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第4話 庭の奥にて







 「……あの、そろそろ離してもらえませんか?」


 エリックさんに抱きしめられるのはとても嬉しく幸せを感じていたけれど、あまりに長すぎるので、自分からその幸せを手放すようなことを言ってしまいました。


 「しょうがないなあ」


 彼は私を渋々というような感じで離してくれました。

 その行為を自ら望んだはずなのに、私は寂しさに少しずつむしばまれていきました。

 

 『自分カラ望ンダクセニ』

 私の身勝手さに腹がたってきます。


 もやもやとしていたとき、私の目の前に彼の手が出されました。

 

 「ほら、手をだして」


 彼が何をしたいのか分かりません。

 どうしていいか分からず、情けない、困った顔をしてしまいました。

 するとエリックさんは、私の目の前に出した手を私の手に絡めました。


 「抱きしめられないのなら、これはいいでしょ」


 彼の顔は、まるで悪戯をしたときのような顔でした。

 私がそのまま彼の顔を見つめていると、彼は器用に片目をつぶりました。


 「今日は仕事がないからこのまま庭を散策しよう」


 彼は私の手を握り、歩き出しました。私は慌ててそれについていきます。





 「すごい……」


 さっきから私はその言葉しか出せなくなってしまいました。

 私はよく庭を訪れますが、庭の奥までは行ったことはありません。

 

 庭の奥には色とりどりの花達が咲き誇っていました。


 一つ一つの花が綺麗な花びらをもち、またそれは他の花を邪魔することがありません。

 その花畑は完成された一枚の絵のようでした。

 これを雄次さん一人で造り上げたというのが驚きです。


 エリックさんはその一つの花に、私の手を離してから近づいていきます。

 私は体から熱がなくなり、冷たくなっていくのが分かりました。

 それが再び熱を取り戻したのは、彼が私の方を振り向いて笑いかけてくれたからでした。 

 

 「これは『アズマイチゲ』というんだよ」


 この花はヒメジョオンよりも少し大きめの花をつけています。

 背丈が低く白っぽい、はかなげな花でした。


 「繊細で綺麗な花ですね」


 「そうだね。この花は、雪解けと共に咲くんだ。でも、この花は夏になると地上に出ているところが枯れてしまう。少し悲しいね」


 アズマイチゲのことを話しているエリックさんも儚げで、そのままどこかへいってしまいそうでした。私は心が苦しくなってしまいます。

 ふとアズマイチゲの方を見ると、あることに気がつきました。


 「エリックさん。このアズマイチゲのそばに咲いている花はなんですか?」


 そう、アズマイチゲのそばに紫色の花が咲いていたのです。

 その様子はお互いに気を許しているようでした。


 「ああ、これかい? これは『カタクリ』というんだ。アズマイチゲはカタクリのそばで花を咲かすことが多いんだよ。そして、カタクリも夏になると枯れてしまう。仲がいいね」


 エリックさんの儚げな雰囲気はどんどんと増していきます。

 

 「花の情報は、雄次さんから仕入れているのですか?」


 私は彼のその悲しそうな、儚い、私の知らない彼でいることが怖くなって思いつくまま尋ねてしまいました。

 するとエリックさんは私の方を見て、苦い顔をしながら観念したように話しました。


 「そうだね。彼は花に詳しいからいろいろと聞いたんだ」


 今までの雰囲気は消えて、私の知っている彼にもどりました。

 その様子に安心して口元がゆるむと、彼はすねたような顔をしました。


 「笑うことはないじゃないか」


 声まですねてしまいました。それが私の笑いを引き起こします。

 彼はあきらめたのか何も言ってきません。



 私の笑いが収まったころ、彼が私の肩を抱いて、花の方へと向きました。


 「このアズマイチゲとカタクリのようになれたらいいね」


 「……そうですね」

 

 彼の言葉は私の心を喜びでいっぱいにさせます。

 そのため少し声がうわずってしまいました。





 幸せをかみしめながら、私はこれから先のことを心配してしまいます。

 エリックさんと同じ時を過ごすことに幸せを覚えてしまった私は、もうきっと元のような生活を送ることができないでしょう。

 たとえ彼が他の人と婚約をしてしまっても、私はアズマイチゲのように彼を求めてしまいます。

 そうなったら私はこの屋敷を出て行かなければならないのかもしれません。

 私はアズマイチゲとカタクリがうらやましいと思いました。




 二つの花はいつも、いつまでも一緒なのですから。







やっと4話ですね。

いろいろと未熟なところはあると思いますが、これからもよろしくお願いします。

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