3話 ソロコンテストと恋の狂詩曲(ラプソディー) #1
2010年7月のある日……。
「みんなー、今年も合宿をやろう!」
「ハ、ハイ。」
「じゃあ、プリントを配るよ! 持ち物とタイムテーブルが書いてあるからなくさないようにね!」
「ハイ。」
部員たちはプリントを受け取っていく。
「さあ、ロゼとレイム、ソロコンテストの練習するよ! 準備して!」
「ハイ!」
2人は準備を始める。その時、エズミはロゼの席に座って、2人を見守った。
「じゃあ、18小節からね!」
「ハイ!」
他のメンバーは……。
「ロゼさんとレイムはいいですよね……」
「憧れるよね……」
とオペラとリヴァル。
「私も出たいなぁ……。ソロコンテスト」
「アール、来年、出られると思うよ」
「うんうん。アールなら大丈夫だよ」
とアールとマリアとナミ。
「俺のロゼさんが……、レイムに取られた……。今度こそ絶対、ロゼさんは俺のものにしてやる!」
「ザーク、暑苦しい!」
ザークはロゼはもちろんのこと、他の部員たちに暑苦しいといわれてしまった。多分、レイムも同じことを思っていただろう。ザーク、残念。
なぜ、ザークがレイムに対抗心を燃やしているかというと……。
原因は『ソロコンテスト』のことだった。
ある日の部活終了後……。
「ねぇ、ロゼ」
「何ですか? 先生」
エズミはロゼに話しかけた。
「ロゼはピアノ、弾けるよね?」
「ハイ。弾けますが……」
「なら、ソロコンテストの伴奏やってくれない?」
「いいですよ、喜んで」
「伴奏者は決まったから演奏者を決めないとね……。誰か、やりたい人いる?」
「僕がやります!」
「俺がやります!」
レイムとザークが同時にしかも、目を輝かせて申し出た。
「2人か……。テストで審査するね。今回のソロコンテストの曲は『Trombone concerto』! 3人はこれを1週間後にテストするから練習しておいてね!」
「ハイ」
1週間後……。
「じゃあ、テストを始めようか」
「エズミ先生、ちょっといいですか?」
「何?」
「2人で同時にやっても、審査がしにくいので、1人ずつやって貰ってもいいですか?」
「流石、ロゼ。そこはあなたに任せる」
「ありがとうございます。さあ、ザーク、ピアノの前に来なっ!」
「ハイ」
数分後……。
ザークのテストが終了した。
「次はレイム。ピアノの前に来なっ!」
「ハイ」
数分後……。
レイムのテストが終了した。エズミはロゼを視聴覚室に呼び出し、審査をする。
視聴覚室
「ねぇ、ロゼ。2人の演奏のお相手をやってみてどうだった? それから、どっちにするか決まった?」
「ハイ。個人的にレイムがやりやすかったです」
「なぜ?」
「なぜなら……、レイムはリズムやテンポはもちろんのこと強弱がはっきりついています。しかし、ザークにはシビアなことをいいますが、テンポと元気よく演奏してくれるのはいいのですが……。すべてが滅茶苦茶。正直いって、ザークにはその段階でついていけませんでした」
ロゼはザークに対して申し訳なさそうな口調でいった。
「確かに、ザークとやった時はかなり焦ってたね」
「ハイ。しかし、レイムなら、練習してるうちに慣れてくると思ったので、私は彼をお相手にします」
ロゼはエズミに微笑みながら彼女の決意を告げた。
「じゃあ、結果発表、頼んだよ」
「先生、私は……?」
「ロゼはここにいて。2人をここに呼び出すから」
「分かりました。この演出でいいんですよね?」
その時、ロゼは裏の表情を見せたようだった。
「うん」
ロゼの裏の表情が見えていないかのようにエズミはいつも通りの返事をした。
音楽室
ザークとレイム以外のメンバーはコンクールの練習をしていた。
「ロゼのお相手はどっちだろう?」
「今、ロゼさんとエズミ先生が話し合っているんじゃないのですか?」
「あっ、エズミ先生が来た」
「ザークとレイム、今から視聴覚室に行って」
「あの……、ロゼさんは……」
「彼女はそこにいるよ」
「結果はそこで発表されるんですよね?」
「そう」
視聴覚室
「し、失礼します……」
ザークとレイムは視聴覚室に入った。
「いらっしゃい。ザークとレイム。2人とも、座って」
ロゼが彼らを迎えた。
その時の視聴覚室はいつもと違っていた。長づくえを2つ並べたものを挟むように北側に椅子が2つ用意されており、南側に1つ椅子があったがそこにロゼが脚を組んで座っていた。
その空間はどこかの牢獄に閉じ込められたような雰囲気だった。
「あの……。せめて電気ぐらいつけましょうよ」
ザークとレイムが促した。
「この演出で結果発表をやれってエズミ先生がいっていたからさ」
ロゼは夕暮れでだんだん暗くなっていく窓際を背景に突然、彼女は眼鏡を外し、眼鏡ケースに入れて机の上に置いた。
その時の彼女はいつもの目付きのつもりだが、現在の彼女は眼鏡を外したせいか鋭い目付きだったのである。
「(今のロゼさん、ちょっと、怖い……。)で、ロゼさん、ザークと僕、どちらがお相手ですか?」
「まぁ、座ってよ」
ロゼは2人を椅子に座るように促した。
1人の小悪魔(?)のような番人と2人のイケメン(?)の囚人が舞い降りる……(?)
