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ep001 出会い

差し替え 8/27

ここは東北の小さな町。

窓から見えるのは学生や会社員が足早に行き交う見慣れた朝の風景。

いつもと違うのは早朝から繰り返し報じられるニュースの内容。

「今日未明から各地で正体不明の発光現象が起こっている」というもの。時間が経つにつれ「日本各地」から「世界各地」へとニュースの規模は大きくなった。

ニュースキャスターやにわか専門家が朝早くから脳ミソをフル回転させている。「心霊現象説」「プラズマ説」「宇宙人説」etc…賑やかだ。

こんなイベントは小説の様にごく一部の特別な人達が遭遇するのであって、「その他大勢」に分類される俺にはニュースのようなことはテレビの中の出来事だと思っている。

「行ってきます。」

家を出ると朝だというのに肌を焼く日差しが夏の訪れを告げている。

打ち水された水がすでに陽炎となっていた。


門から外に出ると、突然目の前のアスファルトが淡く光を放ち始める。

光が円を形取り3Dホログラムのような影像が浮き上がる。現われたのは白い女の子。向こう側が透けていた映像は徐々に色濃く、存在感を増していく。


光がいっそう強くなり、そこには女の子が立っていた。

白銀の洋鎧を纏い、腰まである白い髪を背中で結っている。

手には木の杖(?)をもち、短剣を腰に下げている。

まるでゲームのキャラクターをそろまま持って来たような出で立ちだった。


(コスプレか? いやいや、ちょっとまて。いくら技術の進歩が激しいって言っても、何も無いアスファルトから人が『はえてくる』なんてないだろ!?)


足下の光が消えて動き始める女の子。周囲を見回し、

『「!?」』

目があった。

息をするのを忘れた。

俺の肩くらいの身長。整った顔立ち。

気が強そうな目。

鎧でわかりにくいけど、華奢といっていいかもしれない。


混乱している俺に話しかけたのは彼女のほう。

『***** **********?』

が・・・外国語?英語じゃないよな?

英語を流暢に話すなんて芸当は無いけど、英語の話し方とは違うのは何となくわかった。

無駄だと思うけど、一応聞いてみる。

「えっと、日本語わかる?」

『*****』

(ニュースで言ってた発光現象ってまさかこれじゃないよな。)

今朝のニュースが脳裏をよぎる。当事者になることなどまったく想定していなかった俺に対処なんてできるわけがない。

しかも目の前に現れたのは「女の子」だ。こんな事になるなんてニュースじゃいってなかった。

困った。

女の子はじっとこちらを見ている。値踏みされているような感じがする。

気分的にはあまりよくない。


俺と彼女の間に新たな光の輪が現れる。中から出てきたのは・・・

『「!」』

一言で言えば「わんこ」。シベリアンハスキーに近いけど、とんでもなくデカイ。

俺の顔の高さに頭がある。


★★★★★★★


私はティレシア。王国に所属する術師。

王国に所属するといっても兵士ではなく、何でも屋的に扱われる傭兵といった方が近い。

今回、東部の開拓村から狼の討伐要請があった。派遣されたのは私を含めて4人のパーティー。剣士(1) 狩人(2) そして私。

王都から東へ4日ほどかけてなだらかな山間部を進み、海沿いの開拓村へ出る予定。開拓村では家畜の生肉を調達して狼を誘い出すと聞いている。


事前の準備もあって、狼の群とは容易に遭遇できた。

仲間達が順調に数を減らし、残り一匹となった。

突然頭上から聞こえたのはガラスが割れるような大きな音。


私は体から魔力が失われ、体が地面に落ちていくような感覚を覚えた。視界が一気に暗転する。怖い!

