矛と盾の鎮魂曲-3
ホームルームが終了し、何人かの生徒は席を立つ。
人気が少なったところで、二人と向かい合う。
「それで、お前は何を悩んでいるんだ?」
「力にはなれないかもしれないけど、教えて」
「・・・。・・・分かった。これから話すことはすべて真実だ。・・・実は、私は・・・」
そこまで言って、言い淀んだ。
――本当に話してしまってもいいのか?
この時、私の中には得体のしれない感情が渦巻いていた。
「・・・当ててやる。お前、怖いんだろ? それを話すのが」
「怖い・・・?」
私には恐怖というものはよく分からない。仮にそうだとして、何に恐怖しているというのか。
――これを話したら、二人は私を見限ってしまうのではないか。
・・・そういうことなのか?
「その、私は・・・」
こうなれば、勢いに任せるほかなかった。
「君たちから見ると・・・その、『神』に当たる者だ」
「ふうん、それで?」
え?
「・・・驚かないのか?」
「だって、零也君前からなんか不思議なところあったし・・・今さら何を言われてもね・・・」
「お前さ、自分で気が付かなかったのか?」
「何が?」
「お前、俺たち以外の連中からは教師を含め、なんていうか・・・そう、畏怖って言うのか? されてたんだぞ?」
「何故だ?」
「異常な計算スピードとか、学者顔負けの天文学の知識とか。零也君時々訳の分からない計算をずっとしてたんだよ」
・・・なるほど、癖だろうな。
人間になって、紙に書くということを覚えた。恐らく私は星の創造の試算を延々続けていたのだろう。
「だからさ、今さらお前に何を言われても驚かねえよ」
「そうか・・・」
「でも、本題はそこじゃないよね」
「え?」
「零也君が神でって言われても、正直まだよくわからない。だって見た目は普通の人間だもん」
「まあ、今は人間だからな・・・」
「ねえ、あなたは何に悩んでるの?」
「・・・」
先のような得体のしれない感情は感じない。きっと何を言っても、この二人は受け止めてくれる。そう思った。
「私には、人の感情が理解できないんだ・・・」
「はあ・・・?」
「どういうこと?」
「私は人間に興味を持ち、知りたいと思って人間になった。だがどれだけ考えようとも感情については理解できなかった。祖母が死んだときも、まるで悲しむことができなかった・・・」
「・・・ねえ零也君、今、どんな風に思ってる?」
「え・・・?」
「君は、今『悔しい』と感じているんじゃないの? だとしたらそれは、立派な『感情』だよ」
「あのなあ、そもそも感情何て理解しようとしてる方が馬鹿らしいと思うんだが」
何だ? この二人は何を言っているんだ?
「私たちから見たら、零也君はとっくに感情を持ってる。それを受け入れてないだけだよ」
「どういう、ことだ・・・?」
「だーかーらー! 細かい感情なんて俺たちにもわからないって言ってんの! 後から思い返して『俺はあの時悲しんでいたのか』程度だって。その場その場で理解できるほど単純じゃない」
「・・・うん。感情なんて、『無意識』だもん」
『無意識』・・・。それは私が長々考えてきたことだった。
『無意識の人間としての私』。それは、そもそも把握できるものではない。この二人はそう言っているのか。『意識体である私』が神であろうが、人間だろうが。
「そうか・・・」
考えるだけ無駄だったと。
「あーでも、そう考えると納得しちゃうな・・・」
「そうなるよな・・・。なあ、瀬奈、この機会に・・・」
「それはダメ」
「ちぇ・・・」
・・・2人は何の話をしているんだ?
一誠が俺の肩をたたき、耳元で囁く。
「ま、今のお前には荷が重いかもしれないが、頑張れよ」
「お、おいそれはどういう・・・」
言い終わる前に、一誠はこちらに手を振りながら教室を出て行った。
気づけば、教室には私と瀬奈の2人しかいない。
「ねえ、零也君」
「何だ?」
「私さ、こんな話したことあったよね。『好きな人がいるけどどの人は気が付いてくれない』って」
「ああ・・・」
「私ね、分かったの」
「何が?」
「その人には直接言わなきゃ伝わらないんだって」
「?」
瀬奈はこちらに向きなおり、こう続けた。
「私が好きな人っていうのはね、零也君、あなたなの」
こんにちは。灰色猫のクリストファーです。
かなり更新が遅れてしまいましたが、こうして無事投稿できました。
多少の矛盾には目をつぶってください・・・
次回『交響の前奏曲-1』。お楽しみに。




