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最終話『仙道使いの不平等』  作者: 由条仁史
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第3章 努力は過去のものとなる

平等家の戦い。どこの歴史にも載らない、壮大な家族喧嘩。轆轤は仙道を以って、弓に再び立ち向かう。

 第3章 努力は過去のものとなる



 さあ、戦いの始まりだ。

 轆轤は平等家の前に来ていた。玄関の前。時刻は昼も過ぎ夕方。弓が帰宅する少し前に、戦闘を開始する。

 装備は肉体。

 そして――頭脳。

 勝利条件は、弓に勝つこと。

 殺してでも、勝つこと。

 中学生の制服は、捨てた。

 あの淳とやらが持っていた服を、そのまま拝借した。

 インターホンなんて必要ない。

 だって、自分の家だ。押すほうがおかしいだろう。

 そして、作戦を――


「ただいま」

 開始する。


 靴をコンマ1秒で脱ぎ、リビングへ床をすべるようにして移動。扉を突き破る。そこには篳篥がいた。当然だ。日曜日、休んでいるのだから。家にいるのには何もおかしいことはない。

 床を蹴り、篳篥の首根っこを掴む。そしてその体を壁に叩きつける。数年ぶりに会う親父の姿。数年前と変わらぬ部屋着。それに一切の感慨を見せることなく、ここまでの動作を1秒以内に収めた。

 見事な手際だった。

「ぐ……ぅ……ろ、轆轤……」

「ただいま、親父」

 そしてそこから、背負い投げの要領でドアの方向へ投げる。血が噴出す。運動後というわけではないのできらきらとした赤色だ。もちろんそれは篳篥の血である。

 ドンドンと床と壁にその体が叩きつけられ、そして玄関で静止する。

 ピクリとも動かなかった。

 もう、動かなかった。

 血はまだ致死量に達してはいないものの、そのダメージは深刻で、生きてはいるもののそこから行動することはできなかった。救急車を呼べば何とかなる可能性はあるが、そもそも電話をかけることすらできない。

 轆轤はその上、仙道で体を縛り付けた。もう篳篥は、自分の意思で手を、足を、体幹を、動かすことができない。そういう電気信号を与えた。

 この数秒の戦い。

 この数秒で、轆轤は篳篥に勝利した。

 しかしまだ、勝利条件は満たしていない。

 弓を殺すまで、終われない。




「ただい……」

 数年ぶりに聞く弓の声だ。帰宅したことを告げる当たり前の挨拶が、途中で途切れた。そりゃそうだろう。玄関に自分の父親が、瀕死の状態で倒れているなんて。驚かないはずはあるまい。

 驚いて言葉を失ったものの、叫ぶようなみっともない真似はしないらしい。弓らしいことだ。

「よぉ……姉貴。お帰り、ってな」

「……ふーん」

 廊下へ出て、弓の様子を見る。大学に入学して、髪も茶色に染めているようだ。高校生のときのような瑞々しい感じでなはく、美しさというものも持ち合わせ始めていた。

 弓は目を細める。一目で、何が起こったのかを理解したようだ。落ち着いた様子でかばんを下ろす。

 それほどの冷静な判断力、洞察力。それこそが、轆轤が苦しめられた要因だった。

 しかし、この仙道を手にしてどうなるのか。

 それが、これからはっきりする。

「へぇ、帰ってきてたんだ。連絡の一つでもしてくれればよかったのに」

 冷静に、場を和ませるようにそう言った。もちろんそれは意味のないことだったが。

「悪ぃな。あいにく連絡手段ってもんを持ってなかったんでな」

「どうしてお父さんを殺したの?」

「殺したぁ? いいや殺してねぇぜ。まだ死んじゃあいねえ」

「頭首承継させるため? 無意味としか思えないけどね」

「へぇ、姉貴もそんなこと言うんだ」

「平等家……ねぇ。ねえ轆轤、平等家がどんなものか、知らないでしょ」

「いくつか知ったことがあるぜ。星宮とか、人宮とかな」

「へぇ……ふぅん。なるほどね」

「で? そっちのほうはどうなんだよ。頭首サマ?」

「別に、頭首だからといっても何も特にすることはないよ……ただ、この血を絶やさないようにするだけだよ」

「血を? ははっ、花嫁修業でもする気かよ」

「あら。そんなことする必要はないわ。私家事なんでもできるし、面倒見もいい方よ? ……男のほうのもね」

 はん、と轆轤は鼻で笑う。

「そりゃあ良かったなぁ。で? ハジメテの感想は?」

「どいつもこいつも馬鹿ばっかりでね。そうじゃない人はチキンだし。まぁいい人が見つからないってもんだよ」

「おいおい、そんなんでいいのかぁ? 頭首の仕事」

「あら、安定した収入がなければ子供も安心して育てられないわ。そこまでが仕事だからね」

「理想がお高いことで……くっくっく」

 轆轤は笑う。すぐ目の前に、彼らの父親が倒れているというのに。

「あははっ……!」

 弓も笑い出す。これまで見せたことがなかったような笑い方だ。

「いやいや。やーっとやる気になってくれたかと思ってね。これまでの戦いはなんというか……ぬるかったしね」

 くすすすすす……! と弓は笑う。

「はん。じゃあやろうか」

「そうだね。いつでも――」

 かかってきなさい、と言う前に特攻するのは、ある種自然なことであった。


 一足で床を蹴り、頭と首を狙い両手を突き出す。その速さならば、人間を殺すことなどたやすいことだった。

 弓はその攻撃に、一瞬だけ遅れて対処する。彼女もまた後方の壁、つまりは玄関を足場にして――一気に、轆轤との間合いをつめた。

 両者激突するように、空中戦が始まった。

 弓は轆轤の手を軽くはじき、自らぐるんと縦回転するように足を振り下ろした。轆轤はそれを受け、空中で体を180度ひねり、その足を掴む。弓はそれに対し、さらに回転を加えることで轆轤との距離を調整し、今度はこぶしを頭に叩きつける。叩きつけられる前に轆轤は頭をうまいことずらし、そして弓の体に頭突きを食らわせようとする。その間に弓は自分の足を轆轤から振りほどき、さらに軸回転を加える。

 そのあたりで、二人とも地面に――床に、着地する。

 着地した瞬間、その木の板がえぐれた事は言うまでもないことだ。

 そして、二人は階段へ移動する。段を、手すりを、壁を、天井を利用して――否、破壊しながら、二人は肉弾戦を進めていった。外側から見れば、それはまるで、二人とも転がりながら、二人で一つの球を作りながら、この家を破壊しているようだった。

 二階の一つの部屋、そしてその隣の部屋へ、それらを分けていた壁が、粉々になる。一つの大きな部屋となる。

 両手を広げて回転し、そこから別の回転を加えて足で攻撃、足から突っ込み胴体で攻撃、肘突きをその力の勢いのまま叩き込む。背中から倒れこみ、ブラックアウトならぬレッドアウト覚悟の後方頭突き。てこの原理で家具を持ち上げ、それとともに力をかけて圧殺する。電化製品の高電圧を利用すべく足の指を用いて、自らもまた導体となりながら攻撃する。長い棒のようなものを掴み、それを投擲の要領で相手の顔面に向かって投げつける。細く丈夫な紐で相手の首を切り落とそうと一瞬で仕掛ける。それらを間一髪でしのぎ、次の攻撃へと動作をつなげる。周囲のものはすべて壊れていく。



 これが、平等家の――姉弟喧嘩。

 二人とも、すべての攻撃を避けきり――この時点で無傷である。

 もちろん、決着は無傷ではすまない。



                   第3章・終

                   第4章へ続く

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