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開演の狂詩曲-1

 私が生まれたのは『日本』という国の育場家だった。別段裕福でもないが貧乏でもない、一般的な家庭だ。


 私はそこで16年と9か月人間として生活してきた。


 育場の家に生まれ、普通の人間の子として育てられ、幼稚園や小中学校、高校1年を経てここにいる。


 日本特有なのかもしれないが、この教育制度には驚かされた。

 なるほど、技術が進歩するわけだ。


 そしてこの教育制度によって鍛えられた私の成績が今返されたところである。

 いわゆる通知表というやつだ。


 高校二年生の二学期の通知表。

 毎度毎度そうだが、そこらかしこで見せ合いっこが行われ、クラスの生徒たちはその結果に一喜一憂していた。


 担任男性教諭の「静かに」という声も届きはしない。

 それが分かっているのか、先生も苦笑いを浮かべていた。



「なあ、お前どうだった?」



 話しかけてきたのは、本来割と遠くの席にいるはずの響一誠ひびきいっせいだ。


 二枚目でよく整った顔立ち。髪型はスポーツカットで純粋な黒。この学校の制服である青のブレザーと赤のネクタイ、チェックのズボンを着用している。もちろん私もだ。


 保健体育の成績は(体育に助けられて)良いようだが他は壊滅的。サッカー部で、根っからの運動バカ。よくこれでこの学校に入れたものである。頭は悪いが勘は働く。



 彼とは幼稚園の頃からずっと同じ進路を辿ってきた、人間として初の『友人』というものである。


 彼とはなんだかんだ上手くやれている。この友情というものが何なのか、これは私の研究テーマの一つだ。


 私は最初友人というものを恐らく他の動物でいうところの群れのようなものと判断していたが、どうも違うらしい。狩りをするためだけの協力関係といったようなものではなく、彼といると不思議な安心感と心地よさを覚える。



「ほら」


「どれどれ・・・うっわ、今回もとんでもない成績だな・・・」


「そうでもない。保健体育は3のままだし英語に至っては2に落ちた」


「いやいや、それ以外は全部5じゃねえか! さりげなく前回4だった国語も5になってるし!」



 保健体育は運動、英語は致命的な相性の悪さにより酷いありさまである。


 ちなみに、最も得意な教科は数学やら化学やらの理数系に分類されるもの。なに、このぐらい星の創造の計算に比べたら欠伸が出るほど簡単だ。


 物資の呼び名が違ったり、数字の定義が鬱陶しかったりはするが。



「それで、君はどうなんだ?」


「・・・まあ、見ての通りだぜ」



 すっと差し出される彼の通知表を遠慮なく受け取る。



「・・・これは、酷いな」



 保健体育は5だが他はほぼ全て2。芸術に至っては1だ。



「やれやれ、ここは進学校だぞ? よく入れたな」


「俺が中学の頃は成績良かったの知ってるだろ? 試験前に全力で勉強したしな。お前こそ、その英語力でよく入れたな」


「内申点はギリギリだったがな。英語は仕方がないから過去問題と予想問題を丸ごと暗記した」


「・・・うわぁ・・・初めて聞いた話だけど、それはそれで化け物じみてるぞ・・・」 


「ふうん・・・なるほどねー」


「うわっ、人の成績を盗み見るなって!」



 隣の席から一誠の成績表を覗き込んできたのは舶多瀬奈はくたせなだ。


 すっきりとした目鼻立ちの少女で、髪はやや茶色味を帯びた色の腰ぐらいまでのロングストレート。女子制服である男子と同色のブレザーと、赤い色のリボン、チェックのスカートを着用している。


 彼女とは中学時代からの付き合いだ。成績はというと・・・


「はい、これ私の通知表」


「うう・・・お前らのなんて見たくないはずなのに見ちまうんだよな・・・。国語と化学と日本史と現代社会が4で保健体育が3、他が5か・・・」



 ・・・とまあこんな感じである。中学時代は常に2位3位を争うライバルだった。1位は常に不動で別の奴がいたが。

 英語さえなければそいつにさえ勝っていたかもしれないというのに。


 私もそうだが、彼女は特に部活等に所属していない。



 もはや形だけとなった授業が終わり、何名かの生徒は早々に教室を出ていく。これで完全に二学期終了となる。


 二学期と三学期の境目となる明日からは2週間の冬休みとなる。・・・のだが、



「はあ・・・明日から冬休みだってのに、全く盛り上がれないよなあ・・・」


「仕方ないよ。進学校だもん」


「なに、さぼりたければさぼればいいだろう。その代わり、君の授業が・・・」


「待て、それ以上言うな。俺はお前が冷たい奴だと思いたくない」



 そう、明日からは冬休みだが、通常通り授業が行われるのだ。


 あくまでも冬休みなのでさぼっても直接的な影響はない。


 だが、冬休み明けに容赦なくその続きから授業が再開されるため、実質強制参加の授業だ。これは夏休みや春休みも同様だ。



「まあまあ、とりあえず早く帰って体を休めなよ。今日は部活ないんでしょ?」


「ああ、そーだな。んじゃ、俺先帰らせてもらうわ・・・」



 そう言って一誠は立ち上がり、



「じゃ、また明日な」


「うん、また明日」


「気をつけて帰れよ」


「おう」



 そう言って立ち去った。


 気が付けば教室内にはほとんど人がいない。



「さて、と。零也君はどうするの? 帰る?」


「いや、図書室へ行く」


「そうなんだ。・・・ねえ、私もついて行っていい?」


「・・・? ・・・構わないが」


「うん。ありがと」


「・・・?」



 彼女は時折このように私についてくる。だがその意図が読めないのだ。


 図書室についてくることは前にもあったが、彼女は私の隣に座っているだけで特に何もしていなかった。


 図書室以外にも学食でもそうだ。私は基本弁当持参だが、弁当がない場合は学食を利用する。その度に彼女はついてきて、何故か毎回私と同じメニューを注文する。


 ・・・偶然か?


 しかし、考えてもわからないことを考えても仕方ない。



 ・・・さて、今日も人類の歴史を探求するとしようか。


 そう思い、教室を後にする。

 こんにちは。灰色猫のクリストファーです。

『開演の狂詩曲-1』楽しんでいただけましたか?


 前回の内容から一変し、主人公零也の人間としての日常を描いたものになります。


 今回はあまり描写がありませんが、彼が人間に対してどのような思いを抱いているのか、そんな話が続きます。


 そして今回、何か察した方がいると思います。今後はそういう方向のストーリー展開になるかもしれませんし、ならないかもしれません。


 それはあなた自身の胸中にしまっておいてください。


 余談ですが『狂詩曲』とは別名で『ラプソディー』と言います。

 自由奔放で民族的、そんなものを叙事的に表現した楽曲のことです。


 次回、 『開演の狂詩曲-2』 お楽しみに。

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