おれの失敗②
今、ナナオは鎧を脱ぐって言ったのか?
焚き火を前にしたおれの横で、ゴソゴソという音と、ゴトッという重い物が地面に置かれた音がする。
「ふぅ。楽になった。」
ナナオの声だ。おれはできるだけ平静を装ってナナオの方を向いた。
「ん? どうしたの? オレ?」
「……いや。」
鎧を脱いだナナオは、薄手で半袖くらいの布の服に、白い腕が二の腕くらいまで見えていて、腰より下は残念ながら装備を少し残していたが、今までサイズを想像するしかなかったバストと、緩めの服と身体の間に生まれた隙間が想像力をかき立てる。
今までナナオに女を感じたことなんてなかったのに、鎧を脱いだだけでここまでクるなんて思いもしなかった。
今のおれが一番親しい女はナナオで、おれはナナオのことが正直言うと好きだ。この世界を最初に創った目的は、この世界の人間との交流というか、ぶっちゃけ女とやりたいから創ったわけで。おれの目的を達成するなら、ナナオとセックスできればそれが一番いい。
ナナオはまだ何もわかってないって顔でおれを見返していた。
おれは覚悟を決めなければならない。というか、この状況でおれは我慢できないだろう。おれとナナオは朝までここで二人きりだ。こんなチャンスあるか?
「ナナオ。」
「なに、オレ?」
「やらせてくれ。」
「え?」
「やらせてくれ。頼む。」
「何、言ってるの?」
おれはナナオとの距離をつめた。
「ナナオ。」
「ちょ、ちょっと待って、オレ!」
ナナオが後ずさるのをおれは更に距離をつめて強引に抱き寄せようとした。
「やめて! オレ!」
「お願いだ、ナナオ。」
「オレ!」
ナナオの柔らかい腰の感触。ナナオの細い腕を掴む。ナナオよりもおれの方が力が強い。ナナオはおれの手を振りほどけない。ナナオの身体から甘い匂いを感じる気がする。
「ナナオ。」
「やめて! お願いだから!」
「ナナオとやりたいんだ。」
「離して! オレ!」
ナナオが全力でおれから逃げようとする。首を全力で横に振って拒絶を示す。
「ナナオ!」
「離して! お願い! オレ!」
ナナオはおれから本気で逃れようとしていた。おれはナナオの本気の拒絶を前にして動揺した。
本当にダメなのか。おれはナナオとやれないのか。漠然と、いつかナナオとやれると思っていた。それが今日だと。でもそれはおれの勘違いだった。
「わかった……。」
おれはナナオから手を離した。
「はぁ……はぁ……。」
ボブヘアが乱れまくったナナオがおれを睨む。
ナナオの目には涙が浮かんでいた。
「……なんで、こんなことしたの?」
「ナナオとやりたかったんだ……。チャンスだと思って。」
「チャンス? 私と山奥で二人きりになったから、今なら無理矢理やれると思ったってこと⁉」
「ち、違う……。そうじゃない。」
「……オレがそんな奴だなんて、……思わなかった。……ぐすん。」
「ナナオ……。」
こんなはずじゃ……。
「……ぐすん。……ぐすん。」
暗い夜の山の洞窟で、ナナオのすすり鳴きの声だけが響いていた。
「すまん。ナナオ。」
「……ぐすん。……オレのこと信じてたのに。……こんなことするなんて……ぐすん。」
「すまん。ナナオ……。」
結局おれは朝まで寝られなかったし、ナナオだって寝られなかっただろう。おれが隣にいたんじゃ当然だな……。
おれたちは無事にコカトリスの巣から卵を持ち帰ったが、冒険者ギルドについてもナナオはおれと口をきかなかった。というか、おれの方を一度も見なかった。
ナナオはきっとおれを許さない。
おれとナナオは念願のEランク冒険者になったが、翌朝、冒険者ギルドのいつもの席にナナオの姿はなかった。翌日も翌日も、おれはナナオに会うことができなかった。
ナナオの方がおれを避けているのかもしれない。おれはきっと二度とナナオとパーティを組むことはできないのだろう。
「なにやってんだ、おれ……。」
ナナオの笑顔を思い出して、胸が苦しくなった。あのナナオの顔を、悲しみに染めてしまったのは他ならぬおれだ。もう二度とナナオがおれに笑顔を向けてくれることはないだろう。
おれはしばらく冒険者を休業して宿に引きこもることにした。
「アンナ。悪いがしばらくここにいさせてくれ。」
「あれ? カミサマ、どうしたの?」
「休暇だ。」
もっと違う結末もあったのだろうか。わからん。考えれば考えるほど、最初から脈などなかったようにも思えてくる。とにかく今のおれの心にはぽっかり穴が空いたようだった。ずっとナナオと二人でクエストを受けていたからな。
数日経って、おれはまた冒険者ギルドを訪れた。
ナナオは……やっぱりいないか。これからは一人でクエストを受けるしかないようだな。
おれはカウンターのおっさんに声をかけられた。
「おう、オレ。Eランクのクエストあるぞ。どうだ?」
「そうだな……。」
おれはおっさんから依頼書を受け取って内容を確認した。ドレイクの討伐、銀貨四枚か。まあ、ステータスがカンストしてるおれなら楽勝だな。
「そういや、ナナオ。故郷に帰ったんだってな。」
「……え?」
「なんだ、聞いてないのか? いつも一緒だったろ。」
「あ、ああ……。」
故郷に帰った? ナナオが? もうこの街にいないのか?
「ま、お前だったら一人でも大丈夫だと思うぜ。これからも頼むぜ、オレ!」
「ああ……。」
そうか。
おれはもうナナオには会えないんだな。ナナオはおれを許さなかった。仕方ない。おれが招いた結果だ。受け入れるしかない。
おれはクエストで受けたドレイク討伐で攻撃魔法を試すことにした。雷の魔法だ。いろいろ考えた結果その魔法を創ることにした。
おれは心に抱えたモヤモヤを、鬱憤を、全部、雷の魔法に変えてドレイクにぶつけた。ドレイクは形だけ辛うじて判別できるくらい黒焦げになった。ドレイクの黒焼きだな、はっ。
少しは気が済んだ。これからはもっと強い魔物の討伐も回してもらおう。なんたっておれは神様だし、ステータスはカンストしてる。Eランクなんかに収まりはしない。なんなら全部ぶっ飛ばしてやる。




