依頼を受けよう
それからおれは冒険者ギルドで何度かクエストを受けた。
と言っても薬草採取や素材採取などの簡単な初級者向けのクエストだ。
この間のキースたちと受けたクエストでわかったことがある。地名がわからなければどこに行けばいいのかわからないし、魔物討伐もどこに魔物がいるかわからなければ倒すことはできない。素材採取もそれがどんなものか分からなければ何をしたらいいのかさえわからんってことだ。
おれは神様でこの世界を創ったが、おれはこの世界のことを何も知らん。世界観に任せきりにしてしまったツケだな。
というわけで、おれはクエスト依頼書を見て、薬草の生息場所や特徴が書いてあったり、素材の入手方法が親切に書かれていたりするクエストを選んで受けていた。
しかしそれだと報酬は銅貨一枚か二枚になってしまう。四苦八苦した割りに一日分の食費も稼げていないってわけだ。
「お。オレじゃないか。元気にしてるか?」
「キース。」
おれがクエスト依頼の掲示板を見ていると、おれを見つけたキースがおれに声をかけてきた。キースは数人の冒険者たちと一緒だった。
なるほど、全員キースと同じくらいの熟練した冒険者に見える。こいつらが本来のキースのパーティの仲間たちなのだろう。
キースはおれがキースの仲間たちを見ているのがわかったのか、言った。
「すまないな、オレ。また機会があったら誘うからさ。その時はよろしく頼むよ。」
「ああ。」
別にキースのパーティに入れてほしいと思ってないがな。
「じゃあ、またな。オレ。」
キースたちのパーティはクエストを受注して出発するところだったようだ。
おれは、ちゃっかりエバンスがキースのパーティに仲間入りしているのに気がついた。スカウトされたんだろう。まあ、確かにエバンスは感知の魔法も使えて冒険者のランクもそれなりだったみたいだからな。
おれは気にせず、掲示板の貼り紙に視線を戻した。よく見るとパーティ限定のクエストなんかもあるんだよな。
「ねえ、オレ。オレってば。」
ん? ああ。またおれが声をかけられたのか?
おれが声のする方を向くと、そこにはナナオが立っていた。
「ナナオか。どうした?」
「よかった。私のこと忘れてるのかと思った。」
ナナオは以前にキースのパーティに参加していた時と同じように鎧を身につけていた。
今日はよく話しかけられる日だな。
「このクエストなんだけど、私と一緒に受けない?」
ナナオがおれにクエスト依頼の紙を見せて言う。
大ネズミ討伐の依頼。場所はウェスベルク近郊の墓地。どこだよ、ウェスベルク。
報酬は一体につき銅貨二枚か。魔物討伐にしては少ねえな。
「一体につき銅貨二枚か……。」
「しょうがないじゃない。まだ冒険者になって日が浅いんだから。オレもFランクでしょ? 見てたわ。薬草採取や素材採取ばかり。違うの?」
「いや、違わん。」
「それで受けるの? 受けないの?」
「受けるよ。」
「いいの? じゃあ、よろしくね!」
おれが返事をするとナナオの顔が明るくなった。ナナオのボブヘアの前髪の間から見える形のよい眉が上がる。
さっそくおれとナナオはカウンターに行ってクエスト依頼の受注を伝えた。クエストの依頼主はウェスベルクの領主だった。その場合の報酬はギルドで受け取れるらしい。
ナナオが「こっちよ」とおれを先導する。
ナナオ。鎧を着込んでいるせいか、こいつからはあまり女を感じないんだよな。背もおれと同じくらいだしな。
「ところでこのウェスベルクってのは遠いのか?」
「え?」
「ん?」
「本気で行ってるの、オレ?」
「んー……。ああ。おれはまだこの街に来たばかりだから、いろいろ知らないんだ。教えてくれ、ナナオ。」
ナナオがおれを信じられないという顔で見る。
なんだ? おれ、そんなに変なこと言ったのか?
「ウェスベルクはこの街の名前よ……。本当に知らないの? 私のこと田舎者だと思ってからかってない?」
「ああ?」
そういうことか。そういや、おれはこの街の名前も知らなかったな。ようやく気付いたぜ。
ここはとりあえず正直に言っておくか。
「いや、本当に知らなかったんだ。おれは神様だがこの世界には数日前に来たばかりだからな。教えてくれてありがとう、ナナオ。またおれが変なことを言っていたら指摘してくれ。」
「……はあ? 神様?」
「そうだ。」
数日前におれが何もなかったこのおれの世界に剣と魔法の異世界ファンタジーの世界を創った。ここはそういう世界だ。
だからこの空も地面も街も魔物も人間も、ナナオだっておれが創った世界の一部にすぎない。
おれがこの世界を創った理由は……、まあそれは今はいいだろう。おれはおれが創ったこの世界で幸福を見つけようと思う。あの別の世界の神の目的はわからないが、あの世界の神があの世界で幸福でないならば、おれはおれの世界で幸福になれることを証明する。
「変なことって……、今言ってるのは変なことじゃないの……?」
ナナオは移動中も眉を眉間に寄せて、そう呟いていた。