次に目に映ったのは古代遺跡のような石造りの街並み。でも遺跡と言うには色鮮やかだ。

道路はきちんと整地され、黒を基調として道幅がとても広い。

体を動かすことはできないが、足下に魔力の収束を感じる。魔法陣か?魔力を操作して両足に集中させようとする。魔力を感じる事は出来るが、移動させる事は出来ない。

私にはなす術がなく、ただ状況が変わるのを待つしかなかった。


しばらくして足下に収束していた魔力が消えて身体の自由が戻るのを確認する。恐る恐る周囲を見回すと人が居た。

『「!」』

見た感じは私より歳上。呆けているのか頭は良さそうではない。

服装は麻ではなく、上質そうな生地。髭や髪が手入れされている。貴族か商人といったところか。

見たところ王国内ではないようだが、大陸の公用語なら通じるはずだ。

公用語は各国間のの意志疎通のずれから戦争になってしまった過去を反省し、各国の母国語の他に作られた言葉だった。

細かな日常会話や複雑な言い回しには向かないが、交渉ごとや緊急の場合には確実に意志を伝えることができる。

「ここはドコで おまえは誰だ?」

『*****』

言葉が通じない?公用語が通じない?

大陸のみならず、交易のある他国でも通用している言葉が通じないことに不安を感じる。

何故だ?

『**、******?』

「うーむ」

とりあえず相手に害意はないようだ。武器の類も持っていない。

しかしどうしたものか。


その時、周囲の魔力が濃くなったのを感じる。

魔力が収束し、私の目の前に魔法陣が形作られる。

魔法陣から出てきたのは狼 。


反射的に左足を引き右手の杖を狼に向け、左手で腰に下げた短剣の柄を握りしめる。

剣に刻まれているのは、風の飛礫(つぶて)を発生させる魔法語。

魔力を込める事で誰でも術を使用出来る護身具。いわゆる「量産品」のため威力は小さい。

この程度の術で狼を倒す事など不可能に近い。剣や体術となると、基礎は知っているものの実戦経験は皆無。つまり私に接近戦は絶望的だったりする。


こんな戦えない私が討伐に選ばれたのは、白く目立つ容姿と途絶えた興国の貴族の血が少し入っているという宣伝効果。さらに数少ない治療術の使い手で魔力の量が人間では考えられないほど多いためだった。

不本意ではあるが、実戦経験や戦力で採用されたわけではないのだ。


(どうする!?)

今すぐこの場から逃げ出したい。

目の前に居る男は逃げようともせず、状況に反応できていないように見える。

実戦経験のある戦士でも、魔力あふれる術師でもなさそうだ。ここで私が逃げたら、確実に狼の腹の中に収まってしまうだろう。

今出会ったばかりの言葉も通じない相手を助けなければならない義理も責任も私にはない。

・・・と思っている。

でも死なれたら、寝覚めは悪い。


狼の頭上で風に舞っていた木の葉が止まった。落ちてこない?

そういえば私もあの魔法陣の中にいたが、体の自由はもちろん魔力も自由に集中することができなかった。魔力そのものも拘束されるのなら、私にも何とかできるかもしれない。


方法は決まった。完全な賭けだが、時間的に他の選択肢を考えている余裕はなさそうだ。

ありったけの魔力を左手に集める。風の飛礫が杖の先から狼の鼻先に向けて放たれる。

ダメージはない。その代わり、狼の前に波紋が生じる。

通常は1発ずつ消化されるはずの飛礫が空間に拘束されている。重なりあっている飛礫は既に数千。魔力の限界が近いのを感じる中で、さらに左手の剣に魔力を込めていく。

徐々に波紋が激しく波打ち空間が白く光りはじめる。

私の魔力すべてを使った一点突破。運が良ければ、拘束が解けた狼を倒せるはず。



白い光が一層強くなり、ガラスが割れる音がした。

私が放ち続けた飛礫は残念ながら狼を撃ち抜くことは出来なかった。

狼は・・・いなかった。

私の放ち続けた飛礫は魔法陣そのものを圧倒し、破壊してしまったようだ。


私は魔力の限界を超え、意識を手放した。


目が覚める。目の前に広がるのは見覚えのある光景。

私が十五歳になるまで過ごしたキーロフ。私はいつ戻って来たのだろう?

