小太郎 入院
「母ちゃん…腹…腹が痛い…」
「小太郎!どうしたの!」
小太郎は すごい汗をかいていた
「急性虫垂炎…俗にいう盲腸ですね」
「盲腸ですか…」
「すぐに 手術します」
「今からですか?」
「子供の虫垂炎は進行が早いんです」
「母ちゃん…怖い…」
やんちゃ坊主といえど まだ5歳の小太郎
「大丈夫 すぐ終わるから」
すぐ終わる 終わらないで 怖い 怖くないのではないが…
「母ちゃん…」
「小太郎 起きたね」
「ここ どこ?」
「病院だよ」
「あっ そうか!俺 腹痛くて…」
「もう大丈夫ですよ」
「んじゃ帰ろう!…痛てて…」
「小太郎 一週間入院しないとダメなんだって」
「えぇ〜!」
小太郎の病室は3人部屋
小太郎の他に1人 すでに寝ているようだ
「母ちゃん おはよ」
いつもより 心なしか元気がない小太郎
「小太郎 朝ご飯ですよ」
「えぇ〜!なんだこれ」
「昨日 手術したんだから我慢しなさい」
「母ちゃんのおにぎり食いたい」
「退院したら作ってあげるから」
シャー!
カーテンがあく
「あっ おはようございます」
「おはようございます」
小太郎と同室で 昨日寝ていた人
「おはよ 俺は小太郎」
「おはよう 小太郎くんって言うんだ 私は真子」
真子と名乗ったその子は小学4年生
「真子姉ちゃん」
「初めて お姉ちゃんって呼ばれた」
「兄弟居ないのか?」
「お兄ちゃん居るけど 下が居ないから」
「兄ちゃん居るのか いいなぁ〜!」
「小太郎くんは 兄弟居ないの?」
「居ない」
「そっか…小太郎くんは どうして入院してんの?」
「腹痛くなって なんて言ったっけ…?紋白蝶?」
「紋白蝶?…あぁ!盲腸ね」
「そう!そうとも言う!」
「真子姉ちゃんは何で入院してんだ?」
「なんでなんだろう?わかんないの…」
「そうなの?わかんないのか?」
「回診ですよ〜」
「小太郎くん 熱計ってね!」
「真子姉ちゃんはどこ行ったんだ?」
「真子ちゃんは 違うところで診察受けてるんだよ」
「ふ〜〜ん」
「母ちゃん 後どんだけ ここに居んだ?」
「後 6日ですよ」
「後6回寝たら帰れんのか?」
「そう」
「長いなぁ…」
「小太郎くん これ食べる?食べさせていいのかなぁ?」
「さっき先生に聞いたら 大丈夫って言われたけど…真子ちゃんいいの?」
「お母さんがいっぱい持って来てくれたから」
「んじゃ 小太郎いただく?」
「真子姉ちゃん ありがとう!」
真子姉ちゃんからケーキのお裾分け
「美味い!」
小太郎はクリームを口の周りにデコレーションしながらケーキをペロっと平らげた
それを微笑んで見ている 真子姉ちゃん
「小太郎 母ちゃんちょっと家に帰って着替え取ってくるから待ってられるでしょ?」
「大丈夫だぞ!」
「真子ちゃん ちょっと小太郎お願いします」
「はい!小太郎くん お姉ちゃんと一緒に居ようね」
「おぅ!母ちゃんゆっくりしてこい!」
母ちゃんが病院を出ようとした時
「小児科病棟の真子ちゃんなんだけど…長くないみたい…」
「小児癌は進行が早いから…もうちょっと発見が早ければ…」
看護師のヒソヒソ話が聞こえた
(えっ…真子ちゃんって あの…真子ちゃん?)
「先生 あの子最近変わったんです 明るくなったっていうか…同室の子のおかげかと」
「そうですか 真子ちゃんにとってプラスになってるなら…ターミナル(終末期)を迎えた今…」
「真子 具合はどう?」
「あっ お母さん!」
「え〜と…」
「俺は小太郎だ!」
「小太郎くん 真子と仲良くしてくれてありがとね」
「真子姉ちゃん優しいから」
「小太郎くん 今度は何描く?」
「ん〜…怪獣!」
「怪獣か…難しいなぁ…」
「こんな感じかな?」
「おぉ!真子姉ちゃん上手いなぁ!」
「そぉ?」
2人のやり取りを微笑み 見ている真子姉ちゃんの母親
小太郎退院まで後2日
「小太郎くん 熱計ってね」
「なぁ!今日 真子姉ちゃん遅いなぁ?」
「ん?真子ちゃんならそろそろ診察終わると思うよ」
「そうなのか?」
「小太郎くん」
「おぉ 真子姉ちゃん!」
「今日は何して遊ぼうか?」
「小太郎 真子ちゃんに遊んでもらってたの?」
「あっ!母ちゃん!」
「こんにちわ」
「真子ちゃん こんにちわ いつもありがとね」
「いいえ 小太郎くんには いっぱい元気をもらってるから」
「あっ!小太郎!明日退院していいって 今 先生から言われたよ」
「えぇ!もう退院なの?」
「あれ?小太郎まだ入院していたいの?」
「だって…」
小太郎が真子姉ちゃんを見る
「小太郎くん 退院おめでとう!私も早く治して退院するから そしたら今度はお外で一緒に遊ぼう」
「うん!真子姉ちゃん 約束だぞ!」
小太郎と真子姉ちゃんは ゆびきりげんまん をした
「さぁ もう寝なさい」
「えぇ!まだいいでしょ!」
「小太郎くん そろそろ就寝時間で看護師さんまわってくるよ だからもう寝ないと」
「真子姉ちゃんがそういうなら…」
「母ちゃん 真子姉ちゃん おやすみ!」
「小太郎くん おやすみ」
「はい おやすみ」
「小太郎くん…小太郎くん…」
「ん?真子姉ちゃん…」
「小太郎くん お姉ちゃんそろそろ行かないと…」
「どこに行くんだ?」
真子姉ちゃんは黙って微笑む
「小太郎くん…ありがとうね 最後に 弟 出来たみたいで楽しかった」
「真子姉ちゃん 何言ってんだ?」
「外で遊ぶ約束…守れなくてごめんね」
「真子姉ちゃん?」
「小太郎くん バイバイ」
「どこ行くんだよ!真子姉ちゃん!真子姉ちゃ〜ん!」
真子姉ちゃんがゆっくり消えた…
「小太郎!小太郎!…」
「あっ!母ちゃん…」
「真子姉ちゃんが…」
小太郎は真子姉ちゃんのベットを見る
「あれ?真子姉ちゃんは?」
「真子ちゃんは…さっき退院して行ったよ…」
「えっ!真子姉ちゃん 退院したのか?なんで母ちゃん泣いてんだ?」
小太郎の母ちゃんは泣いていた
「母ちゃん 泣いてなんかいないよ」
「そうか?な〜んだ…真子姉ちゃん退院しちゃったのか…なら 明日 俺 退院したら遊べるな!」
「ん〜…真子ちゃんね…退院して遠くに行くから 小太郎とは遊べなくなっちゃったって…小太郎にごめんねって言ってたよ」
「なんだよ!ゆびきりげんまん したのに」
「小太郎 帰りますよ」
「母ちゃん…真子姉ちゃん 退院したんだよな?」
「…そうですよ……」
小太郎は 真子姉ちゃんがいたベットを眺めていた
「そうだよな!真子姉ちゃん 退院したんだよな!」
「真子姉ちゃん!バイバイ!」
小太郎は真子姉ちゃんのベットに手を振り病室を出た