花見の始まり
俺たちがグラウンドへに着くとすでに大勢の生徒がグラウンドに集まっていた。
そんな中、バケツを持った生徒が一人先生と一緒に歩く姿が目立たないわけがない!とか思っていたが、どうやらあまり注目を浴びることはなかった。意外と皆友達同士で話が盛り上がっていたみたいだ。
「雷騎、持ってきたバケツはそこに置いておいてくれ」
「ほーい了解。よいしょっと」
「その掛け声はどうにかならないのか?親父くさいぞ。」
「えぇ~いい年した宗兄に言われたくないな~」
コツン
「痛っ!」
グリグリグリ
「雷騎~俺はまだ若いぞ~ついでに言うと血気盛んだからな」
「だから痛いって、頭を叩かれるだけでも痛いのに、グリグリするな~!」
「まぁ、お仕置きはこの辺にしておいて、俺は司会があるから雷騎は自分のクラスに戻れよ。じゃあな」
それだけ言い残すと宗兄はそそくさと立ち去って行った。
「あぁ~痛かった」
俺は痛む頭を押さえながら自分のクラスの列へと戻る。そう言えば、今よりもっと小さい頃に俺が悪いことした時は宗兄いつもああやって叱ってくれてたな。小学生の時は泥団子を作っては宗兄のスーツをよく汚してたりしたなぁ~中学生になってからスーツの値段を聞いた時は、罪悪感で一杯になって通学路で宗兄を見つけた瞬間土下座をして困らせたのはいい思い出だな。他にも色々あったけど思い返すと懐かしいな。
「マイクテストマイクテスト、後ろのほう聞こえるか~……あれ?反応ないな、これ調子悪いのか
あっあ~聞こえたら誰か代表して反応してくれ、丁度いいから雷騎でいいや、雷騎~これが聞こえてたら~」
なんで俺を名指しにするんだよ。俺目立つのあまり好きじゃないのに、そんな何回も確認しなくてもちゃんと聞こえてるのに、しょうがないから大きな声で返事するか、俺はよく聞こえるように返事をしようとして
大きく息を吸い込んだ。
「校舎に向かって全力ダッシュしてくれ」
「ゲフッゲフッ」
ふぁ!何故に!?そこは返事するだけでいいだろ!?予想の斜め上をいく指示に俺はかなり戸惑った。
というか返事の代わりに全力ダッシュするやつとか聞いたことないぞ…
「やっぱり調子悪いのか~?雷騎~校舎~全力ダッシュ」
俺はむせるのが止まってから顔をあげてみると、さっさとやれよという視線がクラスメイト他クラス関係なく突き刺さった。あっ駄目だこれ、宗兄も単語で言い出したし。俺はやるしかないと悟り校舎に向かって全力で走る。ちょっと走って戻ってくればいいだろ、なんてこの時の俺は甘いことを考えていたが、俺の希望は次の一言によって簡単に打ち砕かれてしまった。
「お~聞こえてたんだな、よーしそのまま遅刻届書いてこーい」
別に今じゃなくてもいいじゃないか、見逃してくれてるって信じてたのに、宗兄め何も全員に聞こえるように言わなくてもいいだろうが!