王国イーフェイの西部に位置する小さな村。人口は三百人ほど。

村の西には険しい山と隣国との国境がある。国境には国軍の屯所もあるが、街道から外れた村に人が来ることはめったにない。


思えば1年前に王都へ召しだされ、貴族としての礼儀作法から傭兵としての知識まであるとあらゆることを学ぶことになった。


こうなった元凶は村を訪れた領主。息子の侍女を召すとか言って村の娘たちが集められた。その中には村の若者と結婚間近の娘もいた。

ここにいるのは領主と供の3人、それに村長と集められた娘が十人。

娘の集団の中に、見えないように髪を結い上げスカーフをかぶった私がいた。そんなに大きな村じゃないこともあって、ここにいる全員が家族同然の付き合いをしている。

(村の)姉たちは私の髪の色が見つかれば、問題が起きることを理解している。だから領主と私の間に立ち、領主の視線から私を隠してくれている。


領主と村長の会話が聞こえてくる。

「貴様ら平民がこんな辺境で暮らしていけるのは我々貴族の恩情によってだ。こんな下賎な娘たちで村の平穏が守られるなら安いものだろう。」

村長が何か言い返したことで領主の声が大きくなった。

「結婚だと? よかろう、娘の対価として金貨1枚を送ろう。不満があるというなら国家への反逆として厳罰とするぞ。よいな!」

結婚間近だった娘から悲鳴が上がり泣き崩れる。


(ブチッ!!)

私の中で何かが途切れた。


「お願い。どいて…」

周囲の姉たちの視線が私に集まる。

声にわずかの魔力をこめる。

「お願い…」

言葉に込められた魔力に気付き、姉たちが左右へわかれて私と領主の間に道ができる。

領主が私に気付き、訝しそうな視線を私に向けてくる。

「何だ?」

私は髪の毛一本一本にまで魔力を通しながらゆっくり前に進んでいく。

領主まで十歩程のところで魔力を通し終わり、歩みを止める。


領主が下卑た笑みを漏らす。

「ほほぅ 美形じゃな。肌も白い。わしの侍女にしてもよいかもな。」

はっきりいって遠慮します! 豚に仕えるつもりはありません。


現状を打破するとしたら村全体での反乱か夜逃げくらいしかない。

私はこの村が好き。ここの人たちが好き。守りたい。

だから私は選択する。


この国には昔話がある。---

初代国王と共に建国に尽力した騎士が白い髪だったという。なにぶん八百年も前の話だから伝説に近い。信憑性だってないに等しい。

軍を率いては無敗。

竜族と一騎打ちを行い。

魔族や亜人を退けた。

建国王と並び称される「白き騎士」。

その後白き騎士の家では白い髪の人物は生まれなかったという。

そしてこの騎士の家は、王国の歴史の中で廃絶えている。


「白き髪の者は伝説の騎士の力を受け継ぐ」

---そんな言葉がこの国には残っている。


神が間違えたのか悪戯なのかはわからない。

私には白い髪の毛と灰色の瞳、そして治療の術と人並みはずれた量の魔力を持っている。治療の術は物心付いたときから使えていた。もちろん白い騎士なんて人がご先祖様にいたなんて聞いてない。

医術をもった人が居ない村には、治療の行える私の存在は何があっても守らなければならない秘密だった。


でも、今はこの言葉に(すが)る事を選んだ。


みんなの前に出た私はスカーフを取り、結い上げていた髪を下ろす。白い髪が魔力をコーティングして銀色に輝く。髪からこぼれる魔力は光の粒となって蛍の群れのように私の周りを舞い始める。


