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第四章・第四話 プロメテウス計画





「貸しは作りたくないのですが〈力〉については何も答えられません」

 カエデは毅然きぜんとした態度で答えた。

「あなた方がどこまで〈力〉のことを理解しているかは分かりませんが、オレが何か話せば、それが新たな火種になることは間違いないと思います。

 もしかしたら、それが原因で味方同士が争うことになるかもしれない」

「過ぎた力は身を滅ぼすと。

 しかし、我々にはどうしても力が必要なのです。

 例え何も言えないとしとも、あなた方が我々に協力してくれれば戦局は大きく変わります。

 我々に力を貸して下さい。お願いします」

「オレがあちら側につくことはありません。それは安心して下さい。

 でも、あなた方につくかどうかは話を聞いてから考えます」

「話?」

「はい。分からない事だらけなので」

「わからない?」

「まず聞きたいのは、あなた方が何者で、誰と戦っているのか?

 そしてその理由も」

「え?」

 それを聞く2人の目が点になるのも置き去りに、矢継やつばやの質問が続く。

「ミカヅキが乗っていたロボットの事、あのバカでかい化け物のような生物の事、あなた方が敵対している組織の事、世界が今どうなっているのかも含めて全てを教えて欲しいです」

 ・・・一瞬の沈黙が流れ。

「お前、浦島太郎か?」とミカヅキ。

「誰、それ?」とガブリエル。

「今、この星がどういう状況に置かれているかを知らない?

 そんな話が信じれると思うか?

 “無人島にいました”でも通じないぞ」

「でも、本当に何も知らないんだ」

「・・・それが本当だと言うなら逆に聞きたい。どこまでなら知っている」

「プロメテウス計画」

「!」

 その名前を聞いただけで2人の表情があからさまに曇ったのを見て、カエデはいぶかしく思った。

「何かあったのか?プロメテウス計画に」

「本当に知らないのか?」

「父が技術者であの計画に参加していて、オレも一緒に木星圏に行っていました」

「それで?」

「木星が爆縮した。知っているのはそこまでです。あの後何が起きたのか?正直に言うと、あれからどれくらいの月日が流れたのかさえ分かっていません」

「そんな話・・・」

 一瞬の沈黙の後、ミカヅキは言葉を絞り出すように話し始めた。

「信じろというほうが無理だ。でも本当にあの後の地獄を知らないのなら、それは逆に幸せなのかもな」

「地獄?」

「プロメテウス計画の概要は知っているな?」

「木星太陽化計画」

「そう。火星への移住を決定した地球政府は、火星の平均気温の上昇と惑星内部の氷を溶かして海と大気を作り出す為に木星の太陽化を決定し実行した。

 だが計画は失敗」

「え?」

「木星は太陽化せずブラックホール。・・いや、ホワイトホールになった」

「ホワイトホール?」

「だがそれは、事故ではなく1人の人間によって仕組まれたものだった。

 その男の名前はダリウス」

「ダリウス?ロベルト・フォン・ダリウス博士のことか?」

 信じられない。

 あからさまに動揺の色が広がっていくカエデの表情がそう物語っていた。

「まぁ、無理もない」

 そんなカエデを気遣うようにミカヅキは話を続けた。

「プロメテウス計画が発表されてから、ダリウス博士のことは連日連夜あらゆるメディアで取り上げられ、地球を救う救世主扱いされてたからな。

 計画が成功したら半生が映画化されるとか、ノーベル賞は確実とか言われていた人物が、実は狂信者だったなんて話を突然聞かされて信じろと言うのが無理だろう。

 だが、これは紛れもない事実だ。

 プロメテウス計画の発案者であり最高責任者だった彼は、実に巧妙で年密ねんみつな計画を立てた。

 太陽化の為には木星の中心部に膨大な量のエネルギーを送り込み、核爆発を連続して起こさる必要がある。

 彼はその方法として超高出力のレーザーをあらゆる方向から木星中心部に撃ち込むという計画を立案し、それを実行する為に木星の周りに超巨大な4つのリング状の施設、通称〈ダリウスの輪〉を建造した。

 だが、」

『それは膨大なエネルギーを使って木星を圧縮する為のものだった』

「そうだ。木星は核融合を起こしながら爆縮を続け、シュバルツシュルト半径に達してブラックホール、いや、ホワイトホールになった。

 だが、ここからが彼の真の目的だった」

「真の目的?」

「ビッグバンの後、時空間も時系列も異なる、つまり絶対に交わることのない幾つもの宇宙が同時に誕生し存在していることが分かっている。

 博士の真の目的は、それらの宇宙と我々の宇宙をつなげ、ある者達をこちらに招き入れる事だった。

 ホワイトホールはその為に用意された出口だったというわけだ」

「!」

「ホワイトホールから数えきれない程の異形の者が姿を現した。

 その中の1体がラッパを吹き、こう言ったそうだ。

 [我々は神である]と」

「神?」

「その中継は私も見ていたけど」

 ガブリエルが重い口を開いた。

「私は神や悪魔にはそれほど詳しくないけど、それでも本能で理解したわ。

 彼がアバドンだと」

「それでどうなった?」

「その後も彼らの仲間達が次々にホールから姿を現す予定だったらしい・・・。

 が幸いと言っていいだろう。原因は分からないがそれから1秒も経たないうちに突然ホールが消滅し、こちら側にこられたのはごく少数にとどまったらしい。それでも物凄い数だが」