「ちくしょ~!!」
そんなセリフを残して俺はそのままグラウンドを立ち去った。
~雷騎OUT~
「さて皆、よく聞いてくれ、これから毎年恒例行事の花見を始めるぞ。まずは全員に数字の書かれた紙を渡すぞ。クラスの最前列の者は好きな紙を取ってから後ろに回してくれ~」
……「みんな協力ありがとう、それではまず、学園長から話があるからしっかり聞くようにな、それでは学園長お願いします。」
「生徒諸君、去年行った花見のことについては覚えているかな?入学してから間もなく行われた行事だからもう忘れてしまっている者もいるだろう。そんな生徒の為にこの行事の流れについて私から説明しようと思う。まずは花見をする前にはちょっとしたクラスメイトと他クラスとの1対1での話し合いの時間を設けていて、初めは新たなクラスメイトと交流を深め、その後に他クラスの生徒と交流を深めてもらうことになっている。
さて先ほど配った紙を各自見てほしい。数字には二つの数字が書かれていると思うが交流をしてもらうのは同じ数字が書かれている相手となる。左側に書いてあるのがクラスメイトとの交流番号で右側の数字が三角で囲まれているほうが他クラスとの交流番号となるといった具合だ。会話の時間はゆっくり話せるように最低でも10分は取っているから安心してくれたまえ。
ここまでで分からないことはあるかい?………とくにはないようだね。ちなみに今回はペアは自分たちで探してくれたまえよ~ではでは、これから楽しい楽しい交流と花見を始めようじゃないか。これで私の挨拶を終わりにする。」
~雷騎SIDE~
はぁ~疲れた~どうしてグラウンドから職員室にいくまでは遠く感じるんだろうな。多分宗兄のことだから、俺のことなんて待たないで、司会進行してるんだろうけど。急いで戻る気にもなれないし、ゆっくりと戻るか、確か去年は花見をやる前に交流を深める時間があったな。去年はたまたま水鳥と話すことになったな~俺が会話相手だって分かった時の水鳥はがっかりしてたな(笑)その後に話したのは誰だったけ?一年前のことだからあまり覚えてないんだよな。え~っと確か~
そんなことを考えていたらいつの間にかグラウンドの前まで来ていた。どうやら学園長の挨拶が今終わった
ところみたいだな、グッドタイミングだ。
「学園長ありがとうございました。よ~しそれじゃ皆少し時間を与えるからペアを探してくれ」
えっ?今年はペアって自分で探すの?ちょっと確認してみるしかないか。俺はちょっと急ぎ目に走っていった。
「宗兄~ペアを探すってどういうこと?」
「ん?雷騎戻ってきてたんだな。今回はちょっとだけ変更点があってな、まずは、ほらこれがお前の番号の紙だ」
「サンキュ、で変更点って」
そこには去年と同じく二つの数字が書かれていた。
「先生が指示を出すのはやめて、生徒たちにペアを見つけてもらったほうが色々と楽しそうという意見が職員会議で通ってな。」
「なるほど、じゃあちょっとペア探してくる」
「あぁ、行って来い相手が可愛い子だといいな」
「そりゃその方が嬉しいけど、女の子と話すのはあまり得意じゃないからな~」
「そこは相変わらずなんだな、まぁ、会話が続かなくて気まずくなっても俺は関係ないし、それはそれで楽しめるからなぁ、じゃ、俺はまだやることあるから気まずくなって来いよ!」
「明らかに生徒にかける言葉じゃないだろう!」
また、言うだけいってどこかに行くんだからな。本当に性質が悪いぞ。まぁ、仲が良くないとああいうことも言わないから、どうも憎みきれないんだよな。さて俺の番号は15番と50番か、相手は一体誰になるんだろうな~ちょっと楽しみだ。
「ライ~」
後ろから聞こえるこの声は、水鳥か、まさか今年も水鳥と同じとかないよな………それなら気楽だし俺としては嬉しいけど
「ん?どうした水鳥」
俺は振り返って水鳥にそう問いかけた。
「番号教えて、今年はライとじゃないって確信が欲しいから」
ずいぶんと酷い言葉が出てきた、水鳥の俺に対する好感度って実は俺が思っている以上に低いんじゃないだろうか……丁度いい機会だからちょっと聞いてみるか
「そんなに俺と一緒は嫌なのか?実は俺のこと嫌いとか?」
「何年幼馴染やってると思ってるの?嫌いなわけないじゃない、嫌いだったら起こしに行ってあげたりご飯作ってあげたりもしないわよ。ライとならいつでも話せるから、こういう時は他の人と仲良くなりたいの。」
良かったどうやら嫌われてはいなかったみたいだ。小さい頃からずっと一緒だったのに、今更嫌いだとか言われたらダメージでかいからな。
「なるほどな、確かにそう言われるとそうだな」
「それで何番なの?」
「15番」
「良かった今回は違うみたい」
「水鳥は何番なんだ?」
「私?私は24番だけど」
水鳥と二人で話していると、後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。
「あれ、水鳥ちゃん俺と同じなんだ、よろしくね」
声をかけてきたのは俺たちのよく知る神斗だった。
「「………」」
「あれ?雷騎に水鳥ちゃん急に黙ってどうしたの?」
「どうして…どうして相手が神君なの!」
「えっ??急にどうしたの?」
「神斗お前空気読めよ…」
「えっ?なんか俺悪いことした?」
~説明中~
「あぁ、それは俺が悪いね、ごめんね水鳥ちゃん」
「まぁしょうがないよね、私こそごめんね神君」
「雷騎はペア見つかったのか?」
「それがまだなんだよな」
「何番?」
「15」
「あの……飛流君」
神斗と話しているとまたもや後ろから声をかけられた。
振り返ってみるとそこには昨日出会った女の子がいた。
「姫野さん?俺に何か用?」
まさか姫乃さんに話しかけられるとは思わなかった、何で話しかけてきたんだろう?