領主の顔が驚愕に歪む。目を剥き言葉にならない何かを呟いている。

私はできるだけ感情を殺してこう告げる。

「私の村に何か用?」

領主の顔が引きつる。


領主の言葉が聞き取れるようになった。

「なぜここに… いやまて… 妻にして『白き騎士』の一族に… 」

「ぐふふ… 要職に就くことも… 」

引きつったままの顔で笑み始める。人間の顔じゃないな。


私は髪の一本一本に通していた魔力を領主だけに向けて一気に開放する。

その場が一瞬、昼のように明るくなる。

自分の許容を超える魔力を当てられると魔力酔いとか魔力中毒といった状態になる。

たくさんの人がいる中で全方向に魔力を放出するなんてご近所迷惑なこと、私にはできません。

そして許容を著しく超える魔力にさらされると…。

こそには失禁し泡を吹く領主と供の人がいた。


集められた娘たちが帰っていくのと入れ替わりに、私の両親が入ってきた。

まず落ちたのは父の雷。

次に落ちたのは母の涙。

そして無事を喜んでくれた。

緊張の糸が切れた私はうつむいて泣く事しかできなかった。


その後私は村長を伴って国境の屯所へと出頭した。

仮にも領主に対して魔力をぶつけた不敬罪で。

私は王都へ召し出され、村は治安維持の名目で少数の兵と医術師が派遣された。




私は朝霧の中、ゆっくりと進んでいく。

村の朝は早い。途中、見知った顔が挨拶してくる。

「おは…! おかえり。いつ帰って来たのさ?」

私は笑顔になる。

「ただいま! えっと、さっき着きました。」

同じ様な挨拶を何度も繰り返して、目的のドアの前に着いた。

父と母の待つわが家。


ドアに手をかけようとして体が動かなくなる。

(え? どうして?)

足下に光の円があらわれ、私の体が地中に沈んでいく。

周囲に広がるのは真っ暗な世界。

唐突に光の円が消える。

体が落下していく感覚。


そして…私は自分の悲鳴で目覚めた。


悲鳴に驚き目を見開く、私は真っ白な光の洪水に襲われた。

たまらずに目を閉じた私は、今度はゆっくりと目を開ける。

そこは真っ暗な地の底ではなく、明るく暖かい光があった。

私はゆっくりと顔を動かし両親の顔を探す。そこに両親の顔は無かった。


見上げているのは見覚えのない天井。まるで白い布でも貼り付けたような綺麗な天井がそこにはあった。

王宮や貴族の邸宅、高級な宿屋ならこんな白い天井でもおかしくないと思う。

横を見ると本棚、机、椅子が見える。壁も天井と同じ様な白い色。


私は自分へ意識を戻して、ベットに寝ていることにようやく気づいた。軽くて柔らかい布団が気持ちいい。このまま目を閉じたら、そのまま眠りに落ちてしまいそうなくらいに・・・。

顔を半分だけ布団に埋めながらぼんやりと天井をながめる。


えーっと・・・

東の村の討伐に来てて・・・

地面に落ちて(?)

遺跡みたいな町に飛ばされて・・・

魔法陣から狼が出てきて・・・


「狼!?」

魔法陣の中の狼はどうなった?

なんで私はベットに寝てるの?


私は鎧を身につけていないことに気付いた。鎧どころか杖も剣も持ってない。

幸いというか鎧の下の麻の服はそのまま身に着けている。

どうやら私は無事で、誰かにこの部屋へ運ばれたらしい。



ベットから上半身を起こそうとする。

「くっ!」

急に起き上がろうとしたためか目眩を起こし、そのままベットの中へ沈んでしまった。


ドアをノックする音がした。

警戒するにしても身ぐるみ剥がれて戦闘力ゼロの私にはどうすることもできない。

開き直ることにした。

「どうぞ。」

通じないと分かっていても、起きていることを知ってもらうために返事をする。

『お? おきてるな。』

やはり言葉は通じない。ドアが開き入ってきたのはさっきまで目の前にいた男性だった。

黒い髪に黒い瞳、身長は私よりも高い。日に焼けた肌が見える。

部屋の外に向かって何かを叫んだ。

『おふくろー 目が覚めたみたいだぞ!』

『同じ家にいるのに叫ばないの!』

男の頭を小突きながら入ってきたのは女の人。

私より少し背が高く肩までの髪の毛を後ろで結っている。ぱっと見優しそう。

年齢は…若く見える。私より少し上?

夫婦かな?



…これが私とこの家族との出会い。

  大きな勘違いを沢山含んだ異世界の始まりでした。

次回)

あんパン インスタント食品

テレビ 冷蔵庫 etc... 異世界の人が見たらどんな反応をするのでしょうか?

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