仮住宅確保
二人が、当たり前だ、言わんばかりでうなずいたのを見て、日向はため息をついた。
「あたし、自分でも何が何だか分かんないんだよ。だって、急にこの世界に飛ばされてきたんだよ? しかも、じぶんがワルキューレとかいうわけわかんない存在になっちゃってるしさ。」
それだけ言うと、目を閉じ、口も閉じる。それが、もう話したくないという意思表示のように。
「本当に? 本当に何も知らないの!?」
ミーが口をポカーンと開いた状態から元に戻した。
「そう、みたいだね……。」
ガブも、信じられない、というような表情をしていた。
「どうやったら、あたしが元の世界に帰れると思う?」
日向はそう聞くが、二人は完全に黙り込んでしまっている。
「……僕たちと、僕たちと一緒に、行動しないかい?」
うつむいていたガブが、顔を上げる。その表情は、とても真剣だった。
「事情は言えないけれど、僕とミーには絶対にしなければならないことが沢山あるんだ。だから、僕たちと一緒に行動してほしい。」
それを聞くと、日向は少し不満な表情になる。
「僕たちについてきてくれれば、安全と食事、寝る場所は保証する。それに、君の帰りたがっている世界手のかえり方も探す。絶対に。」
必要な生活はさせてあげる、とガブは言うのだが、日向は全く乗り気ではない。
「それってさ、あたしにあんたたちのお守りをしろってことだよね? 嫌よ、何で引きこもりのニートが働かなくちゃいけないのさ。」
「えぇー。」
それを聞くと、ガブがはんどくさい人だなぁ、という表情になる。
「あのさ……。」
日向が何かを言いかけたその時、
「うわはぁっ! かぁわいぃいいいい!」
そういって、謎の女性が後ろから思いっきり勢いをつけて抱きしめてくる。
「ぐはぁっ!」
その衝撃で、日向はわき腹を机に打ち付けてしまう。
「うごっ! い、痛い……。」
「あららっ! おねーさん、可愛い女の子を無意識に抱き締めちゃっているわ! ごめんなさい、すぐ退くわねっ!」
そういって、スタイルの言い、きれいな女性は日向を離す。
「無意識に抱きしめたって……この人すごく危ない人。」
日向は恨めしそうにそういうが、女性は聞く耳を持たない。
「上級悪魔を追い払った三人組が私のお店に来てるって聞いて、お使いから急いで帰ってきたのに! まさかまさかの、こんなかわいい子たちだったなんてっ! うりうりぃ~。」
そういって、女性は心底嬉しそうに日向に頬ずりをする。
「あなた、だれ……?」
頬ずりを無理やりやめさせると、日向は恨めしそうな顔をして、その女性に問いかける。
「私? 私はね、この食堂のオーナー、バティンだよ。よろしくねー。」
バティンは日向に向かって手を差し出すが、その手首をつかんで、無理やりガブと握手させる。
「もー。素直じゃないねぇ。」
そう言って、バティンは楽しそうにケタケタと笑う。
「あ、そーだ。」
急に、バティンは大声で叫ぶ。
「君たちさ、宿かなんか探してるんだったよね?」
バティンがそう聞くと、ガブが驚くが、うなずく。
「だったらさ、この店の二階貸してあげるよ。朝夕ご飯が付いて、家賃は三人で金貨一枚。どう? 安いでしょ。」
「金貨一枚って、どれくらいの価値があるの?」
この世界のお金の価値がわからない日向は、どうしようか悩んでいるガブに問いかける。
「金貨一枚は、一人が、安い宿に一日泊まれるか泊まれないぐらいだよ。寝る場所はあるけれど、ベッドはガッチガッチにかたくて、ご飯もはっきり言ってまずい。だから、金貨一枚で、一か月三人、ごはん付きで暮らさせてもらえるのはありがたい。でも、僕たちはしなければならない事があるから、一か月もここに滞在しているか分からないだろう?」
「えー、一日ここで暮らすだけでも、十分もと取れてるじゃん! ねー、いいでしょ!」
バティンが涙目で喚くのを見て、ガブはため息をついた。
「はぁ、分かりました。はい、金貨。」
そういって、ガブはキラキラと金色に輝く金貨を受け取る。
「わー、ありがとう! ベッドとか、生活に必要なものは大抵揃ってるから、すぐ暮らせるよ! でもでも、なんか無理やり押し切った感じがあるから、欲しいものがあったら言ってね! なるべく叶えてあげたいから!」
そういって、バティンは嬉しそうに金貨を握りながら厨房の方へと走っていく。
『押し切った感があるんじゃなくて、押し切られたんだよ!』と三人は叫びたくなったが、彼らは上級悪魔をあぶったことで、だいぶ有名になっているらしい。これ以上の面倒事は避けたかった。