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4:不安と婚約~私は空気~

 ざりざりと角砂糖に似たお菓子を口に運ぶ……見た目に反して甘酸っぱくて、ついつい手がのびる。


 エイさんは『歴代奥方様』について語りつつ、私のカップが空になるとさりげなくお代わりをついでくれるので、お茶もお菓子も摂りすぎてしまう。


 私の知りたかった前世話もあらかた理解したけど……


 「オルガ様は目鼻立ちのはっきりしたお美しい方で……」


 歴代の皆さまお美しいお美しいの連呼で、私に対しては『大変お可愛らしい』という評価が地味にダメージをくらう――くそう、そういうフォローが一番むなしくなるんだならな!


 それから……


 「…………」


 ヴェルガートさんの無言が居心地悪い。時折視線を感じるような気がしてちらりと様子を伺ってみるものの、特に目も合わないので気のせいなのだろうが――表情も崩れないので、何を考えているのか得体が知れない。


 というか、前世の詳しい話を聞いても一切思い出せないんですけど……

 記憶だけでなく、聞いた限りでは私、その奥さん達と見た目も性格も共通点なさそうだし。

 だったらここに居る意味なくない?ちょっと因縁めいたものがある他人じゃないか――


 「――やはり真珠ですね、ヒカリ様の真っ黒なお髪と瞳によく映えます。バレッタか、ティアラ……簪なども良さそうですね」

 「一通り揃えろ」

 「かしこまりました。ヒカリ様もよろしいでしょうか?他にお好みのものがあれば拵えさせますが」

 「――え?」


 やば、なんか聞かれたけど聞いてなかったや。

 エイさんは「ヒカリ様にご満足頂けるものをご用意いたしますね」と、胸をはっている。

 曖昧に誤魔化そうと思ったが、なんとなく嫌な予感がする……


 「なんのお話でした?」

 「もちろん、婚姻の儀の装いについてですよ」


 ヒェ~ッ聞いてないうちに結婚話になってた!あっぶない!


 「待ってください!」


 エイさんが目を見開いている……うぅ……こっち見るな……


 「そちらの事情はわかりました!でも私は覚えてないんですよ!だから急に結婚とか言われても……」


 エイさんの目力が凄くてたじろぐ。ほんと見ないで……


 「それに……人違いということはないとしても、私……その奥さん達と全然違うと思うんですが」


 奥さん達の存在って、結局記憶ありきだよね。

 相手の事とか、思い出とか、そういったものを覚えているから何の疑いもなく結婚しているんだろうけども、それがない私では価値も資格も動機もない。

 私にとってヴェルガートさんは会ったばかりだし、ヴェルガートさんも『私』のことは知らない。


 「だからご期待には沿えません」


 言った!ばしっとはっきり言ってやったぞー!……ヴェルガートさんの方は怖くて見れないけど。


 「ヒカリ」


 うおぉ……ゾクッとくる声だ。ちびりそうで、相手の方を見ずに「はい」と返事をした。

 カタンッと椅子から立ち上がる音がして、すっとこちらに近づいてくる……こっわ!


 「魂の番に記憶の有無は関係ない」


 背中にヴェルガートさんの気配を感じる。


 「言動も性格も姿形も」


 私の髪をさらりと掬い上げて顔を埋めている……愛情深い行動なのに、捕食されそうでぴくりとも動けない。


 「ただ、お(ヒカリ)であればいい」


 なぁーーーーーッ!――耳元で囁かれた殺し文句と吐息に叫びそうになる。


 何か言おうと勢いよく振り向いたが、言葉も思考も出ず、ばかみたいに口だけぱくぱくさせてしまう。


 「……そのような顔をする者もいなかったが、これはこれで愛らしいと思う」


 ちくしょうディスってるのか口説いてるのかどっちなんだ!そしてエイさんはにやにやしないで欲しい!


 「……ヴェルガート様、ひとまず婚約期間ということでいかがでしょうか」

 「そのようなものはいらん」

 「花嫁様はお気持ちの準備が整っておられないようでございます」

 「……いらん」

 「後々のお二人の関係にも影響するのでは?」


 結婚前提で話が進んでるけど、承諾してませんよー……とごにょごにょ言ってみるが、見事にスルーされている。当事者のはずが空気だ。


 「…………」

 「待つの、お得意でしょう?」


 ヴェルガートさんは眉間に深い皺を寄せて思いっきり睨んでいるが、エイさんはどこ吹く風だ。


 「…………三月(みつき)

 「一年でございます」

 「……半年だ」

 「一年でございます」

 「半年」

 「一年でございます」


 ヴェルガートさんが再度口を開きかけるも、エイさんはすぐに「一年でございます」 と被せる。


 しばし沈黙が訪た後、ヴェルガートさんは「一年後、覚悟しておけ」と私に告げて、早足で部屋から出ていった――なんで!私に!言うの!!


 「――っ!ヴェルガートさんすっごく怒ってるじゃないですかー!」

 「ヴェルガート様がヒカリ様に怒るわけないじゃないですか」

 「最後!なんか私に捨て台詞はいてましたけど!?」

 「ああ、『一年後が楽しみだねハニー』と仰ってましたねぇ」

 「言ってなかったけど!?」


 エイさんは「まぁまぁまぁまぁ」と言って、カラカラと笑った――干物だけに。

【どうでもいい情報】

エイさんの目は、現実のエイの鼻にあたる部分です。

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