開演の狂詩曲-3
「じゃあ、また明日」
「うん、冬休みだけどまた明日」
俺は瀬奈と別れ、自宅へ向けて自転車をこぎだす。
背負っているリュックサックが4冊の本―――しかも揃いも揃って厚い―――のせいでやたら重い。
結局その日は、件の小説を読むだけで終了。
適当に内容を把握しつつサクサク読み進めるつもりがつい熟読してしまった。
さすが人気作だけのことはある。
問題は、私がその小説のどこに魅了されたのか分からないということだ。
私の脳は現在人間のそれであるので、意識は神としてのものであっても思考形態は人間と同一のものである。
それ故に人間の恋愛感情を描き出したものであっても純粋に楽しむことができる。
だが、ここで邪魔をするのが神としての意識だ。
人間の思考回路を持つとはいえ、それは無意識下の話であり、私の意識は何度も言うように神としてのものだ。
例えば、目の前に天体図鑑があるとしよう。
それを見て『人間』の私は『素晴らしい』『美しい』と思ったとしよう。
しかし『神』としての私から見ればそれは『ただの石ころ』なのだ。
お分かりいただけるだろうか? このとき私が感じ取るのは『無意識の人間』の考え方ではなく『意識である神』の考え方なのだ。
この場合は最終的に、『ただの石ころなのだが、人間としての考えの影響で謎の違和感を覚える』という状態になる。
今回の場合、『神の私』は恋愛というものを理解していない。
しかし『人間の私』は理解している。
よって、『この小説の面白さはよく分からない。しかし何故か引き込まれる』状態となる。
「・・・零也、・・・零也!」
はっとした。
「何をぼけーっとしているのだお前は」
「どうかしたの? 悩み事でもあるの?」
気が付けば私は自宅の居間で茶碗と箸を片手づつに持ち、長々と考え事を続けていた。
いつの間に家に着いたのかまるで記憶がない。
先ほど声をかけたのは私の目の前にいる、両親である。
「すみません・・・」
「まあいい。さ、食べよう。・・・母さんや、焼酎は残ってたか?」
「はいはい。今取ってきますよ」
さて、食卓に並んだ本日のメニューは和食だ。
ごはんと味噌汁をはじめ、秋刀魚の塩焼き(大根おろし付き)、ほうれんそうのお浸しだ。
・・・うむ、美味い。
こう、五感で判断できるものであれば理解は容易なんだがな・・・。
しかしこの、食事というやつは素晴らしい。
生物として食事をとるのは当然の行為であろうが、そんなものを体験したのはもちろん人間になってからが初めてだ。
その生物の中でも、この行為をもはや芸術の領域まで昇華させたものは人間以外にいまい。
「・・・ところで零也、これで二学期も終わったぞ。そろそろ自分の進路を考えているのか?」
「・・・・・・・・・。」
そうだった。そんな問題があった。
「・・・分かりません」
「お前のことだからそういうと思ったけどな、いい加減決めないと立派な社会人にはなれんぞ?」
「はい」
それは重々承知だ。私が人間である以上、その選択からは逃げられない。
「まあ、正直なところお前ならどんな進路を選んでも何とかなると思ってる。だから何かやりたいことがあるんなら遠慮なく言えよ」
「はい」
母に目をやると、にっこりと笑顔で答えてくれた。
本当に、いい家に生まれたな・・・。
夕食を終え、風呂に入った。
後は適当な時間に寝るだけだ。
もちろんやることは一つだ。学校から借りてきた4冊の本をリュックサックから取り出す。
歴史書の1冊目を開き、読書を開始した。
―――私はこのとき既に気が付いていた。
だがそれを認めようとしなかった。
それを認めてしまえば、きっと私は壊れてしまうから―――
こんにちは。灰色猫のクリストファーです。
これで大体の状況説明は終わりです。
彼が人間の感情をどう捉え、どう感じてきたか。
今後はそんな話を主軸にストーリーを進めます。
次回、『矛と盾の鎮魂曲-1』お楽しみに。




