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第7話 感情



 感情が再び消えたことに気づいても、なぜかその場所から動くことが出来ませんでした。

 鍵をかけたはずなのに、必死に心が私が動くことを拒否します。

 心が鍵を開けようとするのです。

 

 しかし開けようとして開くものではありませんでした。


 心の叫びが聞こえるようでしたが、私はそれを無視して立ち上がります。

 着物に付いてしまったほこりを軽く払っていると、柴田さんは不思議そうにこちらを見てきます。


 「お前、いつもと違う感じがするぞ?」


 「そうですか?」


 私は口だけで笑います。笑わないようにしようとしても勝手に動いてしまいます。

 もしかしたら、これが感情を閉じこめた私に対する心の精一杯の反抗なのかもしれません。


 「何かあったのか?」


 「いいえ。何もありません」


 柴田さんは何かを見逃さないようにかじっとこちらを見ています。

 しかし私は動揺することももう出来ないので、前の感情がなかった時の私を知らない人では見極めるのは難しいと思います。

 案の定柴田さんは見極めることが出来なかったようで、胡蝶蘭の植木鉢を直し始めました。


 「お前が何もないって言ったから、俺はお前を信じる。エリックのところにもちゃんと行ってこいよ」


 まさか、信用されているとは思いませんでした。

 ただ、それでも何も感じることが出来ません。

 感情が戻っていたころだったらきっと喜んでいたでしょう。

 しかし今の私には、前当たり前に感じていた喜びはすでに記憶だけのものとなっていました。



 

 

 ――エリックさんに初めて『好き』と言ってもらえました。すごく嬉しいのです。


 嬉しいってどのような気持ちですか?それはそんなによいものですか?



 ――今日初めて嫉妬という気持ちを感じました。それはまるで心を切り裂かれるような気持ちになりました。嫉妬という気持ちは恐ろしいです。


 心が切り裂かれるような気持ちはそんなにも恐ろしいものでしたか?それならばそんな気持ちは無いほうがいいのではありませんか?



 ――エリックさんと二人で花を見ました。花はとても綺麗で、幸せな気持ちになりました。


 花は本当に綺麗ですか?私にとって幸せとはなんですか?





 私に感情は必要なのですか?





 感情があったときの記憶が、波のように私のところへと押し寄せてきます。

 一つ一つを思い出すと、私は次から次へと疑問が浮かび上がってくるのです。

 私は浮かんできた疑問一つ一つに、新たに鍵をかけていきます。

 

 しかし一旦感情があるままで過ごした私は、もう二度と完全に感情が無かったころには戻りたくても戻れないのかもしれません。






感情がないときの椿はかなり書きにくいです><

もし感情が無くなってしまったらどのように感じるのでしょうね。

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