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矛と盾の鎮魂曲-2

 気が付けば冬休みは明けていた。


 あれから数日間、私が何をしていたのか、まるで思い出せなかった。

 ノートを開けばきちんと板書の写しがとられている。どうやら学校には来ていたようだ。読み返すと、確かにその内容は把握していた。

 恐らく、私は何も考えずに無意識的に登校し、授業を受け、時間になったら帰宅していたのだろう。


 確認をとることにする。


「瀬奈、少しいいだろうか?」


 隣の席で次の授業の準備をしていた瀬奈に話しかける。


「ん? どうしたの?」

「実は、私が今まで何をしていたのか思い出せないんだ」


 だからここ数日間の出来事を教えてほしい。そう伝えた。

 その答えがこうだ。


「・・・何て言うのかな。その、ロボットみたいだった」

「ロボット?」


 ロボットっていうとあれだ。プログラムで動く作業機械やらなんやらの、人間の英知の結晶の一つだ。


「いつもより遅めに学校に来て、普通に授業受けてた。でも、話しかけても返事はくれなかった。・・・おばあさんが亡くなってショックだったんだよね?」

「・・・・・・。」


 その言葉に私は押し黙る。


「ご、ごめんね! 思い出させちゃった?」


 ・・・違う。違うんだ。

 私がショックなのは、祖母の死ではなく、それを悲しめない自分なんだ・・・。


 そう、言おうと思った。言えなかった。言えるはずもなかった。


「そ、その・・・辛かったら、言ってね。話だけは聞けると思うから」


 彼女は私を気遣ってくれているのだろう。だからこそ『神としての私』の心は強く傷んだ。

 いっそ話してしまおうか。私の正体も、感情も、何から何まで・・・。


「言えよ」


 その声は一誠のものだ。いつの間にか、私の傍らにやってきていた。


「今気が付いたけどよ、お前さ、今まで一度だって悩みなんか話してくれなかったよな?」

「悩み?」

「そうだよ、零也君、いつも私たちの言うことは聞いてくれるのに・・・」


 そうだった。今まで2人には何度か悩みを相談されたことがある。


 一誠は部活が上手くいかないとか、勉強との両立が厳しいとか、そんなことを何度も聞かされた。私はその度にサッカーの効率の良い練習方法を調べたり、疲れの上手い取り方、ノートの覚えやすい書き方なんかをいくつか提案したりした。

 中には、ただただ愚痴を聞いてほしいというだけのこともあった。本当に聞くだけだっが。


 瀬奈には恋愛相談をされたことがある。

 『私、好きな人が出来たんだけど、相手が一向に振り向いてくれないというか気づいてくれない』と何度か聞かされたものの、生憎私はその方面には徹底的に疎かったのでアドバイスはできない。むしろ私がその感情を知りたい。


 私はどうだっただろうか。少なくとも相談事をした覚えはない。

 『神としての意識体』である私には分からなかった。しかし、一誠に『言えよ』と言われたとき、私の中で何かが動いた気がした。


 ・・・『人間としての無意識体』が何かを感じ取ったのか? 私には分からない。話していいものだろうか? そもそも話したとして、信じてもらえるだろうか?

 気づけば、そんな思考を巡らせていた。


 私は1人だった。人間として転生する前はずっと。だから誰かから相談されることも、相談することもなかった。

 神であったとき、決して感じることのなかった、あるいは出来なかった感情。それが私の中を満たして行く。


 ――『悩みを共有したい』。私は初めて、人間的な感情に気が付いた。

 だが同時に新たな感情が芽生える。


 ――『不安』だ。

 こんな話をしたら笑われるんじゃないか、嫌われるんじゃないか。


 だから私は、回答を引き延ばす。


「今日学校が終わったら、話すよ」

「・・・そうか。じゃあ、後でな」

「無理はしないでね」


 2人が納得したのかは分からない。だがひとまず自身の席へ戻っていく。


 今の私には、『勇気』とやらが必要らしい。

 覚悟を決めよう。そう思った。


 ――私は今日、本当の意味で人間になれるのかもしれないのだから。

 こんにちは。灰色猫のクリストファーです。


 ※後書きの補足が鬱陶しいとの意見があったので後書きに補足は書かないことにします。


 少し書き方を変えてみました。読みやすくなっていればよいのですが・・・。


 次回、『矛と盾の鎮魂曲-3』お楽しみに。

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