイヤァァァ~~~~~~っ」

 ワープに突入するエンジンブロックと、ドリルミサイルが激突した衝撃で大破し更に大きく広がった格納扉の穴から、アラストールの大群が怒涛の勢いで流れ込んで来たのだ。

 そして、鬼神の如く押し寄せる捕食者たちは、穴の近くにいたハンナに一斉に襲い掛かった。



 

                           〈つつ゛く〉



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