「うん、飛流君の番号は15番なんですか?」
「そうだよ、もしかして姫乃さんも15番なの?」
「ううん、私は30番だから違います」
「じゃあどうして?」
「飛流君のペアの人が誰か私知ってたので教えようかなって思ったので、」
「本当!?それはありがたいな、誰なの?後、敬語じゃなくてもいいよ」
誰なんだろうか?男子だったら嬉しいな、楽しみに待ってよう。
「う~んじゃあそうするね、今呼ぶね、瑠美香ちゃ~ん」
…げっ、まさか昨日のあの少女が今日の話相手じゃないよな、そうしたら気まずいなんてもんじゃない。謝ろうとは思ってたけど、何について謝ろうかは決まってないし、それに心の準備がまだ出来てないのに…
「どうしたの美桜?私今ペア探しの途中だからあまり話せないわよ?相手の人を待たせるわけにもいかないし。」
「ペアの人見つかったから教えようかなと思って、瑠美香ちゃんの番号は15番だったよね?」
姫乃さんがいきなり確信をついた質問をした、まぁペアを探してるわけだから番号を聞くのは自然な流れなんだけど、頼む、まだ心の準備が出来てないから、違うと言ってくれ!!
「そうよ」
あっ終わったな……
「飛流君も15番なんだって、ペアが見つかってよかったね」
「えっ……じ~~」
どうしようもの凄く嫌な顔で見られてる。
「ゆっ雪白さんよろしくね」
そう言って俺は手を差し出したがすぐに手を払われた。
「なんで私が遅刻スリッパなんかと仲良くしなきゃいけないのよ、」
あぁ~知ってたけど気づいていたけど改めて確認できた。俺すごい嫌われてんなぁ~
「ちょっちょっと瑠美香ちゃん仲良くしようよ」
「嫌よ!こっちはいろんな人に番号聞いては探しまわってたのに、こいつはここで呑気に話し込んでたのよ!というかあんた私のこと探しに来なさいよっ!」
雪白は徐々に俺の方に近づいてくると思いっきり脛に向かって蹴りを放ってきた。
「痛っ!いきなり蹴ることないだろ!?」
「自業自得じゃない、私は謝らないわよ。ふんっ!」
何だろうこいつめちゃくちゃムカつく何で俺はこんな奴に謝る方法なんて考えてたんだ!こんな奴に謝る必要なんてない!そうだ、絶対に謝らないぞ!
「雪白さん、少し聞いて欲しいことがあるんだけど、」
「貴方は桜丘さんね、聞いて欲しいことって何かしら?」
「ライが探しに行けなかったのは私が引き留めてたからなの」
「どういうこと?」
~説明中~
「ってわけなの」
「なるほど分かったわ、桜丘さんは悪くないわ、やっぱり悪いのはこいつよ」
「おい、人を指さすんじゃねえよ」
「命令しないで頂戴!いつでも話は途中で区切れたのに区切ろうとしなかったのは明らかにあんたのせいよ。」
「ぐっ……言い返せない」
何一つ間違ってないのがすごく悔しい。
「瑠美香ちゃんちょっとこっちに来て!」
姫乃さんはそういうといきなり雪白のことを引っ張っていった。正直そういうことをするような子じゃないと思ってたからちょっとびっくりした。すっかり遠くに行ったから話し声すら聞こえない。何を話しているんだろうか?
