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白銀の従者二人

色々あって遅れました

ごめんなさい!

天から雪が降らないまでも、葉が落ちて剥き出しになった私の肌にはその冷たさはひしひしと伝わってくる。今朝も私の枝や体に霜が降りてきて、まるで全身をつままれた思いだった。

太陽はその熱を私たちに届けようともするが、なかなかうまくいかないようで日照時間も短く気温もあまり上がらない。

しかしその分人間の子供達は体を暖めるため辺りをはしゃぎ回り、その活力は妖精や妖怪を大きく上回っていると私は感じた。


今日はここ最近で特に寒い日だ。なにせ朝から曇り空だったし、横から殴り付けられるような風が時折吹いているから、私や仲間の体も軋み妖精が何処かへ飛ばされていく様だ。まあ妖精の光景は見ていて和まされる程度のものだったしあまり心配もしていない。

雪さえ降ってくれれば寒さで引きこもっているもの達も気を変えるだろうし、度々聞く『雪遊び』というものも見られる。その暁にはチルノ達が私の広場で遊んでくれるというものだから楽しみで仕方ない。

今、ナイフのような北風が突き抜けた。葉のついていない枝が擦れ合い打楽器のような音を出すが、くっついている蓑虫が落ちないかが気掛かりだ。

その様子を確認しホッとしていると、この時期に珍しく森の上空を飛ぶ気配を一つ、いや大分離れて二つ発見した。

急いでいるといった速度でもなく、たいした用事もなさそうなのだが、とりあえず来客を存分にもてなすため心を作る。

一人目の来客は、目を丸くした髪の白いおかっぱの少女だった。髪に黒いリボンがアクセントとしてつけられて、全体的に緑の色彩なのだが、今まで私が目にしてきた者の中でももっとも奇異に映る付属品があった。

黒く反り返った棒のようなもので、少女が手に取りやすい側には白い綿のような毛がついている。それが二本、それぞれが両極端に長さを違えていた。たしかあれは刀だった。古来の人々が戦に使っていた主戦力だという。

この幻想郷で、自衛のために持っていてもおかしくないものだが、それは人間に限ってのこと、と思っていたが少女の気配が奇妙なものであると気づいた。

「これが紫様の言っていた……、幽々子様に見てきたらどうかと言われて来たがこれほどなんて……」

幽々子は知らないがともかく紫の知り合いらしい。それならば何かしら人とは違うものを持っていても普通ではないかと思い至る。

感嘆を浮かべる彼女の隣には白い柔らかそうな物体が浮かんでいた。これが違和感の正体だ。少女は人と霊魂、生と死の様相どちらも持ち合わせていた。半人半霊といったところか。

「これは紫様もおすすめになるわけだ。また幽々子様も連れて来てみたいけど……その時はいっぱいお食事も作らないとね」

白い煙が喋る度に上がる。話を聞いてみれば彼女は幽々子とやらの従者らしい。希少種の主などそれはもう珍しい種族なのだろうか。

どこかの寄り道なのか手には小さな鞄を持っている。彼女は力を抜くように肩を下ろし吐息を漏らし、

「せっかくだから休憩していこう」

と私の根元に腰を下ろし、荷物を抱きながら私に背中を預けた。

普通の人間と違い体温が低めで私も最初はビックリしたが、それは体温だけの話。彼女自身とても真っ直ぐな気持ちの持ち主で、何事にも一生懸命なのだという彼女の人柄が伝わってるから、私も心を暖められたし、その分彼女にもそのエネルギーを分け与えれたと思う。

「あー、心に染みていくわー。前評判通りね……」

少女は隣に半霊を寄り添わせ、更に体の力を弛緩させた。その顔も緩みきっている。

これぞ私にとっての至福の時間。普段から気疲れが多そうな彼女の精神をできるだけ癒してあげようと私も少し気合いを入れてみる。

「あ、なんかすごい体の芯から暖まるような……温泉に入ったときと似てるかな。このまま寝ちゃいそう」

効果は覿面なようで、まさに彼女は睡眠に入ってしまいそうだ。それはそれで嬉しいのだが、もう片方の気配がここにたどり着いたようだ。

「あらあらずいぶんリラックスなさっているようで」

「!? あなたは!」

ヒラヒラな装飾の多い服もさながら、輝く綺麗な銀の髪にも襞のようなものをつけている。赤いマフラーを首に巻いているものの、しかし見た目を重視したものでもなく、どちらかといえば機能を重視したような感じだ。……いや少し外見も入っている気もする。

「あなたはって……、今さら自己紹介をする間柄でも無いでしょうに妖夢」

見ているだけで寒くなる湯気がお互いの口から漏れている。

「咲夜さん……」

妖夢は闖入者、咲夜を驚愕の表情で見上げる。咲夜はまだ宙に浮いていて、妖夢の姿を見下ろしている格好になっていた。

ようやく気づいてもらえた、と咲夜が不満そうに呟くと、妖夢は刀の鞘に手をかけ腰を沈ませ臨戦態勢にはいるも、悔しそうな面表になった。

咲夜はスカートの中身を気にしながら降り立つと、頭のてっぺんから爪先まで全くの隙がない綺麗な立ち姿を私と妖夢に見せつける。鼻筋の整った、かなりの美形の面持ちだ。少し冷めている印象を抱かせるが、それもまたマッチしている。推測だが、どこかの使用人なのだろう。只者ではなさそうだが。

