第3話 引きつけられる心
「椿! よかった、ここにいたんだ」
後ろから、そう呼びかけられたとき、私の心は舞い踊るようでした。
姿を見ていなくても、その声の持ち主――エリックさんの息づかいから走ってきたのが分かります。
そう、私のために走ってきてくれたということが、です。
「じゃあ、俺は消えてやるよ」
柴田さんは立ち上がって屋敷の方へと歩いて行きました。
小声で頑張れ、と私に励ましの言葉を贈って、どこか含みのある笑顔を庭へとおいていきました。
「椿」
彼のやさしい声が聞こえます。
私は心臓が高鳴りすぎて、破裂してしまうのではないかと思いました。
真っ赤になっているだろうと思われる顔を彼に見られたくなくて、でも彼の存在をもっと感じたくて。相反する感情に困ってしまいます。
「こっちへおいで」
その言葉だけで。
私がどれだけ心を動かされてしまうのか、彼は知っているのでしょうか?
私は立ち上がって彼の方へとむき直しました。
彼を見ると、私を慈しむような眼差しで見ていました。
太陽が彼の金髪をよりいっそう輝かせ、目を濃い碧色へとさせていました。
それらは彼の整った顔をよりきれいにさせています。
それを見た私は、どうしても顔がさらに赤くなっていくことをおさえることが出来ません。
そんな私の様子を見た彼は、笑いながらこちらへと近づいてきます。
「どこに行ったかと思ったよ」
彼の声から少しの疲労が感じられました。
それを聞くと申し訳ないと思う一方で、嬉しいと笑ってしまう自分が居ます。
感情が戻ってから私は、彼の一挙一動に一喜一憂します。
今は彼の姿に愛おしさを感じ、自ら近づいてくる彼の腕へと飛び込んでしまいました。
「うわっ! いきなり大胆なことをするようになったね。どうかした?」
「いいえ。今は気分がいいんです」
彼の胸に顔を埋めて、私の顔が見えないようにしてから返事をしました。
クスッと、上から彼が笑った声が聞こえてきます。
「さっきまで落ち込んでいたのにね。庭でなにかあった?」
「はい!」
思わず顔を上げて大声でいうと、彼が笑みをさらに深めました。
「雄次のおかげかな? まあ、よかったよ」
「あれ、柴田さんと仲がよいのですか?」
彼が柴田さんを下の名前で呼んでいるのに驚いてしまいました。
だって、エリックさんは私以外の使用人は名字で呼んでいるのですから。
「ああ、結構長いつき合いだからね」
彼は私の問いに答えながら、私をぎゅっと、さっきよりもきつく抱きしめました。
「椿の機嫌が直ったことに雄次には感謝するけれど、今せっかく2人でいるのだからあいつの話はしたくない」
私の耳元で少しすねたように彼は囁きました。
彼の行動一つ一つに私は引きつけられてしまいます。
こんなことばかりされてしまったら、私はますます彼から離れられなくなってしまうでしょう。
頭の中ではまだ見ぬ婚約者のことを思ってしまいます。
しかし、今はそんなことを忘れて花達が私たちのことを見守る中、彼の腕の中で幸せをかみしめていました。
――ずっとこの幸せが続いてくれることを祈って。
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