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雲が飛ぶ。  作者: ゆ~の
8/9

Epilogue

 新生活を始めて一ヶ月。

 遅い梅雨明け後、初の晴れた暑い日曜日。ゆずなは、久しぶりに訪れた母親の墓石前で、じっとしばらくの間、両手を合わせ続けた。

 一月ほど、謎の人の追跡は休止していたのだが、また再開をしようか。ゆずなは苦笑した。どうやら、真斗でないことはあの日、本人から確認ができたため、分からぬままである。

 以来、連絡さえもしてはいないのだけれど。

 あれほど、毎日一緒にいたはずなのに、不思議に無責任に薄れ行く、日常生活。

「……お母さんのバカ」

 愚痴を溢したくなって、腕を組む。

「お前、死人にバカとか言うなよ」

 ものすごい勢いで、振り返った。

「羽部……何で?」

 羽部にも、会ってはいない。

 一度、報告も兼ねて架けた番号は不使用のアナウンス。

「今日、仙台行くから。最後に挨拶でもと」

「私はされてない」

「しねえよ」

「どうして?」

「襲っちゃうから」

「……は」

「冗談」

 羽部は手ぶらで墓石の前に立つと、手を合わせて静かに追悼をした。どこかすっきりとした面差しの羽部を観察し、ゆずなは電話で話そうとした内容を伝えようと、口を開く。

「羽部」

「いい、真斗から聞いてる。一人暮らし。頑張れよ」

 遮られた言葉。でも、伝わっていた。

「羽部もね」

 ゆずなは、立ち去ろうとする羽部を名残惜しんで、思いきって声をかけた。

「……ねえ、連絡先」

「真斗に聞け」

「え?」

 羽部は空を見上げて、少し大きすぎる声で言った。

「……真斗と二人で遊びに来いよ。三人で遊ぼうぜ!ああ、そうなると美佳も来んのか」

 だから、早く友情を育めと羽部は笑う。

「待っててくれるの?」

「当然。友人ですから?」

 ゆずなはふわりと微笑んだ。

 羽部に抱かれて、起きた朝。妙にすっきりとした頭で考えた。

 真斗と母親と羽部のこと。

 無理やり落ち着かせて、畔道を一人で散歩してから帰ったあの日。

 やっぱり、上手く接することが出来るだろうかと玄関前で躊躇して。長いこと扉の前で突っ立っていたのだが。

 とりあえず、開けた扉の先にいた羽部の顔を見て、驚いて、安堵した。

「……ありがとう」

「おう。んじゃあ、行くわ。……元気で」

 至極簡潔に、手を上げて行ってしまう。

 ゆずなは遠ざかる後ろ姿を見送り、視界の端に入れ違いにやって来たいつかの老婆を見つける。

「……うわ」

(ヤダ、嬉しいっ)

 すれ違い様にあの二人が、会釈をしただけ。

 それでも、分かってしまった。

 涙で視界が霞む。

 飲み込むように空を見上げれば、真っ白な細い雲が、長く、飛んでいる。

「あら、お嬢さん。こんにちは」

「こんにちは……あのっ!」

 ゆずなは抱き締めた花束を、めい一杯に頬に押し当てた。

「お会いできたのね」

「はい。やっと……!!」

 仰いだ空には、雲が飛ぶ。空模様に合わせて、彼らは漂う。

 行き先は未知な道。

 風まかせ。

 手を伸ばす。

 その先には、愛しい思い出。

 雲が飛ぶ。






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