咲夜は人間だが、それがもし妖怪だったら、もしも自分を襲ってくるような存在だったらとっくに妖夢は殺されていたはずだ。その間合いまで自分が府抜けていたことにたいしての自責の念を感じているのだろう。

無論、私がいる限りこの憩いの場を邪魔するものは容赦しないし、寄せ付けない。大体そのような不埒者はこの森に入ってきた時点でわかるし、あまりしないが土地の力を使うこともできる。そうやって今までここを守り続けてきた。

「まあまあそんな顔しないで、ここでゆっくりしてたんでしょ」

咲夜が武器を下ろすよう妖夢を身ぶりでなだめると、妖夢はしぶしぶ鞘から若干ではあるが手を離し沈ませていた腰をやや緩めるが、完全に解く気がないようだ。

「そりゃそうですけど……」

妖夢が警戒心丸出しで答える。なかなか臨機応変に対応できずお堅いところがあるようで、咲夜もやれやれとかぶりを振る。

「ならいいじゃない。たまには緊張も全部解き放って仕事のこととか忘れる時間があっても」

「でもそれじゃお師匠様には到底届きっこないし」

武装解除に努める咲夜。妖夢はまだ頑なだが、効果は出てきているようだ。まあしかしそろそろこの緊迫した空気から早く解放されたいものだ。それよりも二人仲良く腰でもかけて談笑してくれた方が私も嬉しい。

「はぁ、いつもいつもあなたはお師匠様がお爺様が……、いったいあなたの意思はどこなのかしらね」

「悪かったわね」

呆れたように、聞き飽きたというように肩を落とした咲夜に、妖夢はぶっきらぼうな言葉を投げ返す。

しかし溜飲が下がったのか妖夢も構えを完全に解いて咲夜と向かい合う。

「咲夜みたいな忙しいメイドがこんなところで呑気に過ごせているとは到底思えないのだけれど」

しかし顔を合わそうとはしない。完全にそっぽを向いている。

「お使いよお使い、魔理沙から聞いていたのを思い出したから寄り道しただけよ。あなたもそうでしょう」

咲夜は気にしていない様子で、妖夢のそばに置いてある買い物袋に目をやりながら言った。

「それに私も少しぐらい体を休めたいときぐらいあるわよ」

妖夢はまだ拗ねることをやめなかったが、徹底的に敵対するつもりはないのだろう。居心地悪そうに頬を掻き咲夜の顔を窺った。

咲夜はにこにこと微笑んでいたが、妖夢は逆にムッとした表情になってしまった。

「妖夢があんなにだらしなく顔を緩めるぐらいだからさぞこの木は気持ちいいのでしょうね」

場の空気を変えようとしてか、咲夜がこれまた瀟洒な仕草で根に腰を下ろすと、服にシワがよらないよう慎重に体重を私にかけてきた。ようやく事態に収拾がつきそうだと私も安心できた。

「ほら、あなたもさっきまでやってたじゃない。遠慮せずにどうぞ」

咲夜が不機嫌そうな妖夢を促す。妖夢も少し渋ったが、咲夜の薦めということで少し躊躇ったのだろう、数瞬してから先程の位置に戻るが、背筋が伸びきっている。

「……プッ」

そんな様子が咲夜には滑稽に見えたらしく、彼女はついに吹き出してしまった。丁寧に口元を押さえている。

「なっ、笑わないでください!」

恥ずかしそうに頬を赤らめ声を荒げて抗議する妖夢だが、その様子すら可笑しく見えるらしい咲夜は、相変わらず腹を抱えている。

妖夢は拳を振り上げてわなわなと震えていたが、馬鹿らしくなったのか力無くそれを下ろした。どっと疲れたというように脱力し私に身を預ける妖夢。それを見て咲夜は満足そうに頬を緩めた。

