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「物語」は「魂の復権」をめざす

とあるラノベを読んでいて、「自分はもうじき死んで異世界に転生して幸せに暮らすから、現実なんてどうでもいいんだ」と主張する少女が登場しました。

こういう少女が実際にいるのかどうかは知りません。

しかし、いても不思議は無いように感じました。


もしかしたら、こういう内容の遺書を残して自殺してしまう事件が起きてしまうかもしれないと思いました。

過去にもそういう類の事件はあったし、それが今また起きたとしても意外ではありません。


ぼくは、こういう少女(とは限らないけれど)の心に届く言葉を紡いでみたくなって、このエッセイを書き始めました。



「異世界 > 現実」という価値観は、ある意味反社会的なものです。

過激な「革命家」や、宗教の「狂信者」と同じく、世間から爪はじきされてもしかたない側面があります。

教室内で口に出したら、周囲のいじめにあうかもしれません。


「異世界転生」志望者の自殺などという事件が発生すれば、「異世界転生」小説は社会的バッシングの対象となるでしょう。

「言論の自由」という建前とは別に、「世間」の論理は「異世界転生」物語をアレルギー的に嫌い弾圧するようになるでしょう。


事件が起こる前に、「異世界転生」を擁護する論を発表しておけば、なんらかの好影響を与えることができるかもしれないというのが、このエッセイの2番目の趣旨です。



さて、先に「物語は一般に、自分の現実とは異なる体験を楽しむためにある」ということを書きました。

「異世界」ものは、この構造を端的に表現しているだけで、むしろ物語の「王道」に位置します。


現代的「異世界」ものは、ゲーム的ギミックを多数導入している点が、過去の伝統的「物語」と差別化されていますが、これは高年齢世代には違和感と蔑視、若年齢世代には共感と親和性をもたらしています。


つまり「異世界」ものは大枠において「物語」一般に収まるものであり、「異世界転生」小説の危険性や反社会性は「物語」一般の危険性や反社会性の議論に収斂するものといえます。


「物語」というものは、長い時代に渡って「現実」との緊張関係を生きてきたのであって、近年それが弛緩した関係になりつつあったのが、再び強度を取り戻し初めているというだけなのです。



「物語の強度」は、いかにして復活しうるのでしょうか。


ここでキーワードとなるのが「転生」です。


「転生」の主題は「魂」です。

「魂」が「現実」を離れ、「異世界」に遊ぶというのが、「転生」小説の主題です。


「魂」というものを、伝統的な「現実」はそれなりに待遇していました。

しかるに現代の「現実」は、「魂」をないがしろにしています。

「金」や「物質」や「社会的立場」といったものに隷属せしめ、ほとんど圧殺しきろうとしています。


官僚も医者も弁護士も、人間の「魂」というものを考えなくなって久しいのです。

「国家」や「法律」やさまざまな「システム」が、暴走し、「魂」をすりつぶすような時代にぼくらは生きているのだと思います。


教師は「魂」を育てるよりも、生徒を上位の「システム」に送り出すことを使命と考えています。

親も「魂」のことはあえて語らず(語れず)、本人の自主性に期待し(押し付け)ているだけのことです。


「魂の復権」はどこで可能になるのでしょうか。


「現実」が責任放棄している情けない現状にあって、「物語」のなかでかろうじてそれは実現しています。

日本のマンガ、アニメ、ゲーム、そしてWeb小説。

これらは「魂の復権」のためのメディアです。


日本社会が勤勉で優秀な国民性を維持できているのも、この豊穣なる「物語」文化を育んできたからだと思います。

「物語」とは、影の領域にあって「現実」を支えてすらいるのです。


とはいえ、この関係もどこまで当てにできるかは分かりません。

かなりぎりぎり限界のところまで来ているようにも感じられます。


とりあえずWeb小説にはもっとも先鋭な感覚が表出されてきているように思います。

マンガ・アニメ・ゲームといったメディアは主要な産業となり、多数に受けることを優先せざるを得ません。

Web小説は、個人が自分のこだわりを優先できる数少ない場です。


Web小説を分析することで「現実がクソ」であることがよりはっきりと見えてきます。

親や教師や世間の言う「現実」は、クソなのです。

まずは断言しておきましょう。


とりあえず「物語」文化の中に逃げ込んでください。

そこにはそれなりに豊穣な世界が残っています。

日本人に生まれてよかった……


そこで何かをつかんだら、「現実」に復讐することを考えましょう。

逃げっぱなしだと、最後はやられてしまうからです。

「クソな現実」が追いかけてきて、いつぼくらの息の根を止めてしまうか分からない。


「物語」をベースに、いかなる「復讐」の手段を入手可能なのでしょうか。

以下、「異世界転生」小説の魅力を検討しながら、「現実」の至らなさを告発し、「異世界流」のやりかたで「現実」にしっぺ返しを食らわせる道筋を検討していきたいと思います。

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