「2人とも、目を瞑ってくれ」
「ハイ」
「では結果を発表する。発表方法は私の手がどちらかの肩に触れたら、私のお相手だ」
「(ロゼさん、眼鏡を外してたけど、裸眼で見えているんだろうか……?)ハ、ハイ……」
ロゼは椅子から立ち上がって、2人の後ろに立ち、2人の間を右往左往する……。
「私のお相手は……、君だ!」
2人は目を開けてロゼの方を向いた。彼女は涼しい顔をしてレイムの隣にいた。彼女の手はレイムの肩に触れていたのだ。
「ロゼさん……」
「レイム、頑張ろうか」
ロゼはレイムにそっと微笑み、髪をかきあげた。
「ザーク、残念だったな。また今度機会があったら一緒にセクションをやろうな」
ロゼは軽く苦笑をして、彼女は眼鏡ケースをヒョイと取り上げた。
ということだった。
2010年7月の最終週……。
今日から2泊3日の合宿が幕を開けた……。
「お、おはようございます……」
「おはよう、みんな」
10人の部員たちは音楽室にいた。彼らの視界に入ってきたのは……。エズミはもちろんのこと、なぜかアリア、ロイド、エル、カイルの4人がいたのであった。
「な、何で、ロイド先生たちがいるんですか?」
リヴァルがエズミに問いかけた。
「今回はなぜ、先生がたくさんいるのか教えてあげるね。なぜなら……、指摘しあうのよ!」
「指摘?」
「観客が多い方がコンクールの本番のリハーサルになるし、お互いが指摘しあうことによって、いいところはもっと伸ばしたり、よくないところは集中して練習できるでしょ?」
とアリアとロイドがいった。
「そういう目的なんですね……」
ロゼ以外の3年生の3人がいった。
「それと、ロゼとレイムはソロコンテストが近いだろ」
「君たちのことは職員室で話題になっているぞ」
カイルとエルがロゼとレイムに聞いた。
「ハイ。そんな情報はどこから仕入れてきたんですか?」
「エズミ先生からだが……」
「そうですか……」
「ハイ、みんな、お話はおしまい! コンクールの曲の練習を始めるよ!」
「エズミ先生、私たちは何をしたらいい?」
とロイドがエズミに問いかけた。
「ロイド先生たちはこの子たちにバシバシ指摘していって」
「ハーイ」
ロイドはエズミに楽譜を受け取り、アリア、エル、カイルに分けた。
演奏中……。
「17小節、アール、音が外れてる!」
「20小節、ラドル、ここはティンパニじゃなくて、スネアドラムでしょ!」
「30小節、シヴァ、リズムがおかしい!」
「40小節、ザークとマリア、音にばらつきが目立つ!」
「60小節、リヴァルとナミ、メロディーのくせに強弱が弱い!」
などなどと、指摘が飛び交う。描写が追いつかない程のペースである……。現段階で指摘されてないのはロゼとレイムだけか? あっ、今度はオペラか。えっ、さっき、なんていった?
たった5分の演奏なのに、指摘の数はたくさん……。最終的にロゼとレイムは指摘がなかった。
「こんなに指摘されたなんて……」
「流石だよね……。ロゼとレイム」
「じゃあ、10分休憩してから、ロゼとレイムのソロコンテストの練習ね! 場所はここ。他のメンバーは視聴覚室でコンクールの曲の練習をして。さっき、指摘されたところはもちろんのこと、全体的にまんべんなく練習してね!」
「ハイ!」
10分後……。
他の部員たちは視聴覚室に移動したため、音楽室にはロゼ、レイム、エズミ、アリア、ロイド、エル、カイルの7人が残っていた。
「じゃあ、17小節からスタート」
「ハイ!」
この曲、『Trombone concerto』もコンクールの曲と同じく5分。
「ロゼ、レイム、ブラボー!」
「えっ、あっ、ありがとうございます」
2人は照れながらお礼をいった。
「流石、職員室で話題になっているコンビね!」
「これなら、すぐに学校祭とソロコンテストが来ても大丈夫だな!」
とアリアとエルが称賛した。
視聴覚室
「なんか、音楽室、騒がしくない?」
とナミがいった。確かに、音楽室のドアは開けっ放しになっており、視聴覚室のドアも開けっ放しになっていた。練習してないのがバレバレである。
「仕方がない! みんな、やろう!」
「午後も練習があるから、今以上に下手になったら、エズミ先生たちにたくさん指摘されるからね」
「ハーイ」