ついに私の出番だと、二人のためにこの身に流れるエネルギーを今度は頭上の幹から振りかけるようにしてやる。もちろん触れている箇所から流し込むのもやめない。

「あらあら、これは……」

咲夜が驚いて顔をあげる。

「ふぅ……」

妖夢もさっきより違ったアプローチに満足げに頷いた。

「妖夢の気が抜けるのもわかるわぁ」

咲夜も眉目秀麗の顔立ちを愉悦に染め、今しがたの妖夢のように安らいでいた。

「引きずらないでくださいその話題は」

妖夢もご満悦の様子。

「うふふ、それはごめんなさい」

「まったく……」

もういざこざの心配もなさそうだ。

二人の幸せそうな息づきを聞いていると、私も冥利に尽きるというもの。私も彼女らから元気がもらえた気がして、静かに喜んだ。

「あなたのご主人様、西行寺幽々子のことなんだけど」

「なんですか?」

「最近白玉楼で面白いことあったかしら」

「……何で咲夜さんがそんなこと気にするんでしょうか」

咲夜の意図がわからず妖夢は聞き返す。

「いやねぇ、あなたも私も手のかかる主人持ちでしょう。だったら相談だったり愚痴だったり、なんだったら自慢だってお互いにしたっていいじゃない」

柔和な面魂を咲夜は妖夢に返すが、妖夢は納得いかない様子だ。

「まあ話したくないんだったらいいんだけど? 相当溜め込んで爆発しても知らないし。というか以前からやってたでしょうこんなこと」

「……」

妖夢から顔を外し空を仰ぐ咲夜。

妖夢もつられて空を見上げると、ひとつため息をついて口を開いた。

「わかりました」

「そうこなくっちゃね」

咲夜は嬉しそうに笑う。妖夢は咲夜の方へ体の向きを変え、語り始めた。

「最近なんですけど、幽々子様と藍さんが一緒にお飲みになることが多いんです。紫様が冬眠している今藍さんも結界の修繕とかで忙しいようなんですけど、紫様への愚痴とか惚気とかを結構お話になって」

「いいじゃない、あの九尾も隙間妖怪がいなくなって寂しいんだしそれに食卓を囲むのは大人数の方がいいんじゃないのかしら?」

「いいえ、こっからなんですよこっから……それでですね、先日、三人で飲んでいたときです。藍さんもその日は結構キテたようでですね酔いがひどかったんです。

そうしたら藍さんが私に向かって『妖夢はもっといろんな服を着ればかわいいのになぁ』って口に出したんです。幽々子様も『あら、それは私も思っていたわ』って悪のりしだして……。

どこから取り出したのか御二人の両手には様々な衣装が……」

「そ、それで」

過去の情景を思い出したのか震えだした妖夢。咲夜は若干引きつつも話の続きを促した。

「あれよあれよという間に脱がされ着せられの繰り返し……あれでしょうかやっぱり日頃からああいうのやってたんでしょうね藍さんも。

気がつけば幽々子様の持ってきたカメラで食事の席が撮影会場に……、チャイナドレスやメイド服、変に露出度の高い学生服だったり『すくーるみずぎ』っていう外の遊泳服までも着せられて挙げ句の果てに現像までされて……」

思いっきり遠い目をし始めた妖夢。意識そのものまで明後日の方向へいってしまいそうだ。事実、半霊が曇り空を突き抜けようとまでしていたのだから。

慌てて咲夜が妖夢を現実に引き戻すと、妖夢は焦点の合わない、すがるような目付きで咲夜を見つめた。

「ええと、まあ宴会ではよくあることよ」

咲夜の目が泳いでいる。上手い慰め言葉が見つからないようだ。

「ありませんよ変態天狗でもあるまいし!」

何処かで天狗に矢が刺さった音が聞こえたが、空耳だろう。

「じ、じゃあ私の話しにいくわね」

このままではいけないと話の流れを変えにかかる咲夜。まだ妖夢はなにか言いたげだったが、悪循環に陥ることは間違いなく、妖夢の心の闇に恐怖を抱きながら咲夜は自身の体験を語る。

「妖夢、モケーレムベンベって聞いたことあるわよね」

「ああ、あのレミリアさんがやってるっていうごっこの元の」

「そう、実はそれが館のなかで暴れてね」

「え、実在したんですか!?」

意外そうな声をあげる妖夢。はて、そのモケーレムベンベというのはなんなのだろうか。それをごっこにするとはいったいどんな遊びなのかと不思議に思う。

と、遠くで首の長い爬虫類のようなものの姿が見えたが、すぐに消えたしまった。

「実はレミリアお嬢様以外は目撃したことがなくて、私たちはそれがはじめての遭遇だった。そう、まだ幼くて小さかったんだけど、四本足で尻尾と首が長い、たしか恐竜かなんかに似ていたわ。

それをどうにかして捕らえて湖に放そうと頑張ってたんだけど、まさかのお嬢様が飲み込まれてしまって……」

「き、吸血鬼が飲み込まれるって……」

顔を青ざめる妖夢。確かに吸血鬼は恐ろしい存在だ。鬼のような力と天狗のような早さを併せ持ち西洋では最強のモンスターと言われていた。

「館総出で救出してなんとかお嬢様は無事だったわ。でも怒ったお嬢様が打ち首にするなんて言い出して……そのあと結局うやむやになってそいつがどうなったか知らないんだけどね」

また遠くで長い首が見えた。……あれは無視してもいいものなのだろうか。咲夜の話を聞いている限りそんな存在には到底思えない。

「お互い大変な主人を持ってるのね」

咲夜が諦めも込めながら笑う。

「そうですね」

妖夢も苦笑いをこぼす。

「あ、そうだ咲夜さん。この前………………」






そのあともお互いの身の上話を延々と続ける二人。

労いの意味も込めて、私は二人を抱え込むイメージを浮かべる。以前不思議な力を持つ、姿も紫に似た少女にしたように。

寒い冬の到来の最中、この場所は私の行動によるもの以外による確かな暖かみに包まれていた。


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