「そして、彼らとの戦いが今も続いている」

 カエデが、やっと理解したという口調で呟いた。

「そういう事だ」

「さっきの敵対していた組織は?」

「彼らは〈シェオール〉。自らを神の使い。使徒だと言っている連中だ」

「どうして人間同士が敵対する事に?」

「さっきアバドンが“我々は神である”と言ったそうだ。と言ったけど、その通り。その声は私には届かなかった」

「聞こえた人と聞こえなかった人がいたのか?」

「そしてその声が直接脳に届いた人達は、彼らは神で、その声が聞こえた自分達こそが神に選ばれた人間、第2のノアだと主張し始めた。

 その数は数十億人にも及び、彼らは人類は一丸いちがんとなって神の目的達成に協力すべきだと言い始め、それを実行する為に我々とたもとを分ける事になった。と言うわけだ」

「彼らの目的は?」

「分からない」

「え?」

「彼ら自身、自分達がしている事が何の為に行われているのかを聞かされていない。

 だが、彼らは何の迷いも躊躇ちゅうちょもなく地球を穴まるけにし、同胞をあの化け物に襲わせている」

「あの空飛ぶ化け物は?」

「アラストール。

 我々はそう呼んでいる」

「アラストール?」

『悪魔をも殺す地獄の死刑執行人の名称だ』

「博学な相棒だな。

 ホールが発生した時、真っ先に飛び出して来たのもアラストールだった。

 奴らは軍隊アリのような存在で、人類だけを襲い捕食し続けている」

「何の為に?」

「分からない。本当に分からないんだ。

 唯一分かっていることは、このままだと人類は間違いなく絶滅するということだけだ」

「ミカツ゛キたちが操っていたロボットは?」

「ブリガンダイン。キメリウスを倒すために開発された巨大人型兵器だ」

「キメリウス?」

「ギルたちが搭乗していた獣型兵器の総称だ」

「あの月まで伸びていた兵器は?」

「あれはレヴィアタン。旧約聖書にも出てくる怪物だ」

「地球に月の岩石を撃ち込む目的は?」

「ある物を手に入れる為だ」

「ある物?」

「奴らは無差別に地球を穴まるけにしているわけじゃない。

 月でルナジュエルを採掘し、それを地球に衝突させている。

 ルナジュエルは知ってるな?」

「月で発見された夢の鉱石」

「そう。それから作られる夢の合金、ルナチタンのおかげでワープエンジンが実用化され、ワープが現実のものとなったわけだが・・・・、

 地球に撃ち込まれたそれは、天文学的な爆発の高熱と圧力による圧縮によって、ルナジュエルからオレイカルコスと言うテクタイトへと生まれ変わり・・・」

『オレイカルコスだと』

「それを精製してオリハルコンを作り出している」

「お、オリハルコン?」

「名前ぐらいは聞いたことがあるだろ?

 奴らの兵器の装甲は全てオリハルコンでコーティングされている。最初は手も足も出なかったよ。だが、オリハルコンに唯一対抗出来る超金属、アダマンタイトの精製に成功した今は違う。

 我々には勝てる望みがある」

『やはりそうか』

 2人の会話に突然ディが割って入った。

「どうした?」

『地球を覆う金色の粒子を見た時まさかと思ったが、やはりオリハルコンを精製していたか』

「あの金色の雪とオリハルコンに何か関係があるのか?」

『あの雪は金だ』

「え?えぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」

『オレイカルコスからオリハルコンを精製すると余剰物として金が出来る』

「アトランティスのポセイドン神殿やポセイドン像が金で出来てたって話も、あながち嘘じゃないかもな」

 ミカヅキが会話を引き継ぐ。

「奴らはレヴィアタンを使って余った金を地球上に廃棄しているんだ。

 そして、それほど大量のオリハルコンを必要とする目的とは何か?を我々は推測し、ある仮説にたどり着いた。

 彼らは再び神に戦いを挑む為の準備をこの地球で整えているのだと」

『仮にそうだとしたら一番大切なピースが失われたままだが・・・』

「あの、さっきから不思議に思っていたんだけど」

 ディの言葉を唐突に遮ったのはカエデだった。

「なんで地球を棄てて他の星系に脱出しないの?

 確かに過去に見つかった地球型惑星はどれも移住に適さなかったし、ヘタをしたら宇宙の漂流者になる事も分かってる。

 けど、ここまで追い詰められたら・・・」

「勿論それも考えた。いや、実行に移した」

 ガブリエルが言葉を続ける。

「だが、奴らはそれを許さなかった」

「奴ら・・・シェオール?」

「そうだ。奴らは外宇宙にワープしようとする我々の船を次々に沈めた」

「だが、地球に戻る船は何故か攻撃しなかった」

 ミカヅキが言葉を引き継ぐ。

「そして我々は地球という名のかごのなかに捕らえられ、じわじわと真綿で首を締めるように殺され続け、抵抗も虚しく現在に至る。と言うワケだ」

 “ウィーン、ウィーン。”

 ミカヅキの言葉は突然の警報に遮られた。

「館長。ワープアウト60秒前です。

 ブリッジにお戻り下さい」

 インカム越しにクルーの声を聞きながら、ガブリエルは決断した。

「カエデさん。と呼べばいいのかしら?

 あなたを我々の基地に招待します」


                   〈第四章終わり。第五章へつつ゛く〉



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