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びよういん

作者: スーパナイトシオン先生
掲載日:2026/04/16

駅の改札前で、カナコは震える手でスマートフォンの画面を見つめていた。

なぜか脳内ではエレクトリカルパレードが短調で流れている。

足元には、フルーツ店で奮発して買った高級メロンの入った紙袋。そして左腕には、徹夜で折った千羽鶴が力強く抱きしめられている。


事の発端は、前夜のLINEだった。


* * *


夜、部屋でくつろいでいたカナコのスマホが鳴った。画面を見ると、親友のリカからのメッセージ。


【リカ】

『ごめんごめん!昨日びょういん行ってて、スマホ見れなくて返信すっかり遅れちゃった』



カナコは息を呑んだ。「びょういん」――病院。昨日まであんなに元気だったリカが、急に入院するなんて。



【カナコ】

『えっ!? 病院!? だ、大丈夫なの!? どこか悪かったの!?』


【リカ】

『いやいや、病気とかじゃないよ笑 最近ちょっと「重く」なってきたから、軽くしてもらおうと思って』




重い。画面を見つめるカナコの脳内に、

「 巨 大 な 腫 瘍 」

という最悪の文字がよぎる。




【リカ】

『でさ、思い切ってバッサリ切ってもらったんだよね!』


【カナコ】

『バ、バッサリ!? 痛くなかったの!?』


【リカ】

『全然!むしろ気持ちよくてさ。台の上に仰向けになった瞬間、スッと意識飛んじゃったんだよねー』




( 全 身 麻 酔 だ … … ! !)




カナコは耐えきれずに目頭を押さえた。そんな大手術を、親友に黙って一人で受けていたなんて! 震える指でフリック入力を急ぐ。




【リカ】

『起きたらもう終わっててさー。床見たら、切ったやつがドサッて落ちててびっくりしちゃった笑』


【カナコ】

『ヒィッ!? そ、それ見ちゃったの!? 先生、ちゃんと処理してくれなかったの!?』


【リカ】

『いや、私が「どれくらい切りました?」って聞いたら、先生が笑いながらホウキで集めて見せてくれて「結構いきましたねー」なんて』




(ホウキ!?  サ イ コ パ ス 執 刀 医 ! ?)

戦慄してフリーズするカナコをよそに、リカからの軽快なLINEは続く。




【リカ】

『あ、そうそう。ついでに「カラー」もお願いしたんだよね✨』


【カナコ】

『カラー……って、首に巻くあのコルセットみたいなやつ!? 頸椎までメス入れたの!?』


【リカ】

『首?ううん、頭だよ。ちょっと「明るく」したくて』





(頭を明るく……!? 開頭して脳にLEDでもぶちこんだの!?)






(も し か し て ! エ レ ク ト リ カ ル リ カ ??)





カナコはもうパニックだった。脳内はエレクトリカルパレードのリフレインが続く。





【リカ】

『ついでに「トリートメント」もね。やっぱり傷んでたみたいだから。おかげで今はサラッサラ!指通りも最高だよ!✨』


【カナコ】

『指通り!? 術後の患部をベタベタ触っちゃだめよ!!』


【リカ】

『でもねー、やっぱり2万円はちょっと痛い出費だったなー』


【カナコ】

『2万!? そんな大手術して2万!? 日本の医療費どうなってんの!! どんなヤミ医者よ!!』


【リカ】

『ヤミ医者って失礼な!表参道のカリスマだよ!先生の指名料だけで3千円するんだから!』





( 執 刀 医 の 指 名 料 安 っ ! !)


ツッコミどころが多すぎて、カナコの思考回路はエレクトリカルショート寸前だった。


とにかく、生きているだけで儲けものだ。どんな姿になっていようと、私がリカを支えていかなければ。そう決意したカナコは、一睡もせずに千羽鶴を折り続けたのだ。





* * *


そして翌日の昼。

もともと約束していたランチの時間が近づき、カナコは病院へ向かうべきか迷いながらも、とりあえず待ち合わせの駅に来ていた。すると、再びリカからLINEが入る。


【リカ】

『今度、カナコもあの店紹介してあげるよ。……あ、ちょうど駅着いた!今どこ?』




カナコはゆっくりと顔を上げた。大手術の翌日だ。きっと車椅子に乗っているか、さもなければ包帯ぐるぐる巻きの痛々しい姿に違いない。キョロキョロと周囲を見渡すカナコの肩を、ポンと後ろから叩く手があった。





「おーい! カナコお待たせー!」





振り返ったカナコの視界に飛び込んできたのは、重かった黒髪をバッサリと切り落とし、春の陽気のように明るい金髪のショートボブを揺らす、満面の笑みのリカだった。さらさらの髪からは、ほんのりと高級なフローラルの香りが漂っている。





「……えっ?」

「いやー、やっぱり短くすると首元スースーするね! 似合うかな? ……って、あれ?」




リカは首を傾げた。目の前で、まるで幽霊でも見たかのように口をパクパクさせている親友の姿に、思わず目を丸くする。




「え???なんでカナコ、号泣しながら『千羽鶴』と『メロン』持ってるの?」



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