雷騎と留美香
「とりあえず遅刻スリッパって呼ぶのはやめろチビ!」
「あんたまたチビって言ったわね!私にはお母さんから貰った留美香って綺麗な名前があるんだからそう呼びなさいよ、呼ばない限りは私は一生あんたのことを遅刻スリッパって呼び続けるわ。それに私だって好きでこの身長になったわけじゃないわよっ」
げしっ
「痛っ!お前また蹴りやがったな、さっきまでの塩らしい態度はどこにいったんだよ」
「むかついたから蹴ったのよ、何か悪い?」
何でこいつは口より先に手が出るんだ、一体どんな育ち方したらこうなるんだよ。
「最低だな。口より先に手が出るとか、」
「ふんっ人が気にしていることを言ってくるからよ、少しはデリカシーを覚えたらどうなの?」
「あぁ~ごめんごめん留美香様がそんな些細なこと気にしてるとは思わなかったからさ」
「何?私のこと馬鹿にしてるわけ?あんたに様ってつけられると鳥肌がたつからやめなさい」
「それは悪かったな、留美香、ほらお望み通り名前で呼んだから、俺のことも雷騎って呼べよ。」
「そっ……それは出来ないわ」
「なんでだよ、人には命令して名前を呼ばせておいて自分はダメとかどれだけわがままなんだよ。」
「そっそれはだって……いじゃない」
こいつ急にうつむいたと思ったら今度は何かぼそぼそと言ってるぞ、本当にさっきまでの威勢はどこにいったんだよ。
「ん?なんだって?声が小さくて聞こえないんだけど」
「だから、男の子を名前で呼ぶなんて恥ずかしいじゃない!言わせないでよ!/////」
「!?」
急に顔を上げたかと思ったら、もの凄い赤面した顔で予想外のことを言われた。俺はその顔を見た瞬間不覚にもドキッとしてしまった。
「それを言ったら俺だって女の子の名前を呼ぶなんて恥ずかしいんだぞ!」
「嘘よ、あんたは平気な顔して呼んでたじゃない!恥ずかしがってる姿なんて見えなかったわ」
「さっきまでは羞恥心よりも怒りが先に来てただけだ、お前が予想外のこと言ったせいでちょっと冷静になったから今更恥ずかしくなってきただろ!」
「私のせいにしないでよ、信じられないし、納得いかないわ、私だけ恥ずかしい思いをするのはフェアじゃないわ、だから本当にあんたが恥ずかしがってるか確かめてあげるわ」
そういうと雪白は俺にグイグイと近づいてきた。近い近いっ!
女の子特有の甘い香りが俺の鼻腔をくすぐってくる。すごくいい匂いだ、それにさっきまでは意識してなかったけど間近で見ると、雪白ってかなり可愛いんだよな。
「ほら、さぁ、私のこと留美香って呼びなさい!早く」
ちょっと待てよそんなに顔を近づけられたら、めちゃくちゃ恥ずかしいだろうが、やばいすごいドキドキしてきた。
「プイッ…留美香」
流石に顔を見ながらは恥ずかしすぎる、一応こいつの要望通り名前を呼んだんだからこれでいいだろ。これでダメだったら恥ずかしさで死にそうなんだけど……
「どこ向いて言ってるのよ、私は目の前にいるじゃない、私の顔を見ながら言いなさいよ」
ダメだった~、マジで勘弁してくれよ、さっき呼んだだけでもかなりドキドキしてるってのに、でもこいつ引く気なさそうだし、しょうがない俺は意を決して正面を向き、目の前の雪白の名前を呼んだ
「留美香、これでいいだろ/////」
「そんなに顔を真っ赤にされると、私まで恥ずかしくなってくるじゃない////
雪白改め留美香は真っ赤にした顔を背けるとこちらを伺うように見てきた。
チラッチラッ
その仕草はやめてくれ、身長差があるから上目づかいに見えるんだよ…このままだと俺の精神衛生上とてもよろしくない。
「そんなことより近いからそろそろ離れてくれないか////」
「そっそうね…確かに近すぎたわね////」
はぁ、よかった、離れてくれて、近いままだとずっと顔があかくなってただろうしな。
………
それから俺たちはお互いの顔の熱が冷めるまで無言の状態が続き、少し時間が経つと顔の熱は引いてきた。それはいいんだが、一度無言の状態が続くと、話題を切り出すにも少し勇気がいるよな。何か話した方がいいんだろうけど何か話題は……あっそういえば、俺留美香に名前呼んでもらってないぞ。俺だけ恥ずかしい思いするのはフェアじゃないよな。留美香にも恥ずかしい思いをしてもらおうじゃないか。
「なぁ、留美香」
意気込んでみたけど、やっぱりまだ名前を呼ぶのは恥ずかしいな、まぁ、言い続けてたらその内慣れるだろうから今は我慢だ。
ビクッ
「なっなに?」
どうして驚いてるんだ?
「俺だけ恥ずかしい思いをするのはフェアじゃないと思うんだ」
「?いきなり何、あんたは何が言いたいの?」
「留美香はさっき男の名前を呼ぶのは恥ずかしいって言ってたよな」
「えぇ、言ったわよ…ってまさか!?」
「あぁ、留美香が思ってる通りだよ」
「無理無理無理、無理よ無理、出来ないわ!」
「恥ずかしいからって言うなら俺はそんな思いをしながら呼んだからな、出来ないとは言わせないぞ。」
俺はさっきの仕返しとばかりに少しずつ留美香に近づいていく。一歩近づくごとに留美香は後ろに下がっていく。あぁ、やられる側だと恥ずかしすぎて嫌だったけど、やる側になると楽しいもんだな。
「なんで笑顔で迫ってくるのよ、こっちに来ないで!」
留美香はそういうと自分の体を抱くようにして後ろに下がっていった。
「それは出来ないなぁ、今すぐ名前を呼んでくれるなら、近づかないんだけど。」
「そんなこと言われても無理なものは無理なのよ、私はあんたとは違うの!こっ来ないで」
「ふ~んそうか、そんなに嫌か~でもなこっちには考えがあ…」
「よ~し皆そろそろ他クラスとの交流の時間になるぞ~また少し時間を与えるから各々自分のペアを見つけてくれ」
「!?ペアの人を待たせるわけにはいかないから、私は先に行くわ!」
言うが早いか、このタイミングを逃すまいとするかのように、留美香はすごいスピード走り去っていく。
「あっ、おいちょっと待…」
人ごみに隠れるように走っていった為留美香はすぐに見えなくなってしまった、いなくなるの早いな。くっ、宗兄めなんてタイミングで放送をするんだ、もう少しで仕返しできると思ったのに、後ちょっとだったのにぃ~
煮え切らない気持ちが残ったが、俺も今度はペアに迷惑をかけるわけには行かないから、探しに行くか。留美香とは同じクラスなわけだから、いくらでも話す機会はあるしな。
さてと俺の番号をもう一度確認するか、えっと50番か、今度は一体誰と話すことになるのかな。
出来れば知らない人は嫌だな。知ってる人でありますように、無駄だとは分かっていても俺は一応願ってみた。