雪の約束 ~cover~
「高橋と箕島は放課後補習、
教室で課題を仕上げて帰りなさい」
補習に引っかかってしまった。
…あいつも一緒だ。
「もーだめやってらんない」
先生が席を外すなり、机に突っ伏す君。
プリントはまだ真っ白だった。
「そんな事言ってる暇があるならやりなよ」
「デート行きたいー、スキーとか行きたい―」
…無視かよ、おい。
「リア充が…」
「なんか言った?」
「がんばったら彼氏に連れてってもらえるんじゃなかったの?」
彼氏。
「そーだけどー、
なんかめんどくさいというか」
がんばったら、な。
他愛のないやりとりをしつつ課題を進めるが、
君は一向に手をつけようとしない。
「…なあ、1つ聞いていい?」
「ん?」
「千絵の彼氏ってかっこいいの?」
心拍数が上がっているのがわかる。
さあ、どう答えるんだ。
「当たり前じゃん!」
「…そっか」
当たり前にかっこいい、らしい。
「まあ会ったことないんだけどね」
いや、そんなことはない。
「どういうこと?」
「ネット恋愛だよ」
「不純かよ」
とかなんとか『彼』について聞いてみるけど、
ほんと、好かれてるんだな。
君の手首の見覚えのある
ピンクのミサンガ。
学校にまでつけてきてるのか、
と初めは驚いたものだ。
「…そういえばもう1つ気になってたんだけど」
「ん?」
「そのミサンガ、ずっと大事そうにつけてるよね。
お揃いなの?」
うん、と嬉しそうに話す君は
本当に幸せそうで。
つられて顔が綻ぶ。
「顔さえ見たことない彼との
唯一私と繋ぐのはこのミサンガなんだ」
本当に、かわいらしい笑顔で。
「大事にしなよ」
大事にしてくれよ。
「…ねえ、あたしも質問していい?」
「もちろん」
「あなたのミサンガ、誰にもらったの?」
「…顔も 本当の名前も知らない、
大切な人に」
口に、出してしまった。
「それ彼にあげたのと似てるの…」
「そうなんだ」
「ねえ、高橋くんってさ、出身どこだっけ…?」
「富山」
「高橋くん…」
気付け。
気付かないでくれ。
そんな目で俺を見ないで。
もっともっと俺を見て。
「君だよね」
嗚呼、君が好きだ。
「…そうだよ」
「嘘つかないでよ…
顔も名前も知らないなんて嘘じゃん、
なんでこんな事言うの?」
初めて会った日、君は気付かなかったけど
すぐにわかった。 愛おしかった。
こんなに可愛いなんてしらなかった。
人気があることも。
こんなにも、好きになるなんて思っていなかった。
胸が苦しかった。
だって俺は、こんな俺には、
「俺なんかには釣り合わないからだよ」
会えて、本当に嬉しかった。
でも。
同時に、なんだか情けなくなったんだ。
「…馬鹿じゃないの」
ふわっと、君の香りが漂う。
腰に巻きつくのは、君の細い腕。
「そんな事考える暇があるなら、
あたしのこと抱きしめてよ」
涙声の君。
咄嗟に君を抱きしめた。
今までできなかった分、強く。
…強く。
「俺で、いいの?」
「3年待ったのにそれ?
いいに決まってんじゃん馬鹿…」
これは、ちょっと怒ってるな。
「わりぃ」
「…もう謝んなくていいよ」
「え?」
俺から少し体を離して、君は、
「その代わり 離れたら許さないから!」
と笑った。
「…うん」
俺も笑った。
「………あ、雪だ」
窓の外では真っ白な雪が降っていた。
「ねえ、どっか連れてってよ」
俺の腕に自分のを絡めていう君。
たくさん甘やかしてやりたいのはやまやまだが。
「補習終わったらな」
今は、補習が先だ。
如月リク様の『雪の約束(ncode.syosetsu.com/n3214/)』の二次創作をコラボとして書かせていただきました。
楽しかったです。