交響の前奏曲-2
目が覚めた。同時に、愕然とした。
眼前に、『青い球体』が見えた。
あれは何だ?
その正体を、私は知っていた。
しかし私は、その存在を否定した。
――嘘だ。あり得ない。
結局、理解せざるを得なかった。
私は、宇宙に放り出された。
再び、宇宙の創造者として、傍観者としてこの場所にやってきた。
――死んだのか? 育場零也は・・・死んだのか?
また実体のない存在になってしまった。そのことが、何よりの証拠であった。
――知りたい。何がどうなったのか。
その思いは、人を知りたいと思った時と同じもの。しかし、どこか違う気がした。
私は意識体のまま、地球に、日本に降り立った。
探し回った。育場零也を。私の人間の体を。
重大な怪我をしたら病院へ搬送されるはずだ。
――何処の?
分からなかった。己の無知が悔しかった。
がむしゃらに街を駆けた。だが、駆けるための足はない。
それが、私が人間でないことを、否応なく実感させた。
――まだ、死にたくない・・・!
『人間の私』が叫ぶ。
――何故だ?
『神の私』が囁く。
答えは出ない。
ふとその時、見知った顔を見かけた。
一誠だった。私の脇を駆け抜けていく。
――追っていこう。
――だから何故だ?
2人の私による議論は続く。
だがそれでも、追って行くことにした。
彼がたどり着いたのは、とある病院だった。
――ここに私の体が?
彼は受付で一言二言交わすと、エレベーターに乗り込む。
付いていく。
そしてたどり着いた。私の体に。
その病室には、両親がいた。
私はベッドに寝ていた。
一誠は私の両親と何やら話すと、両親が席を立ち、病室の外に出ていった。
そして彼は、私に話しかける。
聞こえるように、近寄った。
「・・・よう。お前、トラックに轢かれたんだって? ・・・馬鹿なのか? ・・・そうやって、逃げんのかよ」
突然の罵倒に、戸惑う。そして同時に、怒りを覚えた。
――何でお前にそんな風に言われなければならないんだ。
そう言い返したかったが、出来なかった。
「意識不明の重体? 頭部に損傷? ふざけてるのか? そのまま死ぬってのか? ええ?」
突然、一誠の声に変化が訪れた。
「・・・っざけんなよてめぇ!」
明らかな怒気が混ざっていた。
「てめえが死んだら誰が悲しむと思ってるんだ!? 親だけじゃねえよ! お前が好きだって言ってる女がいただろうが! 忘れたのか!? 神だか何だか知らねえが、勝手に死んでんじゃねえよ! 神なら復活でも何でもしてみろよ!」
彼の声には、怒気のほかにもあるものが混じっていた。
『人間の私』は、その正体に気が付いた。
――心配だ。
「なあ・・・何とか言えよ・・・お前が帰ってこないなら、俺が瀬奈を取っちまうぞ・・・」
その言葉に、『人間の私』が強く反応した。
「俺は、あいつが好きだったんだ。ずっと前からな。告白もした。でもフラれたよ。お前のことが好きだからってな・・・嫉妬したよ。一時期はお前を恨んだりもした。けどな、決めたんだよ。・・・瀬奈を応援するってな。・・・その瀬奈に告白までさせておいて、何だよこのザマは。おい神様とやら・・・もう一度だけ言う。このまま死ぬんじゃねえぞ。もし死にやがったら、俺はお前を許さねえ」
その言葉を最後に、一誠は黙り込んだ。
彼はそのまま部屋を出ていこうとしている。
――駄目だ。瀬奈を取られるのは。
――何故だ?
――知らない。だけど、駄目なんだ。
――根拠なしか。話にならないな。
その時ふと、ある言葉を思い出した。
『私たちから見たら、零也君はとっくに感情を持ってる。それを受け入れてないだけだよ』
『あのなあ、そもそも感情なんて理解しようとしてる方が馬鹿らしいと思うんだが』
――感情のままに行動して、いいのだろうか?
――やめておけ。後悔するぞ。
悩んだ。『神の私』と、2人の友人。どちらを信じればいいのか。
答えは直ぐにに出た。
そして、強く願った。
――人間として、育場零也として、私は・・・
―――生きたい・・・!
私の中から、何かが欠落していく気がした。
そして、私は、急速に意識を取り戻していく。
目を開けた。天井が見えた。
全身が痛む。特に頭が。鈍器で殴られたかのように。
それでも私は視線を動かした。
あれから数秒と経っていない。
部屋を出ていこうとする一誠の背が見えた。
その背に、語り掛ける。
「・・・おい・・・待てよ・・・」
怪我の為か、一言発するのも一苦労だった。しかしそれが、生の実感を生んだ。
――私は、生きている・・・! 育場零也はまだ、死んでない・・・!
その思いは、『喜び』という感情に変わった。
一誠が振り向く。驚愕に目を見開く。
「・・・残念、だが・・・瀬奈は・・・渡せない・・・」
そんな言葉が、口をついて出た。
あの時私から欠落していったもの。それは、『神の私』。
今ここにあるのは、完全な『人間の私』。
もう、余計な枷はなかった。
「・・・ざまあ・・・見やがれ・・・」
悪態をつくのは生まれて初めてだった。
私はそれを言い終えると、不思議な達成感が生まれた。
そしてその達成感と共に、私の意識は、闇に没した。
こんにちは。灰色猫のクリストファーです。
なんかもう、後書きに書けることがなくて困ってます(笑)。
次回、『恒久不変の交響曲』。
後2話で完結です。今しばらく、お付き合いください。