「ちょっと何よ美桜」
「仲良くしないとダメでしょ!それに謝らないといけないことがあるでしょ?」
「いくら美桜の言うことでも今回は聞けないわ、私は悪くないもん!」
「もうっ意地っ張りなんだから、飛流君にも悪いところはあったけど、瑠美香ちゃんも何も蹴ることはなかったんだよ、蹴られたら痛いんだからそこだけは絶対に謝らないとダメ!最初に話を聞こうとしてなかったし」
「うっ!それを言われると辛いわね、でもあんな奴に謝るのは……」
「……瑠美香ちゃん?じ~っ」
「分かったわよ、美桜の言う通りだわ、私にも悪いところはあったわ。謝ってくるわ」
「うん、悪いことしたら謝らないとだよ」
「あんた飛流とか言ったわね、さっきは話も聞かずにいきなり蹴ってごめんなさい。ちょっと色々あってイライラしてたのよ」
なんかこうやって素直に謝られると複雑な気分だな、怒ってないって言うと嘘になるが、この少女が言ったことは何一つ間違ってなかったからな、俺は逆切れしてただけなんだな。これは俺が悪いな。うん。
「いや、全面的に俺が悪かった。だから謝ることなんてないよ、俺の方こそごめんな」
「良かった二人とも仲直りできて…じゃあ仲直りの印に握手を」
「それは無理こんな男に触れたくないわ、汚らわしい」
「「「!?」」」
「なんだよ、その言い方俺だって好き好んでお前みたいなチビ触りたくねえよ」
「「「!?」」」
「よりによってチビですって言ってくれるじゃない、この遅刻スリッパ!」
「何だと!」
「何よ!」
ガルル
~雷騎OUT~
「どうしてこうなっちゃったのかな?握手なんて言わなければよかったかな…」
「大丈夫よ、姫乃さん」
「桜丘さん?」
「水鳥でいいわよ、あの二人ちょっと似てるところがあるかもしれないから、きっとすぐにでも仲良くなるわよ」
「まぁ、雷騎も本気で怒ってるわけじゃないから、大丈夫だよ、自己紹介がまだだったけど俺は西園寺神斗、神斗って呼んでね~」
「ありがとうございます。水鳥ちゃん、神斗君。私のことも美桜って呼んでください」
「「敬語もいらない」」
「くすっ、うんありがとう二人とも」
「「どういたしまして~」」
「それで美桜ちゃんは相手見つかったの?」
「あっ!まだ見つかってないどうしよう…相手の人探してるよね?」
「周りを見てもペア組めてない人も少ないからね、すぐに見つかると思うわ」
「なぁ、神斗、桜丘、俺のペアが見つからないんだが、35番が誰か知らないか?」
「おう俊吾か久しぶり、35番は分からないな」
「俊吾君久しぶり、もしかしたら美桜ちゃんがそうかもね。美桜ちゃん35番だったりする?」
「はい、私35番ですよ、姫乃美桜です。よろしくお願いします。」
「!?……あぁ、よろしく俺は竜臣俊吾だ。俊吾って呼んでくれ。仲のいい奴はみんなそう呼んでるからな」
「分かりました。それなら私も美桜って呼んでください。」
「分かった、み、美桜…よろしくな」
プイッ
「どうして顔を背けるんですか?」
「気にするな、それと敬語じゃなくていい。」
「ねぇ、水鳥ちゃん俊吾があんな反応したとこって見たことないよね?」
「付き合いはそんなに長くないけど見たことないよ、神君この反応ってやっぱり」
「水鳥ちゃんもやっぱりそう思う?」
「神君もなんだね、ならやっぱり」
「「……恋だよね」」
「水鳥ちゃん面白いことになってきたね」
「うん、神君応援してあげようね」
「よ~し大体皆ペア組めたな~じゃあ今から話し合いスタートだ。存分に語り合ってくれ~」
こうして二年生最初の学園行事花見が始まった。