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街に行こう

 森を出てしばらく歩くと人間が作ったと思われる舗装された道に出た。

 舗装って言っても踏み固められた感じの地面である。なにか車輪が通ったような跡もあるからこの世界にも馬車くらいはあるのかもしれない。


「どっちに行くのが正解か。」


 左右を見比べて決めかねていたら、左の方から人間を乗せた馬と馬車の一群がやってきて、おれの横を通り過ぎていった。馬に乗っている人間を見た感じ『中世』って感じの格好である。


「よしよし。ちゃんと人間もいるし、おれが創造した通りのゲームみたいな異世界ファンタジーの世界になっているようだな。」


 それならおれも、さっきの馬車が行った方向に行ってみるか。

 つっても、どれくらい歩くかわからんな。

 まあ、せっかく創った新しい世界なんだし、観光気分で景色でも見ながら進めばいいか。

 今のおれは体力もカンストだからな。



 そうやって歩いていると、だんだんと人間とすれ違う頻度が増えてきた。

 異世界ファンタジーだから当たり前だが、中世風の服を着た人間の他に、剣や杖などを持ち鎧を着た奴らも結構いる。冒険者かもしれない。

 おれは日が暮れる前に比較的大きそうな街まで辿り着くことができた。

 街の門番がおれを見て言った。


「冒険者か? 門をくぐりたければ金貨一枚だ。」

「は? カネ?」


 そういや、すっかり忘れていたけど金は必要だよな。

 ここまで倒した魔物は何もアイテムを落としてないからおれは文無しだった。

 ちらりと他の通行人の様子を覗うと、商人風の男が何か金色の硬貨を渡しているようだ。あれがこの世界の金貨か。

 おれは手のひらの中で見よう見まねの金貨を創り出し門番に渡した。


「これでいいか?」

「……よし。通れ。」


 細部まで再現できてるか不安だったが、うまいこと創れていたようだ。まあこの世界の技術水準もそこまで高くないだろうから、細かい細工とかは無さそうだしな。この金貨がどれくらいの価値があるかわからないが、もう少し創っておくか。



 街の中に入ると、大通りの地面は石が敷かれて舗装された道になっており、家々もレンガで作られているように見える。窓にはガラスも使われている。


「さて。そろそろ日も暮れるだろうし、まずは宿探しだな。」


 おれは大通りにある店の看板を眺めながら歩いた。

 おそらく武器屋、防具屋、薬屋などが並んでいる。

 ははっ。まんまゲームの世界だな。


「お。ここは宿っぽいな。」


 おれは『INN』と書かれた看板を出している店を見つけ店の中に入った。

 カウンターには髭のおっさんが一人で立っていた。


「ここは宿か?」

「そうだよ。……ああ。なんだ、冒険者か。」

「部屋はあるか?」

「あるにはあるが……。」


 髭のおっさんがおれを値踏みするように見る。

 なんだよ、冒険者には貸せないってのか?

 面倒くせえな。

 おれはさっき創った金貨をおっさんに見せて聞いた。

 

「これで足りるか?」

「き、金貨⁉ へっへっへ。そりゃあもう。旦那、一番いい部屋に案内するぜ。おい、アンナ! お客様をお部屋に案内しろ!」

「はーい。」

「こいつは娘のアンナだ。へっへっへ。どうぞ、今後ともごひいきに。」

「あ、ああ……。」


 おいおい、ずいぶん態度が変わりすぎじゃねえか。

 もしかして金貨を見せたのはやりすぎだったのか?

 アンナと呼ばれた娘がおれを部屋まで案内する。アンナはつり目で素朴な感じの顔に茶色い髪を束ねていて、細そうな体にエプロン姿で長めのスカートを履いていた。残念ながら胸は平凡というかずいぶんと控えめに見える。

 年齢は十代後半か二十代前半くらいか? この世界のことはまだよくわからないが、中世の世界だったら適齢期って感じだよな。


「お客さん、冒険者? 街の外から来たの? 実は強いってこと?」

「おれか? 強いぞ。おれは神様だからな。」

「うはは。そうね、お客様は神様だもんね。え? 名前もカミサマ? なにそれ変なの。」


 アンナはおれに人懐こそうな笑顔を見せた。


「そんじゃ、カミサマ。狭くて悪いけど、ここの部屋を使ってね。」


 アンナはおれを宿の一番奥の部屋へと案内した。窓にはカーテンがあって、木のベッドと机、椅子が置かれている。

 んー。まあ、この世界ではこんなもんか。これでもこの宿では一番いい部屋ってことだよな。

 文句を言ってもしょうがないか。


「ありがとう、アンナ。」

「ごゆっくりー。」


 おれは、アンナが出ていき部屋の扉が閉まると木のベッドに横になった。

 うおっ。ベッドが堅い……。上にかけるような毛布も無え。

 しばらくは我慢して耐えていた俺だったが、全然寝付けなくてとうとう飛び起きた。

 部屋の扉を異空間のおれの部屋に繋げて開ける。

 おれは自分の部屋に戻った。

 漫画の置いてある本棚にふかふかのベッド。いつもの見慣れた空間だ。


「あれ? 渚、いないのか?」

「ここにいますよ。」


 おれの背後で声がして、振り返ると女子高生の制服姿の渚が立っていた。


「なんだ、いたのかよ。」

「神様。異世界ファンタジーはもういいんですか?」

「いや、ベッドが堅くてな。自分の部屋で寝ることにするわ。……はあ、布団が気持ちいいぜ。」

「そうですか。」


 おれはベッドに横になると布団に入り、そのまますぐに眠りに落ちた。



 翌朝、おれが異世界の宿の部屋に戻ると、ちょうどアンナが部屋の扉をノックしたところだった。


「カミサマ。朝食あるよ。」

「ああ。今行く。」


 支度をして扉を開けるとアンナが待ってくれており、不思議そうにおれの顔を見て聞いてきた。

 

「カミサマ、昨日の夜ってどっか行ってた? お父さんに言われて部屋に行ったんだけど、いなかったから。」

「え? ああ、ちょっとな……。」

「……あー。やっぱりそうだよね。お店のサービスの方がいいもんね。」

「お店?」


 アンナはそれだけ言うとさっさとおれに背を向けて先に行ってしまった。

 待てよ? 店ってもしかしてそういう店か? 部屋に来たって、もしかしてそういうことか? おれ、もしかして性欲を満たす重大なチャンスを逃したのか⁉


「うおお……、やっちまった……。」


 ちなみに次の日もおれはこの宿に泊まり、一晩ドキドキしながら宿の部屋でアンナが来るのを待っていたが、二度とアンナが訪ねてくることはなかったのである。

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