始まりの始まり
前書きって、何ですか?
カタカタカタ、カチッ、カチッ。
パソコンのキーボードをたたく音と、マウスをクリックする音がする。
(あー、敵弱っ。こんなんじゃレベル上げにならないし。)
そう言いつつも、彼女はゲーム上の敵を大きな剣で切り伏せていく。
(のど乾いた。水でも飲みに行こう。)
そういって椅子から立ち上がり、ふと時計を見ると、もう夜の十二時だった。
「もうこんな時間か……。まぁ、べつにあたしは引きこもりだから、いつ寝ようとカンケーないけど」
その部屋には誰もいないのに、彼女は声に出してそうつぶやいた。
彼女の名前は柊日向、十七歳。人がいるところが嫌い、という理由で、中学二年生のあたりから、ずっと学校には行っていない。親はそんな彼女に呆れ、今はもう何も言ってこない。
(ま、別になんて言われたってこの家から出るつもりはないけど。ふわぁ……。)
彼女があくびをした時、足元から、ニャーと猫の鳴き声がする。
「あ、ミィ。いたんだ。」
彼女は自分の愛猫の頭を、しゃがんで撫でる。
「ごはん、あげてなかったよね。お腹、すいてるよね?」
ゲームをしている時は心底つまらなさそうだったのに、今は優しく微笑んでいる。
やさしく語り掛けるが、猫であるミィには人間の言葉は分かるわけがない。
ミィは不思議そうに首をかしげるが、彼女はそれを肯定と捉えた。
「うん、分かった。水飲みに行くついでにご飯、持ってきてあげるから」
よっこいしょ、と声を出しながら、彼女は立ち上がり、キッチンに向かう。