Web小説だから許されること
「異世界(転生)」小説は、ゲームその他を含めた「異世界」エンターテインメントのなかで少し特別の位置にあります。
「異世界」もの一般の特徴を引き継ぎながら、あえてそれに反発したり、ずらしたりしていく志向が強いのです。
これはある意味当然のことで、ストレートに「異世界」で遊びたいならゲームを楽しんでいたらすむ話です。
それで何か不満が残って自分なりに解消したいから、わざわざ自分で小説を書いたりするのです。
たとえば、冒険者になってレベルを上げ、最後は勇者として魔王を倒すぞ、みたいな主人公はなかなかでてきません。
転生できたので、エリートコースに乗って出世街道を突っ走るというタイプもいません。
それよりも、スライムに転生してしまったり、魔王の手先になってしまったり、悪役令嬢になってしまったりします。
それでなくても、順調に行きかけた人生街道を変なこだわりで横道にそれ、果てしなく迷走を続けるような主人公が多いのです。
このあたり、Web小説とライトノベルの一番大きな違いかもしれません。
ライトノベルはアニメ化を意識してか、ええかっこうしいの主人公が派手に暴れまわる展開が好まれます。
Web小説は、独自の価値観が鼻をつくような主人公が嫌味を言われながらもポリシーを貫く展開が多い気がします。
「いい子」のお手本にはならないタイプが本当に多いのです。
Web小説を読んでいて気持ちいいのはたぶんこれが理由です。
道徳なんかクソ食らえという登場人物が多くて、非常にすがすがしい。
たとえば、「異世界」には身分制が普通にあって、偉そうな貴族がいたり、奴隷が売買されていたりします。
これだけで、たぶん海外向けのメディア展開はできないんじゃないでしょうか。
あまつさえ、主人公は奴隷を買ってハーレムを作ったりします。
奴隷制を廃止しろとかメジャーメディアではそういう態度をとらざるをえないのでしょうが、資本主義企業のもと賃金奴隷の身分に甘んじるぼくらからすると、奴隷の待遇に文句はつけられても奴隷の身分を否定することは結構難しいことです。
弱者にとっては、自由のまま窮乏するより、奴隷になって少しでも生きられたほうがいい。
少なくともそう考えたことにけちをつけられたりしたくない。
誇りなんて二束三文にしかならない。
優しくしてくれるならば、お金のために抱かれてもいい。
「異世界」は基本どこも「後進国」みたいなものだから、こんなキャラクターがいくらでもでてきます。
もっと最低な死に方をするキャラクターたちに較べると、生きてるだけで幸せに見えてきます。
「異世界」ものがはやる理由の一つは、こういう貧乏を表現することが許されるメディアだからなのかもしれませんね。




