面倒な依頼②
ウェスベルク家のカトリーヌだと?
領主の娘。たしかに目の前の金髪の美女の顔は以前に見たことがある。街で人だかりを作っていた胸の大きな女だ。たしか街の人間に人気があると。
カトリーヌがおれに聞いた。
「あなたが……。失礼ですがオレというのは本名ですか?」
「ああ。おれはオレだ。」
「なるほど。お兄様がおっしゃったとおりの方のようですね……。」
「ああ?」
「いえ、こちらの話です。それではオレ様。今回の依頼を引き受けていただきありがとうございます。さっそく王都に向かいましょう。」
「ん? ちょっと待て。あんたもついてくるのか?」
「はい。私も同行するのが条件です。」
「はあ?」
この女も連れていかなきゃならないなんて聞いてないぞ。おれの部屋を使った移動はおれ一人だからできることだ。この世界の人間には秘密にしてきた。あの別空間に創られた部屋をおれと渚だけの空間にしたかったからだ。
「……少し考えさせてくれ。」
おれが頭を悩ましている間、カウンターのおっさんはとっとと自分の仕事に戻りやがったが、カトリーヌは大人しくおれの横で待っていた。育ちの良さがわかる。
「あの、オレ様? 私はいつまで待てばよろしいのですか?」
「待て。待て、マジで。」
依頼を達成できなければおれは街から追放。追放されたらアンナとも二度と会えない。あのカウンターのおっさんが冗談を言うとも思えない。おれを追放するのは冒険者ギルドか? ウェスブルクの領主か? やたら領主依頼のクエストが多いと思っていたが、冒険者ギルドとウェスブルクの領主の関係はかなり深いのかもしれん。考えてみりゃ、昨日の冒険者ギルドの揉め事がもう領主に伝わってるってことだからな。
まじでどうするおれ? いや、こんなことしてる間にも刻一刻と時間が過ぎていくだけだ。
「カトリーヌ。もう少し詳しく聞かせてくれないか。なぜ期日は明後日までなんだ? 品物とは何だ? なぜあんたが同行しないとならない?」
カトリーヌは神妙な面持ちで答えた。
「……品物は王都のダンジョンでのみ獲得できるという妙薬エリクサーです。奇跡的に売っていただけることになったのです。ですが明後日までに持ち帰らなければ、病の母の命がありません。どうか、お力をお貸しください、オレ様。」
「わかった。妙薬エリクサーはおれが必ず持ち帰る。それじゃダメか?」
「先方から出された条件は私が直接取引に赴くこと。護衛は一名までという条件です。」
「まじか。」
つまり、どうやろうと、おれが一人で行っても妙薬エリクサーを受け取れんということか。妙薬エリクサーを受け取って持ち帰れなければクエスト失敗。詰んだな。
「うーん……。」
仕方ねえ。どうせここには渚はいないし、渚との約束を破ることになるが背に腹は代えられない。カトリーヌをおれの部屋に入れよう。それで王都まで移動だ。今のところそれしか思いつかん。
「よし。待たせたな、カトリーヌ。」
「いいえ。出発ですか?」
「ああ。いいか? おれは神様だ。今からここに扉を創る。この扉は別空間に繋がっていて、そこを通れば王都にはすぐに着く。この扉はおれじゃないと創れないし、その別空間はおれじゃないと自由に入れない。今回は特別に入れてやるだけだぞ、カトリーヌ。」
「え? 何を言って……。」
「それじゃ扉を創るぞ。」
おれは冒険者ギルドの真ん中におれの部屋に繋がる扉を創った。この扉は特別におれと渚とカトリーヌだけが入れるように創った扉だ。
「え⁉」
カトリーヌが驚いて声をあげた。そりゃまあ、扉が急に目の前に現れたんだから驚くのは当然だな。
「カトリーヌ。悪いが目をつむっていてくれるか? あんたにこの扉の先の物を見せるわけにはいかないんでな。おれがいいって言うまで目を開けるなよ。んで、次に目を開けた時には王都に着いてるってわけだ。」
「……は、はい。わかりました。」
「じゃあ、開けるぞ。」
おれは、まだ状況を理解できていない感じのカトリーヌが言われるまま目をつむったのを確認すると、扉を開けてその中にカトリーヌを入らせた。
「足下に気をつけて入れよ。」
「は、はい……。」
その時、ガタガタッという物音と同時に、冒険者ギルドのあちこちから兵士風の男たちが慌てた感じで飛び出してきたのが見えた。
「ああ? なんだ、こいつら?」
こんなにどこに隠れてたんだよ?
おれもカトリーヌのあとに扉の中に入ったが、兵士たちは扉の前で弾かれておれたちに続くことはできない。
「もしかしてカトリーヌの護衛か?」
そりゃそうか。大事な領主の娘をDランクの冒険者一人に預けるわけがない。隠れて監視するつもりだったんだな。知るかよ。
「悪いがこの扉はおれ専用だ。おれ以外の誰にも扱うことはできない。大丈夫だ。カトリーヌはちゃんと帰す。そういうクエストだからな。大人しく待っていろ。」
兵士たちが何かを言っている感じだったが声も届かん。
おれはさっさと扉を閉めた。こっちで扉を閉めたら向こうの扉も消えたはずだ。
「さて。王都ノルトベルクだったか。」
ナナオの地図にも載ってないんだよな。
おれは目をつむって大人しくしているカトリーヌに聞いた。
「カトリーヌ。王都の方角はどっちだ? 西か? 東か?」
「……北です。」
「北か。」
おれは別空間のおれの部屋を北の方に移動させる。部屋の外の景色から、遠くに大きな街と城のようなものが見えた。きっとあれが王都だな。
目を閉じたカトリーヌは大きな胸の前で手を組んで、じっと座っている。
しかし、なんかこれだとおれが領主の娘を誘拐したみたいだな? いや、気にするのはやめよう。




