第8話 婚約者
私は今エリックさんの部屋の前にいます。
柴田さんに行くように言われたので、私はエリックさんのもとへと行くことになりました。
もう前のようなつらいなどの感情はありません。
ただ私を雇ってくれている人のもとへと行くだけです。
「椿です。失礼致します」
声をかけてから扉を開けて中へと入っていきます。
そこには玄関でエリックさんと腕をくんでいた女の人だけが座っていました。
「ごめんなさい、あの人は今庭に行っているの。すぐに戻るわ」
その女性はまるで蝶のようでした。
着物からでている、白いすらりとした手足。着物の牡丹の柄が彼女の整った姿をより際だたせています。
その姿に女性達は嫉妬をしてしまうのでしょう。
しかしそんなことは、今の私には関係のないことです。
「そういえば、まだ名乗ってもいなかったわね。私は桜子というの。あなたは、たしか……椿さんと言っていたわね」
「はい。椿と申します」
「仲良くしてね」
私のような使用人にまでそんな風に声をかけている彼女なら、もうすでにここの屋敷になじんでいるのかもしれません。
きっと、エリックさんともうまくいくはずです。
こんな女性を見ていたらさっきまで暴れていた心もかなわないと思ったのか、暴れるのをやめています。
それほど気だてのよい女性でした。
「あら、戻ってきたようよ」
私の後ろを見て、桜子さんは少し顔を赤らめました。
振り返ってみれば、そこにはエリックさんが花を持ってこちらを見ていました。
心なしか彼の顔は少し青ざめています。
「お帰りなさい、エリック。椿さんがさきほどからいらしていたのよ」
桜子さんの顔は恋する乙女の顔になっていました。
一方エリックさんの方はというとさっきから固まってしまっています。
そしてやっと動き始めると、何も言わずに私の腕を掴んで扉の方へと歩いていきます。
顔は扉の方へと向いていたので、彼がどのような表情をしているのか全く分かりませんでした。
桜子さんはエリックさんの行動に驚いて思わず立ち上がってしまっています。
「エリック、椿さんとどこへ行くの!?」
彼女の顔も、さっきのエリックさんのように少し青ざめていきます。
しかしエリックさんはその言葉に立ち止まることなく、私を引っ張っていきます。
「少ししたら必ず戻るから、少し二人きりにさせてくれないか」
彼の声からは感情が感じられません。
ひたすら冷たく、反論することは許せないような声でした。
私は訳が分からないまま、ただ流れに身を任せていました。
彼の手に握られていた花は彼に強く握られて、少し元気をなくしていました。
かなり遅くなってしまいました。
これからしばらく時間があまり取れないため不定期更新となってしまいます。
そんな『花に捕らわれた心』をこれからもよろしくお願いします。
感想も待ってます。




